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三浦先輩との会話(家族の話)
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三浦先輩は、私に手堅いアルバイト先を教えてくれた。
「もともと、舎監の大石先生の紹介なんだけどね。」
そう言って、私に紹介してくれたアルバイト先は、川越市内の図書館の掃除のアルバイトだった。掃除業者に頼むべき仕事ではあるのだが、何故かこの図書館の掃除の仕事は埼玉県内の苦学生に紹介されているようだった。
「大石先生の、ご友人が、図書館の経営側の人みたいよ。ファーストフードで働くほうが楽しそうだけど、勉強がおろそかになるから、地味で長く続けられるこの仕事を寄宿舎生に紹介してくれる事になったらしい。」
私は、三浦先輩とともに週3回、この図書館の掃除に勤しむ事になった。水曜は門限が8時半だから、目一杯働ける。他の日は、寄宿舎の門限に合わせて早抜けする。苦学生御用達の仕事だから、埼玉大の学生や、川越第一高校の秀才君にもバイトの紹介はしていた。ただし、以前一女の先輩と埼大の学生がこの図書館のバイトで出逢ってできてしまうという事件があり、それ以後アルバイト同士の恋愛は御法度となっている。見つかり次第2人ともバイトを辞めさせられるという事だった。
「だから、一女の女の子と知り合いたいだけのナンパ学生は来なくなったわね。舎監が大石教頭先生の代になってからは、本当に一女の寄宿舎生にとっては働きやすくなったらしいよ。昔は一高(川越第一高校)の男子高校生にちょっかいをかけられたりした寄宿舎生の先輩も多かったらしいから。」
「そうなんですか。」
「尚美はどうなの、そのあたり。」
突然、男子高校生への興味を聞かれて、私は戸惑った。
「うーん。私は高校3年間の間は、特に男子と仲良くならなくても良いかな、という感じです。女子校に入ったわけですし。」
三浦先輩は少し考えているようだった。
「今はオトコより勉強の方が大事って事?」
「そうですね。デートするお金があったら、参考書でも買います。それに、兄や姉の気持ちに応えたいですし。うち、母子家庭なんです。しかも兄弟姉妹5人もいるんで、私がヘマをしては兄や姉に怒られますし…。まだ私の下には弟と妹がいるんです。」
三浦先輩は黙り込んでしまった。私は、それに気付いたが、ヘタなフォローをするより自分を正直にさらすしかないと思った。この寄宿舎にいる時点で、みんな何らかの重いものを背負って生きているんだから。
「なので、私は責任重大なんです。兄は私に大学進学を勧めますし。」
「そこは、尚美の気持ち次第じゃない?」
「ええ、反対に姉は、私には高校を卒業したら公務員か一流企業に入った方がいいよというんです。ふふ。」
「尚美はいいわね。立派なご家族がいて羨ましい。」
「でも、多分私が、この寄宿舎の中で一番経済的には苦しい立場ですよ。」
私は、手をヒラヒラさせた。
「私も、似たようなものよ。頼る家族がいない。」
私は、三浦先輩の目を見つめた。彼女の目は少し潤んでいるようだった。言いたくないことを、私に言おうとしているのか。
「アイツさえいなければ…私は、この寄宿舎に入ることなく、静岡で暮らしていけたのに。」
「三浦先輩…。」
三浦先輩は、ポニーテールの髪を解いて、ふぅっと息を吐いた。
「ごめんね、ちょっと嫌なことを思い出したの。気にしないで。」
「は、はい…。」
「もともと、舎監の大石先生の紹介なんだけどね。」
そう言って、私に紹介してくれたアルバイト先は、川越市内の図書館の掃除のアルバイトだった。掃除業者に頼むべき仕事ではあるのだが、何故かこの図書館の掃除の仕事は埼玉県内の苦学生に紹介されているようだった。
「大石先生の、ご友人が、図書館の経営側の人みたいよ。ファーストフードで働くほうが楽しそうだけど、勉強がおろそかになるから、地味で長く続けられるこの仕事を寄宿舎生に紹介してくれる事になったらしい。」
私は、三浦先輩とともに週3回、この図書館の掃除に勤しむ事になった。水曜は門限が8時半だから、目一杯働ける。他の日は、寄宿舎の門限に合わせて早抜けする。苦学生御用達の仕事だから、埼玉大の学生や、川越第一高校の秀才君にもバイトの紹介はしていた。ただし、以前一女の先輩と埼大の学生がこの図書館のバイトで出逢ってできてしまうという事件があり、それ以後アルバイト同士の恋愛は御法度となっている。見つかり次第2人ともバイトを辞めさせられるという事だった。
「だから、一女の女の子と知り合いたいだけのナンパ学生は来なくなったわね。舎監が大石教頭先生の代になってからは、本当に一女の寄宿舎生にとっては働きやすくなったらしいよ。昔は一高(川越第一高校)の男子高校生にちょっかいをかけられたりした寄宿舎生の先輩も多かったらしいから。」
「そうなんですか。」
「尚美はどうなの、そのあたり。」
突然、男子高校生への興味を聞かれて、私は戸惑った。
「うーん。私は高校3年間の間は、特に男子と仲良くならなくても良いかな、という感じです。女子校に入ったわけですし。」
三浦先輩は少し考えているようだった。
「今はオトコより勉強の方が大事って事?」
「そうですね。デートするお金があったら、参考書でも買います。それに、兄や姉の気持ちに応えたいですし。うち、母子家庭なんです。しかも兄弟姉妹5人もいるんで、私がヘマをしては兄や姉に怒られますし…。まだ私の下には弟と妹がいるんです。」
三浦先輩は黙り込んでしまった。私は、それに気付いたが、ヘタなフォローをするより自分を正直にさらすしかないと思った。この寄宿舎にいる時点で、みんな何らかの重いものを背負って生きているんだから。
「なので、私は責任重大なんです。兄は私に大学進学を勧めますし。」
「そこは、尚美の気持ち次第じゃない?」
「ええ、反対に姉は、私には高校を卒業したら公務員か一流企業に入った方がいいよというんです。ふふ。」
「尚美はいいわね。立派なご家族がいて羨ましい。」
「でも、多分私が、この寄宿舎の中で一番経済的には苦しい立場ですよ。」
私は、手をヒラヒラさせた。
「私も、似たようなものよ。頼る家族がいない。」
私は、三浦先輩の目を見つめた。彼女の目は少し潤んでいるようだった。言いたくないことを、私に言おうとしているのか。
「アイツさえいなければ…私は、この寄宿舎に入ることなく、静岡で暮らしていけたのに。」
「三浦先輩…。」
三浦先輩は、ポニーテールの髪を解いて、ふぅっと息を吐いた。
「ごめんね、ちょっと嫌なことを思い出したの。気にしないで。」
「は、はい…。」
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