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先輩たち
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「それじゃ、私たちも自己紹介しますか。」
パチンと手を叩いて、関先輩がよく似合っているお団子頭を揺らした。
「じゃ、まず。私から。2年1組の、関麗華です。部活は合唱部と、料理研究会の兼部です。さっきも言ったけど、太極拳と中華料理が趣味です。よろしくね。」
「続いて。陸上部の名取峰子です。中3卒業時に山梨から引っ越してきて、埼玉に来ると同時にこの学校に入りました。2年3組。陸部に入ってくれれば良いけど、文化部も含めて何かの部活に入ったほうがいいかな。バイトばかりも悪くないけど。私達は通学生よりも濃い人間関係の世界にいるけど、ちょっと特殊な高校生活だから。」
そう言って、名取先輩は三浦先輩の方をちらっとみた。
「峰の言い分もわかるけど、私みたいに経済的な事情で寄宿舎に入った生徒もいるから…。」
三浦先輩は少し息を吐いて、名取先輩を見返した。
「三浦真知子です。2年3組。さっき喋った名取峰子と一緒のクラスね。私は訳あって親元を一刻も早く出たくて、この寄宿舎に入ったの。仕送りもゼロで頑張っている苦学生よ。ま、私も、事情が許せば、文化部でもいいから入るべきだと思う。でも、みんなは、それぞれの家庭の事情、経済的な事情の許す範囲で高校生活を作り上げて、楽しんでくれればいい。私達は、そんなあなたたちの高校生活のお手本になれればと思っている。趣味は、麗華ほど上手ではないけど、料理かな。寄宿舎の食堂は日曜日は食事が出ないけど、キッチンは使わせてもらえるから。時々私と麗華が料理するのよ。」
「へーぇ!!」
思わず私は感嘆の声をあげた。母親の見よう見まねで料理をしてきたが、寄宿舎でもキッチンを使わせてもらえるなら、5人兄弟姉妹のなかで揉まれてきた料理の腕が生きるかもしれない。お手本となる先輩もいる。
「最後、私。柿沼律。群馬県からやってきました。部活は吹奏楽で。クラリネットを吹いてます。夏休みは、部活がない日は実家に帰ってます。農家の手伝いをしてます。時々実家から野菜が届くから、良かったらもらってちょうだいね。」
柿沼先輩はそう言われてみれば、一番素朴な農家の娘という感じがする。純朴な印象で、三浦先輩のような苦労人でもなく、名取先輩のような運動系の積極性もなく、独特のリズムの関先輩のような感じでもない。柿沼先輩は2年2組とのことだった。
「2年生は、あと1人、いるんだけど。今日は、と言うか今日もいないわね。」
「り号の佐々木紀子。まあ、名前だけ覚えておけばいいよ。」
どうも、本日不在の佐々木先輩は、欠席がちのようである。
「紀子は、実家が川越市内なのに。寄宿舎に入ったのよね。昔は、近くに住んでいる生徒は入れなかったけど、寄宿舎に空室が多いから、大石先生が入れちゃったみたい。案の定と言うか。あんまり寄宿舎の行事に熱心じゃないし。通学生とばかりつるんでいる。」
「紀子の家、割にお金持ちみたいだし。寄宿舎に入ったのはお嬢様の気まぐれじゃないかしら。」
どうもこの佐々木紀子先輩は、評判が芳しくないようだ。でもこれだけ言われているのに、本人は全く意に介していないようである。退宿しないのは多分そう言う事なのだろう。
「こんばんはー。あれ、みんなお揃いで、どうしたの?」
呼ぶよりそしれ、か。先輩方の誰かのつぶやきが私にも聞こえた。
「紀子、遅い。新入生が入ったのよ。2人。挨拶は。」
関先輩がちょっとチクっと言ったものの、椅子を彼女のために持って来た。
「ありがとう、麗華。え、はじめまして、佐々木紀子です。よろしくね。一年生のお二人さん。私、2年4組で、部活は硬式テニス。興味あったら、放課後、第2テニスコートにおいで。案内するわ。じゃ、私、これで。」
佐々木先輩は、それだけ言って自分の部屋に帰ってしまった。
「…ま、あんな感じの先輩よ。」
三浦先輩はため息まじりだった。名取先輩がフォローを入れた。「相田さん、硬式テニス希望なら、一応紀子には一言言っといたほうがいいかもね。ま、あんな感じだから、どこまでしっかり硬式テニスの事を案内してくれるかわからないけど。」
「峰の方がよっぽど硬式テニスの事、知ってそうだけど。」
「真知子、それは言わない。紀子はあれでも現役硬式テニス部なんだから。私は運動系の部活の事情をいろいろ知っているけど、硬式テニスに入りたいなら、紀子に話を一応通しとかないと。」
「…峰はちゃんとしてる。相田さん、峰は話せるから、部活選びに迷ったらいろいろ聞くといいよ。」
「はい。」相田さんは短く返事をした。
私は、相田さんはそれでも硬式テニス部に入るのかどうか気になった。寄宿舎の先輩たちのアドバイスが、かえって本人の決断を鈍らせる可能性もある。
「元倉さんは、部活というよりアルバイト探しに迷ったら、私が相談に乗ってあげる。」
三浦先輩は、くりっとした瞳で私を見つめた。
「あ、ありがとうございます。」
私達は、その後先輩方と談笑しながら、9時ごろまで大広間で過ごした。
パチンと手を叩いて、関先輩がよく似合っているお団子頭を揺らした。
「じゃ、まず。私から。2年1組の、関麗華です。部活は合唱部と、料理研究会の兼部です。さっきも言ったけど、太極拳と中華料理が趣味です。よろしくね。」
「続いて。陸上部の名取峰子です。中3卒業時に山梨から引っ越してきて、埼玉に来ると同時にこの学校に入りました。2年3組。陸部に入ってくれれば良いけど、文化部も含めて何かの部活に入ったほうがいいかな。バイトばかりも悪くないけど。私達は通学生よりも濃い人間関係の世界にいるけど、ちょっと特殊な高校生活だから。」
そう言って、名取先輩は三浦先輩の方をちらっとみた。
「峰の言い分もわかるけど、私みたいに経済的な事情で寄宿舎に入った生徒もいるから…。」
三浦先輩は少し息を吐いて、名取先輩を見返した。
「三浦真知子です。2年3組。さっき喋った名取峰子と一緒のクラスね。私は訳あって親元を一刻も早く出たくて、この寄宿舎に入ったの。仕送りもゼロで頑張っている苦学生よ。ま、私も、事情が許せば、文化部でもいいから入るべきだと思う。でも、みんなは、それぞれの家庭の事情、経済的な事情の許す範囲で高校生活を作り上げて、楽しんでくれればいい。私達は、そんなあなたたちの高校生活のお手本になれればと思っている。趣味は、麗華ほど上手ではないけど、料理かな。寄宿舎の食堂は日曜日は食事が出ないけど、キッチンは使わせてもらえるから。時々私と麗華が料理するのよ。」
「へーぇ!!」
思わず私は感嘆の声をあげた。母親の見よう見まねで料理をしてきたが、寄宿舎でもキッチンを使わせてもらえるなら、5人兄弟姉妹のなかで揉まれてきた料理の腕が生きるかもしれない。お手本となる先輩もいる。
「最後、私。柿沼律。群馬県からやってきました。部活は吹奏楽で。クラリネットを吹いてます。夏休みは、部活がない日は実家に帰ってます。農家の手伝いをしてます。時々実家から野菜が届くから、良かったらもらってちょうだいね。」
柿沼先輩はそう言われてみれば、一番素朴な農家の娘という感じがする。純朴な印象で、三浦先輩のような苦労人でもなく、名取先輩のような運動系の積極性もなく、独特のリズムの関先輩のような感じでもない。柿沼先輩は2年2組とのことだった。
「2年生は、あと1人、いるんだけど。今日は、と言うか今日もいないわね。」
「り号の佐々木紀子。まあ、名前だけ覚えておけばいいよ。」
どうも、本日不在の佐々木先輩は、欠席がちのようである。
「紀子は、実家が川越市内なのに。寄宿舎に入ったのよね。昔は、近くに住んでいる生徒は入れなかったけど、寄宿舎に空室が多いから、大石先生が入れちゃったみたい。案の定と言うか。あんまり寄宿舎の行事に熱心じゃないし。通学生とばかりつるんでいる。」
「紀子の家、割にお金持ちみたいだし。寄宿舎に入ったのはお嬢様の気まぐれじゃないかしら。」
どうもこの佐々木紀子先輩は、評判が芳しくないようだ。でもこれだけ言われているのに、本人は全く意に介していないようである。退宿しないのは多分そう言う事なのだろう。
「こんばんはー。あれ、みんなお揃いで、どうしたの?」
呼ぶよりそしれ、か。先輩方の誰かのつぶやきが私にも聞こえた。
「紀子、遅い。新入生が入ったのよ。2人。挨拶は。」
関先輩がちょっとチクっと言ったものの、椅子を彼女のために持って来た。
「ありがとう、麗華。え、はじめまして、佐々木紀子です。よろしくね。一年生のお二人さん。私、2年4組で、部活は硬式テニス。興味あったら、放課後、第2テニスコートにおいで。案内するわ。じゃ、私、これで。」
佐々木先輩は、それだけ言って自分の部屋に帰ってしまった。
「…ま、あんな感じの先輩よ。」
三浦先輩はため息まじりだった。名取先輩がフォローを入れた。「相田さん、硬式テニス希望なら、一応紀子には一言言っといたほうがいいかもね。ま、あんな感じだから、どこまでしっかり硬式テニスの事を案内してくれるかわからないけど。」
「峰の方がよっぽど硬式テニスの事、知ってそうだけど。」
「真知子、それは言わない。紀子はあれでも現役硬式テニス部なんだから。私は運動系の部活の事情をいろいろ知っているけど、硬式テニスに入りたいなら、紀子に話を一応通しとかないと。」
「…峰はちゃんとしてる。相田さん、峰は話せるから、部活選びに迷ったらいろいろ聞くといいよ。」
「はい。」相田さんは短く返事をした。
私は、相田さんはそれでも硬式テニス部に入るのかどうか気になった。寄宿舎の先輩たちのアドバイスが、かえって本人の決断を鈍らせる可能性もある。
「元倉さんは、部活というよりアルバイト探しに迷ったら、私が相談に乗ってあげる。」
三浦先輩は、くりっとした瞳で私を見つめた。
「あ、ありがとうございます。」
私達は、その後先輩方と談笑しながら、9時ごろまで大広間で過ごした。
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