平成寄宿舎ものがたり

藤沢 南

文字の大きさ
上 下
10 / 39

先輩たち

しおりを挟む
「それじゃ、私たちも自己紹介しますか。」
パチンと手を叩いて、関先輩がよく似合っているお団子頭を揺らした。
「じゃ、まず。私から。2年1組の、関麗華です。部活は合唱部と、料理研究会の兼部です。さっきも言ったけど、太極拳と中華料理が趣味です。よろしくね。」
「続いて。陸上部の名取峰子なとりみねこです。中3卒業時に山梨から引っ越してきて、埼玉に来ると同時にこの学校に入りました。2年3組。陸部に入ってくれれば良いけど、文化部も含めて何かの部活に入ったほうがいいかな。バイトばかりも悪くないけど。私達は通学生よりも濃い人間関係の世界にいるけど、ちょっと特殊な高校生活だから。」
そう言って、名取先輩は三浦先輩の方をちらっとみた。
みねの言い分もわかるけど、私みたいに経済的な事情で寄宿舎に入った生徒もいるから…。」
三浦先輩は少し息を吐いて、名取先輩を見返した。
「三浦真知子です。2年3組。さっき喋った名取峰子と一緒のクラスね。私は訳あって親元を一刻も早く出たくて、この寄宿舎に入ったの。仕送りもゼロで頑張っている苦学生よ。ま、私も、事情が許せば、文化部でもいいから入るべきだと思う。でも、みんなは、それぞれの家庭の事情、経済的な事情の許す範囲で高校生活を作り上げて、楽しんでくれればいい。私達は、そんなあなたたちの高校生活のお手本になれればと思っている。趣味は、麗華ほど上手ではないけど、料理かな。寄宿舎の食堂は日曜日は食事が出ないけど、キッチンは使わせてもらえるから。時々私と麗華が料理するのよ。」
「へーぇ!!」
思わず私は感嘆の声をあげた。母親の見よう見まねで料理をしてきたが、寄宿舎でもキッチンを使わせてもらえるなら、5人兄弟姉妹のなかで揉まれてきた料理の腕が生きるかもしれない。お手本となる先輩もいる。

「最後、私。柿沼律。群馬県からやってきました。部活は吹奏楽で。クラリネットを吹いてます。夏休みは、部活がない日は実家に帰ってます。農家の手伝いをしてます。時々実家から野菜が届くから、良かったらもらってちょうだいね。」
柿沼先輩はそう言われてみれば、一番素朴な農家の娘という感じがする。純朴な印象で、三浦先輩のような苦労人でもなく、名取先輩のような運動系の積極性もなく、独特のリズムの関先輩のような感じでもない。柿沼先輩は2年2組とのことだった。

「2年生は、あと1人、いるんだけど。今日は、と言うか今日もいないわね。」
「り号の佐々木紀子。まあ、名前だけ覚えておけばいいよ。」
どうも、本日不在の佐々木先輩は、欠席がちのようである。
「紀子は、実家が川越市内なのに。寄宿舎に入ったのよね。昔は、近くに住んでいる生徒は入れなかったけど、寄宿舎に空室が多いから、大石先生が入れちゃったみたい。案の定と言うか。あんまり寄宿舎の行事に熱心じゃないし。通学生とばかりつるんでいる。」
「紀子の家、割にお金持ちみたいだし。寄宿舎に入ったのはお嬢様の気まぐれじゃないかしら。」
どうもこの佐々木紀子先輩は、評判が芳しくないようだ。でもこれだけ言われているのに、本人は全く意に介していないようである。退宿しないのは多分そう言う事なのだろう。

「こんばんはー。あれ、みんなお揃いで、どうしたの?」
呼ぶよりそしれ、か。先輩方の誰かのつぶやきが私にも聞こえた。
「紀子、遅い。新入生が入ったのよ。2人。挨拶は。」
関先輩がちょっとチクっと言ったものの、椅子を彼女のために持って来た。
「ありがとう、麗華。え、はじめまして、佐々木紀子です。よろしくね。一年生のお二人さん。私、2年4組で、部活は硬式テニス。興味あったら、放課後、第2テニスコートにおいで。案内するわ。じゃ、私、これで。」
佐々木先輩は、それだけ言って自分の部屋に帰ってしまった。

「…ま、あんな感じの先輩よ。」
三浦先輩はため息まじりだった。名取先輩がフォローを入れた。「相田さん、硬式テニス希望なら、一応紀子には一言言っといたほうがいいかもね。ま、あんな感じだから、どこまでしっかり硬式テニスの事を案内してくれるかわからないけど。」
「峰の方がよっぽど硬式テニスの事、知ってそうだけど。」
「真知子、それは言わない。紀子はあれでも現役硬式テニス部なんだから。私は運動系の部活の事情をいろいろ知っているけど、硬式テニスに入りたいなら、紀子に話を一応通しとかないと。」
「…峰はちゃんとしてる。相田さん、峰は話せるから、部活選びに迷ったらいろいろ聞くといいよ。」
「はい。」相田さんは短く返事をした。
私は、相田さんはそれでも硬式テニス部に入るのかどうか気になった。寄宿舎の先輩たちのアドバイスが、かえって本人の決断を鈍らせる可能性もある。
「元倉さんは、部活というよりアルバイト探しに迷ったら、私が相談に乗ってあげる。」
三浦先輩は、くりっとした瞳で私を見つめた。
「あ、ありがとうございます。」
私達は、その後先輩方と談笑しながら、9時ごろまで大広間で過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

コンプレックス

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 新入社員・野崎満月23歳の指導担当となった先輩は、無口で不愛想な矢沢陽20歳だった。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

私と先輩のキス日和

壽倉雅
恋愛
出版社で小説担当の編集者をしている山辺梢は、恋愛小説家・三田村理絵の担当を新たにすることになった。公に顔出しをしていないため理絵の顔を知らない梢は、マンション兼事務所となっている理絵のもとを訪れるが、理絵を見た途端に梢は唖然とする。理絵の正体は、10年前に梢のファーストキスの相手であった高校の先輩・村田笑理だったのだ。笑理との10年ぶりの再会により、二人の関係は濃密なものになっていく。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...