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1987年3月24日金曜 終業式 その2
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アッコとともにクラスから出てきた僕たちは、廊下でダベっていた。もう下校し始める生徒もいた。高野がとなりの1組から出てきた。
「お、高野さん、いろいろありがとう。」
僕は彼女に鉛筆とノートを渡した。これから1組と3組に配りに行こうとしていたからだ。
「ツーも元気でね。こちらこそありがとう。」
アッコは無言だった。高野と話すそぶりの無い彼女に代わり、僕が口を開いた。
「高野さん、だれか待ってる?」
「…うん。保川さん。」
「まみと長く話しているから、入っていってもいいんじゃない?」
「いや、いい。ここで待ってる。」高野は硬い笑顔を返した。
じゃ、僕はこれで。高野さん、元気でね。そう言って、僕は3組に向かった。アッコも付いてきたようだった。
「悪いな、アッコ、付き合わせて。」
「いいのよ。高野さんとは場がもたないかも。」
アッコのコメントが気になったが、下校時の3組の奥寺・武田・古河・亘理を捕まえるには、アッコもいてくれたほうがよかった。
奥寺と亘理と、亘理の友達の女の子が出てきたので、鉛筆とノートを渡した。「ありがとう。」亘理は口数の少ない子だったが、表情がとても豊かな子だった。この子の隣で勉強した時期も楽しかった。2年生の頃だった。僕の家の中が大変だったから、余計にそう思えたのだろう。武田は、3組の友達と一緒だった。呼び止めて、鉛筆を渡した。僕とあまり関係のない亘理の友達、武田の友達にも渡したが、ノートは充分に準備していた。古河は…。奥寺の話だと、「古河君、なんか走って家に帰ったよ。」アイツらしいといえばアイツらしいが、終業式ぐらいはお別れを言いたかった。そして、大事なことを避けているような僕の様子を見て、奥寺は、ちょっといらだっているようだった。
「津山くん、ゆっこちゃんに渡さないといけないでしょ!」
奥寺が僕の手を無造作につかんだ。そのまま僕は2組に引き戻されていった。アッコはポカンとしてその様子を見ていた。
ゆっこは石坂、田中と喋りながら自分の席に座っていた。3人とも、帰るそぶりはなく、誰かを待ってるようだった。もう5年2組は、転校生も残る生徒も、半分近くに減っていた。まみは、保川とまだ話をしているようだった。思ったより長話になっている。
「ゆっこちゃん!」
奥寺の声が響いた。ゆっこを含めた3人が、僕と奥寺の方を一斉に向いた。「ドン」奥寺の張り手が、僕の背中に響いた。
「行け、津山!」
奥寺の声に押されて、僕はつかつかとゆっこの机の側へ歩いていった。ようやく笑顔を見せたゆっこは席から立ち上がった。…僕たちは19日以来、学校でも家でもまともな接触はなく、本当に長い時が流れたようだった。ゆっこの笑顔は、ようやく僕に向けられて届いたのだ。まるで何光年も離れた光が、…ようやく、今、僕の元に届いたかのように。
「お、高野さん、いろいろありがとう。」
僕は彼女に鉛筆とノートを渡した。これから1組と3組に配りに行こうとしていたからだ。
「ツーも元気でね。こちらこそありがとう。」
アッコは無言だった。高野と話すそぶりの無い彼女に代わり、僕が口を開いた。
「高野さん、だれか待ってる?」
「…うん。保川さん。」
「まみと長く話しているから、入っていってもいいんじゃない?」
「いや、いい。ここで待ってる。」高野は硬い笑顔を返した。
じゃ、僕はこれで。高野さん、元気でね。そう言って、僕は3組に向かった。アッコも付いてきたようだった。
「悪いな、アッコ、付き合わせて。」
「いいのよ。高野さんとは場がもたないかも。」
アッコのコメントが気になったが、下校時の3組の奥寺・武田・古河・亘理を捕まえるには、アッコもいてくれたほうがよかった。
奥寺と亘理と、亘理の友達の女の子が出てきたので、鉛筆とノートを渡した。「ありがとう。」亘理は口数の少ない子だったが、表情がとても豊かな子だった。この子の隣で勉強した時期も楽しかった。2年生の頃だった。僕の家の中が大変だったから、余計にそう思えたのだろう。武田は、3組の友達と一緒だった。呼び止めて、鉛筆を渡した。僕とあまり関係のない亘理の友達、武田の友達にも渡したが、ノートは充分に準備していた。古河は…。奥寺の話だと、「古河君、なんか走って家に帰ったよ。」アイツらしいといえばアイツらしいが、終業式ぐらいはお別れを言いたかった。そして、大事なことを避けているような僕の様子を見て、奥寺は、ちょっといらだっているようだった。
「津山くん、ゆっこちゃんに渡さないといけないでしょ!」
奥寺が僕の手を無造作につかんだ。そのまま僕は2組に引き戻されていった。アッコはポカンとしてその様子を見ていた。
ゆっこは石坂、田中と喋りながら自分の席に座っていた。3人とも、帰るそぶりはなく、誰かを待ってるようだった。もう5年2組は、転校生も残る生徒も、半分近くに減っていた。まみは、保川とまだ話をしているようだった。思ったより長話になっている。
「ゆっこちゃん!」
奥寺の声が響いた。ゆっこを含めた3人が、僕と奥寺の方を一斉に向いた。「ドン」奥寺の張り手が、僕の背中に響いた。
「行け、津山!」
奥寺の声に押されて、僕はつかつかとゆっこの机の側へ歩いていった。ようやく笑顔を見せたゆっこは席から立ち上がった。…僕たちは19日以来、学校でも家でもまともな接触はなく、本当に長い時が流れたようだった。ゆっこの笑顔は、ようやく僕に向けられて届いたのだ。まるで何光年も離れた光が、…ようやく、今、僕の元に届いたかのように。
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