初恋エンジン‼︎ー武蔵社宅の少年少女の日々ー

藤沢 南

文字の大きさ
上 下
85 / 111

3月19日日曜 その8

しおりを挟む
ゆっこは、帰路、本川越駅でそのネックレスを首から外した。そしてケースに入れた。

「…お母さんにバレたら、取り上げられる。怒られる。」
大事そうに彼女はケースをバッグに入れた。そしてふふふ、と笑った。
僕は、元の口調に戻った。
「この事は、ずっと秘密にしておくんだよ。ゆっこちゃん。僕たちだけしか知らない秘密。」
ゆっこは、僕の腕をつかんだ。そして、もたれかかった。
「ありがとう、孝典くん、最後の最後に、こんな素敵な秘密をプレゼントしてくれて。この秘密は、知ってもつらくない。」

ゆっこと僕は、本川越駅始発の普通列車の最後尾に陣取った。まだ僕たちしか座っていなかった。

「…孝典くん、私も大事な秘密をあげる。耳貸して。」
「…まだ秘密あるのか。」僕はちょっと呆れた。さっきのアクセサリーでおしまいじゃないのか。

「孝典くん、もっと近づいてくれなきゃ。」彼女は僕の左腕をつかんで自分の胸元へ寄せた。
「はいはい、何ですか、大事な秘密って。」僕は彼女の身体に密着した。ゆっこの長い髪が、僕の左腕を優しく撫でた。
「これ…。」
彼女の小さな唇が、僕の左頬にちゅっと触れた。「!!!」

「ツー君、秘密にしててね。ずっと、ずっと。」ゆっこは顔を夕陽のように染めていた。僕も突然の事で何が起きたか分からなかったが、我に返った。顔はみるみる紅潮していった。1987年3月19日の昼下がり、本川越駅をそろりと出発した普通電車は、小さな恋人達の秘密と思い出を乗せて、走り始めた。

  武蔵藤沢までは、ほとんど会話をしなかった。ゆっこはいろいろあって疲れたのだろう。僕にもたれかかって寝ていた。僕は眠いには違いなかったが、彼女の手を握ったまま、あくびをしながら眠気に耐えていた。

  武蔵藤沢についた時には、もう雪は溶け、春の光が舞い散っていた。
  社宅最寄りのグリーンパーク前を通るバスは、タイミング良く到着した。
  僕たちは無口になっていた。僕は初めて尽くしの今日の日の余韻に浸っていたし、ゆっこはどうか分からないが、今度は僕の方をずっと見つめていた。「少し寝たい」と僕が言うと、「グリーンパーク前についたら起こすよ」と言ってくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...