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3月17日金曜 図書委員会18
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3月17日 金曜
名実ともに、図書委員会最後の日だった。今日は司書担当で、助手は奥寺であったが、今日は図書館司書の先生が、一緒に活動してくれた。
「5年生で、一番たくさん本を借りた人は、1組の保川さん。」
今日も保川は図書室に来ていた。先生から何か記念品が行くらしい。「4年生は誰々で、…」「6年生は誰それで、…」と発表していたが、保川の名前だけは、僕たち2人にインプットされていた。
「さぁ、来年のために、トップ5の人を張り出しましょう。」今日は通常業務の後、図書委員会を中心に、昨年度の貸出トップ5を画用紙に書き込む。来年一年間図書室に張り出すのだ。僕はベスト5に入れなかったが、ベスト5に、中井まみの名前が入っていた。それを見て、少し誇らしく感じた。画用紙には金字や銀字のクレヨンで彩色し、派手に張り出す。ベスト5までには何か記念品が行くが、トップの人は何か特別なものが渡される。保川は転校が決まっているので、今日、特別に先生から記念品が渡された。
保川を招いたのは図書室の先生だった。彼女は、今回は僕らに絡もうとせず、先生と一緒にランキング表を作っていた。
「保川さん、転校しちゃうけど、こうやって、来年一年間は名前が残るから。」
保川はうなずいた。
「保川さん、1年で196冊かぁー。すごいねぇ」
僕は何気なく彼女に話しかけた。なんか奥寺がキッとしていたが、気にも留めなかった。先生の前だから、滅多なこともできないだろう。転校生同士、彼女の気持ちもちょっとだけ理解できるつもりだった。
「私、東京都へ引っ越すの」
「僕は広島。いいなぁ。近くて。」
「そんな事ない…。私、遠くへ行きたかった。」
「えっ?」
「遠くへ引っ越して、第三小学校や武蔵市に一生戻れないような所でも良かった。私、この小学校でずっと脇役だったから。あまり思い出すこともないだろうし。」
「そんな、保川さんは図書室の主役だよ。196冊なんて、新記録じゃない。誇らしく思っていいんだよ。」
「…主役?…私が?…ありがとう。津山くん。津山くんから言ってもらえるなんて。私、嬉しいわ。」
なんだ、ちゃんとした受け答えができる素敵な子じゃないか。保川はにっこり笑った。その瞬間、僕の背中を痛みが走った。ぎゅううう…奥寺が僕の背中をつねりあげた。
「おい、いたいいたい。」
「ちょっとこい津山。」
奥寺が僕を引きずっていった。保川は困ったような、でも嬉しそうな笑顔で僕らを見ていた。
「ゆっこちゃんを裏切る気?もう浮気は許さないから。」
「保川さんに挨拶していただけだよ。彼女も転校するんだ。転校生同士だから、いいだろう。」
「さんざん二股かけたなんてうわさ流されたのに、…脳天気なのね。」
「ゆっことは、ちゃんと言うべき事は言ってあるんだ。奥寺さんの想像以上の事もしゃべってる。心配すんな。」
そこで、彼女は、僕の背中を解放してくれた。つねられた箇所が真っ赤に腫れていた。
名実ともに、図書委員会最後の日だった。今日は司書担当で、助手は奥寺であったが、今日は図書館司書の先生が、一緒に活動してくれた。
「5年生で、一番たくさん本を借りた人は、1組の保川さん。」
今日も保川は図書室に来ていた。先生から何か記念品が行くらしい。「4年生は誰々で、…」「6年生は誰それで、…」と発表していたが、保川の名前だけは、僕たち2人にインプットされていた。
「さぁ、来年のために、トップ5の人を張り出しましょう。」今日は通常業務の後、図書委員会を中心に、昨年度の貸出トップ5を画用紙に書き込む。来年一年間図書室に張り出すのだ。僕はベスト5に入れなかったが、ベスト5に、中井まみの名前が入っていた。それを見て、少し誇らしく感じた。画用紙には金字や銀字のクレヨンで彩色し、派手に張り出す。ベスト5までには何か記念品が行くが、トップの人は何か特別なものが渡される。保川は転校が決まっているので、今日、特別に先生から記念品が渡された。
保川を招いたのは図書室の先生だった。彼女は、今回は僕らに絡もうとせず、先生と一緒にランキング表を作っていた。
「保川さん、転校しちゃうけど、こうやって、来年一年間は名前が残るから。」
保川はうなずいた。
「保川さん、1年で196冊かぁー。すごいねぇ」
僕は何気なく彼女に話しかけた。なんか奥寺がキッとしていたが、気にも留めなかった。先生の前だから、滅多なこともできないだろう。転校生同士、彼女の気持ちもちょっとだけ理解できるつもりだった。
「私、東京都へ引っ越すの」
「僕は広島。いいなぁ。近くて。」
「そんな事ない…。私、遠くへ行きたかった。」
「えっ?」
「遠くへ引っ越して、第三小学校や武蔵市に一生戻れないような所でも良かった。私、この小学校でずっと脇役だったから。あまり思い出すこともないだろうし。」
「そんな、保川さんは図書室の主役だよ。196冊なんて、新記録じゃない。誇らしく思っていいんだよ。」
「…主役?…私が?…ありがとう。津山くん。津山くんから言ってもらえるなんて。私、嬉しいわ。」
なんだ、ちゃんとした受け答えができる素敵な子じゃないか。保川はにっこり笑った。その瞬間、僕の背中を痛みが走った。ぎゅううう…奥寺が僕の背中をつねりあげた。
「おい、いたいいたい。」
「ちょっとこい津山。」
奥寺が僕を引きずっていった。保川は困ったような、でも嬉しそうな笑顔で僕らを見ていた。
「ゆっこちゃんを裏切る気?もう浮気は許さないから。」
「保川さんに挨拶していただけだよ。彼女も転校するんだ。転校生同士だから、いいだろう。」
「さんざん二股かけたなんてうわさ流されたのに、…脳天気なのね。」
「ゆっことは、ちゃんと言うべき事は言ってあるんだ。奥寺さんの想像以上の事もしゃべってる。心配すんな。」
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