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再会の校庭(上)

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  中井家は、もうクリスマスの飾り付けが終わっていた。引越し用ダンボールばかりで殺風景なウチと異なり、ステキなお家に見えた。
しかも、まみはサンタクロースのコスチュームに着替えていた。わお。女子たちから、歓声が上がった。「可愛い」「ツーも何とかいいなさいよ。」例によって、アッコがこづく。「可愛いよ」僕は不思議と、昔から、照れなく女の子に「可愛い」という事が出来た。この当時、まだ男子女子の間には、独特の緊張感があった。そんな時代だから、どんな可愛い女の子に対しても、男子は素直でなかった。僕の言葉に、まみは素直に喜んでくれた。ポーズまで取ったが、カメラマンの矢部が来るまで、待っててくれ。そこは制止した。

    サンタクロースが1人と、仲間が3人。第三小学校に取って返した。第一小、第二小の仲間を待ち合わせる。その間、ちょっとしたハプニングがあった。
    校庭にサンタクロースがいる!職員室で残業中の先生の間に、ちょっとした話題になった。小1と小2時代を受け持ってくれた小峰みゆき先生が、校庭に駆けつけた。ちょっとやばいかも…。怒られるかも…。しかし、小峰先生も笑顔だった。「中井まみちゃん?可愛いじゃない!」職員室からわざわざ出て来て、僕たちの間に入って、しばらく談笑していた。コスプレなんてものがない時代だった。サンタクロースのコスチュームは結構値段が張っただろう。新聞配達の何ヶ月分のお給金かかるのかなぁといらん心配までした。

    小峰みゆき先生は、僕たちが小1の時に新卒で配属された先生で、音楽の授業にとても熱心な先生だった。僕が夕刊の新聞配達をしていた時に、偶然配達先の青空市場で会って、バナナを買っていた小峰先生に挨拶をしてから、急に優しくなった先生だった。この先生の離任式まで、僕はこの学校にいられないのが切なかった。でも、先生には僕の転校の事は話せなかった。一生もののクリスマスパーティーにする、と言ったまみの心を汲んだら、この明るいムードで切ない別れの話なんてできなかった。

    そうこうしている間に、第一小の仲間たちが到着した。カメラマン矢部が、早速、小峰先生と僕たちの写真を撮ってくれた。「これ、先生からのクリスマスプレゼント」何と先生は職員室からお菓子を持ってきてみんなに配ってくれた。なんて事ない、来客用の菓子を配っただけだったが、みんなそのお菓子を掲げて、写真に写っている。サンタと小峰先生が入った写真は、矢部も嬉しそうに撮っていた。「矢部も写れよ。」僕が彼を促すと、じゃ「ツーが押してくれ。」と交代した。

「あれ、3年生の時の矢部くん?」
「小峰先生、お久しぶりです。」
小峰先生の顔がとびきりの笑顔になった。そうか、矢部も小峰先生に受け持ってもらったっけ。「第一小行ったんだよね。どう?」
「まぁ、ボチボチやってます。」矢部は笑顔で返した。矢部は小峰先生の音楽クラスで指揮者をやっていたことがあった。小峰先生にとっても思い出深い生徒なのだろう。
「おーい。ツー。早くシャッター押してくれぇ。」
もう少し矢部にやり取りをさせてやりたかったが、富山の声も飛んで来た。シャッターをカシャカシャ押した。プチ同窓会になった。
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