転校サバイバーズ

藤沢 南

文字の大きさ
上 下
78 / 84
扇町中学編

併願パズル

しおりを挟む
 書店には愛知県の高校入試の資料はなく、郵送で取り寄せるしかなかった。1週間後に、速達で愛知の資料を受け取ったが、愛知県は公立高校を2校受験できるという事だった。ちょっといいかも、と思っていたが、弟が言った。

「みんな同じ条件なら、普通に考えたら競争率が倍になるよね。」

 僕はハッとした。弟の鋭い意見にも驚いたが、確かにそうなる。…これは難しい事になった。まず高校の序列から調べないといけない。レベルの高すぎる高校同士、低すぎる高校同士を併願する訳にいかないし…。
次に住む社宅は名古屋市のどこになるか、父は一応目処はつけてくれた。名東区か守山区、緑区のどこかになるという。ただ、父は名東区を熱望しており、また、「こんな土壇場で転勤先を変更させられたんだ。社宅ぐらいいい条件にしてもらわないと。」と、かなり、強気だった。名東区は転勤族の多いところだという。そこになるといい。僕は転勤族の少ない、つまり転校生の少ない広島南小では非常にやりにくかったことを思いだした。名東区も守山区も緑区も、名古屋の東部に位置している。となると、その近くの学校がいい。

「今の学力だと、中村区の豊臣高校か…。」

父とも資料を読み合わせていたが、僕はせっかく2校受けられるので、もう一校は高いレベルのところを受けたかった。
「守山区からも名東区からも近い梅里高校はどう?」
「ここレベル高いぞ。厳しいだろ。」
名古屋に引っ越してから知らされるのだが、梅里は名古屋でベスト3の学校だそうだ。広島仁志高もベストスリーという意味ではそうだけど、いかんせん人口が違いすぎる。名古屋のベストスリーの方が上であることは間違いない。
「それじゃ…。」
「豊臣と名東区の香流かなれ高校の2校かな。」
「いや、中村区は通学に遠すぎる。レベル落ちるけど、香流高校一本でいい。」
「兄ちゃんそれもったいない。他にもどこか受けなよ。」
弟まで話題に入ってきた。
「じゃ南区の笠寺高校。」
「そこレベルが香流とトントンだよ。下手すると両方落ちるよ。南区も遠いし。」
弟もパズルゲームのような愛知県の高校入試を他人事で楽しんでいる。
「香流だってレベル下げたんだから、落ちっこない。」
「…名古屋は初めての土地だ。慎重にいった方がいい。」父がまた悩み始めた。
「あー、もうめんどくせい入試だな。一校受験でいいのに。」

議論は2時間ぐらい続いた。しかし効果的な併願策は考えられなかった。こんなことやってるぐらいだったら、さっさと勉強した方がいい。こんな事に時間を割かれるなんて。つくづく転校生というのは不利な立場だ。

「じゃ、しょうがない。香流一校でいくか。私立は受けろよ。」
「えー。今度は私立探さないといけんのか。私立は…」
「えーっと、香流高校の志望者の、併願は…ここ割と近いぞ。砂田橋の東名古屋高校。」
「そこ共学?」
「男子校。」
「…孝典は男子校でもいいと思うけど。」
初めて母が口を出した。きっと僕が小6の時に女子と…杉原とトラブルを起こしたことを覚えているのだろう。
「でも、私立でしょ、金かかるよ。」
「そうか。じゃ香流に受かるように頑張りなさい。」母はあっさり撤回した。

香流高校と東名古屋高校。この二校受験で、僕は愛知県の高校入試に挑むこととなった。しかし、待ったがかかった。
三重の祖母からの遠距離電話だった。どこで祖母は話を仕入れてきたのか、愛知県の高校入試の事についていろいろと話をしてくれた。
「…だからぜーったいダメ。一校受験なんて。みんなより不利な条件をわざわざ選ぶことはないの。」
三重はどうやら名古屋の文化圏らしい。よく知らないが。そのため名古屋の情報にも詳しいらしい。ばあちゃんは愛知のトップ校の情報もくれたが、僕はそこまで勉強ができないのと、愛知県の高校入試で冒険したくないので、慎重に行きたかった。
「豊臣高校と香流受けんさい。孝典ならできるに。」
と言われたが、あくまで僕は慎重に行った。
「ばあちゃん。両方落ちる可能性もあるけぇ。慎重にいくよ。ありがとう。」
と、電話を切った。

仕方なしに上飯田高校という北区の高校を公立併願で受ける事になった。
ここも割と近いが、引越し先が緑区の社宅になってしまった場合、遠距離通学となる。父には頑張ってもらいたいものだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...