転校サバイバーズ

藤沢 南

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扇町中学編

北野とのいさかい

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2学期に入っても、なおも暑い広島。
なんだかんだ言いつつも、この気候にも広島の気質にも慣れてきた、というか慣らされた自分がいる。

「津山、ちょっと来い!」

僕はいきなり北野に呼び出された。しかも胸ぐらをつかまれていた。ただ事じゃない。
「お前、深川に手を出したな!」
校舎裏で奴は僕の詰襟をつかんだまま問いただした。
「何のことだよ。深川に手を出したつもりなんかない!」
「とぼけるな!」
右頬にパンチを喰らった。
「お前、深川を俺から奪い取るつもりか、覚悟しておけよ。」
そう言い捨てて北野は去っていった。しかし僕は納得いかなかった。北野を追いかけ、背中から羽交い締めにした。

「おい、待ってくれ。俺は深川さんに手を出してなんかいない。それだけは信じてくれ。」
「しつこいぞ!」
北野は僕の羽交い締めを振り解き、今度は鳩尾に蹴りを喰らわせた。
「ぐふっ!」
こいつはきいた。さすがに喧嘩慣れしている。僕は膝から崩れ落ちた。そして倒れ込んだ。まずい。このままだと誰かが探しにくる。もう受験が近いのに。大ごとになる前に、早く教室に戻らないと。
…しかし、体がいう事を聞かない。僕はそこに倒れ込んだ。

…気づいたところは、保健室だった。
「津山くん?気がついた?」
年配の保健室の先生が、僕の名を呼んだ。
「あ。…ここは。保健室?」
「そうよ。」
僕が今の状況を把握するのに時間はかからなかった。北野が深川の件で僕を呼び出し、そして一方的に僕が深川に惚れていると勘違いしてこの事態になった。
「体育館横で倒れていたのよ。3年2組の村上さんが気付いて、保健室に連絡してくれたの。お礼言っときなさいよ。」
どうやら保健室の先生は、北野に僕が暴力を振るわれたことに気付いていないようだ。あるいは、気付いていたとしても、大ごとにしないようにしてくれているのか。
「津山くん、もしいじめとかだったら、先生は今知っている事を全て証言してあげるから、いつでも言っておいで。」
僕はこの瞬間、この先生が信用に足る人間と気づいた。この保健室の先生は、大ごとにするつもりはないが、もし大ごとになってしまった場合は、ちゃんと証言してくれると約束してくれている。
「あ、はい…。ありがとうございます。」
「しばらく休んで、もし大丈夫そうだったら、教室に戻りなさい。応急措置はしておいたから。」
ちょっと蹴りが急所に入っただけで。出血もしていなければ、青あざにもなっていない。しかし、湿布が貼ってあった。という事は、村上は僕が腹を押さえて苦しんでいるところを見たのだろう。

その日の午後から授業に戻った。
担任の先生には、僕が体調を崩して気を失った、と伝えられていた。

僕は深川の方を見た、彼女は目を逸らさず、僕をまっすぐに見据えていた。
僕は恐ろしくなり、視線を逸らした。
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