69 / 84
扇町中学編
北野とのいさかい
しおりを挟む
2学期に入っても、なおも暑い広島。
なんだかんだ言いつつも、この気候にも広島の気質にも慣れてきた、というか慣らされた自分がいる。
「津山、ちょっと来い!」
僕はいきなり北野に呼び出された。しかも胸ぐらをつかまれていた。ただ事じゃない。
「お前、深川に手を出したな!」
校舎裏で奴は僕の詰襟をつかんだまま問いただした。
「何のことだよ。深川に手を出したつもりなんかない!」
「とぼけるな!」
右頬にパンチを喰らった。
「お前、深川を俺から奪い取るつもりか、覚悟しておけよ。」
そう言い捨てて北野は去っていった。しかし僕は納得いかなかった。北野を追いかけ、背中から羽交い締めにした。
「おい、待ってくれ。俺は深川さんに手を出してなんかいない。それだけは信じてくれ。」
「しつこいぞ!」
北野は僕の羽交い締めを振り解き、今度は鳩尾に蹴りを喰らわせた。
「ぐふっ!」
こいつはきいた。さすがに喧嘩慣れしている。僕は膝から崩れ落ちた。そして倒れ込んだ。まずい。このままだと誰かが探しにくる。もう受験が近いのに。大ごとになる前に、早く教室に戻らないと。
…しかし、体がいう事を聞かない。僕はそこに倒れ込んだ。
…気づいたところは、保健室だった。
「津山くん?気がついた?」
年配の保健室の先生が、僕の名を呼んだ。
「あ。…ここは。保健室?」
「そうよ。」
僕が今の状況を把握するのに時間はかからなかった。北野が深川の件で僕を呼び出し、そして一方的に僕が深川に惚れていると勘違いしてこの事態になった。
「体育館横で倒れていたのよ。3年2組の村上さんが気付いて、保健室に連絡してくれたの。お礼言っときなさいよ。」
どうやら保健室の先生は、北野に僕が暴力を振るわれたことに気付いていないようだ。あるいは、気付いていたとしても、大ごとにしないようにしてくれているのか。
「津山くん、もしいじめとかだったら、先生は今知っている事を全て証言してあげるから、いつでも言っておいで。」
僕はこの瞬間、この先生が信用に足る人間と気づいた。この保健室の先生は、大ごとにするつもりはないが、もし大ごとになってしまった場合は、ちゃんと証言してくれると約束してくれている。
「あ、はい…。ありがとうございます。」
「しばらく休んで、もし大丈夫そうだったら、教室に戻りなさい。応急措置はしておいたから。」
ちょっと蹴りが急所に入っただけで。出血もしていなければ、青あざにもなっていない。しかし、湿布が貼ってあった。という事は、村上は僕が腹を押さえて苦しんでいるところを見たのだろう。
その日の午後から授業に戻った。
担任の先生には、僕が体調を崩して気を失った、と伝えられていた。
僕は深川の方を見た、彼女は目を逸らさず、僕をまっすぐに見据えていた。
僕は恐ろしくなり、視線を逸らした。
なんだかんだ言いつつも、この気候にも広島の気質にも慣れてきた、というか慣らされた自分がいる。
「津山、ちょっと来い!」
僕はいきなり北野に呼び出された。しかも胸ぐらをつかまれていた。ただ事じゃない。
「お前、深川に手を出したな!」
校舎裏で奴は僕の詰襟をつかんだまま問いただした。
「何のことだよ。深川に手を出したつもりなんかない!」
「とぼけるな!」
右頬にパンチを喰らった。
「お前、深川を俺から奪い取るつもりか、覚悟しておけよ。」
そう言い捨てて北野は去っていった。しかし僕は納得いかなかった。北野を追いかけ、背中から羽交い締めにした。
「おい、待ってくれ。俺は深川さんに手を出してなんかいない。それだけは信じてくれ。」
「しつこいぞ!」
北野は僕の羽交い締めを振り解き、今度は鳩尾に蹴りを喰らわせた。
「ぐふっ!」
こいつはきいた。さすがに喧嘩慣れしている。僕は膝から崩れ落ちた。そして倒れ込んだ。まずい。このままだと誰かが探しにくる。もう受験が近いのに。大ごとになる前に、早く教室に戻らないと。
…しかし、体がいう事を聞かない。僕はそこに倒れ込んだ。
…気づいたところは、保健室だった。
「津山くん?気がついた?」
年配の保健室の先生が、僕の名を呼んだ。
「あ。…ここは。保健室?」
「そうよ。」
僕が今の状況を把握するのに時間はかからなかった。北野が深川の件で僕を呼び出し、そして一方的に僕が深川に惚れていると勘違いしてこの事態になった。
「体育館横で倒れていたのよ。3年2組の村上さんが気付いて、保健室に連絡してくれたの。お礼言っときなさいよ。」
どうやら保健室の先生は、北野に僕が暴力を振るわれたことに気付いていないようだ。あるいは、気付いていたとしても、大ごとにしないようにしてくれているのか。
「津山くん、もしいじめとかだったら、先生は今知っている事を全て証言してあげるから、いつでも言っておいで。」
僕はこの瞬間、この先生が信用に足る人間と気づいた。この保健室の先生は、大ごとにするつもりはないが、もし大ごとになってしまった場合は、ちゃんと証言してくれると約束してくれている。
「あ、はい…。ありがとうございます。」
「しばらく休んで、もし大丈夫そうだったら、教室に戻りなさい。応急措置はしておいたから。」
ちょっと蹴りが急所に入っただけで。出血もしていなければ、青あざにもなっていない。しかし、湿布が貼ってあった。という事は、村上は僕が腹を押さえて苦しんでいるところを見たのだろう。
その日の午後から授業に戻った。
担任の先生には、僕が体調を崩して気を失った、と伝えられていた。
僕は深川の方を見た、彼女は目を逸らさず、僕をまっすぐに見据えていた。
僕は恐ろしくなり、視線を逸らした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる