54 / 84
扇町中学編
初雪
しおりを挟む
中2の12月初頭、僕はテニス部のコートに立っていた。
ネットに引っかかったボールを掃除するボールボーイの役をやっていた。その横で、水泳部たちが走り込みをしていた。
どす黒い空。雪雲とつむじ風。埼玉なら確実に雪が降る前触れだった。
「あ、雪ー。」
テニスコートの横でトレーニング中の水泳部村上が、手を空に向けた。彼女の手袋に、白いものが落ちていた。
「わぁ。雪だね。初雪だね。」
水泳部の女子たちがキャッキャしている。
「おーい。こっちも、終わろうか。」
僕たちは、誰ともなくテニスの用具を片付け始めた。
「じゃ、解散。風邪引くなよ。」
キャプテンの号令で、みんなは帰り支度を始めた。
僕たちは、正門を抜けて、通学路をとぼとぼ歩いた。傘はない。今日はクマがいないので、僕は早くからみんなと別れ一人ぼっちになった。すると、前の方で、女子の2人組が振り返った。
「津山。」
村上とその友達だった。「ほらっ。早く言いなさいよ。ちゃんと私が聞いててあげるけぇ。」村上の友達は、しきりに村上の事を急かしている。
「津山、冬休み、暇ある?」
村上は、紅潮した顔を僕に向けた。
「部活と新聞配達を毎日やるから、あんまり暇はないっちゃ…。」
僕は申し訳なく、村上に伝えた。村上は息を大きく吸って、話し出した。
「単刀直入にいうよ。アンタ尾道へ行きたいって行ってたよね。」
「ああ、確か言った覚えがある。」
僕は、1学期にまだ村上と自然体に話ができた時に、尾道へ行った事がないから行ってみたい、と村上に話していた。
「鬼ちゃんと私と、津山とクマくんか。4人で行かんかぁ?」
「え?そんな話になったのか?」
僕は驚いた。クマは付き合いがよく、僕の誘いを断ることは無かったからいいとして、鬼ちゃんこと越智さんとは。意外な名前が出てきた。
「鬼ちゃんも私と同じで、古いものが好きちゃ。」
いつの間に越智さんを鬼ちゃんと呼ぶようになったのか。それすらも驚きだったが、越智さんもそんな趣味があったとは知らなかった。
「クマくんも、津山と同じで、新聞配達やっているじゃろ。だから、気があうんじゃないかと思って。」
僕の相方までご丁寧に指名してきたのが何というか、周到だなぁと思う。
「いいなぁ。私も誘ってよ。」
村上の横にいた水泳部の女の子。花村さんというらしい。その子も加わることになった。
僕は、その話をクマに話した。
「いいじゃろ、新聞配達は朝と夕方だけじゃけん。その間に遊びに行けば。」
「そうか、じゃ決まりか。」
僕は、深川の誘いより村上の誘いだったことの方がホッとした。深川は、頭もいいし、成績もいいけど、最近なんだか怖いものを感じている。深川の誘いだったら、クマに相談する事なく、断っていたと思う。
ネットに引っかかったボールを掃除するボールボーイの役をやっていた。その横で、水泳部たちが走り込みをしていた。
どす黒い空。雪雲とつむじ風。埼玉なら確実に雪が降る前触れだった。
「あ、雪ー。」
テニスコートの横でトレーニング中の水泳部村上が、手を空に向けた。彼女の手袋に、白いものが落ちていた。
「わぁ。雪だね。初雪だね。」
水泳部の女子たちがキャッキャしている。
「おーい。こっちも、終わろうか。」
僕たちは、誰ともなくテニスの用具を片付け始めた。
「じゃ、解散。風邪引くなよ。」
キャプテンの号令で、みんなは帰り支度を始めた。
僕たちは、正門を抜けて、通学路をとぼとぼ歩いた。傘はない。今日はクマがいないので、僕は早くからみんなと別れ一人ぼっちになった。すると、前の方で、女子の2人組が振り返った。
「津山。」
村上とその友達だった。「ほらっ。早く言いなさいよ。ちゃんと私が聞いててあげるけぇ。」村上の友達は、しきりに村上の事を急かしている。
「津山、冬休み、暇ある?」
村上は、紅潮した顔を僕に向けた。
「部活と新聞配達を毎日やるから、あんまり暇はないっちゃ…。」
僕は申し訳なく、村上に伝えた。村上は息を大きく吸って、話し出した。
「単刀直入にいうよ。アンタ尾道へ行きたいって行ってたよね。」
「ああ、確か言った覚えがある。」
僕は、1学期にまだ村上と自然体に話ができた時に、尾道へ行った事がないから行ってみたい、と村上に話していた。
「鬼ちゃんと私と、津山とクマくんか。4人で行かんかぁ?」
「え?そんな話になったのか?」
僕は驚いた。クマは付き合いがよく、僕の誘いを断ることは無かったからいいとして、鬼ちゃんこと越智さんとは。意外な名前が出てきた。
「鬼ちゃんも私と同じで、古いものが好きちゃ。」
いつの間に越智さんを鬼ちゃんと呼ぶようになったのか。それすらも驚きだったが、越智さんもそんな趣味があったとは知らなかった。
「クマくんも、津山と同じで、新聞配達やっているじゃろ。だから、気があうんじゃないかと思って。」
僕の相方までご丁寧に指名してきたのが何というか、周到だなぁと思う。
「いいなぁ。私も誘ってよ。」
村上の横にいた水泳部の女の子。花村さんというらしい。その子も加わることになった。
僕は、その話をクマに話した。
「いいじゃろ、新聞配達は朝と夕方だけじゃけん。その間に遊びに行けば。」
「そうか、じゃ決まりか。」
僕は、深川の誘いより村上の誘いだったことの方がホッとした。深川は、頭もいいし、成績もいいけど、最近なんだか怖いものを感じている。深川の誘いだったら、クマに相談する事なく、断っていたと思う。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
君を救える夢を見た
冠つらら
青春
高校生の瀬名類香は、クラスメイト達から距離を置き、孤高を貫いている。
そんな類香にも最近は悩みがあった。
クラスメイトの一人が、やけに積極的に話しかけてくる。
類香はなんとか避けようとするが、相手はどうにも手強い。
クラスで一番の天真爛漫女子、日比和乃。
彼女は、類香の想像を超える強敵だった。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
私のなかの、なにか
ちがさき紗季
青春
中学三年生の二月のある朝、川奈莉子の両親は消えた。叔母の曜子に引き取られて、大切に育てられるが、心に刻まれた深い傷は癒えない。そればかりか両親失踪事件をあざ笑う同級生によって、ネットに残酷な書きこみが連鎖し、対人恐怖症になって引きこもる。
やがて自分のなかに芽生える〝なにか〟に気づく莉子。かつては気持ちを満たす幸せの象徴だったそれが、不穏な負の象徴に変化しているのを自覚する。同時に両親が大好きだったビートルズの名曲『Something』を聴くことすらできなくなる。
春が訪れる。曜子の勧めで、独自の教育方針の私立高校に入学。修と咲南に出会い、音楽を通じてどこかに生きているはずの両親に想いを届けようと考えはじめる。
大学一年の夏、莉子は修と再会する。特別な歌声と特異の音域を持つ莉子の才能に気づいていた修の熱心な説得により、ふたたび歌うようになる。その後、修はネットの音楽配信サービスに楽曲をアップロードする。間もなく、二人の世界が動きはじめた。
大手レコード会社の新人発掘プロデューサー澤と出会い、修とともにライブに出演する。しかし、両親の失踪以来、莉子のなかに巣食う不穏な〝なにか〟が膨張し、大勢の観客を前にしてパニックに陥り、倒れてしまう。それでも奮起し、ぎりぎりのメンタルで歌いつづけるものの、さらに難題がのしかかる。音楽フェスのオープニングアクトの出演が決定した。直後、おぼろげに悟る両親の死によって希望を失いつつあった莉子は、プレッシャーからついに心が折れ、プロデビューを辞退するも、曜子から耳を疑う内容の電話を受ける。それは、両親が生きている、という信じがたい話だった。
歌えなくなった莉子は、葛藤や混乱と闘いながら――。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる