転校サバイバーズ

藤沢 南

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扇町中学編

初雪

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中2の12月初頭、僕はテニス部のコートに立っていた。
ネットに引っかかったボールを掃除するボールボーイの役をやっていた。その横で、水泳部たちが走り込みをしていた。
どす黒い空。雪雲とつむじ風。埼玉なら確実に雪が降る前触れだった。

「あ、雪ー。」
 
テニスコートの横でトレーニング中の水泳部村上が、手を空に向けた。彼女の手袋に、白いものが落ちていた。

「わぁ。雪だね。初雪だね。」

水泳部の女子たちがキャッキャしている。

「おーい。こっちも、終わろうか。」

僕たちは、誰ともなくテニスの用具を片付け始めた。

「じゃ、解散。風邪引くなよ。」

キャプテンの号令で、みんなは帰り支度を始めた。

僕たちは、正門を抜けて、通学路をとぼとぼ歩いた。傘はない。今日はクマがいないので、僕は早くからみんなと別れ一人ぼっちになった。すると、前の方で、女子の2人組が振り返った。

「津山。」

村上とその友達だった。「ほらっ。早く言いなさいよ。ちゃんと私が聞いててあげるけぇ。」村上の友達は、しきりに村上の事を急かしている。

「津山、冬休み、暇ある?」
村上は、紅潮した顔を僕に向けた。
「部活と新聞配達を毎日やるから、あんまり暇はないっちゃ…。」
僕は申し訳なく、村上に伝えた。村上は息を大きく吸って、話し出した。
「単刀直入にいうよ。アンタ尾道へ行きたいって行ってたよね。」
「ああ、確か言った覚えがある。」
僕は、1学期にまだ村上と自然体に話ができた時に、尾道へ行った事がないから行ってみたい、と村上に話していた。
「鬼ちゃんと私と、津山とクマくんか。4人で行かんかぁ?」
「え?そんな話になったのか?」
僕は驚いた。クマは付き合いがよく、僕の誘いを断ることは無かったからいいとして、鬼ちゃんこと越智さんとは。意外な名前が出てきた。
「鬼ちゃんも私と同じで、古いものが好きちゃ。」
いつの間に越智さんを鬼ちゃんと呼ぶようになったのか。それすらも驚きだったが、越智さんもそんな趣味があったとは知らなかった。
「クマくんも、津山と同じで、新聞配達やっているじゃろ。だから、気があうんじゃないかと思って。」
僕の相方までご丁寧に指名してきたのが何というか、周到だなぁと思う。

「いいなぁ。私も誘ってよ。」
村上の横にいた水泳部の女の子。花村さんというらしい。その子も加わることになった。

僕は、その話をクマに話した。
「いいじゃろ、新聞配達は朝と夕方だけじゃけん。その間に遊びに行けば。」
「そうか、じゃ決まりか。」
僕は、深川の誘いより村上の誘いだったことの方がホッとした。深川は、頭もいいし、成績もいいけど、最近なんだか怖いものを感じている。深川の誘いだったら、クマに相談する事なく、断っていたと思う。
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