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9.軍艦への潜入

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アウルムは潜るとアークの真下に隠れます。
足の裏にアウルムの鱗の感触を感じながら、アークは深呼吸を一つします。
ランタンに石を入れて海水をかけると、石はぼんやりと青く輝きました。

すると、不思議な事にアークの周りに青い光が一つ、また一つと輝きます。
青い光は少しづつ増えて行くと、周りは青く輝く海になりました。
それは、小さなイカの大群でした。
小さなイカの触手の先が青く輝いているのです。
「ヒカリイカ?」

ヒカリイカはアウルムも知っています。
アウルムが暮らしていた深海でも青く輝いていた事を思い出します。
「そうだよ、産卵の為に水面近くに出て来て青く光るんだ」

アークがランタンをゆっくりと回すと、上からロープが下りてきます。
アークはロープに大きな袋をしっかりと結びつけます。
「よし・・」

ランタンを再びゆっくり回すと、ロープはゆっくりと引き上げられます。
アークは引き上げられる大きな袋にしがみつくとランタンを海に沈めます。
海の中でもぼんやりと青く光るランタンをアウルムがくわえます。
船から離れていく青いランタンを見ながらアークは大きな船を見上げます。
「船長室はあそこだね」

船尾につけられた豪華な窓を見つけると、小さなナイフを取り出します。
金属で補強されていない木材の隙間にナイフを差し込んで足場にします。
小さなナイフですが、魚の硬い骨もさばける頑丈なナイフはアークを支えます。
「よっと」

引き上げられていく袋から離れると、窓からそっと部屋の中をのぞき込みます。
中には燭台の炎が揺れていますが、人はいないようです。
しかし、燭台の火がついていると言う事は部屋の主は起きているようです。

窓の鍵は簡単な留め金だったので、隙間から針金を差し込んで開けました。
風で燭台の炎を揺らさないように、慎重に部屋の中に入り込みます。
僅かに入った風で炎が揺れるとアークは心臓が止まりそうになりました。
炎は直ぐに揺れが収まりましたが、アークの心臓は激しく鼓動します。
「軍艦に侵入なんて、見つかったら死刑かも・・・」

震える手で窓を閉めて、入り口の扉をじっと見つめながら姿勢を低くします。
アークは恐怖に震える手をしっかりと押さえると落ち着いて耳を澄ませます。
上の方から怒鳴り声が聞こえてきますが、あのアキードかもしれません。
船が揺れて木材が軋む音に混じって、水が跳ねる音が聞こえます。
「この音は・・・?」

音は入り口とは別の扉から聞こえてきます。
アークは、周りを注意深く確認しながら部屋の中を移動します。
本の詰まった本棚の影が、生き物のように揺れています。
アークにはまるで自分を何かがじっと見ている気がして震えます。
(大丈夫・・・大丈夫・・・)

扉に鍵はかかっていませんでした。
そっと扉に耳を付けて、中の音を探ります。
水が跳ねる音と硬い物が擦れる音が聞こえます。
アークは覚悟を決めて、そっと扉を少し開けて中を覗き込みます。

中は明かりが無く、真っ暗でした。
アークは猫のように両手と両足で四つん這いになると、部屋に忍び込みます。
真っ暗な部屋の中を音のする方へゆっくりと近づくと、指先に何か触れます。
(水?)

部屋の中は水浸しでした。
(ここだけ嵐でも入り込んだみたいだ。)

更に進むと、硬い物に触れました。
それは金属の板の様でしたが、よく見えないアークには何か分かりません。
それでも、しっとりと湿った金属の板をなぞる様に触れていきます。
(水が入った金属の箱・・・いや水槽かな?)

少しづつ目が慣れてくると、金属の箱は予想以上の大きさでした。
高さはアークより少し高い程度ですが、幅は部屋の半分はありそうでした。
(アクリルさんがこの中に居るのかな?)

部屋にこんな水の入った金属の箱を置く理由はそれ以外思いつきません。
アークがアクリルの名を呼ぼうと口を開いた瞬間でした。
「まったく、兵士達にも困ったものだ!」

入り口の方からアキードの大声と足音が聞こえてきます。
アークは全身から血の気が引いて、慌てます。
(どうしよう!どうしよう!)
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