黄金のサメは悪夢を照らす

黒猫和輝

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7.アークの作戦

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港についたアークは、驚きました。
港に泊まっていた船は、ただの船ではありませんでした。

人間の国の紋章が入った船首、大きなマスト、横に並ぶ黒い大砲。
それは人間の国の"軍艦"でした。

軍艦の近くには、普段なら漁に出ている筈の漁師たちが集まっていました。
アークは、知り合いの漁師に手を振りながら問いかけます。
「おじさ~ん、今日は漁に出ないの?」

漁師は真っ黒に日焼けした大きな体を振り向かせて手を振ります。
「おぅ、アークか!あんな軍艦が来たら魚が逃げちまう!」

漁師は頭をかきながら、手にしたパイプに火をつけて一服します。
「アークこそどうした?今日は"人魚探し"は良いのか?」

アークは港では有名な子供でした。
幼い頃に嵐で難破した船から奇跡的に助かったのですが
アークを助けたのは人魚だと言うのです。

人魚は漁師にとって恐ろしい存在でした。
人魚の歌を聞くと、海に引きずり込まれると言われていました。

大人達は、アークの話を子供の思い込みだと信じませんでした。
けれどもアークは、その日から海に出ては人魚を探していました。

そんなアークを港の大人たちは嵐で心が傷ついたのだと思いました。
アークもそんな雰囲気を感じて港から離れた場所に一人で暮らしていました。

最初は寂しくてふさぎ込んだこともありましたが
持ち前の明るさと"いつか人魚に恩返しする"という思いで耐えました。
何より、大人たちが"絶望するよりは良い"と陰ながら助けてくれたのでした。

アークは支えてくれた恩を返そうと、色々な手伝いをするようになりました。
港の漁師から海の事を学び、港の酒場を手伝いながら船乗りに人魚の事を聞きました。
足の悪い鍛冶屋の為にお使いもしました。

アークはこんな日々がずっと続くのも良いと思い始めていました。
けれども、今日は驚く事ばかりです。

黄金のサメに出会ったと思えば、港には大きな軍艦が来ているのです。
そして、あの軍艦には人魚がいるかもしれないのです。
アークの心は知らない内に高鳴っていました。
「おじさん、なんで軍艦がこんな辺境の島に来てるの?」

漁師は、パイプを片手に肩をすくめると首を振りました。
「よく分からんが、アイツが頭目みたいだ」

そう言って、パイプで指した船の入り口には、鎧を着た兵士達がいます。
兵士達に混じって、一人の派手な衣装の男が文句を言っていました。
「いきなり発砲する奴がいるか!」

派手な男は兵士達を手にした細い棒でペシペシと叩きながらなおも続けます。
「私は使えない奴に金を出す程、酔狂では無いのだがね!」

アークは一目で、嫌な奴だと思いました。
「何あれ?」

漁師も頭をかきながらパイプをくわえます。
「軍人には見えんが、商人と私兵って所だろう・・・売り込みが厳しそうだ」

港町では、やって来た船の船乗りに嗜好品や食料の売り込みが行われます。
海の上で生活する船乗りたちにとって、貴重な娯楽を得るチャンスでしたが
港で暮らす者達にとっても貴重な収入源でした。

アークも居酒屋の手伝いで何度か売り込みをした経験がありますが
こういう客は、文句は言うくせに安いものしか買わないので嫌いでした。
(・・・でも、この手は使えるかも!)

アークはわざと兵士に見つかる様に船に近づきます。
「貴様っ!そこで何をしている!」

船の上から見張りをしていた兵士に怒鳴られました。
しかし、アークは慌てた風も無く、兵士に言いました。
「お勤めご苦労様~、息抜きに冷たいエールや嗜好品はいかがですかぁ?」

兵士は、アークの言葉にため息をつきました。
「何だ、売り込みか」

アークの声に数人の兵士が集まってきました。
「俺達は船から出られないから無理だ、帰れ!」

兵士は野良猫を追い返すように手を払いますが、アークは引き下がりません。
「大丈夫ですよ~、私が届けに来るので注文だけで良いですよ?」

その言葉に兵士達が何やら話し合っています。
アークはここぞとばかりに押し込みます。
「この港に来たのに名物の一つも食べないなんて勿体ないですよ?」

兵士達はゴクリと唾を飲み込みます。
彼らだって、本当は久しぶりのエールや美味しいものが食べたいのです。
「でも、アキードさんにバレたら面倒だしなぁ・・・」

兵士達は入り口で文句を続けている派手な男を見て言葉を濁します。
そんな兵士達の言葉を聞いて、アークは知恵を絞ります。
(あの派手な奴、アキードって言うんだ・・・上司とかじゃなさそうだけど)

アークは兵士達の様子を見て、賭けに出ます。
アークは口に手を添えて、できるだけアキードに聞こえないように話します。
「ねぇ、兵隊さん!ちょっと提案があるんだけど?」

アークの提案に興味を持った兵士の一人が耳に手を当てて答えます。
「提案ってなんだい?」

アークは心の中で緊張しながら、提案を伝えます。
「バレなきゃ良いんでしょ?夜にこっそり"海から"届けに行くってのはどう?」

兵士は少し驚いたように仲間に伝えます。
「海からって・・・船で近づいたらバレるぞ?」

アークは自信たっぷりに答えます。
「大丈夫、船を使わなくても届ける秘密の方法があるんだよ!」

アークの言葉に半信半疑な兵士達にアークは最後の切り札を使います。
「注文とらないと友達が大変なんだよ!お願いだよ!」
アークは必死に懇願して頭を下げます。

その言葉に、兵士達は流石に困惑します。
話を聞いていた兵士が他の兵士と相談します。
「どうする?」

年配の兵士が頭を下げるアークを見ながら言います。
「何か事情がありそうだし、いいんじゃないか?」

他の兵士が困ったように注意します。
「でも、あのアキードさんにバレたらまた愚痴を言われますよ?」

年配の兵士は肩をすくめるとニヤリと笑います。
「バレなければ良いんだろう?」

話を聞いていた兵士も同意します
「アキードさんでも、娯楽まで奪う権利は無いはずだ」

その言葉に、少しづつ他の兵士も賛同していきます。
アークは兵士達に少しだけ同情しました。
(やっぱり娯楽に餓えてるんだなぁ・・・兵隊も大変だね)

年配の兵士が代表してアークに注文した所で問いかけました。
「どうやって夜に海から届けるんだ?」

アークは人差し指を口に当てて、答えます。
「秘密だよ、船の後ろに青いランタンが見えたらロープを下してね」

兵士達は首を傾げます。
「青いランタンなんて使ったらバレるんじゃないか?」

アークは軽く手を振りながら答えます。
「今はヒカリイカの産卵時期だからね」

その言葉に年配の兵士が納得したように手を叩きます。
「成程、だから青いランタンなのか」

他の兵士達はお互いを見ながら肩をすくめるだけでした。
その夜、アークが大きな袋を持って帰ってきました。
「アウルム、いる?」

海は真っ暗でしたが、アークの声に淡く輝く光が水面に近づいてきました。
「遅いから心配したぞ、大丈夫だったか?」

アークは、アウルムが自分を心配してくれた事に驚きました。
「僕の事、心配してくれたの?」

アウルムは、アークの言葉に頷きます。
「俺は何もできないのに、アークだけ危ない事をさせているからな」

アークは笑顔になるとアウルムの頭に手を置きます。
「ありがとう、アウルムは優しいね」

アウルムはアークの言葉がよく理解できませんでした。
優しいと言う事が何かをしてあげる事だと知っていましたが、
アウルムはアークに何もしていません。
「優しい事をした覚えは無いぞ?」

アークは笑顔のまま、アウルムの頭をポンポンと軽く叩きます。
「優しい言葉をくれたよ?」

アウルムはアークの意図がよく分かりませんでした。
ただ、人間に叩かれたのにどこか心が温かくなっていました。
(叩かれるのは嫌な事だと思っていたのに・・・変だな)

困惑するアウルムをよそに、アークは真剣な顔になると考えを伝えます。。
「何とか船には近づけるよ、作戦をよく聞いてね!」

一人と一匹の作戦会議が始まりました。
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