樹属性魔法の使い手

太郎衛門

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冒険者登録編

またお前かよ!

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「きゃあああぁぁー!!」


 本でよくある展開じゃん。
 まあ前の世界でのお話だし、そんな読んだことはないんだけど。
 そういえばこの世界では伝記とか図鑑とか歴史とかそんな本ばかり見たけど、創作の物語みたいな本とかないのかなー。
 少なくとも父の書斎にはなかったよな……。
 父が読まなかっただけなのか?
    今度探してみるか。

 「きゃあああぁぁー!!」

 また同じ悲鳴が聞こえてくる。
 この辺って強い魔物は出ないんだよね?
    ねぇ門番さん?

 助けを呼びに行くべきか、助けに行くべきか……。
 あまり時間もなさそうだし仕方ない!

 俺は声が聞こえてきた方向へと、鍛え上げた足で走り出した。

 そしてそこはすぐに見つかる。
 森のさらに奥へと入ると、木々に囲まれる中で七人の男女が姿を現した。
 二人の男と五人組の男女が相対している。
 五人組はさっきの人達だ。

    んで、魔物モンスターはどこ?!
 
   俺は杖を出し、周りにあるのと同じ木を作るとそのまま枝に乗り、地上から数メートルの高さになるまでグロウアップをかけた。
  これでとりあえず見つかりはしないだろう。

   三人の男性と二人の女性で構成されたパーティーだ。
 全員が十代か二十代だろうと思われる。
 女性はガチムチ系じゃなくローブで全身隠しちゃう系の魔法師の二人だ。
    杖を持っているからね。
 男性は三人とも細身の剣士といったとこだろうか。いや、一人はナイフ使いか。
    リーダーらしき人とナイフ使いの人が相手を警戒して、一人が倒れている。出血があるな。 

 「いいから持ってるもの全部おいてけやっ! ついでにその女二人もなっ!!」
 「キヒヒヒ。 そこの男みたいに死にたくなければさっさとしろっ! スキンさん、女は一人俺にくれよ」
 「ばっ、バカっ!名前を出すんじゃねぇーよ。俺はスキンじゃねぇ!ズキンさんだっ」

 男達は黒い布で顔を隠し、一人はさらに赤い頭巾ずきんを被っていたのだが、あっさりと一人は面が割れた。
 
    って、またお前かよ。
 脅威の魔物モンスターはいなかったけど、驚愕のアホ野郎がいたよ。
 何がズキンさんだよ。まんまじゃねーか!

 「ス、スキンって、銀ランクのスキンさん?! ど、どうして?!どうしてこんなことするんですか!!」

 リーダーの男が、手に持つ震える剣をもう片方の手で押さえつけながら質問した。

 「くっそ、お前のせいでばれてんじゃねーか。 予定は狂ったがまあいい。 顔を見られたからには殺すしかねーな」

 いや、顔は見られてないぞ。名前を呼んだだけだ。
 しかも殺すんかい。
    短絡的だなー。

 「すんません、スキンさん。 じゃあちゃっちゃと殺っちゃいますか! あ、女のほうは楽しんでから殺しましょ! キヒヒ」

 スキンの相棒もどうしようもないな。
    下劣な奴だ。

 「な、なんでですか!? 悪い噂はあったけど、ころ、殺しなんて……」
 「なんでどうしてうるっせぇーんだよっっ!! 変なクソガキに負けちまったせいで俺の評判はがた落ちするわ、ハイポーションとか勝手に使うから借金も増えちまったんだよ。金をちびちび稼いでらんねーし、イライラおさまんねぇからお前らみたいの襲ってストレスも解消だよっ! ああそうだ、今度あのガキも殺そう。五人も六人も変わんねぇもんな」
 「━━な、なんだよそれ。 俺達関係ないじゃんっ! あんたそれでも冒険者かよっ!」

 リーダーの後ろにいるナイフ使い君が声を荒げた。
 女の子一人はいつでも魔法を放てるように警戒しているが、もう一人は倒れた剣士の側で泣いている。

 「そうさ、関係ないよ。関係ないから襲えるんだよ。そんなこと当たり前じゃね? バカかっ!」

 馬鹿はお前だよ。
 そろそろ出たほうがいいか。
 スキンの相棒は分からないが、スキンは銀ランクだけど大したことはない。

 「スキンさん、ぼちぼち殺っちゃいぱぺ━━」

 スキンの相棒が口を開いたその時、目が少し飛び出して言葉を強制的に終了した。
 こめかみから矢が突き刺さっている。

    すると、ガサガサと茂みの奥からグフグフと鼻を鳴らしながら姿を見せる魔物。

  「━━━な、な、な」

 いきなり相棒が殺られ言葉が出ないスキン。

 「━━なんでこんなとこにオークがっ」
 「ピュ、ピュールさんっ! 囲まれています……」

 ピュールと呼ばれたリーダーは絶望的な顔をしている。
 顔は汗でテカテカだ。いや、びちゃびちゃのびちゃおだ。
   ナイフ使いもナイフを落としてしまっているし。
 ナイフ使いがナイフ落としたらだめじゃろがい。

 ここから見る限りでも囲まれているのが見える。
 枝が邪魔して見えない所もあるが、ざっと二十体くらいか。
 俺の真下にもオークが歩いている。
 弓を背負っている奴だ。
    こいつが射ったのか?

 オークはゴブリンよりも断然強い。
 動きは同じくらいだが、体躯が大きくパワーが違う。
 強化も何の装備もしていなければ、人間なんてパンチ一発でアウトだ。ワンパンだ。

 オーク一匹の討伐に銀ランク冒険者三名以上で挑むのがセオリーだ。パーティー討伐推奨である。

 ゴブリンよりもオークによる冒険者の死亡率は断然高いらしい。
 ケガは一発で重症。
   治す薬草は漢方程度。
  そこから生み出すポーションもハイポーションもあの程度。
   回復魔法は見てないが大したことないだろう。
   そもそも使い手も少ないようだし。

 あの若いパーティーは、おそらく全員が銀ランク以下。いや、未満。
   一人ケガしての数体のオークを相手にするのかなりキツイ。全滅するのは火を見るよりも明らかだ。
 スキンは銀ランクだが、戦力として見ても焼け石に水程度だろう。
 だから今のこの状況は生存率0%といっても過言ではないな。

   俺もゴブリンとしか戦ったことないからわからないんだよな。
 いけんのかな。

 完全に囲まれる前にスキンが一点突破を狙い動き出した。

 「うおおぉぉぉぉ!! こんなとこで死んでたまるかぁー!!『ハードスラッシュ』」 

 一体のオークを狙い、剣を横薙ぎに振るう。
 渾身の力を込めた一撃だ。
 そのオークは武器を持っていない。

 「グフォォォォ」
 オークは片腕を切り落とされ、たと思いきや素手で剣を掴んでいる。
 スキンの一撃は完全に目で捉えられていた。
 オークはそのまま剣ごと引き寄せる。
 しかし、スキンは既に手を離していた。
 武器の無くなったスキンはさらに絶望的だ。

 「おい、俺に剣を寄越せっ!」

 スキンはあろうことかピュールに剣を催促した。
 オークからは目を離さずに手で後ろにジェスチャーをしている。
 
  「…………」

  「━━━おいっ! なにしてんだ! 早くしろっ!!」

  「……あなたに殺されるかもしれないのに渡すわけないでしょ……」

 ピュールは目で追うこともできなかったスキンの一撃が、全くオークには効かなかったことに驚愕し顔を汗でさらに濡らしていた。
 
  「チッ!くそが! ………どうする、考えろ…考えろ…」

 スキンは周辺へ視線を走らせる。

 そろそろ本当にヤバそうなので俺は杖を構え準備しておく。

 スキンはブツブツ呟いていると思ったら、ナイフを落としたナイフ使いへと視線が動いた。

    策を思いついたのか、スキンは駆け出した。
 ナイフの青年へと向かって。
 ピュールもナイフの青年も周りのオークを警戒して気づいていない。
 元々数歩の距離だったこともあり、すぐにその差は埋まる。
 そしてスキンは青年の襟首を掴むと、力一杯投げ飛ばした。
 弓を構えるオークへと向かって。

 「う、うわぁぁぁ!!」

 一瞬にして投げとばされた青年はパニックになり叫び散らす。
 それを追いかけるようにスキンは体勢を低くして疾駆した。

 オーク達は円になるように囲んでいるが、きれいに一直線ではない。前後に数体がいる場所もあれば一体しかいない手薄なところもある。その場所を見極めスキンは狙いをつけたのだ。

 青年はピンポイントで弓のオークへとぶつかった。
 そこへスキンはタイミングよく飛び上がった。
 オークは体勢を崩しているが、弓を捨てすぐに青年を睨み付ける。
 ━━あ、ヤバイ。

 「ツリーバインド」

  俺は即座にオークの隣にある樹木へと魔法を放った。
 すると、木の枝がうねうねと動きだし、弓のオークを拘束する。
 スキンはちょうど青年と弓のオークを飛び越えていた。
 そして振り返った。
 そこには拘束されたオークが目に入り、その状態に疑問を覚えるがこれ幸いと逃げるために前に向き直り一歩踏み出すも、そのまま頭を爆散させた。

 ━━え。

 手薄だと思われていたそこは手薄などではなかった。
 このオーク達を引き連れてきた者がそこにいたのだ。
    群れのリーダーである。
   そいつは薄いピンク色のオーク達とは違い、全身を赤黒く染めていた。体躯も二周りはデカイ。

 なんだあれ。
 やばそうな匂いがプンプンする。 
    あいつはきっとプンプン丸だ。
 
  「━━あ、あれはオークの上位種っ! レッドオークっ!」

 そう、あいつはレッドオーク。
 説明をありがとう!ピュールくん。

 見れば女の子二人は恐怖に放心状態に陥っている。
 ピュール君もレッドオークを一目見て、下半身から湯気を立ち昇らせていた。
    臭いプンプン丸だ。

 レッドオークはぶちまけられた脳髄の上をびちゃりびちゃりと気にせず歩いてくる。
 命を失ったスキンなどは既に目もくれない。

 「グゴオオォォォォ!!」

 ビリビリと大気が震える。
 レッドオークのその雄叫びが合図となり全てのオークが動き出す。
 俺は慌てて、今乗っているこの樹木へと魔法をかけた。

 「グロウアップ&ツリーバインド」

 木の枝を成長させ、気絶している青年と倒れている剣士を含めた全員へ向かうように操作する。
 杖をタクトのように振るうと、五本の太い枝が五人を見事に釣り上げた。

   魔法は想像だ。
   創造力クリエイティビティ想像力イマジネーション
   可能性は無限大だ。

 女子二人は森に響き渡るような悲鳴をあげている。
 ピュールくんは俺を見て、殺さないで殺さないでを繰り返している。
    
 そんなことは無視して下を見れば、オーク一同は俺を見上げていた。
    突然獲物を奪われたオークは爆発寸前だ。 
   特にレッドオークはその怒りからか、さっきよりも紅くなっていた。
 俺がふんっと鼻を鳴らすと、オークどもは一斉に怒りを露にした。
 
  「ガアァァァァ!!!」

   何いってんのかわかんねえーよ。

 俺は気合い入れるために深呼吸をすると、奴等が近づく前に木から飛び降りた。
 オーク数体に殴れたりでもしたら、この樹木などひとたまりもなく倒されるだろう。

  「ゼフュロスフロート」

 空中で風魔法を発動する。
 浮遊魔法なのだが、俺はまだ上手く使いこなせないために、ゆっくりとだが落下してしまう。だが、考え方を変えれば、ゆっくりと安全に落下できるということだ。

 そして俺は地面に降り立った。
 当たり前だが周囲はオークだらけだ。

 威圧はんぱねーな。
 こえー。
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