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Iris

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5話

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「よし!」

その日の放課後、弓道場には矢が的に中ったことに対する称賛の声がこだましていた。
誰しもに掛ける言葉ではあるが、今日も皆中だったから、俺への褒め言葉でもあると受け取っても問題はないだろう。
過不足のない自信は必要だ。

礼をして射位から下がり、部員が正座で控える場に俺も加わった。

次の面々が矢を射る準備にかかる。
よく知った同期たちの顔持ちは、どことなく真剣さを含んでいた。

今日の練習は、部長も出席していて、-部長が顔を出さない日が少ないのだから、先日が特殊だったことは明白だけれど-、新学期が始まってまもない時期の練習は、良い緊張感の中進められていた。

「よしっ!」

的中するたび仲間に声をかける。
俺はこの文化も嫌いではなかった。

新入生も近い将来入ってきてくれるだろう。
想像より基礎練習や、土台作りが必要であるため、億劫さを覚える者もいるかもしれないが…

タァン、と、特段に耳あたりの良い音が響く。
海道部長の端正な横顔が、少し離れた場所からでも視界に入った。
列は三年生の番に戻っていた。

真ん中に突き刺さった矢に、少しも表情を変えないまま、至極慣れた動作で弓に次の矢を構えいく。

矢踏みから始まり、胴作り、弓構え、打起、引分、会…離れ、そして、残心…一連の流れ全てが洗練されていた。
また中ったこともあり、より一層射法八節が美しく見えるとともに、部員から上がる「よし!」の掛け声も、自然と引き出されているようにも感じられる。

矢が的に吸い込まれていくのと同じように、今の部は、部長を中心によくまとまっている。
一部員の身ではあるが、そう感じずには居られない。

実際に28メートル離れた的の前に立ち、矢が的中するまでの期間を支えた一人は、現部長の海道先輩であることに間違いはない。

「部長、流石です」

今野が控えに戻る海道部長に声を掛けていた。

「よせ、皆練習中だ」

慌てて頭を下げる今野は尻目に、そっとため息をついた。
俺は部長ほどの求心力や、同性の目から見ても勇敢に映る何かは持ち合わせていないことを自覚している。

仮に新入生が増えたとしても、簡単に変化が訪れるようなことでもないだろう。
「生まれつき」だ。
頭の端でそんな単語がぼんやりと浮かんだ時だった。

「早気(はやけ)だぞ」

海道部長の鋭い一声が場に貫いた。

「は、はい!」

見ると、返事をしたのは同学の横澤だった。

「癖にするな」
「は…はい!!!」

いつもより少し震えた様子で、皆が見守る中、再度横澤が矢を構える。

(はやい)

自分の中で思い描いているタイミングより、ほんの少しだけれど、致命的に異なるそれで矢が弾かれた。
控えにいる者、それから射位で横に並ぶ者、皆がそう感じたように空気がシンとした。

虚しくも、矢が的中ことはなく

「練習止め」

部長の号令で、練習は中断された。



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