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俺田中弘樹(たなかひろき)とアイツ斎藤玲二(さいとうれいじ)が出会ったのは、ほんの半年前、高校二年生の春のことだった。
「俺、田中弘樹。よろしくな。」
出会いはどこにでもよくある話。
出席順に座席が並べられた時、偶然席が隣だったからだ。
そして俺が教室に着いた時、既に玲二は学生鞄をフックにかけ、手持ち無沙汰にしていたことも大いに関係がある。
「斎藤玲二。よろしく」
黒髪に、きちんと制服の一番上のボタンまで留める真面目なタイプ。
けれど、俺が声を掛けたことに気がつくと、気の良さそうな笑みを浮かべた玲二は、とても気さくで付き合いやすいヤツに映った。
もちろん、今でもそれは変わらない。-少なくとも、俺にとっては。
「斎藤?玲二?」
「玲二で良いよ」
「俺も、弘樹で」
「分かった」
玄関で自分の教室はどこか名前を確認する時、近しい友人の名前もチェックするものだろう、大体は。
俺も例に違わず、そして、去年仲が良かった連中は違うクラスであることも既に分かっていた。
もちろん、そのことを差し引いたって、きっと玲二とはつるんでいて楽しいだろう。
けれど、話す相手に困らなくなったことに、安堵を覚えていたことも確かだった。
「弘樹ってさ」
「ん?なに?」
簡単な自己紹介も済んで、俺もスポーツバッグから、筆記用具やら必要なものを取り出していた時、玲二から声が掛けられた。
「モテるでしょ」
「は???」
何故そんな質問をされたのか分からず、思わず瞬きを繰り返すと、玲二は整った顔立ちで綺麗に笑った。
「女の子たちが色めき立ってる」
「…なんだよそれ」
「彼女いるの?」
出会って早々、突っ込んだ質問に若干嘆息しつつ首を横に振る。
「別れた」
「ふーん」
「ふーん、って。第一、興味あるのはお前の方なんじゃねーの?」
すると、今度文字通り目をぱちくりとさせたのは玲二の方であった。
「…何が?」
「モテるのは玲二の方って話」
俺の言葉を理解するのに、たっぷり数秒を要した後、玲二は「違うでしょ」とからりと笑った。
「どうして言い切れるんだよ」
何故、出会って間もない相手に、少し行き過ぎではないかというくらい、突っかかった問答をしているのか、とか、自分が苛ついているほどでもないが、不機嫌さをあらわにしているか、とか、自分でもよく分かりはしなかったが、どうしてだか左隣に座る男は、それを許させることは間違いなかった。
「俺、姉ちゃん多いし、ちょっと苦手なんだよね」
「…へー」
どこか的外れな回答ではあったが、あまり踏み込まない方が良い気がした。
「外見で判断されるの苦手、っていうか」
「…自覚あるのか」
「え?」
またもや小動物のような様相できょとんとされては、こちらが困る。
「あ、ああ。そういう意味じゃなくて。
中身で判断して欲しいな、って」
ヘラリとけれど眉尻を下げて笑う玲二は、この時何を思っていたのだろうか。
勿体無い、だとか、可愛い子は好きじゃないのか、だとかいう言葉は飲み込んで
「そうかもな」
不思議と口から出た言葉は、それだった。
「俺、田中弘樹。よろしくな。」
出会いはどこにでもよくある話。
出席順に座席が並べられた時、偶然席が隣だったからだ。
そして俺が教室に着いた時、既に玲二は学生鞄をフックにかけ、手持ち無沙汰にしていたことも大いに関係がある。
「斎藤玲二。よろしく」
黒髪に、きちんと制服の一番上のボタンまで留める真面目なタイプ。
けれど、俺が声を掛けたことに気がつくと、気の良さそうな笑みを浮かべた玲二は、とても気さくで付き合いやすいヤツに映った。
もちろん、今でもそれは変わらない。-少なくとも、俺にとっては。
「斎藤?玲二?」
「玲二で良いよ」
「俺も、弘樹で」
「分かった」
玄関で自分の教室はどこか名前を確認する時、近しい友人の名前もチェックするものだろう、大体は。
俺も例に違わず、そして、去年仲が良かった連中は違うクラスであることも既に分かっていた。
もちろん、そのことを差し引いたって、きっと玲二とはつるんでいて楽しいだろう。
けれど、話す相手に困らなくなったことに、安堵を覚えていたことも確かだった。
「弘樹ってさ」
「ん?なに?」
簡単な自己紹介も済んで、俺もスポーツバッグから、筆記用具やら必要なものを取り出していた時、玲二から声が掛けられた。
「モテるでしょ」
「は???」
何故そんな質問をされたのか分からず、思わず瞬きを繰り返すと、玲二は整った顔立ちで綺麗に笑った。
「女の子たちが色めき立ってる」
「…なんだよそれ」
「彼女いるの?」
出会って早々、突っ込んだ質問に若干嘆息しつつ首を横に振る。
「別れた」
「ふーん」
「ふーん、って。第一、興味あるのはお前の方なんじゃねーの?」
すると、今度文字通り目をぱちくりとさせたのは玲二の方であった。
「…何が?」
「モテるのは玲二の方って話」
俺の言葉を理解するのに、たっぷり数秒を要した後、玲二は「違うでしょ」とからりと笑った。
「どうして言い切れるんだよ」
何故、出会って間もない相手に、少し行き過ぎではないかというくらい、突っかかった問答をしているのか、とか、自分が苛ついているほどでもないが、不機嫌さをあらわにしているか、とか、自分でもよく分かりはしなかったが、どうしてだか左隣に座る男は、それを許させることは間違いなかった。
「俺、姉ちゃん多いし、ちょっと苦手なんだよね」
「…へー」
どこか的外れな回答ではあったが、あまり踏み込まない方が良い気がした。
「外見で判断されるの苦手、っていうか」
「…自覚あるのか」
「え?」
またもや小動物のような様相できょとんとされては、こちらが困る。
「あ、ああ。そういう意味じゃなくて。
中身で判断して欲しいな、って」
ヘラリとけれど眉尻を下げて笑う玲二は、この時何を思っていたのだろうか。
勿体無い、だとか、可愛い子は好きじゃないのか、だとかいう言葉は飲み込んで
「そうかもな」
不思議と口から出た言葉は、それだった。
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