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Snow day
Side Touya
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---Side 冬弥---
「はぁ…さっっっみ…!!!」
思わず漏れた盛大なため息の後、代わりに肺へ入り込む空気の冷たさに身震いがした。
入れ替わっても尚、余程外気温が低いのか、呼吸をするたび吐く息は白く、視界を霞ませる。
最寄りの駅に帰って来れたのは、いつもよりずっと遅い時間のことだった。
今朝の天気予報で雪が降ると言ってはいたものの、「雪で出社できません」が通用するほど、うちの会社と上司は優しくはなかった。
いや、たまりにたまった有給休暇をここぞとばかりに消化できるほど、強くはない己の精神を嘆くべきなのか。
とにかく、新人の頃に鍛えられた、果たして無理をしなければならない時以外、役に立った試しがない営業魂を見せて、なんとかいつもと違う電車を乗り継いで出社をしたまでは良かった。
勤務時間も、日々の業務をこなしていればいつのまにか過ぎていく。
納得がいかないのは、雪がこんもり降り積もった後の、定時一時間前。
発令された「帰宅命令」で、帰宅せざるを得なくなったことだ。
どうせなら、いっそのこと残業させてもらうだとか、ホテルに泊まった方がマシだったかもしれない。
有無を言わさない会社の雰囲気に渋々会社を出たはしたものの、しんしんと降る雪に俺は、「帰るか…」と独りごちるだけだった。
ザクザク、と雪を鳴らす。
歩道の真ん中とそれから車道は、粗方人が通った後なのか、若干凍りかけていた。
お早いお帰りでよろしいですね、と内心悪態をつく。
滑らないよう、少し固くなりかけた、まだ誰も歩いたことのない道を、踏みしめるように俺は帰路を辿っていた。
白い息と、それから電車の走る音が聞こえる。
「俺も…辞め時…かね…」
漏れた声は、ここ数年ずっと心にはあって、何度も何度も頭よぎるけれど、実行するに至っていない事柄だった。
また一人、また一人と辞めていく。
五人いた同期も、もう俺だけだ。
「営業は続かない」、言い訳なのか、それとも呪縛なのか、けれど、タイミングを伺っては逃した俺にとって、続けていられることが支えなのかもしれない。
「明日…行きたく…ねぇー…」
もういい加減許してはくれないだろうか。
この明日には酷く悪化している道を再び歩いて、むざむざ傷つく環境に足を運ぶことを当たり前にするのも違うような気がした。
俺は、これでもまだ28だ。
やりたいことも、やってないことも、まだまだ沢山ある。
仕事だけが人生ではない、はず、だ。
本当に休んでやろうか、と考えたその時だった。
「あっ…」
気づけば、家の近くのコンビニまで戻って来れていたらしい。
安っぽい灯りでさえどこかあたたかく感じるなんて、よっぽど冷え切っている。
「…おでんでも買って帰るか」
思えば、夕飯も食べてはいなかった。
決まりだ決まり、と、コンビニへ足を向けた時、その場所から出てくるその人が何故か視界に入った。
「はぁ…さっっっみ…!!!」
思わず漏れた盛大なため息の後、代わりに肺へ入り込む空気の冷たさに身震いがした。
入れ替わっても尚、余程外気温が低いのか、呼吸をするたび吐く息は白く、視界を霞ませる。
最寄りの駅に帰って来れたのは、いつもよりずっと遅い時間のことだった。
今朝の天気予報で雪が降ると言ってはいたものの、「雪で出社できません」が通用するほど、うちの会社と上司は優しくはなかった。
いや、たまりにたまった有給休暇をここぞとばかりに消化できるほど、強くはない己の精神を嘆くべきなのか。
とにかく、新人の頃に鍛えられた、果たして無理をしなければならない時以外、役に立った試しがない営業魂を見せて、なんとかいつもと違う電車を乗り継いで出社をしたまでは良かった。
勤務時間も、日々の業務をこなしていればいつのまにか過ぎていく。
納得がいかないのは、雪がこんもり降り積もった後の、定時一時間前。
発令された「帰宅命令」で、帰宅せざるを得なくなったことだ。
どうせなら、いっそのこと残業させてもらうだとか、ホテルに泊まった方がマシだったかもしれない。
有無を言わさない会社の雰囲気に渋々会社を出たはしたものの、しんしんと降る雪に俺は、「帰るか…」と独りごちるだけだった。
ザクザク、と雪を鳴らす。
歩道の真ん中とそれから車道は、粗方人が通った後なのか、若干凍りかけていた。
お早いお帰りでよろしいですね、と内心悪態をつく。
滑らないよう、少し固くなりかけた、まだ誰も歩いたことのない道を、踏みしめるように俺は帰路を辿っていた。
白い息と、それから電車の走る音が聞こえる。
「俺も…辞め時…かね…」
漏れた声は、ここ数年ずっと心にはあって、何度も何度も頭よぎるけれど、実行するに至っていない事柄だった。
また一人、また一人と辞めていく。
五人いた同期も、もう俺だけだ。
「営業は続かない」、言い訳なのか、それとも呪縛なのか、けれど、タイミングを伺っては逃した俺にとって、続けていられることが支えなのかもしれない。
「明日…行きたく…ねぇー…」
もういい加減許してはくれないだろうか。
この明日には酷く悪化している道を再び歩いて、むざむざ傷つく環境に足を運ぶことを当たり前にするのも違うような気がした。
俺は、これでもまだ28だ。
やりたいことも、やってないことも、まだまだ沢山ある。
仕事だけが人生ではない、はず、だ。
本当に休んでやろうか、と考えたその時だった。
「あっ…」
気づけば、家の近くのコンビニまで戻って来れていたらしい。
安っぽい灯りでさえどこかあたたかく感じるなんて、よっぽど冷え切っている。
「…おでんでも買って帰るか」
思えば、夕飯も食べてはいなかった。
決まりだ決まり、と、コンビニへ足を向けた時、その場所から出てくるその人が何故か視界に入った。
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