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第二章 少年期編

クセつよダンジョン

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 白い閃光に塗りつぶされた空間。

 ルカは身体の前で腕を交差し、その後に襲ってくるだろう衝撃に備えていた。

「……………」

 しかしながら、なぜかそれは一向に来ない。

 あんな演出をしながら不発だったのか。

 何かがおかしいと思ったルカは、そっと左目だけを開けて周囲の様子を伺った。

「パンパカパパパパ~~~~ン!!!」

 そしてその行動を見計らっていたかのように、けたたましい音を上げる玉。

 予想外の展開に、ぱちぱちと目を瞬かせて成り行きを見守ることしかできないルカ。

 そうしている間にもみるみるうちに玉は変化を見せ、その表面に一条の切れ目が入っていく。

「「あ……………」」

 同じように横で成り行きを見ていたルドルフも思わず声を漏らす。

 ぱかっ!

 唖然としている二人を嘲笑うかのように、気の抜けたような音を出しながらつい割れてしまう玉。

 その直下にいたルゥに何かが降りかかるが、ルカもルドルフもその成り行きを見守ることしかできない。

「わ!わぷっ!」
「ル、ルゥ!」

 それをぼーっと見ていた彼女はようやく自分がどんな状況にあるか理解したように立ちあがろうとしたが、それよりも先に次々と舞い落ちてくる落下物の中に飲み込まれていく。

「ルゥ!ちょっと、こんなところで…」

 焦ったルカは彼女のところまで近付き、救出しようと手を伸ばす。

「ぶはぁ!!!」

 しかしその手が彼女に届く前に、その落下物の山の天辺から噴火するように勢いよくルゥの頭が出でくると、何事もなかったようにルカに笑いかけた。

「何か全然大丈夫みたいっす」

 終始ハラハラとさせられたルゥの、屈託のない笑顔を見て本当に力が抜けてしまったルカは、長いため息と呆れた視線を彼女に寄こしながら、地面にへたりと座り込んだ。


 ◇


「で、いつの間にか手に持っていたのがこれと」
「はいっす」

 結局のところさっきの大袈裟な演出は何だったのかと。

 それは簡潔に説明するなら、巨大なくす玉だった。

 なぜ異世界のダンジョンにそんなものが。

 そう疑問が湧き上がってくるが、事実目の前にあるのだから仕方ない。

 このダンジョンを作った主がルカのような転生者から話を聞いたか、それともこのダンジョンのが異世界人か。

「ルドルフ、これってどう見ても指輪だよね?」
「はい、一旦街で鑑定してもらう必要はありますが、ステータスアップを意図した指輪でしょう」

 ルドルフの評価を聞きながら、へぇ~と指輪を興味深げに見るルゥ。

 その表面は弱い銀色の光を放っており、いかにも高級そうな見た目だった。

「あ、でも、鑑定だったら僕のでも分かるかな」

 そういってルゥの前に手のひらを出すルカ。

「良い物だったら、ルカっちが使うっすか?」

 腕の中に抱えるようにしながら指輪を持つルウの表情は、気に入ったオモチャを取られまいとする子供のようだった。

 その様子に思わず笑いそうになったルカだったが、ニコリと安心させるような笑みに切り替えると、ルゥの持つ指輪にそっと触れた。

「鑑定」
「あ………」

 名前:はやぶさの指輪
 効果:敏捷性が向上する
 呪い:なし

 どうやら当たりのようだ。

 ルカがその結果を読み取るために黙ってしまうと、その様子をルゥが心配そうに見ていた。

「ごめん、ごめん。大丈夫だよ。当たりだ。敏捷性が上がるらしいからルゥがつけなよ」
「本当っすか!?」

 飛び上がるほどに喜びを表しながら、ルカに確認を取るルゥ。

 横でそのやりとりを見ていたルドルフも口を挟むようにルカに尋ねた。

「良いのですか?」
「いいよ。ルゥが持っていた方が役割的にも良いだろうしね」
「やった!」

 小さくガッツポーズまでするルゥ。

 よほど嬉しかったようだ。

「それにしても宝箱の罠一つでこんなことまで用意されてるなんてね」
「そうですね。こんな手の混んだというか、よくわからない罠は初めてです」

 ルカとしてはダンジョンの罠全般がこんな感じかと思って振った疑問だったが、どうやらそうでは無いらしい。

「ルゥを見つけたのも良いとして、どうやってぇかぇるぅぅぅぅぅ」

『どうやって帰る?』

 そう言おうとしたルカの言葉が、途中でスローモーションで時が引き延ばされたように、変な口調になる。

 それは、この空間に転移させられたのと同じように。

 突如として空中に現れた黒い渦に、ルカがすぽんっ!と吸い込まれたのだ。

 そして程なくルドルフ、ルゥも同じ道を辿る。

 その有無を言わさない唐突な出来事に、三人ともなす術なく身を委ねるしかなかった。


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