57 / 58
【第二章 第一部】
◇ピピとマジロ②(ピピ視点)
しおりを挟む「有働さんに一つお願いしてもいいかな?」
「は、はい。何でしょう」
休み明けの木曜日、今日も天気がよく気温も上がった。お出かけ日和って感じだ。まぁ、仕事なんだけど。
「今度、寺島さんが入居するオレンジハイツの205号室、そこの写真を撮ってきてほしいの」
手渡されたのは小型のデジタルカメラ。
「入居前に写真を撮っておくと、退去する時にここの傷は入居時からあったのか、それとも入居者さんがつけたのかっていうのが分かる証拠になるから、撮っておくようにしているの。ついでにちょっとだけお掃除もしてもらえると嬉しいな」
「わ、分かりました。じゃあ、行ってきます。えっと、鍵棚の鍵ください」
「鍵はもう用意してるよ。これね。そうそう、この前連絡して通電もしてあるから、電球が点くかも確認してね。エアコンもそれこそ残置物があるから、それが動くかも見てほしい」
思ったより指示が多くて少し焦り始める私。そんな私の焦りを予想していたのか建原係長がある紙を渡してきた。
「これ、チェックシート。タイトルには退去時ってあるけど、入居前に確認することもほとんど一緒だから使って。そうそう、水道の元栓は開けられる?」
「あ、それは前に社長と物件を見て回った時に教わったから大丈夫」
「そっか。じゃあ洗濯機につなげる蛇口から水がちゃんと出るか見て欲しいから、バケツか何かを持っていくようにお願いね」
「了解しました。そのお水はトイレのタンクに入れて流してあげればいいですか?」
私の質問に満足そうにうなずく建原係長。ひとまず必要な荷物を全部シグネットに積んでから、地図を用意する。オレンジハイツ南町は空の宮市南町775-3か。
「行ってきまーす」
シグネットはぱっと見とても小さい車だけど、普通車なので私が乗っている軽自動車よりは横幅がある。安全運転を心がけつつ進む。幸い、分かりやすくて道幅も十分な道を選んでいくことができたし、駐車場も205号室用に番号が振られているので迷うことなく到着できた。
「まずは玄関からっと」
写真の撮り方は専務に教わった。画面にグリッドと呼ばれる縦横の線が表示されているから、それを見つつちゃんと水平垂直がとれているかを確認して写真を撮る。斜めになっていると部屋の広さがちゃんと伝わらなかったり、部屋が歪んでいるように見えてしまうからだ。
オレンジハイツは外壁こそオレンジで派手な印象だけど、中に入ってみれば普通の2DKアパートだ。入ってすぐがダイニングキッチンだ。シンクや棚の写真を撮る前に……玄関上のブレーカーを上げる。アンペア数は40と、これをメモしておく。
部屋の間取りは感じの”田”みたいになっており、DK、水回り、個室、個室となっている。田の字プランという間取りは日本の賃貸住宅によくあるフォーマットらしい。
「クロスよし、幅木よし、天井も綺麗、照明もつくし、エアコンも動く、網戸も……掃除すればOKだね」
居室は綺麗か、水回りに漏れはないか、チェックシートに記入しつつ写真を撮る。ひとしきり撮影したら、網戸の掃除を始める。これも専務から教わったが、掃除をするならその前後で写真をとることが必要らしい。確かにビフォーアフターの写真があれば、どれだけ綺麗になったかもわかるというものだ。
せっかくの引っ越し先、すがすがしい気持ちで入居してもらいたいと思って、心を込めて掃除するのだった。
「は、はい。何でしょう」
休み明けの木曜日、今日も天気がよく気温も上がった。お出かけ日和って感じだ。まぁ、仕事なんだけど。
「今度、寺島さんが入居するオレンジハイツの205号室、そこの写真を撮ってきてほしいの」
手渡されたのは小型のデジタルカメラ。
「入居前に写真を撮っておくと、退去する時にここの傷は入居時からあったのか、それとも入居者さんがつけたのかっていうのが分かる証拠になるから、撮っておくようにしているの。ついでにちょっとだけお掃除もしてもらえると嬉しいな」
「わ、分かりました。じゃあ、行ってきます。えっと、鍵棚の鍵ください」
「鍵はもう用意してるよ。これね。そうそう、この前連絡して通電もしてあるから、電球が点くかも確認してね。エアコンもそれこそ残置物があるから、それが動くかも見てほしい」
思ったより指示が多くて少し焦り始める私。そんな私の焦りを予想していたのか建原係長がある紙を渡してきた。
「これ、チェックシート。タイトルには退去時ってあるけど、入居前に確認することもほとんど一緒だから使って。そうそう、水道の元栓は開けられる?」
「あ、それは前に社長と物件を見て回った時に教わったから大丈夫」
「そっか。じゃあ洗濯機につなげる蛇口から水がちゃんと出るか見て欲しいから、バケツか何かを持っていくようにお願いね」
「了解しました。そのお水はトイレのタンクに入れて流してあげればいいですか?」
私の質問に満足そうにうなずく建原係長。ひとまず必要な荷物を全部シグネットに積んでから、地図を用意する。オレンジハイツ南町は空の宮市南町775-3か。
「行ってきまーす」
シグネットはぱっと見とても小さい車だけど、普通車なので私が乗っている軽自動車よりは横幅がある。安全運転を心がけつつ進む。幸い、分かりやすくて道幅も十分な道を選んでいくことができたし、駐車場も205号室用に番号が振られているので迷うことなく到着できた。
「まずは玄関からっと」
写真の撮り方は専務に教わった。画面にグリッドと呼ばれる縦横の線が表示されているから、それを見つつちゃんと水平垂直がとれているかを確認して写真を撮る。斜めになっていると部屋の広さがちゃんと伝わらなかったり、部屋が歪んでいるように見えてしまうからだ。
オレンジハイツは外壁こそオレンジで派手な印象だけど、中に入ってみれば普通の2DKアパートだ。入ってすぐがダイニングキッチンだ。シンクや棚の写真を撮る前に……玄関上のブレーカーを上げる。アンペア数は40と、これをメモしておく。
部屋の間取りは感じの”田”みたいになっており、DK、水回り、個室、個室となっている。田の字プランという間取りは日本の賃貸住宅によくあるフォーマットらしい。
「クロスよし、幅木よし、天井も綺麗、照明もつくし、エアコンも動く、網戸も……掃除すればOKだね」
居室は綺麗か、水回りに漏れはないか、チェックシートに記入しつつ写真を撮る。ひとしきり撮影したら、網戸の掃除を始める。これも専務から教わったが、掃除をするならその前後で写真をとることが必要らしい。確かにビフォーアフターの写真があれば、どれだけ綺麗になったかもわかるというものだ。
せっかくの引っ越し先、すがすがしい気持ちで入居してもらいたいと思って、心を込めて掃除するのだった。
0
お気に入りに追加
2,237
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる