解雇(クビ)にされた細工師が自分の価値を知る【リ】スタート冒険者生活~ちまたで噂されてる伝説の職人の正体は、どうも俺らしい~

安野 吽

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【第二章 第一部】

第四話 賢金(セジェル)と霊刀

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「有働さんに一つお願いしてもいいかな?」
「は、はい。何でしょう」

 休み明けの木曜日、今日も天気がよく気温も上がった。お出かけ日和って感じだ。まぁ、仕事なんだけど。

「今度、寺島さんが入居するオレンジハイツの205号室、そこの写真を撮ってきてほしいの」

 手渡されたのは小型のデジタルカメラ。

「入居前に写真を撮っておくと、退去する時にここの傷は入居時からあったのか、それとも入居者さんがつけたのかっていうのが分かる証拠になるから、撮っておくようにしているの。ついでにちょっとだけお掃除もしてもらえると嬉しいな」
「わ、分かりました。じゃあ、行ってきます。えっと、鍵棚の鍵ください」
「鍵はもう用意してるよ。これね。そうそう、この前連絡して通電もしてあるから、電球が点くかも確認してね。エアコンもそれこそ残置物があるから、それが動くかも見てほしい」

 思ったより指示が多くて少し焦り始める私。そんな私の焦りを予想していたのか建原係長がある紙を渡してきた。

「これ、チェックシート。タイトルには退去時ってあるけど、入居前に確認することもほとんど一緒だから使って。そうそう、水道の元栓は開けられる?」
「あ、それは前に社長と物件を見て回った時に教わったから大丈夫」
「そっか。じゃあ洗濯機につなげる蛇口から水がちゃんと出るか見て欲しいから、バケツか何かを持っていくようにお願いね」
「了解しました。そのお水はトイレのタンクに入れて流してあげればいいですか?」

 私の質問に満足そうにうなずく建原係長。ひとまず必要な荷物を全部シグネットに積んでから、地図を用意する。オレンジハイツ南町は空の宮市南町775-3か。

「行ってきまーす」

 シグネットはぱっと見とても小さい車だけど、普通車なので私が乗っている軽自動車よりは横幅がある。安全運転を心がけつつ進む。幸い、分かりやすくて道幅も十分な道を選んでいくことができたし、駐車場も205号室用に番号が振られているので迷うことなく到着できた。

「まずは玄関からっと」

 写真の撮り方は専務に教わった。画面にグリッドと呼ばれる縦横の線が表示されているから、それを見つつちゃんと水平垂直がとれているかを確認して写真を撮る。斜めになっていると部屋の広さがちゃんと伝わらなかったり、部屋が歪んでいるように見えてしまうからだ。
 オレンジハイツは外壁こそオレンジで派手な印象だけど、中に入ってみれば普通の2DKアパートだ。入ってすぐがダイニングキッチンだ。シンクや棚の写真を撮る前に……玄関上のブレーカーを上げる。アンペア数は40と、これをメモしておく。
 部屋の間取りは感じの”田”みたいになっており、DK、水回り、個室、個室となっている。田の字プランという間取りは日本の賃貸住宅によくあるフォーマットらしい。

「クロスよし、幅木よし、天井も綺麗、照明もつくし、エアコンも動く、網戸も……掃除すればOKだね」

 居室は綺麗か、水回りに漏れはないか、チェックシートに記入しつつ写真を撮る。ひとしきり撮影したら、網戸の掃除を始める。これも専務から教わったが、掃除をするならその前後で写真をとることが必要らしい。確かにビフォーアフターの写真があれば、どれだけ綺麗になったかもわかるというものだ。
 せっかくの引っ越し先、すがすがしい気持ちで入居してもらいたいと思って、心を込めて掃除するのだった。
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