解雇(クビ)にされた細工師が自分の価値を知る【リ】スタート冒険者生活~ちまたで噂されてる伝説の職人の正体は、どうも俺らしい~

安野 吽

文字の大きさ
上 下
10 / 58
【第一章】

第九話 クレイン洞窟巡回討伐

しおりを挟む
 俺達は今日は、街の郊外へと出てきている。
 チロルとリュカを連れて、パーティーとして初めての実戦に挑むのだ。

 受けたクエストは、少し時間がかかる大きめのもの。

 【D:クレイン洞窟にて魔物巡回討伐 報酬:2金貨】

 今回は小洞窟内の、定期的な魔物の討伐だ。

 人の足があまり入らない場所には、魔力の溜まりが出来る事があり、それが魔物の発生源になると言われている。そうして現れた魔物達が、あちこちに散って行き人に害を為したりするので、定期的に駆除することが必要になる。

 出現する魔物の種類は大体場所によって決まっており、ここで以前確認されたのはコボルトだけだ。ゴブリンと同程度の魔物なので、さして戦闘に問題は無いだろう。

 物陰からの襲撃には注意しつつ、松明をつけながら慎重に内部を進んでゆく。
 すると、早速数体がこちらに向かってくる足音がした。

「あ、あにき……どうする?」
「落ち着いていこう。予定通り、リュカは前に出て牽制《けんせい》。チロルはこないだ練習した《ファイアアロー》を中心に、隙があったら魔法を打ち込んで行け。俺はチロルを守りながら、様子を見て攻撃するから危なくなったらこっちに避難して来い」
「おっけー」「わかったのです」

 さくさくと、鳴っていた足音の感覚が狭まってきた。灯りでこちらの存在に気づいたのだろう。

 通路の影から姿が見えた瞬間、リュカが飛び出す。

「一匹目っ!」
「ギョワァッ!」

 肉を切り裂く鈍い音。
 獣のような素早さで、先手必勝とばかりに閃かせた短刀が喉の当たりを切り裂き、犬の頭を持った魔物は悲鳴を上げて倒れた。

「わっとと……」

 だが、後続が三体程短い棍棒を手に押し寄せ、慌ててリュカは後ろに下がる。

「《ファイアアロー》!」
「ギャン!」

 そこに響いたのはチロルの詠唱だ。炎の細い矢が鋭い軌道を描き、一匹のコボルトの胴体に突き刺さって燃え上がった。

 《ファイアボール》は威力が高いが魔力の消費量も多く、小爆発を起こす為狭い場所だと仲間に危険を及ぼす……なので場所を見極めて使うように教えた。アローの方なら命中面積が少なく、安全だ。

 今現在チロルが《スキル》により覚えている技能は以下の三つ。

《魔法技術:火炎系統スキル・獲得技能》

(1 )ファイアアロー
(5 )杖装備時魔力補正
(10)ファイアボール

 杖装備時魔力補正については……例えそこら辺の木の棒でも装備しておけば確かに魔力は上がるのだが、魔力を調節する感覚を身につけてからでも遅くはないだろうと思い、まだ使わないように勧めている。いずれ長く使い続けられるものを探してあげたい。

 ターゲットに照準をつける感覚の方は元々悪くはない。着実に魔力コントロールの訓練の成果は出ているし、この分ならリュカと良いコンビになりそうだ。

「よっ……と」

 俺もただ突っ立っていたわけではない。
 二体でリュカに襲い掛かろうとしてきた内の一体の方に、俺が投げた小石が命中する。その間に、リュカがもう一体の棍棒をかわし、背中に刃を埋める。

 当てた小石で蹲《うずくま》っていたもう一体も、チロルの《ファイアアロー》が命中し……四体のコボルトはあっという間に灰になった。

 俺は二人に親指を上げて笑う。

「二人ともよくやった……初戦闘にしてはいい感じだったぞ」
「……ふぅ、やったよあにき、チロル! いぇーいっ!」
「でも油断はするなよ。倒したと思った時が一番危ないんだからな」

 ピースサインを突き出すリュカを小突いて小言をいいながら、俺達は灰の中のアイテムを拾ってゆく。すると彼女が倒した最初の一体の灰の山に、光るものがあった。

「おっ、《コボルト・アイ》じゃん。幸先いいな……良かったな、リュカ」
「なんなのそれ?」
「レアドロップってやつだな。たまにコボルトが落とす、黒いクラックが入った瑪瑙《めのう》のことだ。相場で言えば、金貨十枚位はいくかな」
「そんなに! でも、これはパーティーのだから、おいらが貰うわけにはいかないよ」

 三人で話し合って報酬は等分する様に決めているが、他二人の同意があればその限りではない。

「チロル、どうする? ちょっともったいないけど、売っちまって等分するか?」
「……う~んと、わたしはリュカちゃんがもっていて構わないのですが……あっ」

 彼女は何かに気づいたように自分の左腕を掲げた。

「テイルさんさえ良かったら、その……わたしに作ってくれたみたいにリュカちゃんにも何か作ってあげて欲しいのです!」

 それを聞いて、俺はニヤリと笑った。

「いいかもな。俺に任せてくれれば、なんか役立ちそうなアイテムに変えてやるけど、どうだリュカ」
「本当!? やたっ、すごくうれしい! ぜひお願いする!」

 するとリュカは飛び跳ねながら俺に抱きついて来た。
 随分喜んでいるので悪い気はしないし、俺もこれが本業だから腕が鳴る。
 
「よし、帰ったらなんか作ってやろうな! そんじゃ引き続き討伐頑張ろうぜ!」
「「お~!」」
 
 こうして俺達は更にコボルトを探して、洞窟の奥に潜って行った。



 いくつかの分岐点を慎重に見回り、地図と照らし合わせながら洞窟を周り、大体二時間くらいで俺達は最奥にたどり着いた。だが……。

「やっちゃう?」
「っと……待った。あいつ……」

 物陰から出ようとしたリュカの肩ををつかみ、こちらに戻す。

「コボルトじゃないの?」
「ただのコボルトじゃないな……。コボルトシャーマンか」

 手前三体の奥にいる、背の高くほっそりとした一体は、頭に毛編みの帽子をかぶり、節くれだった杖を持っている。

 コボルトシャーマン――Cランク。

ここに出るという情報は無かったが、こういったイレギュラーな事は依頼にはつきものだ。低ランクの冒険者だと苦戦していただろうから、俺達で丁度よかった。

「あいつは土属性の魔法を使うんだ……どうするかな」

 俺だけが単独で突破するなら何も問題ないが、ここは二人にもなるべく経験を積んでもらいたい。どういう方法で戦うか、俺が少し考え込んでいた時だった。

 後ろで、枯れ木が転がったような乾いた音がしてリュカが振り返る。

「なんだろ、おいら見てくる」

 それを確認しようとリュカが後ろに走っていく。

 ……嫌な予感がした。

「待てっ、リュカ!」
「……きゃぁぁぁぁっ!」
 
 小さく叫ぶが間に合わない。
 湿った土がせり上がる、くぐもった音と共に俺達と彼女との間をいきなり分厚い土の壁が塞ぐ。そして――。

「お、おまえら、なんで……むぐっ!」
「大人しくしやがれ!」
「――!?」

 その奥から響く声に俺達は驚く。

「がはははははっ! 残念だったな元A級冒険者……そのまま洞窟の奥で飢え死にしやがれ! このチビは奴隷商にでも売り飛ばしてやる!」

 閉じ切る前の土壁の奥から聞こえてきたその笑い声は、先日叩きのめした――ジェンドだかなんだかのものに違いなかった。

 間の悪い事に、コボルトシャーマン達もそれに気づき、手下を引きつれこちらへと駆け寄って来る。

「ワウ、ワワワ!」「ギャワォ!」
「テイルさん、どうすれば!」
「すぐに片付けてあいつらを追う! チロルは手下を相手しろ!」

 まずは、奇妙な言語で詠唱を開始しているシャーマンから片付ける――そう判断した俺は足元の砂利を蹴って、コボルト達の集団の中へ飛び込んで行った。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...