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番外編

かわいいおまえ1

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 魔王の周囲に置かれる調度品は、基本的に俺より一回り以上大きい。
 単純に俺が魔王にしては――不本意ながら――小柄な事情だったり、誰よりも立派な品を王に使ってもらいたいという魔族の忠誠心の現れだったりする。

 特に机や椅子は、悠然と身を構えてなお余りある大きさのものばかりだ。執務室のソファなんて、俺と旭陽が寝転がっても何ら支障を来たさない大きさだもんな。
 あそこでヤる頻度も結構高……い、いや。わざわざ自分で自分を煽る真似は止めとこう。

 ともかく、身を縮めなければ腰掛けられない椅子なんて見たことがなかった。今までは。

「……旭陽?」
「あ?」

 すらりとした素足がはみ出しているのを凝視しながら声を掛ければ、薄らと瞼が持ち上がる。
 眠っていたのかと思えば眠気は全くない黄金が、悪戯な笑みを浮かべて俺を見上げた。

「どっから出してきたんだ、それ……」
「作らせた。ンだよ、もっと嬉しそうな顔しねえの?」
 脚の指まで整った褐色が、ゆらゆらと楽しげに揺れて俺を誘ってくる。

 旭陽の体よりほんの少し大きい程度の、横を向いて腰掛ければぎゅうぎゅうになってしまう椅子に、逞しい体躯を押し込めるようにして旭陽が身を預けていた。
 斜めになっている体は別に無理してる風じゃないけど、いつも全身を自由に投げ出している姿ばかり見ているから何だか少し苦しそうに見えてしまう。

 なんか、落ち着かない。
 そわそわする。
 なのに嬉しそうな顔ってどういう意味だ?

「おれがちょっと苦しそうなの、おまえ好きだろ」
「…………っそ、……!」

 何を言われているのか一瞬分からなくて、そわついていた頭が瞬間的に停止した。
 数秒噛み締めて、意味を理解するなり一気に顔に熱が集まる。

 そ、それはベッドでの話だろ……!?
 いやベッド以外でもヤってるけど、でもヤってる最中の話であって! お前に本気で苦しんで欲しいなんて思ってないぞ!?

「おまえ以外の手から本当に苦痛を浴びてりゃ、怒りが勝って欲情なんざする隙間ねえだろうけど。でも『そう見える』だけで普通にしてるおれには興奮すっだろ、晃」

 長い足が伸びてきて、顎の下をついと擽られる。
 い、言い返せない……今触れられた瞬間、すげえ背筋ぞわぞわした……

「……俺が好きそうだからわざわざ作らせたのか、旭陽」
「あー。興味本位?」

 悪戯な足がつつと服の上から俺の体を伝い落ちていく。
 胸元を通り過ぎて行こうとする脚を下から受け止めれば、擽ったそうに黄金が細まった。
 ゆっくりと長い片脚を持ち上げて、つるりとした踝に唇を押し付ける。

「っん……」

 くっと顎が持ち上がって、甘い吐息が零れた。
 興味本位。
 気紛れな男にはこの上もなく似合う言葉だけど、それなら眠くないのに俺が探しにくるまで目を閉じてる必要はなかっただろ。

 俺に、見せる為。
 だったことくらいは、幾ら鈍い鈍いっていつも笑われてる俺にだって理解できる。

「……あーもう!」
「ンだよ、あきら」

 うずうずする胸を押さえきれず、声を上げて逞しい体へ飛び付くように抱き締めた。
 軽々と受け止めた旭陽が、可笑しそうに喉を鳴らしながら髪を軽く掴んでくる。

 ゆっくりと髪に指が通され滑っていく感触に、うっとりと目が細まった。
 別に旭陽は撫でてるつもりなんてないだろうけど。初対面の時から変わらない手つきに、俺は何があっても何度でも、胸の深い場所が蕩けてしまう。

「変わんねえなあ、あきらぁ」

 くつくつと喉を震わせながら、御機嫌な男がさぞ惚けているであろう俺に甘い声を降らせてくる。
 変わらないってことは、やっぱり昔っから俺が旭陽にこうやって髪を梳かれる度うっとりしてたのはバレバレだったんだな。
 今と違って、一応昔は我慢してたつもりだったんだけど。
 人心なんて何処までも見通す男に俺の感情が隠せるとは思ってないけどな、そりゃ。

「――旭陽」
「あ?」

 広い胸板に押し付けていた顔を少しだけ離し、上目に見上げてみる。
 その辺に向いているかと思っていた黄金は、案外何処も向かずに俺をじっと見下ろしていた。
 視線が合えば、ふっと鋭い眼光を緩めていつもの皮肉げな笑みを向けてくれる。

「~~ッ旭陽!」
「っ……んだよ、晃。いつもよりはしゃいでんじゃねえか」

 胸のウズウズが膨らんで、既に抱き締めているのにその上から更に身を押し付けてしまう。
 一瞬微かに息を呑んだ男が、すぐに可笑しそうな吐息とともに腕を回し返してくれた。

 今驚いてたな、旭陽。うぜえって殴られても仕方なかったと思うけど、抱き返してくれるのか。
 怒られないってことは、旭陽もこうされたかったってことだ。
 やばい。俺今すっごくにやけてる気がする。

「旭陽、あさひ」
「ん……っ擽、ってえ……」

 顔だけ上げて、届く範囲の素肌に唇を落としていく。
 褐色にキスを落とす度、大柄な体躯がピクピクと揺れた。

 微笑っていた眦が眇められて、じわじわと熱に潤んでいく。
 戯れみたいな淡い愛撫でも、旭陽ははっきりと感じてくれる。抗えないよう無理矢理仕込んだのは俺だけど、素直に身を預けてくれてるのは旭陽自身の選択だ。

「……うッれしそうなかお」
 伏せかけていた瞼を持ち上げて、旭陽が喉を鳴らす。

 嬉しいんだから当たり前だろ。
 むっと唇が尖れば、嬉しそうな顔しねえのと言っていた男が声を上げて笑った。
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