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外伝
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「んっ……ッご主人、慣れてなさすぎて、痛いとか感じる余裕もない? ……なら、もういっかなあ」
ちゅる、と微かな音と共に後ろに入っていたものが抜けた。
「ウルスス、もういいよ」
「ッぁ゛、げほっ!」
雄の頭を押さえ付けていた手から力が抜ける。
途端に銀の頭が肢の間から離れ、床に這い蹲った。
激しく咳き込む口から、涎にしては量が多い透明の液体が滴り落ちている。
あれは……まさか、私の……
ずっと顔を埋めてきていた場所を考え、かっと頭に血が集まる。
何に包まれていたのか、今更ながらに理解した。
そ、それはそうか。考えてみれば他に――
いや、何故初対面の人間に咥えられねばならない……!
「あー、ちゃんと飲み込まなきゃダメだって言ったのに。……ごめんね、ご主人。こいつ、全然知識もなかったヤツだから……許してやって、もらえるかなあ」
反応が追い付かずに固まっていると、背後の声が急に弱くなった。
思わず振り返る。
目が合った途端、軽すぎる口調の雄がへらりと笑う。
だが視線がはち合う直前、酷く不安げだった顔が見えていた。
自分のことではないのに、我が事のように心配しているのが嫌でも伝わってくる。
「……だ、ダメ、かな? なら、俺がアイツの分までご奉仕しちゃう! 俺、男相手も慣れてるからうんと気持ち良くできる自信があるよ。下手っぴなヤツは置いといて、俺を可愛がって欲しいな。……ね?」
青い目を彷徨わせてから、雄が視線を合わせてにっこりと微笑んだ。
さり気なく、私の体を自分の方へ向き直らせようとしている。
まだ顔を上げることもできない雄を庇っているのはバレバレだった。
「っぁ゛、まっ……ッげほ、ま゛、ってく、れ……っオ、レも……ッ!」
咳き込みながら、ガタイの良い雄も顔を上げた。
こちらはこちらで、相棒に全て押し付けるのは嫌らしい。
苦しげに涙を零しながら、自分もと訴えてきている。
そもそも、私の認識としては割と急に襲われたに等しいのだが。
何も強要しておらず、何も行なっていないというのに。
何故諸悪の根源のように怯えられなければならないのだ。
「まて……待て。少し落ち着いて話を聞け……」
頭が痛い。
ついでに、中途半端に煽られて張り詰めた性器も痛い。
手を翳して制止すれば、前後の雄は一応動きを止めた。
この人間共は、やはり魔王様が私に与えて下さった贄で合っていた。
贄様を浚った勇者共の一員だが、贄様が無体を働かれそうになった時に止めていたという理由で温情を与えられた生き残りどもだ。
自分たちがどういった立場なのか分からず戸惑っていた時、「溜まっているであろうサンドロの性欲処理を頼む」と仰せつかったらしい。
その時に、私が不要だと感じればすぐに魔王城に戻されることにもなると聞かされたのだとか。
魔王城に戻れば、今度こそ処刑される。ならば一魔族の性処理に使われる方が――
「そんなわけなかろう!!」
そこまで聞いて、我慢できずに叫んでしまった。
「魔王様が処刑しないと決めたなら、新たな問題を起こさぬ限り貴様らの命は保障されておるわ! 我が王は、そのような気まぐれで生命を扱う御方ではない!」
王の寛大なお心を疑われて、さっきとは違った意味で頭に血が昇った。怒りで瞳孔が細くなる。
人間にとっては、さぞ恐ろしい異形であったはずだ。
なのに二匹は視線を合わせて、ずっと張り詰めさせていた緊張が解けた笑みを浮かべた。
なんだ、おかしくなったか?
「……魔族って、自分の王様のことにそこまで怒るんだ」
「――感情など通用しない、おそろしい存在だとずっと聞いていたのにな」
何やら勝手に納得している。
こちらはまだ全く言い足りない。口を開こうとすれば、金と銀の頭が不意に下げられた。
「ごめんなさい。思い込みがすぎました」
「申し訳ない。……思えば、自分以外のことであれだけ必死になれる男だ。感情がないわけがなかった」
心から悔やんでいる声で、それぞれから謝罪を受ける。
……理解したなら、まあ許してやろう。
まだ言い募ってくるようなら手が滑りかねなかったが。
一息吐いて溜飲を下げた私に、四本の腕が伸びてきた。
「……おい?」
すり、と首筋に顔が擦り寄ってくる。
首筋に人間の熱い吐息が触れて、不可思議な感触が背中を走った。
「おい……まだ言わなければ分からないのか? 無理にする必要はないと……!」
「無理じゃなくって」
再び制止しようとした私に、背後から囁きが向けられる。
さっきまでと比べて、やけに熱を帯びた声だ。
「俺、なんか……ご主人、ちょっと可愛く見えてきた……気持ち良くしてあげたい」
な、なんだと……!?
人間とは明らかに異なる容姿の私に、まさかの言葉。
まだ媚びているのかと背後を振り返れば、少し甘さを帯びた金眼にぶつかった。
魔王様と贄様が向け合っているような、深い情愛が宿った瞳ではない。
だが先程までとは明らかに異なる、何らかの情が顔を出し始めている目だ。
「…………お、れは……」
目が合ったきり動けなくなっていると、私よりもエルマよりも熱い掌が太腿を滑った。
顔は背後を向いたまま、視線だけ正面に戻す。
涙を溢れさせながら、強い熱を帯びている銀眼と目が合った。
「っ……あ……くっ……」
顔を真っ赤に染め上げた姿に、体に掛かっていた呪縛が解けたようだった。
顔ごと前に向き直る。
もぞもぞと太い足を擦り合わせている雄の股間は、明らかに膨れていた。
「あ……つ、い……」
「……ウルスス、欲情してる?」
戸惑った声が背後から聞こえる。
そういえば、我々の体液は一部の人間にとっては催淫効果があったな。
互いの魔力差次第だが、龍は魔族の中でも魔力量が高い種族だ。
その幼体である竜人も、それなりに上位に位置する。
「ああ、……不用意に――く、咥えなどするからだ。今サキュバスを手配してやろう」
この状況から抜け出すために、というよりは単純に酷く辛そうな雄を解放してやろうと思った。
立ち上がろうとした私の腕を、熱い腕が掴む。
「ッお……オレ、は、貴方がいい……っ」
「…………なんだと?」
「……自分の、王のことで、一番怒れる……人間の、オレたちのことも、道具として扱わずに言葉を交わしてくれた――貴方が、いい…………」
荒い息を切らしながら、雄が微かに微笑む。
背後から、柔い手がそっと私の硬い頬を撫でた。
「……俺も、貴方がいいな。気持ち良くしたいって思ったのは、貴方だから」
身勝手な、ことを。
顔が歪む。
頭の中を、互いに庇い合う二匹の姿が過ぎった。
「…………仕方あるまい」
私は、人間が嫌いだ。
だが自分よりも仲間を優先できるこやつらは、まあ悪くない。
溜息と共に了承の言葉を零せば、男たちが表情を明るくした。
ちゅる、と微かな音と共に後ろに入っていたものが抜けた。
「ウルスス、もういいよ」
「ッぁ゛、げほっ!」
雄の頭を押さえ付けていた手から力が抜ける。
途端に銀の頭が肢の間から離れ、床に這い蹲った。
激しく咳き込む口から、涎にしては量が多い透明の液体が滴り落ちている。
あれは……まさか、私の……
ずっと顔を埋めてきていた場所を考え、かっと頭に血が集まる。
何に包まれていたのか、今更ながらに理解した。
そ、それはそうか。考えてみれば他に――
いや、何故初対面の人間に咥えられねばならない……!
「あー、ちゃんと飲み込まなきゃダメだって言ったのに。……ごめんね、ご主人。こいつ、全然知識もなかったヤツだから……許してやって、もらえるかなあ」
反応が追い付かずに固まっていると、背後の声が急に弱くなった。
思わず振り返る。
目が合った途端、軽すぎる口調の雄がへらりと笑う。
だが視線がはち合う直前、酷く不安げだった顔が見えていた。
自分のことではないのに、我が事のように心配しているのが嫌でも伝わってくる。
「……だ、ダメ、かな? なら、俺がアイツの分までご奉仕しちゃう! 俺、男相手も慣れてるからうんと気持ち良くできる自信があるよ。下手っぴなヤツは置いといて、俺を可愛がって欲しいな。……ね?」
青い目を彷徨わせてから、雄が視線を合わせてにっこりと微笑んだ。
さり気なく、私の体を自分の方へ向き直らせようとしている。
まだ顔を上げることもできない雄を庇っているのはバレバレだった。
「っぁ゛、まっ……ッげほ、ま゛、ってく、れ……っオ、レも……ッ!」
咳き込みながら、ガタイの良い雄も顔を上げた。
こちらはこちらで、相棒に全て押し付けるのは嫌らしい。
苦しげに涙を零しながら、自分もと訴えてきている。
そもそも、私の認識としては割と急に襲われたに等しいのだが。
何も強要しておらず、何も行なっていないというのに。
何故諸悪の根源のように怯えられなければならないのだ。
「まて……待て。少し落ち着いて話を聞け……」
頭が痛い。
ついでに、中途半端に煽られて張り詰めた性器も痛い。
手を翳して制止すれば、前後の雄は一応動きを止めた。
この人間共は、やはり魔王様が私に与えて下さった贄で合っていた。
贄様を浚った勇者共の一員だが、贄様が無体を働かれそうになった時に止めていたという理由で温情を与えられた生き残りどもだ。
自分たちがどういった立場なのか分からず戸惑っていた時、「溜まっているであろうサンドロの性欲処理を頼む」と仰せつかったらしい。
その時に、私が不要だと感じればすぐに魔王城に戻されることにもなると聞かされたのだとか。
魔王城に戻れば、今度こそ処刑される。ならば一魔族の性処理に使われる方が――
「そんなわけなかろう!!」
そこまで聞いて、我慢できずに叫んでしまった。
「魔王様が処刑しないと決めたなら、新たな問題を起こさぬ限り貴様らの命は保障されておるわ! 我が王は、そのような気まぐれで生命を扱う御方ではない!」
王の寛大なお心を疑われて、さっきとは違った意味で頭に血が昇った。怒りで瞳孔が細くなる。
人間にとっては、さぞ恐ろしい異形であったはずだ。
なのに二匹は視線を合わせて、ずっと張り詰めさせていた緊張が解けた笑みを浮かべた。
なんだ、おかしくなったか?
「……魔族って、自分の王様のことにそこまで怒るんだ」
「――感情など通用しない、おそろしい存在だとずっと聞いていたのにな」
何やら勝手に納得している。
こちらはまだ全く言い足りない。口を開こうとすれば、金と銀の頭が不意に下げられた。
「ごめんなさい。思い込みがすぎました」
「申し訳ない。……思えば、自分以外のことであれだけ必死になれる男だ。感情がないわけがなかった」
心から悔やんでいる声で、それぞれから謝罪を受ける。
……理解したなら、まあ許してやろう。
まだ言い募ってくるようなら手が滑りかねなかったが。
一息吐いて溜飲を下げた私に、四本の腕が伸びてきた。
「……おい?」
すり、と首筋に顔が擦り寄ってくる。
首筋に人間の熱い吐息が触れて、不可思議な感触が背中を走った。
「おい……まだ言わなければ分からないのか? 無理にする必要はないと……!」
「無理じゃなくって」
再び制止しようとした私に、背後から囁きが向けられる。
さっきまでと比べて、やけに熱を帯びた声だ。
「俺、なんか……ご主人、ちょっと可愛く見えてきた……気持ち良くしてあげたい」
な、なんだと……!?
人間とは明らかに異なる容姿の私に、まさかの言葉。
まだ媚びているのかと背後を振り返れば、少し甘さを帯びた金眼にぶつかった。
魔王様と贄様が向け合っているような、深い情愛が宿った瞳ではない。
だが先程までとは明らかに異なる、何らかの情が顔を出し始めている目だ。
「…………お、れは……」
目が合ったきり動けなくなっていると、私よりもエルマよりも熱い掌が太腿を滑った。
顔は背後を向いたまま、視線だけ正面に戻す。
涙を溢れさせながら、強い熱を帯びている銀眼と目が合った。
「っ……あ……くっ……」
顔を真っ赤に染め上げた姿に、体に掛かっていた呪縛が解けたようだった。
顔ごと前に向き直る。
もぞもぞと太い足を擦り合わせている雄の股間は、明らかに膨れていた。
「あ……つ、い……」
「……ウルスス、欲情してる?」
戸惑った声が背後から聞こえる。
そういえば、我々の体液は一部の人間にとっては催淫効果があったな。
互いの魔力差次第だが、龍は魔族の中でも魔力量が高い種族だ。
その幼体である竜人も、それなりに上位に位置する。
「ああ、……不用意に――く、咥えなどするからだ。今サキュバスを手配してやろう」
この状況から抜け出すために、というよりは単純に酷く辛そうな雄を解放してやろうと思った。
立ち上がろうとした私の腕を、熱い腕が掴む。
「ッお……オレ、は、貴方がいい……っ」
「…………なんだと?」
「……自分の、王のことで、一番怒れる……人間の、オレたちのことも、道具として扱わずに言葉を交わしてくれた――貴方が、いい…………」
荒い息を切らしながら、雄が微かに微笑む。
背後から、柔い手がそっと私の硬い頬を撫でた。
「……俺も、貴方がいいな。気持ち良くしたいって思ったのは、貴方だから」
身勝手な、ことを。
顔が歪む。
頭の中を、互いに庇い合う二匹の姿が過ぎった。
「…………仕方あるまい」
私は、人間が嫌いだ。
だが自分よりも仲間を優先できるこやつらは、まあ悪くない。
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