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暗雲

第42話 俺がいい?

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「昨日の……やつ、さ」

 さっき受けた報告を思い出しながら、首筋の歯型に舌を滑らせる。

 がくがくと震えている腰を撫で、赤く腫れ上がった目尻に口付けを落とした。
 毎日めちゃくちゃにされて泣いている所為で、再会した日以降の旭陽はいつも目元が熱っぽい。

「お前の言った通りだった。人間が、魔族に手を出してた。関わってた人数も予想以上だったよ。
 ……旭陽が事前に案を出してくれてたから、虐殺を命じずに済んだ」

 顔や腕に軽いキスを繰り返しながら、深く息を吐き出した。
 ぐちゃぐちゃになっていた頭の中は、旭陽に触れているうちに大分落ち着いてきている。
 でもやっぱり、どんな顔をして話せば良いのか分からない。

 相手の正気を飛ばしてから聞かせるというのは、自分でも随分と卑怯な真似だと思う。
 それでも否定されるのが怖くて、ゆっくり掻き混ぜる腰の動きを止めることはできずにいる。

「ッ゛ぁ、ァ、あ……っ」

 聞こえているのかいないのか、焦点を合わせられない瞳がふらつきながら俺を見ている。
 微かな嬌声を零している唇に触れるだけの口付けを落とし、言葉を続けた。

「調査も予想よりかなりスムーズに進んで、暴れたり誤魔化したりする者はいなかったって。
 …………そいつらにも、罪悪感が……あったんだろうか」

 感情を排して伝えようとしているのに、どうしても声が祈るようなものになってしまう。
 ゆらりと動いた黄金の焦点が、一瞬俺に合った。

「――とにかく、助かった! ……だから、ひとつ……旭陽の頼みを、聞いてやろうと思って」

 馬鹿かと切り捨てられるのが怖くて、声は少し早足になった。
 誤魔化しが入っていると言われても否定はできない。
 でも、嘘ではない。

 俺から離れたいとか、帰りたいとか、そういう内容だったら拒絶してしまう程度だが。
 それでも今すぐやめろだとか暫く触るなだとか、その程度ならちゃんと叶えてやろうと決めて口にした。

「ッぁ゛……ぁ゛、ぅ……ッ」
「ん?」

 唇を震わせながら、旭陽が何かを答えようとしている。
 促してみれば、掠れた声がたどたどしく「て……」と呟いた。

「て?」
「ッ……手、ぇ……ゃ、……」

 俺の首裏で束ねられている腕を見る。
 桃紅色が褐色の肌から滑り落ちて、旭陽の腕が解放された。
 そのままシーツの上に落ち、指先まで小刻みにぶるぶると震えている。

 両腕、特に手首から先は全て媚薬の中に沈められていた状態だ。
 力が入らないだろうし、動かしたらその分だけ快感に襲われるから動かせないんだろう。

「……それだけ?」

 ひとつとは言ったが、あまりにも些細だ。
 思わず問いを重ねてみると、泣き濡れた頬が首筋に擦り寄ってきた。
 泣きじゃくっていた名残りで、ひくひくと喉が微かな音を立てている。

「ま……が、ぃ……っ」
「……なに?」

 荒い呼吸の下からどうにか絞り出された声だったが、聞き間違えかと思ってまた尋ね返してしまった。
 薄い唇に、僅かに旭陽自身の犬歯が食い込む。

「ッま、ぇ……っから、が……ぃっ……い……!」

 唸るように叫んで、ごつりと俺の首に頭をぶつけてきた。

 今の体勢を見下ろす。
 俺が後ろから旭陽を抱き締めて、背面から貫いている状態だ。
 まえから。……向かい合っての方が良い、のか。

 後ろからだと嫌なのか。
 犯されていることでも、普通なら有り得ない場所まで侵されてることでもなく?

「……いいよ」

 馬鹿だなあ。

 笑ってやりたいのに、俺の顔は表情筋がイカれてしまったらしい。
 阿呆みたいに甘ったるい、幸福が隠せていない笑顔しか浮かべられなくなってしまった。
 愚かとしか言いようがない俺を見て、貶すどころか瞳を蕩けさせた旭陽も、きっとイきすぎて頭の何処かが馬鹿になっている。

「ッは、ァ゛あ……っ」

 ずるりと長大なペニスを引き抜けば、中から大量の白濁と桃紅の粘液が溢れ出してくる。
 旭陽のペニスからも、ゆっくりと同色の粘体が流れ出してきた。

 ごめんな。これ以上は喰わせてやれない。
 こいつはやっぱり、俺だけの旭陽だから。
 物分りの良いスライムは、シーツの上を滑って端に移動していく。

 それを見届ける時間も惜しくて、性急に体の向きを変えさせた。
 ぐったりと腕に体重を預けてくる男を胸元に引き寄せ、今度は前から背中へと腕を回す。

「ぁ……ンッ、……っき、ら……」

 シーツに落ちていた腕が、ぴくりと小さく反応した。
 酷く緩慢な動きでシーツから離れ、何度も落ちそうになりながら持ち上がる。

 幾度か小さな怯みを見せながら、ゆっくりと首に絡み付いてきた。
 ふ、と何処か満足げな吐息が首筋に触れる。

 ……狡いなあ、旭陽は。

 喉から込み上げそうになった衝動を飲み込んで、腰に腕を巻き付けた。
 俺の吐き出したものを零し続けている場所に押し付け、ガチガチの熱で再び貫く。

「ッくあ゛ぁあアアーッ!」

 がくがくと跳ねた男が、今度こそ高く潮を吹いた。
 さっきまではスライムに飲まれていた体液が、何に邪魔されることもなくびしゃびしゃと俺と旭陽の体を濡らしていく。
 はくはくと空気を食んでいる唇を塞ぎ、深く口付けながら奥を穿った。
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