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日常

第10話 もっと嫌がって

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 また失神されそうな気配を感じて、一向に治まる気配がないペニスを俺の口の中から引き抜く。

「っ……ァ……、ッは、はあッ……っ、はー……っ」

 まだ断続的に精液は溢れ出しているが、外部からの刺激は止んだことで旭陽の体が脱力した。安堵に深い息を繰り返している。
 まあすぐに散々催淫効果を注がれ終えてる性器が疼き出すだろうけど。

 それより先に、すぐ下の窄まりに舌を突っ込んだ。

「ひっ……!?」

 今日初めて触れる場所に、必死に繰り返されていた呼吸がまた緊張する。
 そういえば、この間は何もせずに突っ込んだんだっけ。
 後で入口を確認したら思った以上に裂けてたけど、大丈夫だろうか。

「アッ、あッ、やめ、ぁき、っら、ぁ、んあッ! そッ……なと、こッ、アッあぅっ」

 舌を根本まで捻じ込んで、ぐるりと内璧を舐め回す。
 体の内側を舐められる異様な感覚に、旭陽が混乱と快感が混じった声を上げて腰を捻る。
 抵抗する腰を強引に引き寄せながら、血の味はしないことを確かめた。

 一応傷は塞がっているようだ。
 でも無理をすればまた傷付くかもしれないし、俺のは無理をさせずに済む大きさじゃない。たとえ慣らしたとしても。
 どうしようか。

 少し考えて、アナルの淵に牙をそえた。慄く体の反応は意図的に無視する。
 入口の中と外を挟むように牙を当て、皮膚を突き破った。

「ぃウ゛ッっがッぁっ! アッ! あ゛アぁあ゛あーーッッ!」

 射精は止まらなくても量は減りかけていた旭陽が、がくんと腰を跳ねさせてまた濁流のような精液を噴き上げた。
 どう見てもさっきから人間の出せる量じゃないが、俺という魔王に贄と定められた男は、見た目は変わらなくても体の内部は色々と作りかえられている。
 というより、作り変えるために全身に俺の吸血跡を残していっている。
 ついでにイかせまくっているのは……必須ではないけど。マーキングというか所有印というか。

「あうぅっ! やッぁ゛、はぁあっ! あ、ぃいッ……! ぁ、ついぃぃっ……!」

 腸内に唾液を流し込みながら舌で掻き回すと、頭を振り乱しながら旭陽が泣き叫ぶ。
 俺の肩の上の両足も、爪先まで力がこもっているのが伝わってきた。
 暴れる腰を掴んで固定し、人間よりは少し長めの舌で腸壁を舐め回す。

「ひぁっあッあぅうっ」
 肩の上で、旭陽の足がぴんと突っ張った。

「やっぁっ、ッあき、っんああぁ……っ!」
 舌を引いては押し込んで出し入れすると、がくがくと腰を揺らしながら泣き声が大きくなった。

 いい匂いがする。今すぐ挿れて、また正気を失うまで啼かせてやりたい。
 けど、まだ全身に浸透しきるには時間がかかるかな。

 どくどくと脈打っているのが分かる場所から舌を引き抜き、身を起こす。

「っひぁッぁあうっ……」

 掠れた嬌声を零した旭陽が、泣き濡れた目で俺を見上げてきた。
 色々な体液で濡れた唇が震えている。
 口元だけに収まらず顔中を汚している白濁は、俺が上からこいつに自分の精を飲ませた何よりの証拠だ。

 褐色の肌と黒い髪は、白い精液や涙の雫がよく映える。
 汚すよりも汚されている方がしっくりくるほどに。

 ――それでも。旭陽はどれだけ穢しても変わらない。

 目が合っただけで全身が脈打つのも、腹が捩れそうなほど欲し続けているのも、何もかも俺ばかりだ。
 あんなに犯したのに、旭陽は僅かに戸惑い、表面へは出ない程度に怯んだだけ。
 目を逸らす程度の反応もなかった。
 飼い犬に噛まれた主人よりも薄い反応に、それでも俺だけが喜び、悲しみ、また焦燥を募らせている。

 恐ろしく他を惹き付け視線一つで服従させる、おぞましく、強靭で、何よりも綺麗な『みんなの』王様。
 ただの黒なら染め上げられるだろうが、漆黒はどうすれば別の色に染まってくれるんだろう。


 欲情やら不満やらで痛いほどに張り詰めた自分の股間を宥め、どうにか澄まし顔を装って服を整えた。
 熱に浮かされた目で俺の動きを見つめていた男が、驚きに目を見張ってから瞳を歪める。

「俺は仕事済ませてくるから。暫く待っててくれよな、旭陽」
「ッ、ぁっ、ゃ、っう、そ……っ」

 嘘だろ、と旭陽の目が訴えてくる。
 俺の行動で悟っていたくせに。信じたくない、ってところかな。
 わざと優しく笑ってやれば、本気だと分かったらしい男の喉がひくついた。

「だってイきすぎてヤなんだろ? あんまり嫌がってるのに無理矢理する趣味もないしなぁ。お前と違って」

 大嘘。
 嫌がってるお前を無理矢理暴くの、めちゃくちゃ興奮する。

 痛みも何でも快感に変わるのも最高にクるけど、今日は旭陽の体が独りでに溶けきるまで時間を置こうと思っただけだ。
 でも折角だし、とやめろだめだの制止ばかりであることを指摘してみる。
 乗り出して顔を覗き込んでみると、黄金からさっきまでとは違った種類の涙が溢れ出した。

 予想以上の反応につり上がりそうになる頬をどうにか堪える。
 さも心配げに眉を垂らして、旭陽の肌に触れる直前の至近距離で手を止めた。
 旭陽の唇がはくりと震え、俺の手へ期待とも不安をもつかない視線を向けた。

 太腿を撫でるふりをする。
 空気の動きだけでも感じるのか、肌がざっと鳥肌で覆われるのが見えた。
 実際には触れてないのに、小さな嬌声が零れて旭陽が腰を震わせた。

「ち、が……ッこ、ん……なっ……~~っほっとか、れ、るほ……が、きつ……っ」

 どうにか伝えようと必死で舌を動かしているが、俺は勿論こんな熱が昂ぶっている最中に放置される方が地獄だと理解している。

 わざとだ。
 他人が嫌がることをするのは気が引ける消極的な性格を知っている男は、俺が意識的にこんな嫌がらせをするなんて考えつきもしないんだろうが。
 お前だけは別なんだよ、旭陽。

「まっ……ッつァ、ひいッ!」

 なおも制止してこようとしてくる男のアナルに人差し指を挿し入れ、内部の熱さを確かめる。
 悶える両足を掴み、肩の上から下ろした。

 ベッドから降りれば、反射的に手を伸ばそうとしたらしい旭陽が手錠に縫い止められた。
 白濁で汚れた首輪の鎖も、旭陽が首を振る度に音を立てている。
 さっきも鳴っていたんだろうが、甘い嬌声が弱ったことで初めて金属の存在を思い出した。

「っぁ……き、ら、ぁっ……」
「……いい子で待ってろよ、旭陽」

 がちゃがちゃと煩く音を立てて手錠を揺らしながら、旭陽が俺を呼び戻そうとしている。
 耳を突く金属音はそのまま、こいつが俺を求める強さだ。

 それが、気が狂いそうなほどの熱を解消するための手段としてでしかないとしても。

 ぞくりと背筋を駆け上がった感覚には気付かないふりを通す。
 拙い呼び声に背を向け、扉を閉めた。
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