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幼き聖女について
死んだ土地
しおりを挟む「ふぇっくしょッ!!」
「我が王よ、風邪ですか?」
「…うむ………風邪ではなさそうなんだが………何だか嫌な寒気がしてな」
何だかこう…
嫌な事というか…
めんどくさい事が起こりそうな…嫌な寒気というか…
…虫の知らせというやつだろうか…
マジでごめん被りたいのだがな…
「無理は禁物ですからね…?…またシスターエボラに怒られてしまいますので…」
「…それだけは回避しなければな…」
またあの説教をくらうなんて…考えるだけで頭が痛くなる…
…まぁ…悪いのはこっちなんだが…
「…今日のスケジュールは変更いたしましょうか?」
「…いや、あの土地の復活に関わる内容であろう?…ならば出向かねばな…」
「…かしこまりました。では、他の重要度が低そうな案件は後回しに…」
「ああ。だが、急を要するものであれば、遠慮するなよ」
「わかっておりますわ」
お任せくださいと言わんばかりに自信たっぷりに返事をするミランダ。
まぁ、確かにミランダならばそこら辺はうまくやるのだろうがな…
「…さて…では向かうとするか」
俺たちは立ち上がると外に出かける準備をして部屋を出た。
向かう先は、“精霊達も寄り付かぬ死んだ土地”だ。
今はその土地を復活させるために尽力している最中なのだ。
…何で、そんな土地があるかと問われれば…
…また過去の王達が関係した話になるのだが…
過去に、豊作計画なるものがあった。
簡単に内容をまとめれば、毎年の実りレベルを豊作にしようという計画だ。
もちろん、いきあたりばったりな物ではない…
俺が王となってから、それらの計画に関連する資料に目を通したが、かなり考えられ、練られていた計画だった。
細かな仕組みは省くが、回復と蓄積の魔法…そして大量の肥料を用いる事で、常に土地に栄養をため込ませようとしたのだ。
もちろん、作物などに与える栄養は管理してな…
だが、この計画は失敗してしまった。
その原因は、実際の土地が“精霊達が多く住む場所”だった事だ。
彼らは自然界の理の一部…
自然と一体な彼らだからこそ、大量の栄養を含ませた加工土地では、“彼らの体に合わなかった”らしい…
結果として、その土地を中心とした大量の精霊達が亡くなった…
精霊の亡骸は自然に帰り、新たな命をつなぐための糧となるはずなのに…その場所は、作物はおろか草すら生えぬ死地と化してしまったのだ。
いまだに理由は不明…
精霊達が大量に亡くなったのが原因なのか…はたまた大量の亡骸が自然に帰ったのが問題なのか…
とにかく、死んだ土地を生み出してしまった事により、この計画は中止となった。
まぁ、仕方ない結果だろう。
さらなる死地を生んでしまう可能性だってあるのだからな…
そんな土地がある廃棄された農場付近に足を運ぶと…
「…ん?……ぁぁ~王さまぁ~。いらっしゃ~い」
ピンクのお団子頭の女が、こちらを見てひらひら手を振っていた。
「首尾はどうだ、マデリーアよ?」
俺はマデリーアに問いかける。
この者は、バルガンナ国の“魔学者”だ。
魔学とは、魔法を基盤とした学問。
未だ到達できていない魔法の謎を研究したり、生活の中で使用できる魔法の研究など様々な部門に分かれているが…
マデリーアの場合は、精霊と魔法の結びつきについて研究している。
この死地発生の原因には、精霊と魔法が大きく影響しているはずと考え、死地回復のリーダーとして選んだのだ。
「いんやぁ~…もう謎すぎてよくわかんないですね~」
あははっと笑いながら言うマデリーア。
普段はおちゃらけた雰囲気で勘違いされがちだが、彼女は天才だ。
常識に囚われず、あらゆる面から問題解決の考察を行なってきた彼女の功績はどれも凄いものばかり…
そんな彼女がわからないというのだから、この問題がどれだけ難題なのかわかるだろう。
「農学側からの畑に関するアプローチもぉ~、魔学側からの回復や蓄積、解除に関するアプローチなど色々試しましたけどぉ~…全く効果が現れないとなっちゃぁねぇ~」
「…完結にまとめて、何がわからない状態だ?」
「ほんとッ…完結にまとめますとぉ、そもそもこうなってる原因の要部分が見えてこない事です」
「…やはり…そこか…」
「…あの、マデリーアさん…原因の要部分というのは…?」
ミランダが首を傾げながら問いかけた。
「ん?…あ~分かりにくかったかぁ~…え~とだね、ミランダさんは何でこんな状態の土地になったかは知ってるよね?」
「はい」
「じゃぁ、そのトリガーは“豊作を夢見た者達による肥料と魔法による作業”だってのもわかってるよね?」
「はい」
「じゃぁ、具体的な原因ってなんだと思う?」
「…それは……土地に過剰に栄養を与えすぎた事と、それに対して精霊が適応できず、亡くなった事…でしょうか」
「うん、資料から読み取れば必然とそうなるよねぇ~。それだけなら簡単に解決できる。方法としては、土地の栄養バランスを調節して、居なくなった精霊達が戻れる土地にすれば解決できるはずなんだよ~…資料に沿って考えるならね」
「…そうではないと?」
「現状の結果からなら、そういう事になるかなぁ~。色々試してはいるんだけどぉ~、不思議なことにうんともすんとも反応が見られないんだよねぇ~……少なからず、土地の栄養バランスとかは、大量に肥料とか与えたりしたから、いくらなんでも少しぐらいは向上するはずなのに…全く効果は現れてないし…」
「…この先の取り組みとしては、さらなる別側面からのアプローチが必要かも知れんというわけか…」
「…かもしれないけど…そこも断言できないねぇ~…なんせ、判断しようにも結果が目に見えて変わらないんだもんこれが」
精霊達が戻ってきていないのはいくらでも説明がつけられるが…
肥料や新たな土を用意するなど物理的に工夫を凝らした事に対して、全く現状と変わらない事に対しては説明がつかない…
何故、栄養バランスは向上せず…新たに用意した土は、次の日には死地と同じものになっているのか…
「王様~、魔学者として興味が尽きない内容だけど~…正直、ここらの土地を元に戻そうってのは割りに合わなくない~?」
「……」
「もし原因が、精霊達の魔法だったり、人間では対処できない高度な呪いだったりすると……そもそも対処なんて出来ないよ~?……やるならいっそ、他のことに力を注いだ方が良くない?」
マデリーアの魔学者としての発言は、王としての立場から考えても間違ってはいないのだろうが…
「…だとしても、止めるわけにはいかん……そもそも、この国の領地は全て精霊達の物だ…俺達人間がその土地の一部を台無しにしてしまったのだから……俺達が元に戻し、精霊に返す義務がある」
「…ん~まぁ~そうなんだけどぉ~~……はぁぁぁぁ……王様は本当に義理堅いよねぇ~…」
「…そういうわけではない…精霊達の怒りを買いたくないだけだ」
「ん~…まぁそういうことにしておいてあげましょう~……というか、私もそういうところが好きなわけだし…」
「…ん?……マデリーアさん?」
「すまんな」
「別に構わないよ~。でさっ王様っ。早速試したい案あるんだけどっ」
俺の腕に抱きついてくるマデリーア。
このパターンは、いつもの無茶なおねだりパターンッ…
「…よ…予算がそんなにかからない物ならっ…」
「大丈夫大丈夫~。ちゃんとお安くしとくし~なんなら私も出来る限り払うからさぁ~」
毎回毎回無茶苦茶な内容だからな…
つっぱねたいとこだが……土地に関する事だし、無視できんのが辛い…
そんなことを考えながら、さらにひっついてくるマデリーアをどう話そうかと思案していると…
「ちょっ…マデリーアさんっ、先ほど聞き捨てならない台詞が聞こえた気がするんですがッ…!」
ガクガクっと、マデリーアの肩を掴んで揺らすミランダによってマデリーアの抱きつきが緩んだ。
よしっ、よくやったミランダよっ!。
「ぉっ…おぉぅッ…!?……んんっ…あぁもぅッ、ミランダさんは本当に耳がいいんだからッ…じゃぁっ王様ッ、後で内容まとめて部屋に凸るからっよろしくねっ!!」
「あッ!まっ待ちなさい!!」
びゅ~んと効果音がつきそうな速さで走っていくマデリーア…
…かなり速いな…あいつ運動できたのか…意外だ…
悔しそうに見送るミランダをよそに、俺は死地を眺める。
「……俺の代で、精霊達に返上することができれば良いが…」
正直、国を考えるならば、マデリーアの言葉に同意して、この土地の回復は後回しにした方が良い。
そうしたとしても、良好の関係を築けている今なら精霊達も怒りはしないだろう…
だが、俺としてはこの土地を復活させ、精霊達に返したかった…
…
……
それが、数少ない…俺自身が交わした約束の1つなのだから…
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