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感情薄めな剣聖と狂宴の道化師

一難去って?

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「はい、依頼完了ですねっ。お疲れ様でしたっ」


拠点のギルドに戻って来れば、受付嬢さんに報告した。


「流石シャールさんですねぇ。お蔵入りのクエストもかなり少なくなりましたっ。ありがとうございますっ」


「いえ、そんなお礼を言われる事では…第一、内容が難しいというか…やれば出来ない事は無いというものもたくさんありますし…」


そこまでの感謝とかは…


「そうだとしても、やってくれる人がいるかいないかは重要ですよ」


…まぁ、やる人がいなけりゃ…そういう考えもわからんでは無いが…


「…ねぇ」


「ん?」


「…シャールはお蔵入り専門?」


隣で待機していたスゥがそんな事を聞いてきた。


「いや、別にそういうわけじゃ無いが…単にソロでも俺が出来そうなのがそれだっただけだよ」


「…なるほど。どうして?」


「どうしてと言われてもなぁ……これといった理由があるわけじゃ無いが……やらない理由にはならないだろ?」


「…それだけ?」


「うん、それだけ」


「…それだけ?」


「しつこいな…まぁあえて理由つけるなら、子供の依頼もあったりすんだよ」


「…うん、それは確かに」


「まぁ、子供が出せる金額なんてたかが知れてるからな……魅力が薄くなるのは仕方ないが……だからって、そんな事で放置されるのは面白くないだろ?」


「…子供達のため?」


「それだけってわけじゃないがな。それに俺は道化師だ。道化師が子供を喜ばせないとかあり得ないってな」


それに、子供ってのは笑ってるのが一番だし。


「…やっぱりシャールは変わってる」


顔には出てないが…


めっちゃ不思議そうだな。


まぁ、気持ちはわからなくもないというか…


…てか、変わってると言われましても…


まぁ儲けが少ないのは確かだしな


普通にゴブリン退治とかの方が、やって利益になる…普通はそう思っちまうよな。


そこは事実だ。


だから、お蔵入りの依頼が増えちまうんだが…


「何だか仲良くなりました?」


「えっ?」


等と考えていると、受付嬢さんからそんな事を言われた。


「いえ、凄い仲が良さそうでしたので」


「仲が…ですか?」


「えぇ、ここを出ていく前よりなんだかお二人の様子が柔らかくなったかと」


柔らかく…か。


確かに、名前呼びとか口調とかフランクにしたからなぁ。


最初の頃のぎこちなさは少し和らいだって感じなのかね?


それはそれで良いのかもだが…


正直、そんなあからさまに変わっただろうか?


「…まぁ、向こうさんからフランクにとご所望がありましたんで」


「…むず痒かった」


…えっ、そんなにっ?


「ふふっ、確かに堅苦しいシャールさんとかイメージつかないですねっ」


「…そんな事は…いや、道化師としたら堅苦しいのは駄目か」


「…確かに、息詰まるかも」


「…うん、確かに詰まるな。なら、ある意味崩してくれたスゥには感謝すべきかね?」


「…ぶい」


と、無表情なままピース。


…結構お茶目な感じもあるんだな。


「あらあら、かなり仲良くなられたんですねぇ」


「仲良くなった…というよりは、もともとああいうタイプだけど、見えづらかっただけ…じゃないですかね?」


「なるほど…道化師のシャールさんだから引き出せたと」


「…何でそういう話になるんですかね?」


わかりづらかっただけで、引き出せる人ならいくらでもいるでしょうに。


「いやいや、何を……いや、逆にこれが普通ですかね……」


「…?」


「…まぁ、ようするにです。シャールさんレベルじゃ無いと、気づく事が難しいって話ですよ」


「…そう…ですかね?」


「そうなんですよっ…これはエバンス様の苦労も分かりますね……」


「…?」


何でエバンスの話しに?


「…とにかく、こちらが報酬となります」


と、いつの間に用意したのか、受付嬢さんが流れるように今回の報酬が入った袋を俺たちの前に出した。


「…相変わらず、見惚れるレベルな仕事っぷりですね」


「ありがとうございますっ」


と、営業スマイル。


ちなみに、ここの人たちはみんなこれが出来るんだから凄いもんだ。


ギルドマスターによって、ギルド内の雰囲気は大きく変わるらしいが…


うちのギルドマスターは見た目と内面に大きな差があるようだな。


後、それについてきてくれる人達の頑張りってやつかね。


…おっとそうだ。


取り分を分けないとな。


そう思い、袋を手にし、空いている袋に半分程度入れ、余った分をスゥに差し出した。


「…何?」


「何って…報酬だよ報酬」


「…何故?」


「何故と言われても…いくらか手伝ってもらったりしたからな」


「…それはこちらのセリフ。参加に加えて案内までして来れたのに」


「それはそれ、これはこれだよ」


「…でも」


「はいはい。受け取った受け取った」


と、俺は彼女に向けて袋を放り投げた。


「…おぉっとっ」


「はい、手渡し完了差し戻しは受け付けてませんので悪しからず」


「…」


「…まぁ、自己満足みたいなもんだよ。ここで俺だけ受け取ったら気持ちがよくないんで」


「…でも、そんなに多くないでしょ?」


うぐっ…痛いところを…


「…まぁ、俺はそんな欲しいってものは無いし、飲み食いできたら良いレベルなんで…なくなったらまた稼ぎに出るだけだよ」


「…なら、私のは」


「だから、返品お断りだっての。もし、思うところがあるなら、いつか奢ってくれるか、稼ぎのいい話を持ってきて来れよ。もちろん、俺でも出来そうなので」


彼女はこんな性格だが、なんだかんだ実力は本物だしな。


俺なんかより、たくさんの依頼にも触れられる相手なら、より稼ぎの良い依頼もあるかもしれない。


それを俺が払える分で手に入れられる可能性があるなら安い投資だよ。


「…わかった」


「んじゃ、契約成立って事で」


「…ん……あっ、そろそろ時間」


「ん…誰かと待ち合わせ?。なら遠慮せずむかってもらって大丈夫だぞ?」


「…ありがとう、それじゃ」


「またなぁ」


「お疲れ様でしたー」


小さく会釈すればそのまま出ていくスゥ。


なんだかんだ、掴みどころがない女性だったな。


「はぁぁっ…ようやく肩の荷がおりた…かな?」


「ふふっ、シャールさんもお疲れ様です」


「まぁ…いつもより大変で少し刺激的だったのは本当ですかね…んーっ…後は飯食って、適当にベッドで寝るのも」


「ぁ…あー…それは…少し厳しいかもしれませんね」


「えっ…それはどういう……ぁ」


受付嬢さんが指差した方向を見て、何を言いたいのか理解した俺。


にっこりとこちらを見ながら微笑んでるエバンスやマリーナ、エリナの姿が…


「…」


とりあえず、何故か嫌な予感がしたので逃げようと後退りしたのだが…


“ガシっ”


「えっ?」


「すまない、シャール。リーダー命令でな…」


いつの間にか背後にいたリメルダがいて、俺の手を掴んで逃げられなくしていた。


「…いや、何だかすまんな」


対して俺は、そんなリメルダに謝った。


「…謝らないでくれ…捕まえてるのはこちらだからな」


と言われてもなぁ…


リメルダは、エバンスやマリーナに比べればかなりの常識人であり、冷静な人だ。


いや、2人がそうじゃないって話しじゃなくて、あくまで比べればって話しなんだが…


そんな彼らがこう協力しているのは…エリナが向こう側にまわったのもあるかもだが…


…だいぶ圧かけられたんだろうな…うん。


「…リメルダ、放してくれ」


「…すまない。それは」


「大丈夫、逃げた方が厄介になるのは目に見えてるから」


「…う…うむ」


…とまぁ…一難さってまた一難とはよく言ったものだ…


そう思いながら、洗いざらい喋らされるであろうパーティに元に向かうのだった。



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