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感情薄めな剣聖と狂宴の道化師

3つの情報

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臨時でこの辺り一帯を案内することになった俺。


ついでに、3つほどこの場所における脅威を教える事にもなっている。


まずはその1つ目だな。


「まぁ、1つ目は基本的なところで」


「…基本的?」


「えぇ。周りに見える木々の一帯が1つ目の注意点です」


と、大袈裟に周りの木々をアピールする。


木と木の間は狭く、活動するのも一苦労といった感じだ。


今は、ある程度の間隔が取れる場所で立っている状態だ。


「まぁ簡単に言いますけど、木々の間隔にはとても注意したほうがいいですね」


「…それはそうじゃない?」


と、不思議そうに返される。


確かに、当然の事じゃないかと思うよな。


だけど、これはこれで重要なんだよ。


「んー…理解してもらうには見て…いや、聞いてもらったほうがいいですかね」


「…聞く?」


「えぇ…ではこちらに2つの石があります」


と、俺はそこらへんで拾い上げた小石を指の間に挟んで見せる。


「ではまず、1つ目ですけど…それっ」


小石を適当な木々の間に投げる。


すると…


“…コッ…コッ……コッ”


当然だが、投げ出された小石が木々にぶつかる音が聞こえてきた。


「…」


「それじゃ2つ目っとっ」


同じく、今度は真逆の方向に小石を投げ飛ばす。


“コッコッコッコッコッ…”


「…間隔が短い」


「はい、これが注意すべき点ですね。木々の間隔の違いはちょっと離れるだけでも差が大きいんです」


「…確かに、自分が満足に動けるスペースがないと厳しいかも」


「えぇ、その通り。少なくとも自分の武器を使える程度の空間は欲しいところですね」


「…確かに」


と、自分の腰に目を配らせながらつぶやいた。


俺の場合だと最低ナイフ一本分扱える程度の広さでいいわけだが、彼女の場合は剣を振るえるほど…


それが確保出来なきゃ立ち回るのもかなり大変になるだろう。


そして、何より厄介なのが…


「この間隔という厄介な部分を、獣やモンスター達は自分が有利に立つために使ってきたりするんで、そこも注意ですね」


「…獣やモンスターもその事を理解しているって事?」


「えぇ、それはもちろん。それこそ、こちら側以上に…ってちょうどいいところに」


ふと視線を向ければ、そこには四足歩行の一匹の獣型モンスターがいた。


あれ、無害に近いタイプだが…


ちょっとお手伝いいただこうか。


「見ててください」


「…」


「…っ」


またも小石を拾えば、モンスターの近くに向かって投げつけてみる。


すると…



“っ…タッ…タッ…タッ…タッ…タッ”


と、驚いたモンスターはそのまま“木々を飛び移るようにして逃げ去ってしまった”。


「ご覧の通りです」


「…この自然自体をうまく活用している?」


うん。


中々に察しが良いようだ。


「えぇ。本当に厄介な事ですが…場所の把握は向こうのほうが上です。そしてそれは武器にもなる」


「…奇襲…木々に隠れながら様子を伺って、いきなり現れたかのように襲ってくる」


「はい」


「…確かにそれは厄介…下手をすれば致命的な一撃をもらってしまう恐れがある」


「本当、何とも戦いづらいところなんですよねぇ…ここは」


だから、大林山でのクエストは少ないし、いざ依頼されても誰もやりたがらないんだよなぁ。


「…でも、こういうところほどパワー系のクラスより貴方のようなテクニック系のクラスが活躍しそう」


「んー…道化師が活躍出来るかは怪しいですけど…確かに、小回りがきくタイプのクラスの方が活躍出来るかもですね。深追いは厳禁ですが、同じように木々の距離感のメリットを活用出来ますし…ただまぁ、慣れも必要なのでそう簡単にはいかないでしょうけど」


「…貴方も慣れるのに時間かかったの?」


「えぇ、そりゃもう」


何度溜まった依頼の小山を片付けたか。


それに、うちのパーティー内で、こういった場所での活動が満足にできそうなのって魔法であれこれ出来るマリーナぐらいだ。


彼女の腕を疑っているわけじゃないが…フォロー出来る体制は準備しておいて損はない。


まぁ、要するに良い練習場所になってるって事だな。


「…なるほど。事前に多くの木が生えている事は理解していたけれど…実際に目にするのとは違うものだね」


「言葉にすればそうなんで仕方ないんですけどね。さて1つ目は終わりですね。次に行きましょうか」


「…うん」


そうして、次の案内をするべく場所を移動するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇


「2つ目ですが、1つ目のに関連したものになります」


「…1つ目に関連?」


「はい。この面倒な場所で厄介なモンスターを紹介ですかね」


モンスター全般油断ならないのはそうなんだが、中でもより油断しちゃやばいのとかいるからな。


今回は特に面倒なのを紹介かね。


「…」


神経を研ぎ澄まして“ピエロの目”を発動させる。


本来は自分への注目度を測るようなスキルだが、件の一件から使い方次第では化けることがわかった。


そして、ちょっとした索敵手段に使えるんじゃないかと閃いたわけだ。


いわゆる、“こちらを狙っている存在”が居ないかの確認だな。


…おっと、いたかな?


「…あそこです」


と指をさす。


指の先には、丸いボールのような体のモンスターがいた。


他にも特徴を挙げるなら、腕の筋肉が太めの枝ぐらいに発達していている事だろう。


「…あれは…リトルモンキー?」


「おや、ご存知でしたか?」


「…事前に調べてた。確か、群れで行動する」


「えぇ、その通り。今は大体…」


「…6匹」


…ほう…


「わかったんですか?」


「…殺気を感じるから」


…やっぱり凄い強いんじゃね、この人?


殺気から数を推測って相当難しいぜ?


「…こっちを狙ってる?」


「えぇ…そのようで」


何気なく群れているように見えるが…


俺からしたら、全員こっちに意識を向けているのがわかるからな。


完全に、狙いは定めていると言えるな。


「…これも見た目じゃ判断つかないかも」


確かに。


側から見れば群れてるだけだからな。


スキル無しじゃ狙ってるかどうかは判別しにくい。


「…これが2つ目の注意点?」


「えぇ。アイツらはDランクのモンスターですが、この場所だとCランクぐらいの脅威がありますから」


「…1ランク上がるほど?」


「相性がいいんですよ、アイツらとこの場所。高い木々とそれらの間隔、そこを行き来してはこっちを翻弄してくるんです」


「…そんなに厄介?」


「厄介ですね。意外と早いので…なので、ここは無理せずにゆっくりと逃げ」


「…なら試してみないと」


「ま…はい?」


逃げましょうと言おうとした瞬間、彼女は立ち上がれば、腰にぶら下げていた鞘から剣を引き抜いた。


「ちょっ…!?」


彼女はこちらの静止より先に剣を構えれば一振り。


「…“真空波”」


“ブォンッ!!”


スキルだろうか、振った剣から真空の波が生まれ、リトルモンキー達に向かってものすごい速さで飛んでいった。


“うぎぃぃっ!?”


そして、丸見えだったリトルモンキー3体はあっという間に真っ二つに。


間違ってもリトルモンキーが出遅れたとかそんな話じゃない。


単純にリトルモンキーでは対処が出来ない一撃だった。


「…どうくる?」


と呟く彼女。


その呟きを聞いたわけじゃないだろうが、隠れていたリトルモンキー達が勢いよくバラバラに飛び出した。


そして縦横無尽に木々を飛び交う。


例えるなら様々な逆放物線上に飛びかう塊が3方向からこちらに向かってやってくる感じだ。


「…なるほど、これは厄介」


と言いつつ、また剣を振るう。


そして生まれる真空波。


剣士職は遠距離での攻撃が苦手となるはずなのに、彼女は剣を振り回しては遠距離での攻撃を行なっていく。


こういう戦い方もあるのか…


「…ぉぉ、すげ」


もともと、飛び交うリトルモンキー達を狙うのはなかなかに難しい。


スピードもあるし、真っ直ぐじゃないからな。


だが、彼女はリトルモンキーを狙うのではなく、彼らが掴むであろう木々を狙って真空波を放っていた。


掴もうとしていた先が無くなればリトルモンキーも飛び先を変えなければならない。


そしてそんな中で、体制が崩れたリトルモンキーを仕留めていた。


正直に言って、レベルの高さを感じずにはいられなかった。


ソロで活動するなら警戒すべき相手であるこのリトルモンキーを1人で蹂躙していたのだから。


だが…


「…あれ、あと1匹は?」


翻弄する事に手慣れたリトルモンキーもタダではやられない。


他の仲間を犠牲に1匹だけ、完全に視界の外に出る事に成功したのだ。


そして…


“ぎぃぃぃ!!”


「っ…」


やられた仲間の仇とばかりに木の影から急襲。


流石に近くなりすぎたためか、彼女も真空波が出せないようだった。


そしてそのまま、リトルモンキーは叩きつけるように腕を振り下ろした。




…が、


“うぎぃぃぃッ!?”


「っ…!?」


相手は1人じゃないってな。


視界から離れていたのはリトルモンキーだけじゃない。


もう1人…俺もリトルモンキーの意識から外れていた。


彼女に比べれば警戒度は低いと判断しての事だろう。


だが、こちらもそれなりの冒険者だ。


対象が見え、尚且つ到達地点がわかっているなら、そこにナイフを投げ込むなんて造作もない。


「…ふぅ…間に合ってよかったです。まぁ貴方ほどならあの段階からでも立て直したんでしょうけど」


「…一撃は受けるつもりだった」


「いやいや、リトルモンキー舐めないでくださいよ?。打ちどころが悪ければ腕の一本ぐらい持ってかれますからね?」


「…うん、わかった」


…まぁ、わかってくれたなら…何より…か?


正直、言いたい事は山ほどあるが…


…なんだかアイツらを相手してる感じもしなくない…か?


「…意外とすばしっこかった」


「あー、それがこいつらが厄介なモンスターだと割り振られてる理由ですからね。1人だと本当に普通は対処難しいですし」


「…肝に銘じておく。それにいい経験になった」


「…なんとまぁ…肝が据わってると言うか…」


リトルモンキーとはいえ、モンスターを間近で見たら多少は臆したりしそうなんだが…


全くそんなそぶりはないな。


やっぱり、熟練者か。


「…それじゃリトルモンキーを解体して次に行きましょうか」


「…うん。あと…」


「ん?」


「…ありがとう。助けてくれて」





「別にそんなお礼を言われるほどじゃないですよ」


そんなたいそうな事はしていないのに、感謝されるのもむず痒いもんだな。


文句の1つも言えなくなっちゃったよ。


◇◇◇◇◇◇◇


そして、なんやかんやの3つ目だが…


前回の事を踏まえて注意はしておこうか。


「スゥナレアさん、ここからは絶対に無茶はなしでお願いします」


「…?」


「この先にとあるモンスターがいるんですけど、下手に手を出したらこっちがやられかねません」


「…強いの?」


「えぇ、かなり」


今の状態だと、逃げるのすらままなりませんからね。


「…わかった」


「…それじゃゆっくりとですよ」


そろりそろりと近づく俺たち。


そうしてやってきた場所には…


“シャァァァァァァッ!!!”


「っ…」


巨大な蛇が縄張りに入ったのであろう狼型のモンスターを威嚇する姿が見えた。


「…おっと…ナイスタイミングと言うべきかな?」


「…大きい」


「…あれが、現在この大林山で主とされているバジリスクです」


「…あれが」


「…普通のバジリスクより2回りぐらい太いですかね…とにかく、ギルドからは今の所討伐依頼も出てませんし、手出し無用とされてますね」


遠くから見ているこの状態で尚且つ狙われてすらいないというのに圧が凄いからな。


触らぬ神になんとやらだ。


「…なるほど…あっ食べちゃった」


スゥナレアさんが、そんな事をつぶやく。


どうやらバジリスクが狼型のモンスターを捕食したのだろう。


まぁ、あのサイズなら簡単だな。


「…手出しは絶対無しでと言った意味理解いただけました?」


「…うん。2人じゃちょっと厳しいと思う」


「…いや、かなり厳しいですからねっ?。というか、俺含めないでくださいよ。戦力に含めるなんてとんでもない」


「…普通に戦えるでしょ?」


「いやいや、場合によりますって…」


そんな過度な期待されても困りますからっ。


「…それじゃ、一旦帰りましょうか。こっちに意識を向かれても困りますからね」


「…うん」


そうして観察も程々にしつつ、ギルドへと戻るのだった。




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