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感情薄めな剣聖と狂宴の道化師

物知りな道化師

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「…」


「…」


そして、何やかんやあり…


俺は…いや、“俺達”は大林山近くの森まで一緒に来ていた。


「後もう少しですかね」


「…長いね」


「まぁ…大林山は遠いですから」


と、苦笑いを浮かべる俺。


いや、俺自身もここまではくるつもりなかったというか…


…なら何で来たのか…


そう問われたら単なる人助けに近い。


そして、何故これたかと言えば、偶然にもここに来れるクエストを俺が受けていたからだ。


…説明がわかりにくいって?


要するに、クエストを達成するための活動場所の問題だよ。


正直に言って、もっと近場でも達成出来るクエストを受注していたんだよ、俺は。


だが、目的のものは1箇所だけしか取れるってわけじゃない。


彼女の目的地だった大林山でも得る事が可能なわけ。


…なら、別に時間はかかるが手伝ったっていいだろって話でな。





…いや、正直にいうと…めんどくさい手続きをしないといけない云々の話は…無視するのが辛かったって話だ。


「ちなみに、結構寄り道しながら来ましたが…体力とか大丈夫ですか?」


「…うん。問題ない」


おぉ…


クラスはわからないが、確かに平気そうだ。





てか、まじで何をしに大林山に…?


勧誘した瞬間に行くの一言を出すくらいだから、それなりの用事があるんだろうが…


…少なくとも悪さとかじゃないはずだ。


じゃなきゃ、ギルドを通して行こうなんてしないだろうし…





まぁ、考えても仕方ないか。


とりあえず、俺は俺でまた寄り道しながら…


…ん、何の寄り道かって?


そんなの、他の受けた依頼に関してに決まってるだろ。


「…おっ、マルの実がこんなにたくさんある、珍しいー。すみませんがちょっと待っててくださいね」


「…」


コクリと彼女が頷くのをみれば、俺はロープを取り出し、放り投げた。


「…“蛇の曲芸”」


投げたロープはスキルにより、俺の意思に従って伸び、木の枝に絡みついた。


よしっ、いい感じに枝に絡みついた。


「…ぉぉ」


まるで石を持ったかの様に動いたロープに声を漏らす彼女。


まぁ、これはちょっと驚くというか実物ではあるよな。


「よっと…っとっ」


そして、俺は絡みついたロープを前後に引っ張り揺らしていく。


“ぼたぼたぼたぼたっ”


揺らすたびに、大量のマルの実が落ちてきた。


マルの実は高いとこに出来がちな木の実なんだが、簡単に枝から取れやすい。


だからこうやって揺らすだけで簡単に落ちてくるわけで…


手段がなけりゃ取りにくいが、手段があるなら楽に取れる面倒な納品物の1つだな。


「…上手だね」


「ん…いや、それほどでも無いですよ」


と、そばで見ていた軽装の女性。


ストレートで薄水色な長髪で、無表情に近いがどこか愛らしさがある彼女が話しかけてきた。


スゥナレアさんというらしい。


「…そんな事ないよ。スキルをスムーズに使えてたから」


「そうですかね?」


「…うん。道化師のスキルは初めて見たけど」


まぁ、道化師で冒険者やってる人なんてそうそういないからな。


「…意外と便利そう」


「そうでも無いですよ、あくまで芸でしか無いですから」


と自嘲気味な俺だが、何も間違っていないというか…


…まぁ、要するに曲芸の域を出ないってな。


何かに巻き付かせれたとしても、一気に縛り上げるとか、ムチのように弾くとかは出来ないって事だ。


「…そう?」


「えぇ。どう転んでもモンスターを倒せる火力は出ないですし、こまわりがきくと言っても限度がありますからね」


「…なかなかに難しい」


「…まさにおっしゃる通り…」


改めて言われると辛いなぁ。


「…なので、モンスターが出てきても戦闘は避ける方でお願いしますね。完全に足引っ張る可能性ありますし」


「…わかった」


…ふぅ、話がわかる人でよかった。


「…さて、これぐらいかな」


「…たくさん」


小袋いっぱいに回収したマルの実。


袋がパンパンになる程詰められていた。


「複数のクエストの納品対象でしたからね。これぐらい必要なんですよ」


「…なるほど…でも、もう一袋ある?」


と、今のとは別の袋を指差した。


「あぁ、そっちは自分用ですね」


「…自分用?」


「えぇ。マルの実は意外と利用価値が広くて」


「…どんな?」


「錬金術や鍛治の素材としても使われますし、食料や…ちょっとした活性剤としても便利なんですよ」


意外と高いんだぜ、この実。


だから、今回こんなに取れたのはマジでありがたい。


ちょっとした小遣いにもなるし、自分で使う分のストック分も十分なほどだ。


「…物知り」


「これくらい常識ですよ。さて、お待たせしてすみません。行きましょうか」


「…うん」


と、この袋を鞄の中に仕舞えば再び大林山に向かって歩き始めた。

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