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感情薄めな剣聖と狂宴の道化師

小さな偶然からの出会い

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翌日、俺はまたギルドを訪れた。


理由はもちろん、クエストをこなすためだ。


「んー…これと…これ…後これかね」


クエストボードに貼られた依頼書の中から手頃な“誰もやりたがらないような依頼”を選んでいく。


ん?


何でそんな依頼ばっかりを選ぶのかって?


んなの、俺1人じゃこれくらいが限界って事だからだよ。


それに、“求められてたりするからな”。


「すみませーん、今回はこれでー」


「はい、シャールさん。いつもありがとうございますっ」


と、深々と頭を下げてくる受付嬢さん。


そういや、いつもこの人だな。


俺が1人で受けにくる時は…


ブロンドのショートヘアーで、可愛らしい顔つき。


さらに言えば、スタイルもなかなかにいいから、冒険者内でもかなり人気なんだよなぁ…





いや、変な目で見てないからね?


「別にそんな感謝される事じゃ…それに、俺に出来るのはこれぐらいですし」


「いえ、だからこそですよっ。シャールさんみたいに、こういったクエストをこなしてくれる人は少ないので…“お蔵入り”にならなくて済みます」


お蔵入りのクエスト。


いつまでも達成されないクエストなんかをそう呼んだりする。


そもそもだが、クエストの内容、それに報酬を含めて千差万別だ。


比較的簡単で高額なクエストもあれば、安いのに高難易度なクエストもある。


…冒険者も生活がかかってるからな。


まだ高難易度ならば名を売るためとかで受ける奴もいるが、俺が持ってきた“めちゃくちゃ簡単だが面倒で安い依頼”は溜まりがちなんだよなぁ。


「正直、名前が売れるようなクエストに憧れはありますけど…流石に俺だと厳しいですから」


道化師ってクラスかいかに戦闘や探索向きじゃ無いかわかるわ。


「まぁ…目に見える形の報酬はアレですが……でも、少なくとも受けてくださった方々は感謝されてますからっ…まぁ…それだけと言われたらそれだけですけど…」


「いやいや、いいんですよっ。道化師に金銀財宝は似合いませんからっ」


にっと笑顔を作りながらポンっと花を出してみたりする俺。


報酬が高い方がいいのは確かだが、だからと言って必ずしも満足するとは限らないって事だ。


「ふふ…シャールさんは変わってますね」


「まぁ、道化師ですから」


…それに、この依頼の中には子供たち、もしくは子供たちのために出したであろう依頼も含まれていれる。


…子供達を笑顔にするのは道化師の役目ってな。


「…はい、こちら受諾いたしました。シャールさん、お気をつけて」


「ありがとうございます。それじゃこれで」


と、会話もそこまでで離れようとする。




のだが…




「…んー…そう仰られても…」


「…そこを何とか」


「…しかしですね…本当にご要望に沿ってお任せできるようなクエストが無いのは事実でして…」


「…困った」




何だか困っている受付嬢さんと、軽装の女性の姿が目に映った。


いや、現実に“困った”っていう人初めて見たから注目してしまったんだが…


「…どうしたんです…あれ?」


「あー……何と言いますか…ちょっとタイミングがぁ…」


「…タイミング?」


「…実はですね」


と、話を聞いてみれば何やらとある地域に出たいのだが…何でもその辺りに関するクエストが無いのだとか。


「またそれは…」


「最悪、何も“援助なく向かう”とまで仰られてまして」


「…それはまた…凄い事を…」


結論から言えば、彼女が目的の地域に入る事は出来なくは無い。


だが、当然その場所、もしくは道中が誰かの私有地だったりすれば手続きなく入るのは難しい。


さらには、クエストとして受けていない以上、ギルドからの援助として目的地までの移動や特別な支援物資なども無いという状態になる。


ようするに、“本人が勝手にやっている”という状態が生まれるだけだ。


必要な手続きや、用意を自分だけで行うと言うなら別に構わないのだが…当然ながら冒険者なら皆やりたがらない。


面倒な事が増えるだけで、メリットが少ないからな。


特にどっかの私有地に入るとかなったら余計に。


「…でも、それでも行きたいところがあるって事なんですよね」


「おそらくは…」


「…一体何を……いや、詮索はダメですね」


誰しもそれなりの理由があるからな…


変に勘繰るのは良く無いか…


とりあえず、俺は俺の依頼を…




「…大林山の近くのクエストでも構わない」


「…残念ながら、その付近一帯の事態が…」


「…むむむ」




…あれぇ?


今、大林山って言った?


「…仕方がない」


「あの…本当にお1人で?」


「…うん。無理を言って申し訳ない」


「いえこちらこそっ、お役に立てず申し訳ございませんっ」


…どうやら本気で1人で行くらしい…





…いやまぁ…


…変な偶然もあるもんだな…うん。


「では、お手数ですが」


「…あのぉ」


「…ん?」


軽装の女性がこちらに顔を向けた。


「…どうかした?」


「シャールさん?」


「いやその…偶然聞こえたんですけど……大林山に行きたいんですよね?」


「…うん。だけど」


「あぁ、えーとっ。無いんですよね、手頃なのっ」


「…うん」


「…よければ何ですが……“大林山にも行けるクエスト”があるんで…一緒に行きます?」


「…え?」
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