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光り物だらけで売れない道化師…しかし、大事にはされている

信じる信じないも人次第

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「…それは本当かい、シャール?」


「あぁ」


俺たちは武具屋を後にした後、エバンスと合流し、過程の話をした。


「…」


「…どう思う?」


「…もし、シャールの言う通りなら…かなりまずいかもしれない」


エバンスから珍しく、重苦しい声色が出た。


確かに、マルチポイズンスライムの危険さは高いものだと考えてた。


町の状態がどれだけの脅威さであるかを物語っていたから…


だが、もし仮定が事実ならばその危険度は未知数となる。


「…ギルドとしても聞いた事はありません…少なくともこれまで一度も…」


一緒に話を聞いていた受付嬢が信じられない…いや、信じたくないと言う表情で呟いた。


「…だが、そういった個体は存在する…そうでしょ?」


「…それは…」


「…俺だって自分で仮定を立てながらも信じたくないって思ってますよ……さらに最悪な状況も…」


「…これ以上…最悪…」


引き攣った笑みというのは、本当に信じられない時しか見られないというが、受付嬢の表情はまさにそれだった。


「…もちろん確証はない。何しろ“現物”がないからな」


「…だからこその仮定…か…」


「…至急、ギルドマスターに」


「その必要はないよ」


受付嬢がギルドマスターを呼ぼうとしたところ、上司らしき人が止めに入った。


「ですがッ…」


「確証もない話をマスターに話したって仕方がない。何より、低クラスの道化師が考えた内容なんだからホラの可能性の方が高いだろ」


「…何ですって?」


上司らしき男性が言った言葉に、エバンスの雰囲気がやばくなる。


「勇者パーティーの中じゃ役立たずなんでしょ?なら目立とうとしてホラを吹いたっておかしくないじゃないか。それくらい見分けがつけられるようにならないと昇給なんてできないよ?。それに君も馬鹿らしい話を出さないでくれるかな?。僕らは仕事をしているんだ。甘い蜜を吸って遊んでるような君にかまっている暇なんてないんだから」


と俺を馬鹿にしたようにいう職員。


…これはまずい…


いや、かなりまずい。


俺の事を馬鹿にされることについて俺自身は別に構いはしない。


むしろ、こんな道化師に付き合うエバンス達の心配をしちまうぐらいだしっ…


別にへこたれたり、悔しく思うつもりもない。


だって事実、役に立ってるかと言われれば言葉に詰まるぐらいだ。


謙遜とかそんなんじゃない。


知識でも準備でも他のやつで、しかもさらに功績をあげれる奴がいるのを知ってるし、認めてるからだ。


でもエバンスは違う。


いや、エバンスだけじゃない。


背後にいるマリーナやエリナ、温厚なリメルダからもただならぬ殺気を噴出しているッ!?


マジかッ!?


ガンッ!!


「ひッ…!?」


「…すまない…最近耳が悪くなったようだ…もう一度言ってくれないかね?」


「…え…エバンスっ?…俺は気にしてないからよっ」


「リメルダ」


「承知」


「あっおいッ、リメルダ!?」


俺を羽交い締めにするリメルダ。


理由はわかる。


これから行う事を俺に止められないためだ。


「……ッ…」


職員はしゃべらない。


いや、むしろ声を出せない。


仮にも勇者の殺気を全身に浴びせられている…しかも加えてAランクパーティーの上位クラス全員からだ。


戦場を生き抜いてきた猛者達の殺気を素人が受けて平然としていられるはずがない。


周りの無関係な低ランク冒険者は、さっきの余波で白目を剥いて気絶しているし。


何とか耐えた者やちゃんと殺気を感じ取れた面々は安全を確保するために部屋の隅に移動済み。


そりゃそうだ。


自分の失態ならまだしも、馬鹿な職員のせいで被害なんて被りたくない。


“ぁぁもうッ!…だからこのパーティーは居づらいんだよッ…!”


エバンス達は人間性で言えば善人だが、力を持った善人だ。


だからこそ、こんな結果になる。


俺は必死にもがいてみるが、女性といえど力の差は歴然…全くもってびくともしないっ。


うわッマジで俺情けなッ!?


「…もちろん、シャールの言う事が全てが事実というわけじゃない…そこは理解しているつもりだ…だが、彼も冒険者。しかも、僕らの仲間だ。役立たずなんて思ったこともないし、彼には助けてもらってばかりだ……で、なんだっけ?。馬鹿らしい?ホラ話?遊んでいる?」


「……ッ」


「エバンス待てってッ!!おい!!?」


「異議があるなら、ちゃんと反論という手段を持って議題とすべきだ。それをただ道化師だからという理由で捨て置けるものだとおもっているのかね?…それに、下位クラスの道化師というものがそんなに悪いものなのか?。役に立たないと誰が決めた?。君がどんなクラスか知らないが……彼より役立つと?…なら手始めにゴブリンの巣穴にでも放り込んでみようか」


「…ッ!!?」


職員の顔がさらに絶望に染まる。


何故モンスターにランク付けをしているのか?


それは、モンスター達の脅威度を明確にするためだ。


実力がともあわない冒険者が挑まないようにするための一種の安全…いや、抑制処置だ。


冒険者は対象モンスターのランクを意識してクエストを受注したりするのが一般的だが、例外はいくつか存在する。


その1つが巣穴関連のクエストだ。


どんな低ランクのモンスターでも、巣穴となれば一気に難易度が跳ね上がる…生存の難易度が…


「言っておくがゴブリンの次はオーク、吸血蝙蝠、ツインクロコダイル…そしてドラゴンだ…もちろん安心してほしい。公平をきすためにシャールと同じ装備は用意しよう…彼は普通に生き延び、さらには実績まであげるからね」


いや無理だからねッ!?


ゴブリンならともかくドラゴンとか洒落にならんしっッ!?


そんな経験ッ……あっ…そういえば確か、ドラゴンの鱗最中に死に物狂いで逃げたことがあったような…いやいやいやいやっ、今はそんなのはどうでもいいッ!!


俺はエバンスを止めるために必死にもがく。


何故ならば、今にも相手を殺してしまいそうなほど鋭い殺気を放っている。


このままだと、メンバーのッ…ひいてはエバンスの王位継承権にも響きかねないッ!


「エバンスッとまッ!?」


「なんだい、うるさいねぇ」


奥の扉が開くと眠たそうに、髪の毛がボサボサ状態な女性が現れた。


「……」


しかし、エバンスは気にもしない。


ただ目の前の罪人を裁くことのみに意識を割いているから…それ以外に興味などないという姿勢だった。


だが現れた女性もエバンスを気にしない。


それどころか、頭に手を当てながら周りをジーと眺めて…


「…とりあえず」


「ふごぉッ!?」


エバンス達の殺気で硬直状態にあった職員の顔面を思いっきり殴り飛ばした。



…どごぉぉぉぉおん!!!


「…あ…やべ、力入れすぎたか」


殴り飛ばされた職員は壁に当たるが止まらずそのままめり込み、壁を打ち抜く弾丸となった。
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