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光亡き獣と元同僚の女騎士団長

好き嫌いは人それぞれだと、おじさん実感しました。

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そして、移動して数分後。


おじさん達は目的地である飲み屋件飯屋に到着しました。


いやぁ、結構時間かかりましたかねぇ。


まぁ、副団長様がこんな状態だから仕方ないっちゃ無いんですがね。


「どもー」


「あら、アーノルドさん。いらっしゃい!」


扉を開けて中に入れば、元気の良い看板娘のビアンカちゃんの声が聞こえてきました。


いやぁ、この子がまた良い子でしてねぇ。


おじさんみたいな人にも分け隔てなく接客してくれるんですよ~。


まだ20代前半なのに、良く出来た人です。


「…あれ、そちらさんは?」


「あー…そうですねぇ」


副団長様が気になったビアンカさんに、どう説明したものかと口篭ってしまう。


仕事仲間…と言って良いのか…


…いやでもなぁ…


上司ってわけでも……そもそもおじさん、騎士でも無いしなぁ…


どう言葉にしたものですかねぇ…


「…あえて言葉にするならぁ…協力者…ですがねぇ」


「きょ…協力?」


「…まぁ、ちぃとばかし話がややこしいんですよ……とりあえず、騎士様に協力する事になった程度の認識で大丈夫ですよ」


「…騎士…あぁ、先日いらしたという…あの…」


流石飲み食いする場所と言うべきですかね。


情報の集まりが早い。


「えぇ、そこの副団長様」


「えっ、それはまたっ……というか、どうされたんですか?」


と、ようやくおじさんが肩を貸している事にツッコンでくれたビアンカさん。


まぁ、普通ならこんな状態で飲み屋には来ないですよねぇ。


「いやぁ、ちょっと話しながら飲もうって事になりましてねぇっ」


「…飲み食いしてくれるのは嬉しいけど……先に薬屋とかに向かった方が…」


「いやいやいや、大丈夫大丈夫。むしろここが1番の最適地ですから」


「…そうなんですか?」


「そうなんですよ。とりあえずてん“アレ”…お願いしますよ」


にっとおじさんなりの笑みを浮かべながらお願いしてみたり。


「…“アレ”?……というと……まさかっ」


少し考えたのち、何を求められているのか理解したようで驚いた表情を浮かべた。


「…どうしてまたっ…」


「…ダメですかね?」


「ダメ…じゃないけど……わざわざ飲ませるようなものじゃ…」


「いやぁ、おじさんも考えたんだけどね…なんだかんだ、最終的には“アレ”飲ませた方が早いって感じになりまして……ほんと、肉体面の負傷じゃなくて精神面での負傷ですから」


あとまぁ…手っ取り早いんでね?


「……精神面…なるほど、確かに“アレ”なら最適かもしれないけど」


「でしょぅ?。それにおじさんのお勧めですし」


あっ、ちなみにこれマジのおすすめです。


「…お勧めしてるのはアーノルドさんくらいですよ……というか、本当に“アレ”を飲ませるんですか?」


「もちろん」


「…“アレ”が何かは」


「もちろん知りませんよ?」


「えぇーっ……知りませんよじゃないよぉ……」


はぁ…と深いため息を吐くミランダさん。


そんなに問題ですかねぇ?


「まぁまぁ、とりあえず飲ませましょうよ。その方が手っ取り早いですし」


「…アーノルドさん…ただ早く終わらせるためだけに“アレ”飲ませようとしてます?」


おぉ、大正解。


「いやぁ…流石ミランダさん。何でもお見通しですねぇ」


「ふふんっ、そりゃアーノルドさんは常連さんですからねっ」


「いやぁ、おじさん完敗ですわぁ。よっ、村1の美人看板娘っ」


「なッ…!?///…へ…変に煽てたってサービス無しですからッ…!///」


ありゃ?


怒らせちゃいましたかね?


「…んんっ……もぅ…人の気も知らずにっ…」


「…?」


「…何でもありません。それで、なんでいきなり“アレ”を飲ませたいんですか?」


「まぁぶっちゃけますとさっさと足腰立たせたいんで」


他に方法はあるとはいえ、確実性で思いついたのが“アレ”なんでね。


「…腰が抜けちゃったんですか?」


「いやぁ…似たような感じですかねぇ…ちぃとばかり、“光なき森”に近寄ったもんですから」


「…“光なき森”に?」


「えぇ…詳しい事は省きますが…この騎士様方は、森の調査に来たらしいんですよ。それでおじさんもお手伝いする事に」


「……何かあったんですか?」


「いや、今の所皆を危険に晒すような事は…ただ、少しばかり敏感になってるみたいでねぇ……かなりの奴に睨まれたみたい」


まぁ、もっとも。


他の騎士様方だと、腰が抜ける程度で済んだか…


わからないもんですけどね。


「……なるほど……だから……でも、“アレ”かぁ……確かにすぐ良くはなるだろうけど…」


「まぁ時間短縮って事で目を瞑ってくださいな。ちぃとばかり、この人の仲間達に状況説明しにゃならん状況なんですよ……流石にねぇ…こんな状態じゃ、威厳というか……まぁ、話し合いにはなりそうにないでしょ?」


「……まぁ…それはぁ…」


と、ミランダさんは副団長様を眺める。


おじさんが支えているとはいえ、大柄な男が足をプルプル振るわせてる姿にはなんとも言えないようで…


すげぇ、可哀想な…うん、温かい目で見てらっしゃる…


「…わかりました…すぐ用意しますから待っててくださいっ」


「すみませんねぇ。あっ、あと詫びってわけじゃないですが、このあと団体様がいらっしゃるから、それで許してくださいな」


「ふふっ、それならそうと早く言ってくださいよっ。まったく、これだからアーノルドさんは…」


と、キッチン奥に移動するミランダさん。


頼んだ“アレ”を作ってくれるようだ。


「……あ…“アレ”…とは?」


震えながら問いかけてくる副団長様。


空気を読んで黙っていたようですが、“アレ”について気になったようですねぇ。


「あー…薬…みたいなもんですね」


「薬……あの女性は、薬剤師…なのか?」


と首を傾げながら問いかけてきた。


まぁ、不思議そうにするのもおかしくは無いですね。


薬剤師だったら、飲み屋で働いてるとか思わないでしょうし。


「ちと違いますが、似たようなもんです」


実際は料理人だけど…まぁ、薬草類も食材として扱うから似たようなもんですよね。


「……あー、ちなみに副団長様。苦いお薬はだめ…とかあります?」


「…ふっ……馬鹿にしないでもらいたい…これでも貴族の端くれ……好きでは無いが、苦いのくらい何とも無いっ…」


「…あー…流石です」


…まぁ、その言葉を信じましょうか…


「…とりあえず、壁がある席へ」


「う…うむ…」


のっそりのっそりと、2人して進んでいきます。


まぁ、足腰に力が入らないとねぇ…


マジで歩けないからゆっくりなのよ…


…大半がおじさんサポートだから、そこは勘弁してほしいなぁ…


「…さぁ、どうぞ」


「…ふぅ……少しは楽になった…感謝する」


と兜をとりながら、素直にお礼を言いなさった。


おそらくいつも以上に鎧とかが重く感じたのだろう。


…まぁ、体を支える下半身がダメになってるんだからそうなりますよね。


「はい、おまたせしましたぁ」


と、タイミングよく木のジョッキを持ったミランダさんがこちらにやってきた。


「相変わらず早いですねぇ」


「慣れですよ。簡単に作れるように準備だけはしてるんですっ…アーノルドさん以外にも…たまにこれを飲みたいって人もいますから…アーノルドさん以外にも」


「…美味しいと思うんですけどねぇ~。それに体にも良いし」


「…体に良いのは認めますけど……まぁ、味覚は人それぞれでしょうか……」


と、呆れた顔をしながら副団長様の前に…


「こ…これか?」


と、少し恐ろしげにコチラに問いかけてくる。


まぁ確かに…


めちゃくちゃ紫色な液体ですから…少し…見た目は怖いでしょうね。


「えぇ、そうですよ」


「…騎士さん……飲むなら一気に飲みほす事をお勧めします」


「む……しょ…承知した…」


ゆっくりとジョッキを手に取れば香りを嗅ぐ。


その姿にどこか貴族様らしい上品さが見え隠れしてますねぇ~。


「…ふむ…濃厚そうだが……変な匂いでは無いな…むしろ、熟成され丁寧に加工された果物酒のような…」


「…えっ…わかるんですかっ?」


「ふっ…これでも食には広く手を出しておるからな」


「…経験則から推測したって事ですかい」


「まぁそんなところだ」


「…純粋に凄いですねぇ…」


今までに嗅いだだけで、ベース部分とか当てられた人はいなかったはずなんですが…


やはり、世界にはいろんな人がいるもんだわ…


「……ではいざっ……んんッ!」


「あッ!?」


「…おぉ、良い飲みっぷり」


「ングングングっ!」


まるで酒でも呑んでいるように、豪快に一気飲み。


おじさん達はその勇ましい姿を見て呆気にとられていたわけですよ…


…ん?


なんでかって?


そりゃもちろん…


“ガンッ…!”


ちょうど飲み干した副団長様が、腕を振り下ろし、空になったジョッキをテーブルに叩きつけた。


「……」


振り下ろした後、何も言わずにたたただ沈黙が流れる。


「…あー…副団長様ぁ?」


「…だ…大丈夫かい?」


















“ガラッ…”


「失礼します。こちらにアーノルド達が来てい」


「んがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああいぃぃぃぃぃぃ!!!???」


「ッ!?」


ちょうど騎士団様達が入って来たタイミングで、副団長様が魂の絶叫をぶちかましました。


そして、くだんの副団長様は海老反りになったままびくんびくんとすごい震えていらっしゃいます…


えぇ、それはもう…釣り上げられた魚みたいに…


「…やっぱりこうなりましたねぇ…」


「これで気に入ってくれると良いんですけどねぇ~」


「…気にいりはしないかと………わかりませんが…」


いやいや、やみつきになった人たちも最初はこんな反応だったとおじさん記憶してますよ。


ただ、皆さんあまりの“苦さ”にこぼしてましたが…


副団長様は一滴もこぼさず……


食事に対して絶対残さない無駄にしないという意図を感じますねぇ。


おじさん感服です。


「…ぁ…あの……」


「ん…あぁ、騎士団長様方。ご到着したようで何より。道中迷ったりとか大丈夫でしたかい?」


「ぁ…あぁ…それは問題なかったが……副団長はいったい…?」


「いやぁ…ちょっとお酒を」


「お酒…?」


「えぇ…この店名物の“激苦気付け酒”を」


「…勝手に名物にしないでください…アーノルドさん…」


「…」


何ともいえない表情で、悶える副団長様の姿を見つめる騎士団御一行様。


そりゃ、変な悶え方をしている人がいたらねぇ?


…えっ、誰のせいだって?





…いやぁ、おじさんわからないなぁ。


「…あー…まぁ、命の危険が無いことは保証しますよ。しばらくすれば、落ち着くでしょうし」


「そ…そうですか…」


「…美味いと思うんですけどねぇ…」


「…認めてください。本当に美味しいと言ってるのはアーノルドさんくらいですよ」


「…ミランダさん、何か特別なものとか…」


「いれてませんっ」


…まぁ、味覚はそれぞれって事ですかね…

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