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第1章 魔物使いの弟子
弟子との初めてのクエスト
しおりを挟む「んふふふぅ~」
「…ご機嫌だな」
「それはそうですよ~、オシショウと一緒なんですから~。んふふふぅ~」
ミーアに抱き抱えられながら森の中を移動している俺達。
ギルドを出てからずっと俺を抱き抱えてるミーアは終始鼻歌をするぐらいご機嫌なご様子…
いや、ご機嫌なのはいいんだが…
正直、腕が辛くないか心配だ。
スライムといえど、西瓜より少し大きいサイズ…
それなりの重さはあると思うんだけどなぁ…
「…そうか、まぁミーアが嬉しいのなら構わないんだが……てか、重いだろ。自分で歩くぞ?」
「だーめ!。オシショウは私が抱えて動きますから!」
「…ぉ…おぅ…」
自分でも疑問に思うんだが…
どれだけミーアに好かれてるんだ…?
いや、嫌われるよりは全然いいんだけれども…
…
…やっぱり、死んだと思った相手がスライムだろうと戻ってきたのは嬉しいのかね?。
…まぁそれなら、俺も戻ってきたかいがあったってもんなんだが…
…
…
…さて…
「情報によればこの辺りか?」
暫くすれば目的の場所。
森の中にある綺麗な湖に到着した。
「はい。この湖の水を飲みにきているらしいです」
「ふむ…だが、周りにはいないみたいだな…時間帯を間違えたか?」
「…たまたま今日はまだ飲みに来る気分じゃないってだけかもしれませんねぇ…」
2人して周りを見渡すが目的の存在は見当たらない。
俺達はあの生意気な受付嬢が用意したクエストをこなすためにここに来ていた。
クエストの内容は一本角鹿の狩猟だ。
何でも、モンスターを食すのが好きな貴族からの依頼だとかでかなりの報酬が期待できるクエストだった。
しかし、依頼があるにもかかわらずやろうとする冒険者がおらず、暫く放置されてたらしい…
いわゆるお蔵入り案件だ。
正直、そんな化石みたいなクエストをやらせるつもりか?…と思って、少し圧をかけてみたんだが…
まぁ、震えながら必死に事情を説明してくれたよ。
とりあえず、報酬は確約されているらしく、今もまだ終わらないのかと背中をつっつかれてるとのこと…
あんな光景を見た後でこんな特殊な依頼を持ってくる精神を疑うところだが…
報酬金額は本当に良かったからな、受けることにした。
「しかし、貴族様も難儀だな。モンスターを食べるってだけできみわるがられて誰もやってくれないとは…」
「…確かに変なイメージはついちゃうのかもですねぇ」
「…まぁ、モンスターだからなぁ……そう思われても仕方ないんだろうが…実際“美味い”からな、一本角鹿は」
正直に言えば、俺からすれば獣もモンスターもあまり変わりはない。
だから、食べるって事に関して違和感がないわけだ。
中には獣より美味いのはいるし、不味いのもいる…これは獣の場合でも同じだ。
そもそも、モンスターという括りは人間側がそう決めたものだしな。
本来で言えば自然界の中で生息する生物…弱肉強食が当たり前の世界なんだからモンスターだろうが食べたっておかしくはないだろうに…
てか、俺と弟子達は普通に食ってたし。
「一本角鹿のステーキ……じゅるり…」
「おいおい…今回俺らは食べる目的じゃないぞー?」
「あっ…すみませんっ…長い事味気ないパンばかりだったので…」
「…よし、多めに狩るか」
そして、帰ったらアイツらにまたお話ししないとな。
「えッいいんですかっ!?」
「必要な分は収めてたら問題ないだろ。そもそも、狩るのはこっちだしな」
可愛い弟子だからと甘やかすのもどうなんだと言われそうだが…
やっぱり小さい頃から見てきてるからな…
どうにも甘やかしちまうんだよなぁ…
まぁ、自分自身がスライムになったり、弟子が子供ではなく年頃の娘になってたとしてもねっ!
「はい!!」
やる気が出たのか、ミーアは意気揚々と生前(?)教えた捕獲用の罠を作っていく。
うんうん。
やっぱり、弟子の元気な姿はいいもんだ。
◇◇◇◇◇◇
暫く経てば、ミーアが用意した罠に一本角鹿がかかっていた。
どうやら、事前に仕入れた情報に間違いはなかったようだ。
「わぁぁっ…たくさんかかりましたねぇぇっ」
「…あぁ、そうだな」
ミーアが用意した罠は縄と太めの枝、それに餌があれば作れる簡単な罠だ。
一本角鹿は名前の通り、額から生える角が特徴的なんだが…
これがかなり重たい。
そんな角を頭に生やしているわけだからな…
一本角鹿自身も頭を下げてしまう始末…
つまり、前があんまり見えてないんだ。
だから、こんな簡単な罠…
餌を食べようとすれば首に縄がかかり、引っ張れば締められる…そんな罠一つで捕獲するのも容易なモンスターだ。
…だが、危険な部分もある。
頑丈な角で突進されれば人間の体なんて貫けるし、横なぎでもその丈量のせいで骨折やら弾き飛ばされたりやら…まぁだてにモンスターではないって事だな…
ポピュラーなモンスターに分類され、草食ではあるんだが中々に危険だったりする。
倒せないわけじゃないが、それなりに警戒しなきゃ逆に怪我しちまうレベルだ。
……
…しかし…
「…数が少ないな…」
ミーアが仕掛けた罠は10個…
対して、罠にかかったのは3匹…
納品に加えて、自分達が食べる分をかみしても量としては十分だが、捕まえられた数が少ない…
これまでの経験上、半分以上は大抵捕まえられるはずなんだが…
…ミーアの罠も悪くないし…今はそういう時期なのかね?
「…とりあえず」
俺はスライムの体を動かして形状変化させる。
すぅぅっと音もなく、流体だったスライムがナイフのように鋭い形状に変わっていく。
そして、素早く捕まえた一本角鹿達の急所に差し込んだ。
「…よし、後は持って帰るだけだな」
絶命させ、肉が劣化しないように処理すれば、慣れた手つきで解体していく。
…スライムの体で慣れた手つきって言い方もおかしいな…うん…
「お~…オシショウ、スライムの体を使いこなしてる…すごぉい…」
「これくらい簡単なもん…と言いたいが、まだまだぎこちないし練習が必要かもな…」
順応ってのは凄いもんで、ある程度ならスライムの体を思い通りに動かせるようになりつつある。
…まぁ、まだぎこちないとこもあるから練習は必要だが…
その内、さっきみたいな形状変化を行いながら、相手の懐に入るみたいな器用なこともできるようになるだろうな…
「…さて、さっさと依頼主に持ってくか」
「ギルドに通さなくていいですかね?」
「あぁ、どうやら今回の依頼主はモンスターを食べるってことからあまり好かれてないみたいだし…依頼書にもすぐ持ってきて欲しいって書かれてたからな」
「それなら問題なさそうですねぇ~」
と俺達は慣れた手つきで解体し、持ち運びやすくすれば、森の外に用意していた荷車に積んでいく。
…初めてのクエストだったが…案外簡単に終わるもんなんだな。
…何か、弟子達を見てた時みたいで懐かしいわ…
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