竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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第三章

08.マルティア国第一王子

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 私達は要塞で、最初に通された談話室に案内された。
「こちらなら安全です。すぐにネイトも参ります」
 と護衛の騎士様がおっしゃる。
「それよりアラン様は……あっ……」
 私は、最後まで言葉を口に出来なかった。突然体が熱くなる。
「エルシー様」
 傾いだ体をジェローム様が支えてくれる。
 さっき私を庇ってくれたマルティアの人が呻く。
「ああ……やはり、あなた様がエルシー様でしたか……」

 変身が解けたみたいだ。
 元のエルシーに戻ったのでピッタリだった服はかなり余っている。
「あの、さっきは庇ってくれてありがとうございます」
 お礼を言うと、マルティアの人は目を潤ませる。
「いえ、とんでもございません。あれだけのことしか出来ず申し訳なく思っております。ですが、マルティアの者達の気持ちは同じ。皆、何を聞かれてもあなた様を庇われた騎士の方をエルシー様と偽るでしょう」

 その言葉にハッと我に返ったようで、リーン君が叫んだ。
「そうです。どうしてアラン様がエルシー様の身代わりに?大体、あの人、誰ですか?」
 とリーン君が私に変わって大体聞きたいことを聞いてくれた。
「あれはマルティア国の第一王子です」
 と教えてくれたのは、マルティアの人だ。

「マルティア国の第一王子?どういうことですか?」
「実は……」
 と話は良い感じに進み始めたが、ドタドタと廊下を駆ける足音が聞こえてくる。
「エルシー様、エルシー様、ご無事でございますか?」
 と駆け込んできたのはネイト様だ。
「あんたこそ、大丈夫なの?」
「ああ、兄さん、僕は大丈夫。アラン君も変身薬を飲んで、引き続き偽のエルシー様やっている。彼らまんまと騙されているよ。ところであの人、誰だったのかな」
「マルティア国の第一王子ですって」
 ネイト様は顎に手を当て呟いた。
「あれがボンクラで有名なマルティアの第一王子か……。なるほど」
「あんた、そういうところさ、直しなさいよ。いくらなんでも失礼よ」
 ジェローム様がたしなめる。
 だが、マルティアの人が言った。
「はい。あの方がボンクラで有名な第一王子です。本来はマルティアも長子が王太子になるのが慣例なのですが、あの方が王となるのを皆、不安がり三人の王子が王位を争うことになりました」
 マルティアの人は、元はマルティアの王宮に勤めていた第三騎士団長という偉かった人だったらしい。
 なので、王族のこともよく知っているのだ。

「お国のグレン王子殿下のような方が王太子様ならば何の憂いもありますまいに」
 マルティアの人に羨ましがられた。
 だが、ジェローム様が言う。
「王子はありゃあ、あれで、ひでぇのよ」
「報連相しないですしね」
 ジェロームはふぅーっと大きなため息をつき、首を左右に振った。
「エルシー様、あれでもマシになったのよ。昔は一日に数個、単語しか喋んない奴だったのよ」
 ジェロームは、幼なじみだ。
 色々あったらしい。

 正直、そっちの方が興味あるが、「えーと、あの第一王子、何しに来たんでしょう」と聞いてみた。
「熱病騒ぎで、避難先の国を追い出されたと聞きました」
 とマルティアの人が答えてくれた。
 ネイト様はそう言うと思い当たることがあったようだ。うんうんと大きく頷く。
「あー、ありそうだね。ここ数日、そういう人が増えている。第一王子様もか」
「ネイト、どうするの?」
 ネイト様は、ここの責任者なのだ。
 ネイト様はうーんと腕組みして考え込んだ。
「取りあえず、王子を待とう。今、ご一行は要塞の貴賓室にいるから王子がお帰りになるまでそこにいてもらう」
 問題の先送りである。

「あんたね、もっと主体性を持ちなさいよ」
 ネイト様はお兄ちゃんに注意された。
 だがネイト様は唇を尖らして言い返す。
「一介の官吏である僕の手に負えることじゃないよ、兄さん。グレン王子殿下は後二三日で戻られるし、第一王子を要塞の外に出すのは無理だ。彼は、というより王家はマルティアの人々から憎まれている。僕が何かして引っかき回すより、アラン君に第一王子の機嫌取ってもらって、数日凌いでグレン王子殿下の判断を仰ぐ。僕が考える最良はこれだ」
「えーと、アラン様は偽のエルシー役をしてますが、大丈夫ですかね」
「大丈夫っていうか、いざという時身代わりになるのは護衛の仕事よ。さっきみたいにあなたを逃がすためにね。アランちゃんが変身薬飲んだのはそういう理由」
 アラン様のカツラはちょっと私の髪の毛の色に似ていた。初めからアラン様は私の身代わりになるつもりだったらしい。
 ジェローム様がそう言い、護衛の騎士様も頷く。
「エルシー様、今はご自分のことだけお考え下さい。彼は大丈夫。心配いりません」

 確かに私に何が出来るわけではない。
 ここは騎士様の言う通り、足手まといにならないように振る舞うしかない。
「……分かりました。でも一つ質問があります。外国の王子様に嘘ついて、大丈夫なんでしょうか」
「あ、それはご心配に及びません。そもそも彼、もう王子ではないですから」
 とネイト様が言った。
「えっ、そうなんですか?」
「はい、我が国に入国したということは、身分を保証しないことに同意したわけです。彼もその側近達も元王子や元貴族でしかありません。だから歓迎の宴開いて欲しいとか言い出しましたが、却下しました」
「あと彼ら手荒なこともあまり出来ないはずなのよ」
 とこれはジェローム様が言った。
「えっ、どうして?」
「生粋の竜の国人のエルシー様や、アルステアの王子のリーン様はご存じないでしょうけど、この国は移民して一年間、罪を犯すと量刑が重くなったり、国外追放されるのよ。だからあまり過激なことは仕掛けてこないと思うんだけど、念のため、第一王子には絶対、近寄っちゃ駄目よ、エルシー様」
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