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第二章
12.王の戴冠
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「万能薬って、万病を治すとかあれですか?伝説の」
王子は頷く。
「あれだ。この薬草の一つは、世界でも数カ所でしか生えない貴重なものらしい。深手を負ったエステルと竜は死の間際、一縷の望みをかけてこのルルスの地にやってきた。そこで『星の乙女』に出会ったのだ。このことは王と王の妃にしか伝えられない秘匿だ。エルシーも誰にも言うなよ」
「怖くて言えませんよ!万能薬って本当にあったんですね……」
「世に言われるほど便利なものではないが、どんな傷も癒やすそうだ。門外不出の霊薬なのだ」
「へぇ、そうなんですか……」
とんでもないことを知ってしまった。
王家、コワイ。
あまり長くここに居て、怪しまれてはいけない。花冠を作り終わると私達はすぐに皆が待つ、戴冠式の会場に戻った。
天幕で母や侍女さん達に婚礼の支度をととのえて貰う。
私が着るのは、羊の毛を織って作ったワンピースだ。
エステルの時代に着ていたものを再現しているため、豪華ではないが、織り込まれた模様は花嫁衣装らしい華やかさがある。
その上から母が作ってくれたイラクサのストールをベールのように羽織る。
私はマント作成を私の母に協力してもらった。
ハタを織るのは母の方が断然に旨いし、機織りの道具も子爵家で使っていたものの方が手に馴染んでいる。
出来映え云々を考えると機織り専門家の人の方がいい気がするが、マントは花嫁が作るというところが大事らしい。
だったら私も母に習いたい、そう思ったのだ。
元々婚礼の花嫁衣装は花嫁と花嫁の母が仕立てるものなのだ。
我が家でも花嫁衣装を作ったのは母と花嫁である姉達だ。
母は最後の娘である私の衣装も自分で作る気で張り切っていたらしいが、私の結婚相手は王子である。
花嫁衣装は王宮のお針子さん達にお任せすることになり、母が多少落胆したのは知っている。
母も花嫁の母役で忙しかっただろうが、婚礼のマントを作る話は喜んで協力してくれた。
母は私に機織りとマントの作り方を教えながら、自分は私が使うよう、ストールを織ってくれたのだ。
私が支度を終えた頃、王子も準備が出来たようで別の天幕から出てくる。
王子も羊の毛の上着とズボン。そしてその上にイラクサのマントを羽織る。
男の人の服装は女性より更に簡素だ。
指に金の結婚指輪を填めてはいるが、身を飾る宝石の一つもなく、到底王子様の花婿衣装にも王の戴冠の礼服にも見えない。
だが王子には良く似合って、精悍にして威厳に溢れている。
その姿はエステルってこんな人かな?と思わせた。
そう考えたのは私だけではないらしい。何故か一同、示し合わせたように礼を執る。
王子は皆に対して一度頷き、私に言った。
「エルシー、星が出たら儀式を始める」
婚礼の儀式は夜、草原にある巨石を祭壇に見立て行われる。
天道を巡る星々に王の誕生と、王と王妃の結婚を伝えるのが王家の婚礼にして戴冠の儀式だそうだ。
儀式は簡単だ。
私が王子の頭に花冠を被せ、王子も私に花冠を被せる。
そして王子が戴冠を宣言する。
「我、水の求むに従い、風の求むに従い、火の求むに従い、地の求むに従い、星の求むに従い、この地の王とならん。異議ある者は今すぐ立ち去れ」
これだけである。
***
婚礼の儀式の後、王と王妃、つまり、王子と私はエステルと竜が匿われたという岩山の洞窟で一夜を過ごす。
婚礼の儀式をした草原から少し離れた山の中の洞窟である。
「こっ、ここですか?」
そこは確かに竜でも入れそうな大きな洞窟だった。
既に季節は秋なので、夜ともなると寒いのだが、洞窟からは更に冷え冷えとした空気が漂ってくる。
ここで一晩を過ごすのか?
王子は、王子という高貴な身分のくせに平気そうだ。
「そうだ。ゲルボルグは気を付けて帰れ。朝になったら迎えにこい」
と言うと、王子はゲルボルグの背中から荷物を降ろす。
「えっ、二人なんですか?」
「ゲルボルグがいてもいいが、エルシーが嫌ではないのか?」
「私が嫌なんですか?」
「婚礼の晩だぞ」
「あ、そうか、そうですね」
気付いて顔が赤らむ。
三度目の初夜である。
三度目ともなると、もう初夜感は大分薄いが、それでもゲルボルグが一緒は嫌というか、無理だ。
王子は頷く。
「あれだ。この薬草の一つは、世界でも数カ所でしか生えない貴重なものらしい。深手を負ったエステルと竜は死の間際、一縷の望みをかけてこのルルスの地にやってきた。そこで『星の乙女』に出会ったのだ。このことは王と王の妃にしか伝えられない秘匿だ。エルシーも誰にも言うなよ」
「怖くて言えませんよ!万能薬って本当にあったんですね……」
「世に言われるほど便利なものではないが、どんな傷も癒やすそうだ。門外不出の霊薬なのだ」
「へぇ、そうなんですか……」
とんでもないことを知ってしまった。
王家、コワイ。
あまり長くここに居て、怪しまれてはいけない。花冠を作り終わると私達はすぐに皆が待つ、戴冠式の会場に戻った。
天幕で母や侍女さん達に婚礼の支度をととのえて貰う。
私が着るのは、羊の毛を織って作ったワンピースだ。
エステルの時代に着ていたものを再現しているため、豪華ではないが、織り込まれた模様は花嫁衣装らしい華やかさがある。
その上から母が作ってくれたイラクサのストールをベールのように羽織る。
私はマント作成を私の母に協力してもらった。
ハタを織るのは母の方が断然に旨いし、機織りの道具も子爵家で使っていたものの方が手に馴染んでいる。
出来映え云々を考えると機織り専門家の人の方がいい気がするが、マントは花嫁が作るというところが大事らしい。
だったら私も母に習いたい、そう思ったのだ。
元々婚礼の花嫁衣装は花嫁と花嫁の母が仕立てるものなのだ。
我が家でも花嫁衣装を作ったのは母と花嫁である姉達だ。
母は最後の娘である私の衣装も自分で作る気で張り切っていたらしいが、私の結婚相手は王子である。
花嫁衣装は王宮のお針子さん達にお任せすることになり、母が多少落胆したのは知っている。
母も花嫁の母役で忙しかっただろうが、婚礼のマントを作る話は喜んで協力してくれた。
母は私に機織りとマントの作り方を教えながら、自分は私が使うよう、ストールを織ってくれたのだ。
私が支度を終えた頃、王子も準備が出来たようで別の天幕から出てくる。
王子も羊の毛の上着とズボン。そしてその上にイラクサのマントを羽織る。
男の人の服装は女性より更に簡素だ。
指に金の結婚指輪を填めてはいるが、身を飾る宝石の一つもなく、到底王子様の花婿衣装にも王の戴冠の礼服にも見えない。
だが王子には良く似合って、精悍にして威厳に溢れている。
その姿はエステルってこんな人かな?と思わせた。
そう考えたのは私だけではないらしい。何故か一同、示し合わせたように礼を執る。
王子は皆に対して一度頷き、私に言った。
「エルシー、星が出たら儀式を始める」
婚礼の儀式は夜、草原にある巨石を祭壇に見立て行われる。
天道を巡る星々に王の誕生と、王と王妃の結婚を伝えるのが王家の婚礼にして戴冠の儀式だそうだ。
儀式は簡単だ。
私が王子の頭に花冠を被せ、王子も私に花冠を被せる。
そして王子が戴冠を宣言する。
「我、水の求むに従い、風の求むに従い、火の求むに従い、地の求むに従い、星の求むに従い、この地の王とならん。異議ある者は今すぐ立ち去れ」
これだけである。
***
婚礼の儀式の後、王と王妃、つまり、王子と私はエステルと竜が匿われたという岩山の洞窟で一夜を過ごす。
婚礼の儀式をした草原から少し離れた山の中の洞窟である。
「こっ、ここですか?」
そこは確かに竜でも入れそうな大きな洞窟だった。
既に季節は秋なので、夜ともなると寒いのだが、洞窟からは更に冷え冷えとした空気が漂ってくる。
ここで一晩を過ごすのか?
王子は、王子という高貴な身分のくせに平気そうだ。
「そうだ。ゲルボルグは気を付けて帰れ。朝になったら迎えにこい」
と言うと、王子はゲルボルグの背中から荷物を降ろす。
「えっ、二人なんですか?」
「ゲルボルグがいてもいいが、エルシーが嫌ではないのか?」
「私が嫌なんですか?」
「婚礼の晩だぞ」
「あ、そうか、そうですね」
気付いて顔が赤らむ。
三度目の初夜である。
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