竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

文字の大きさ
上 下
97 / 119
第二章

12.王の戴冠

しおりを挟む
「万能薬って、万病を治すとかあれですか?伝説の」
 王子は頷く。
「あれだ。この薬草の一つは、世界でも数カ所でしか生えない貴重なものらしい。深手を負ったエステルと竜は死の間際、一縷の望みをかけてこのルルスの地にやってきた。そこで『星の乙女』に出会ったのだ。このことは王と王の妃にしか伝えられない秘匿だ。エルシーも誰にも言うなよ」
「怖くて言えませんよ!万能薬って本当にあったんですね……」
「世に言われるほど便利なものではないが、どんな傷も癒やすそうだ。門外不出の霊薬なのだ」
「へぇ、そうなんですか……」
 とんでもないことを知ってしまった。
 王家、コワイ。

 あまり長くここに居て、怪しまれてはいけない。花冠を作り終わると私達はすぐに皆が待つ、戴冠式の会場に戻った。


 天幕で母や侍女さん達に婚礼の支度をととのえて貰う。
 私が着るのは、羊の毛を織って作ったワンピースだ。
 エステルの時代に着ていたものを再現しているため、豪華ではないが、織り込まれた模様は花嫁衣装らしい華やかさがある。
 その上から母が作ってくれたイラクサのストールをベールのように羽織る。

 私はマント作成を私の母に協力してもらった。
 ハタを織るのは母の方が断然に旨いし、機織りの道具も子爵家で使っていたものの方が手に馴染んでいる。
 出来映え云々を考えると機織り専門家の人の方がいい気がするが、マントは花嫁が作るというところが大事らしい。
 だったら私も母に習いたい、そう思ったのだ。

 元々婚礼の花嫁衣装は花嫁と花嫁の母が仕立てるものなのだ。
 我が家でも花嫁衣装を作ったのは母と花嫁である姉達だ。
 母は最後の娘である私の衣装も自分で作る気で張り切っていたらしいが、私の結婚相手は王子である。
 花嫁衣装は王宮のお針子さん達にお任せすることになり、母が多少落胆したのは知っている。
 母も花嫁の母役で忙しかっただろうが、婚礼のマントを作る話は喜んで協力してくれた。
 母は私に機織りとマントの作り方を教えながら、自分は私が使うよう、ストールを織ってくれたのだ。

 私が支度を終えた頃、王子も準備が出来たようで別の天幕から出てくる。
 王子も羊の毛の上着とズボン。そしてその上にイラクサのマントを羽織る。
 男の人の服装は女性より更に簡素だ。
 指に金の結婚指輪を填めてはいるが、身を飾る宝石の一つもなく、到底王子様の花婿衣装にも王の戴冠の礼服にも見えない。
 だが王子には良く似合って、精悍にして威厳に溢れている。
 その姿はエステルってこんな人かな?と思わせた。
 そう考えたのは私だけではないらしい。何故か一同、示し合わせたように礼を執る。

 王子は皆に対して一度頷き、私に言った。

「エルシー、星が出たら儀式を始める」

 婚礼の儀式は夜、草原にある巨石を祭壇に見立て行われる。
 天道を巡る星々に王の誕生と、王と王妃の結婚を伝えるのが王家の婚礼にして戴冠の儀式だそうだ。
 儀式は簡単だ。
 私が王子の頭に花冠を被せ、王子も私に花冠を被せる。
 そして王子が戴冠を宣言する。
「我、水の求むに従い、風の求むに従い、火の求むに従い、地の求むに従い、星の求むに従い、この地の王とならん。異議ある者は今すぐ立ち去れ」
 これだけである。





 ***

 婚礼の儀式の後、王と王妃、つまり、王子と私はエステルと竜が匿われたという岩山の洞窟で一夜を過ごす。
 婚礼の儀式をした草原から少し離れた山の中の洞窟である。

「こっ、ここですか?」
 そこは確かに竜でも入れそうな大きな洞窟だった。
 既に季節は秋なので、夜ともなると寒いのだが、洞窟からは更に冷え冷えとした空気が漂ってくる。
 ここで一晩を過ごすのか?
 王子は、王子という高貴な身分のくせに平気そうだ。
「そうだ。ゲルボルグは気を付けて帰れ。朝になったら迎えにこい」
 と言うと、王子はゲルボルグの背中から荷物を降ろす。
「えっ、二人なんですか?」
「ゲルボルグがいてもいいが、エルシーが嫌ではないのか?」
「私が嫌なんですか?」
「婚礼の晩だぞ」
「あ、そうか、そうですね」
 気付いて顔が赤らむ。
 三度目の初夜である。
 三度目ともなると、もう初夜感は大分薄いが、それでもゲルボルグが一緒は嫌というか、無理だ。
しおりを挟む
感想 351

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...