91 / 119
第二章
間話:6話竜の騎士団(離宮)②
しおりを挟む
「へー」
若い騎士達は一様に物珍しそうな声色を上げる。
テレンスは内心で苦笑する。
今ではグレン王子の父母であった先の王と王妃を知る者は随分と減った。
先の王国王が亡くなりもう六年が経つ。
グレン王子は二十歳、当時王子だった兄のチャールズは二十四歳だった。
「この国は魔法を禁じているが、リーン様は特例として魔法を使うことを認められた。なんでも子供のうちは魔法の力は制御しきれず、暴発することもあるらしい。気を付けるように」
「はい」
これには皆真面目な顔で頷いた。
この国には魔法使いはいないが、西方諸国は魔法使いを抱えている。
魔法の恐ろしさは身にしみている。
もっとも竜が纏う竜気は魔法のうち特に『悪しき魔法』、攻撃魔法を弱める障壁の役目を果たす。竜と共にある竜騎士達も竜気を受け、ほとんどの魔法から身を守ることが出来た。
「で、王子とエルシー様の子供なら青髪が生まれるらしい。少なくともアルステアの国王陛下はそう断言なさった」
一人の若い竜騎士が手を上げると先輩に尋ねた。
「質問です。王妃様は今妊娠なさっているそうですが、そっちはどうなんです?青髪といえば、チャールズ陛下も青髪だ」
彼らより年長の騎士の一人は渋い顔してこれに応えた。
「そっちは無理だ」
「まあ、あの方は竜に嫌われてますからそうでしょうけど……」
竜騎士は頭を振る。
「いや、そうじゃない。王妃様は呪われているんだ」
若い騎士数名がざわついた。
「呪われている?」
「えっ、そうなんですか?無茶苦茶人の恨みかってそうですが、誰に呪われたんですか?」
と不敬を口にしたのはアランである。
テレンスやジェローム、三〇代以上の騎士達は視線を投げ合う。
ややあってテレンスが答えた。
「……良い機会だから教えておく。だがデリケートな話だからあんまり言いふらすなよ。呪ったのは、先の王妃様、王子の母上だ。魔法使いだったって言っただろう。王妃様のことを嫌った先の王妃様は結婚の際に呪いを掛けたんだ。『お前の子に決して私の色は渡さぬ』って、だから陛下は青髪碧眼だが、王妃様の生んだ子は二人とも王妃様にそっくりなオレンジ色の髪にピンクの瞳だろう」
「あー、そんなことあったんですか?」
「もう十年以上前になるからな。俺達も隠したし、知らない奴の方が多いだろう。王子も陛下もアルステアの王位継承権を持ってはいるが、順位は決して高くはない。青髪だろうがそうでなかろうが関係ないはずだったんだがな」
「王子って、アルステアの王位継承権持ってるんですか?つまりアルステアの王になるかも?」
この問いかけをテレンスは一蹴する。
「それはないだろう。王子はこの竜の国から離れられないからな。というか、王子がこの国離れたらこの国本当に終わるからな」
「まあそりゃそうですね」
とアランも納得する。
「話は脱線したが……」
と竜騎士の中でも年かさの騎士が咳払いして改まった顔で一同を見回す。
「エルシー様は今、黄金以上の価値を持った。竜の国の王の母で、アルステアの王の母となられる。各国の使者達がこの知らせを本国に伝えるだろう。エルシー様の身辺は今まで以上に注意しろ」
「はい」
と今日エルシーの護衛を担当する騎士二人は気負って頷く。
「リーン王子殿下は今日からエルシー様のお側にいるそうだ。ご自分の身は自分で守れるし、特段世話は必要ない。こちらも彼の護衛はしないことで決まった」
それが、リーン王子受け入れの条件であった。
離宮は国家最重要施設である竜舎に最も近い場所だ。そこで暮らすならリーン王子一人だけと、グレン王子が申し渡したのである。
そして不慮の事故で死亡の場合もこちらの責任は問わぬこと。
この条件をアルステア側は飲んだという。
それを聞いて、テレンスは『なんとまあ』と絶句したが、周りの顔色も似たようなものだった。
「そうは言っても相手は子供だ。適当に気を配ってやれ」
と思わず付け加えられるくらいには一同は幼い王子に同情した。
「しかしその子、リーン王子ですか?気の毒ですね。まだ子供なのに」
無邪気にそう漏らす若手に少し年上の竜騎士が苦笑する。
「まあ、アルステア国王陛下の親心と言う奴だな」
「そうですか?」
「国にいても五番目の王子だ。父王ももう歳。ここなら上手くすれば次代の王の側近か、王配だ」
「オウハイ?」
「王の配偶者。あそこは女王も認められている」
竜騎士はリーン王子の調査資料を見てため息を吐く。
「リーン王子はちょっと複雑な生い立ちで、お母上は青髪で魔女なんだが、生まれたリーン王子が黒髪だったのに怒って生まれたばかりの我が子を置いて、そのまま自分の森に帰ってしまったそうだ」
「あらー」
「リーン王子は城で父王に育てられたんだが、五番目の王子でそうわけで後ろ盾もない。そのくせ彼は魔力が強い。兄弟仲は悪くはないんだが、難しい立場にいる子だ。故国を離れてここにきた方が彼のためだろう。勉強の方は魔法都市に住む魔法使い達が面倒を見るそうだ」
竜の国で一つだけある魔法を使うことが許され、魔法使いが暮らす街。それが魔法都市だった。
アルステアの王女だった先の王妃の輿入れの時に作られた街だった。
「リーン王子様、いくつよ」
「七歳」
「王子のお子様のお婿さん候補か……」
「王子も王女もまだ一人も生まれてないのにな」
「エルシー様もお気の毒だな。結婚してすぐに子供二人も望まれて」
「それを言うなら王子の方が悩んでたぞ。子供産ませないと離婚されるとか……」
「王子、意外と繊細だから」
「良く分からんが、どっちも大変だな」
「ていうか、あのお二人、まだお休みなの?」
「ゆうべはお楽しみでしたね」
「そりゃそうだろう。初夜だし」
「二回目だけどな」
「なんやかんや言って仲良いよな、王子とエルシー様」
一通り、下世話な話題で盛り上がった後、竜騎士達は二手に分かれた。
一方が王子と王子妃の警護に、もう一方は王家のもう一つの婚礼の儀式の準備のため、密かに王家の始まりの地、ルルスに向かった。
若い騎士達は一様に物珍しそうな声色を上げる。
テレンスは内心で苦笑する。
今ではグレン王子の父母であった先の王と王妃を知る者は随分と減った。
先の王国王が亡くなりもう六年が経つ。
グレン王子は二十歳、当時王子だった兄のチャールズは二十四歳だった。
「この国は魔法を禁じているが、リーン様は特例として魔法を使うことを認められた。なんでも子供のうちは魔法の力は制御しきれず、暴発することもあるらしい。気を付けるように」
「はい」
これには皆真面目な顔で頷いた。
この国には魔法使いはいないが、西方諸国は魔法使いを抱えている。
魔法の恐ろしさは身にしみている。
もっとも竜が纏う竜気は魔法のうち特に『悪しき魔法』、攻撃魔法を弱める障壁の役目を果たす。竜と共にある竜騎士達も竜気を受け、ほとんどの魔法から身を守ることが出来た。
「で、王子とエルシー様の子供なら青髪が生まれるらしい。少なくともアルステアの国王陛下はそう断言なさった」
一人の若い竜騎士が手を上げると先輩に尋ねた。
「質問です。王妃様は今妊娠なさっているそうですが、そっちはどうなんです?青髪といえば、チャールズ陛下も青髪だ」
彼らより年長の騎士の一人は渋い顔してこれに応えた。
「そっちは無理だ」
「まあ、あの方は竜に嫌われてますからそうでしょうけど……」
竜騎士は頭を振る。
「いや、そうじゃない。王妃様は呪われているんだ」
若い騎士数名がざわついた。
「呪われている?」
「えっ、そうなんですか?無茶苦茶人の恨みかってそうですが、誰に呪われたんですか?」
と不敬を口にしたのはアランである。
テレンスやジェローム、三〇代以上の騎士達は視線を投げ合う。
ややあってテレンスが答えた。
「……良い機会だから教えておく。だがデリケートな話だからあんまり言いふらすなよ。呪ったのは、先の王妃様、王子の母上だ。魔法使いだったって言っただろう。王妃様のことを嫌った先の王妃様は結婚の際に呪いを掛けたんだ。『お前の子に決して私の色は渡さぬ』って、だから陛下は青髪碧眼だが、王妃様の生んだ子は二人とも王妃様にそっくりなオレンジ色の髪にピンクの瞳だろう」
「あー、そんなことあったんですか?」
「もう十年以上前になるからな。俺達も隠したし、知らない奴の方が多いだろう。王子も陛下もアルステアの王位継承権を持ってはいるが、順位は決して高くはない。青髪だろうがそうでなかろうが関係ないはずだったんだがな」
「王子って、アルステアの王位継承権持ってるんですか?つまりアルステアの王になるかも?」
この問いかけをテレンスは一蹴する。
「それはないだろう。王子はこの竜の国から離れられないからな。というか、王子がこの国離れたらこの国本当に終わるからな」
「まあそりゃそうですね」
とアランも納得する。
「話は脱線したが……」
と竜騎士の中でも年かさの騎士が咳払いして改まった顔で一同を見回す。
「エルシー様は今、黄金以上の価値を持った。竜の国の王の母で、アルステアの王の母となられる。各国の使者達がこの知らせを本国に伝えるだろう。エルシー様の身辺は今まで以上に注意しろ」
「はい」
と今日エルシーの護衛を担当する騎士二人は気負って頷く。
「リーン王子殿下は今日からエルシー様のお側にいるそうだ。ご自分の身は自分で守れるし、特段世話は必要ない。こちらも彼の護衛はしないことで決まった」
それが、リーン王子受け入れの条件であった。
離宮は国家最重要施設である竜舎に最も近い場所だ。そこで暮らすならリーン王子一人だけと、グレン王子が申し渡したのである。
そして不慮の事故で死亡の場合もこちらの責任は問わぬこと。
この条件をアルステア側は飲んだという。
それを聞いて、テレンスは『なんとまあ』と絶句したが、周りの顔色も似たようなものだった。
「そうは言っても相手は子供だ。適当に気を配ってやれ」
と思わず付け加えられるくらいには一同は幼い王子に同情した。
「しかしその子、リーン王子ですか?気の毒ですね。まだ子供なのに」
無邪気にそう漏らす若手に少し年上の竜騎士が苦笑する。
「まあ、アルステア国王陛下の親心と言う奴だな」
「そうですか?」
「国にいても五番目の王子だ。父王ももう歳。ここなら上手くすれば次代の王の側近か、王配だ」
「オウハイ?」
「王の配偶者。あそこは女王も認められている」
竜騎士はリーン王子の調査資料を見てため息を吐く。
「リーン王子はちょっと複雑な生い立ちで、お母上は青髪で魔女なんだが、生まれたリーン王子が黒髪だったのに怒って生まれたばかりの我が子を置いて、そのまま自分の森に帰ってしまったそうだ」
「あらー」
「リーン王子は城で父王に育てられたんだが、五番目の王子でそうわけで後ろ盾もない。そのくせ彼は魔力が強い。兄弟仲は悪くはないんだが、難しい立場にいる子だ。故国を離れてここにきた方が彼のためだろう。勉強の方は魔法都市に住む魔法使い達が面倒を見るそうだ」
竜の国で一つだけある魔法を使うことが許され、魔法使いが暮らす街。それが魔法都市だった。
アルステアの王女だった先の王妃の輿入れの時に作られた街だった。
「リーン王子様、いくつよ」
「七歳」
「王子のお子様のお婿さん候補か……」
「王子も王女もまだ一人も生まれてないのにな」
「エルシー様もお気の毒だな。結婚してすぐに子供二人も望まれて」
「それを言うなら王子の方が悩んでたぞ。子供産ませないと離婚されるとか……」
「王子、意外と繊細だから」
「良く分からんが、どっちも大変だな」
「ていうか、あのお二人、まだお休みなの?」
「ゆうべはお楽しみでしたね」
「そりゃそうだろう。初夜だし」
「二回目だけどな」
「なんやかんや言って仲良いよな、王子とエルシー様」
一通り、下世話な話題で盛り上がった後、竜騎士達は二手に分かれた。
一方が王子と王子妃の警護に、もう一方は王家のもう一つの婚礼の儀式の準備のため、密かに王家の始まりの地、ルルスに向かった。
12
お気に入りに追加
3,630
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】純情聖女と護衛騎士〜聖なるおっぱいで太くて硬いものを挟むお仕事です〜
河津ミネ
恋愛
フウリ(23)は『眠り姫』と呼ばれる、もうすぐ引退の決まっている聖女だ。
身体に現れた聖紋から聖水晶に癒しの力を与え続けて13年、そろそろ聖女としての力も衰えてきたので引退後は悠々自適の生活をする予定だ。
フウリ付きの聖騎士キース(18)とはもう8年の付き合いでお別れするのが少しさみしいな……と思いつつ日課のお昼寝をしていると、なんだか胸のあたりに違和感が。
目を開けるとキースがフウリの白く豊満なおっぱいを見つめながらあやしい動きをしていて――!?
サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。
ゆちば
恋愛
ビリビリッ!
「む……、胸がぁぁぁッ!!」
「陛下、声がでかいです!」
◆
フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。
私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。
だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。
たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。
「【女体化の呪い】だ!」
勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
勢い強めの3万字ラブコメです。
全18話、5/5の昼には完結します。
他のサイトでも公開しています。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
竜王の花嫁
桜月雪兎
恋愛
伯爵家の訳あり令嬢であるアリシア。
百年大戦終結時の盟約によりアリシアは隣国に嫁ぐことになった。
そこは竜王が治めると云う半獣人・亜人の住むドラグーン大国。
相手はその竜王であるルドワード。
二人の行く末は?
ドタバタ結婚騒動物語。
【R18】はじめてのかんきん〜聖女と勇者のワクドキ♡監禁生活〜
河津ミネ
恋愛
「コーヘイ、お願い……。私に監禁されて?」
聖女マリエルは勇者コーヘイにまたがりながら、震える声でつぶやいた。コーヘイが腕を上げればはめられた手枷の鎖がジャラリと嫌な音を立てる。
かつてこの世界に召喚された勇者コーヘイは、無事に魔王討伐を果たし、あとは元の世界に帰るだけのはずだったが――!?
「いや……いいけど、これ風呂とかどうすんの?」
「え! お風呂!? どうしよう……」
聖女と勇者の初めてのドキドキ監禁生活(?)がいま始まる!
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる