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第二章
06.初夜② グレン王子
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抱き寄せて、キスをすると、エルシーも腕を伸ばしてグレン王子の頬に触れた。
ほっそりと柔らかな指先の感触がゾクリと心をかき乱す。
ふと、エルシーの茶色の丸い瞳がじっとこちらを見つめている。
「綺麗ですね、グレン様の目は金色で」
「そうか?」
漠然と自分は人とは違うと感じていたが、父とは同じこの目を、竜と心が通じ合うという異能を、幼少の頃はあまり気にしたことはなかった。
だが十歳辺りでお茶会と称して兄と二人、同じ年頃の少女と会わせられるようになり、その時、少女達の一人が自分を指さし言った。
オレンジ色の髪にピンクの瞳の少女だった。
「金色の目だなんて気味が悪い。チャールズ様の青い目の方が優しくてずっと素敵」
兄にとってはそれが運命の乙女だったらしい。
兄は自分の瞳を選んだその娘と結ばれた。
母は激怒して、その娘をひどく嫌ったが、それも兄にとってはその娘を愛する理由となったのだろう。
父も怒った。王位は兄のものとなったが、王家の富のほとんどは弟のグレン王子に渡るように手配した。兄は何も言わずそれを従った。
グレン王子は自分がその場の娘達の全員から怖れられているのを、感じていた。
口火を切ったのはその娘だが、その言葉はその場にいた少女達の総意だろう。
父王はグレン王子を己の後継として竜騎士の訓練を課した。
わずか十歳であったが、師や兄弟子のテレンスやレックス達も手加減はしなかった。彼らは強い者にしか従わない。
遠からず団長職に就くはずのグレン王子は自分達より強くないと困るのだ。
すでに身長は四つ違いの兄チャールズとそう変わりなく、騎士の訓練を止めた兄とは体つきが違う。
何よりも竜をも従える騎士の目をした少年は、育ちの良い少女達にはまるで異質に見えた。
そしてグレン王子にとっても彼女らは違う世界の住人に見えた。
大人達には悪いが、この中の誰も選ぶ気にはなれなかった。
どの娘も自分の運命の乙女ではない。
ゲルボルグと出会い、誰にとっても嫌々続けられたお茶会がなくなり、そのまま思春期も過ぎ、二十代後半といういい年になったため、再び後継をせっつかれるようになった。
兄とはその間疎遠であった。
互いに課せられた役目もあり、兄チャールズはグレン王子にとってそういえばいた程度の存在になっていた。
結局あの娘を妃にした兄はそれなりに上手くやっていると伝え聞いてはいたが、金目ではない彼は金色の瞳の子を成せなかった。
そしてグレン王子の竜はエルシーを選んだ。
グレン王子が愛した娘は、金色の目を綺麗だと囁いてくる。
「怖くはないのか?」
「怖くはないですよ。綺麗です」
「エルシーの方が美しい。琥珀のように深く澄んでいる」
「そそそっ、そうですか?普通ですよ、良くある感じです」
そう言って目を逸らそうとするので捕まえて覗き込む。
「良くありはしない。ここに一対しかない」
もう一回彼女が欲しくなる。
胸元に顔を埋めると。
「……いっ、やっ、やです。駄目です」
うっとり体を預けていたはずのエルシーが、あわてて言う。
「何故だ。優しくする」
「だって一回って言われてますよ」
グレン王子はため息を吐く。
「あれか」
婚礼の宴というのは、今日から三日に渡って行われる王宮の儀式だ。
グレン王子とその妃は翌日にもみっちりと予定が組まれている。
だから婚礼の晩はセックスは一回だけだと王子はその側近に言い含められていた。
だが。
「良いだろう。何とかする」
と彼は続行することにした。
「えっ、良いんですか?何とかってどうするんですか?」
「妻があまりにも愛しかったという」
「えー、私のせいですか?それからその理由じゃ駄目だと思いますよ」
「誰もが納得する。責めは俺が負うからエルシーは何も心配しなくて良い」
「本当ですよ、グレン様が怒られて下さいよ」
話はついたので、グレン王子は妻を抱きしめた。
「ああ、言いようもなく愛らしい……」
小さく、可愛く、ふにふにとしている。
ほっそりと柔らかな指先の感触がゾクリと心をかき乱す。
ふと、エルシーの茶色の丸い瞳がじっとこちらを見つめている。
「綺麗ですね、グレン様の目は金色で」
「そうか?」
漠然と自分は人とは違うと感じていたが、父とは同じこの目を、竜と心が通じ合うという異能を、幼少の頃はあまり気にしたことはなかった。
だが十歳辺りでお茶会と称して兄と二人、同じ年頃の少女と会わせられるようになり、その時、少女達の一人が自分を指さし言った。
オレンジ色の髪にピンクの瞳の少女だった。
「金色の目だなんて気味が悪い。チャールズ様の青い目の方が優しくてずっと素敵」
兄にとってはそれが運命の乙女だったらしい。
兄は自分の瞳を選んだその娘と結ばれた。
母は激怒して、その娘をひどく嫌ったが、それも兄にとってはその娘を愛する理由となったのだろう。
父も怒った。王位は兄のものとなったが、王家の富のほとんどは弟のグレン王子に渡るように手配した。兄は何も言わずそれを従った。
グレン王子は自分がその場の娘達の全員から怖れられているのを、感じていた。
口火を切ったのはその娘だが、その言葉はその場にいた少女達の総意だろう。
父王はグレン王子を己の後継として竜騎士の訓練を課した。
わずか十歳であったが、師や兄弟子のテレンスやレックス達も手加減はしなかった。彼らは強い者にしか従わない。
遠からず団長職に就くはずのグレン王子は自分達より強くないと困るのだ。
すでに身長は四つ違いの兄チャールズとそう変わりなく、騎士の訓練を止めた兄とは体つきが違う。
何よりも竜をも従える騎士の目をした少年は、育ちの良い少女達にはまるで異質に見えた。
そしてグレン王子にとっても彼女らは違う世界の住人に見えた。
大人達には悪いが、この中の誰も選ぶ気にはなれなかった。
どの娘も自分の運命の乙女ではない。
ゲルボルグと出会い、誰にとっても嫌々続けられたお茶会がなくなり、そのまま思春期も過ぎ、二十代後半といういい年になったため、再び後継をせっつかれるようになった。
兄とはその間疎遠であった。
互いに課せられた役目もあり、兄チャールズはグレン王子にとってそういえばいた程度の存在になっていた。
結局あの娘を妃にした兄はそれなりに上手くやっていると伝え聞いてはいたが、金目ではない彼は金色の瞳の子を成せなかった。
そしてグレン王子の竜はエルシーを選んだ。
グレン王子が愛した娘は、金色の目を綺麗だと囁いてくる。
「怖くはないのか?」
「怖くはないですよ。綺麗です」
「エルシーの方が美しい。琥珀のように深く澄んでいる」
「そそそっ、そうですか?普通ですよ、良くある感じです」
そう言って目を逸らそうとするので捕まえて覗き込む。
「良くありはしない。ここに一対しかない」
もう一回彼女が欲しくなる。
胸元に顔を埋めると。
「……いっ、やっ、やです。駄目です」
うっとり体を預けていたはずのエルシーが、あわてて言う。
「何故だ。優しくする」
「だって一回って言われてますよ」
グレン王子はため息を吐く。
「あれか」
婚礼の宴というのは、今日から三日に渡って行われる王宮の儀式だ。
グレン王子とその妃は翌日にもみっちりと予定が組まれている。
だから婚礼の晩はセックスは一回だけだと王子はその側近に言い含められていた。
だが。
「良いだろう。何とかする」
と彼は続行することにした。
「えっ、良いんですか?何とかってどうするんですか?」
「妻があまりにも愛しかったという」
「えー、私のせいですか?それからその理由じゃ駄目だと思いますよ」
「誰もが納得する。責めは俺が負うからエルシーは何も心配しなくて良い」
「本当ですよ、グレン様が怒られて下さいよ」
話はついたので、グレン王子は妻を抱きしめた。
「ああ、言いようもなく愛らしい……」
小さく、可愛く、ふにふにとしている。
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