竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

文字の大きさ
上 下
77 / 119
間話

プロローグ2:テレンスとアラン(残業)

しおりを挟む
 天翔る天空の覇者竜に乗り、王国を守護する竜騎士。
 しかし地に降りれば彼らも国家の役人である。
 書類仕事も彼らの役目の一つであった。

 竜騎士の詰め所でテレンスを含め、数名が遅くまで書類仕事に励んでいる。
 王国の竜騎士団は竜に騎乗出来る正騎士二十八名。その他の団員を合わせても五〇人に満たない騎士団である。
 少数精鋭と言うと聞こえは良いが、少ない人数でやりくりしているため、余計な仕事が入るとあっという間に許容範囲を超えて破綻する。
 帳尻を合わせるには時間外労働。残業しかなくなる。

 今、彼らが抱える余計な仕事は、王国竜騎士団団長であるグレン王子のお妃選びについてである。
 グレン王子はやむを得ない事情から自身の竜ゲルボルグが選んだ娘を愛妾とすることになった。今度、その愛妾を選ぶ大会が開かれるが、彼はその娘を哀れに思い、妃とすることを望んだ。
 本来なら王太子であるグレン王子の妻は伯爵以上の名家の娘に限られる。
 これ以下の身分の娘を妃とするには相当強引な手段が必要だった。
 テレンスらは何とか筋道をこしらえ、今は各所に根回しを行っている最中だった。


「テレンスさん」
 対面の机に座る年下の同僚アランにこう話しかけられ、テレンスは顔を上げず答えた。
「なんだ」
 ――どうせ、絶対に下らない。
 そして彼の予想は当たる。
「これって考えちゃいけないやつだと思うんですが、そもそも見つかるんですかね、ゲルボルグの気に入る女の子なんて」

「考えちゃいけないなら考えるなよ」
 テレンスはそう答えたが、自身もつられて考え込む。
「ゲルボルグは昔から気性が荒いというか、気まぐれな竜だからな。とはいえ、性格そのものは優しく面倒見も良い。だが女性は本当に嫌いだな」
 竜は元々人間を好まない。
 そのため人里離れた場所に暮らす生き物だ。
 詰め所側の竜舎に今は二十匹の竜が眠っている。
 この王都に竜が居続けるのは、ここにリーダー格の竜ゲルボルグと、そしてその主である竜と心を通わせるという金目の王子グレンがいるからだ。

「なんで嫌いなんですかね?」
 問われてテレンスは首をひねる。
「何でだろうな。昔からだ。十六年前か、ここに来た当初から女性を怖がる竜だった」
 三十六歳のテレンスが、二十歳の頃である。
 グレン王子はその時十歳になったばかりだった。
 王子と同年代のアランは当然まだ竜騎士ではない。
 その時からゲルボルグはグレン王子の竜となり、彼らは互いに唯一という程のかけがえのない存在になっている。
「あの竜、迷子になっている時、王子に助けられたっていう話ですが、そん時に何かあったんですかね」
「もう十六年前だからな、分からんが、多分な。今は怖がると言うより、嫌がるというように見える。そうだな、ゲルボルグのあれは……」
「あれはって何ですか?」
「……いや、それこそ今は考えてもしょうがない。まあ、見つけないとな、王子の子を産んで貰わないことには国が滅ぶ」
「そうですね」
 とアランも珍しく真面目に頷き、そしてふと言う。

「その子、巨乳だといいですね」

「いや、俺は別に」
 アランは眉を上げると、持っていたペンの先をテレンスに向けた。
「別にってことはないでしょう。テレンスさんも巨乳は好きですよね。おっぱいおっきい子は見ますよね。見てますよね」
「お前と違ってな、俺は巨乳好きではない。普通だ。普通にしか好きではない」
 付き合いが長いと同僚の性的指向などどうでもいいことも精通してくる。
 アランが最も重視するのは胸の大きさである。
 彼は好みじゃない巨乳と好みの貧乳なら好みじゃない巨乳を選ぶ。
「故にお妃様に巨乳は望まない。王子が気に入ればいいと俺は思う」
 というのがテレンスの結論であった。
「まあ確かにそれが一番でしょうが、そんな上手いこと行きますかね」
 とアランはぼやく。

 王子のお妃選びは竜騎士団に全権が委ねられた。
 お妃候補である年頃の娘達をかき集めるのは内務に任せたが、その娘を妃とする裏の仕事は他には任せられない。
 グレン王子はその日のうちに愛妾となる娘と関係を持つ。
 下級とて貴族の令嬢の純潔を穢す罪は重い。
 騎士道を重んじ、公明正大を旨とする王家であるが故にこれは許されない。責任を取ってグレン王子はこの娘を妃とする。――こういう筋書きだ。
 テレンスらは本音を言えばやりたくはない。
 これしかないとは言え、グレン王子に汚名を着せるやり方だった。
 王子に打診した時、断ると思われたが、グレン王子は「それで良い」と頷いた。
 いささか投げやりだったのが気になる。

 このところずっと王子の機嫌が悪い。
 王子の機嫌が悪いとゲルボルグの機嫌も悪くなる。
 ゲルボルグの機嫌が悪いと、他の竜の機嫌も悪い。
 仕事は増えるばかりだ。
 さっさと終わって欲しい。


 王都の名家と呼ばれる数家の了承は取った。
 グレン王子に近い派閥は賛成している。
 グレン王子は王太子であり、複数の公爵の爵位も持つ。それらの領地を任せた代官達の了承も取れた。
 王子の兄、チャールズ国王は、この動きを察しているはずだが、一言もない。テレンスらはこれを黙認と断じた。
 これでゲルボルグの選んだ娘はグレン王子の妃となる。
 問題はその娘が、妃となるのに相応しい娘かどうかだった。

「下は十三歳、上は二十八歳までの王都に住む低位の伯爵家から騎士爵までの娘ですか」
「およそ千人。これで決まらねば、地方でかき集める。その後は平民も視野に入れる。さて、上手い具合にこの中に未来の妃がいらっしゃると良いが……」

 運命のお妃選考大会は一週間後に迫っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

【R18】純情聖女と護衛騎士〜聖なるおっぱいで太くて硬いものを挟むお仕事です〜

河津ミネ
恋愛
フウリ(23)は『眠り姫』と呼ばれる、もうすぐ引退の決まっている聖女だ。 身体に現れた聖紋から聖水晶に癒しの力を与え続けて13年、そろそろ聖女としての力も衰えてきたので引退後は悠々自適の生活をする予定だ。 フウリ付きの聖騎士キース(18)とはもう8年の付き合いでお別れするのが少しさみしいな……と思いつつ日課のお昼寝をしていると、なんだか胸のあたりに違和感が。 目を開けるとキースがフウリの白く豊満なおっぱいを見つめながらあやしい動きをしていて――!?

娼館から出てきた男に一目惚れしたので、一晩だけ娼婦になる。

sorato
恋愛
ある日、ミーナは鮮烈な一目惚れを経験した。 娼館から出てきたその男に抱いてもらうため、ミーナは娼館に駆け込み1日だけ働けないか娼館の店主へと交渉する。ミーナがその男に娼婦としてつくことになったのは、「仮面デー」と呼ばれるお互い素顔を隠して過ごす特殊な日で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 主人公のミーナは異世界転生していますが、美醜観だけ影響する程度でありそれ以外の大きな転生要素はありません。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 見なくても全く影響はありませんが、「気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。」と同じ世界観のお話です。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない

扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!? セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。 姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。 だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。 ――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。 そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。 その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。 ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。 そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。 しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!? おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ! ◇hotランキング 3位ありがとうございます! ―― ◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています

一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、 現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。 当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、 彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、 それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、 数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。 そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、 初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...