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55.実家①
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そして私は子爵家に戻り、何故か数名の騎士様が同行した。
私の護衛だという。
家は彼らに包囲されるように守られ、そして私は外出も禁じられた。
ここでも軟禁のようだ。
「一体、何なのかしら」
姉達も心配して飛んできてくれた。
三番目の姉がそうっと私の顔色をうかがいながら、言う。
「あのね、エルシー、実は、あのクラリッサ嬢がね、本当の竜が選んだお妃じゃないかって話があるの」
「……そうなんですか」
状況からすると確かにそう考えるのが自然だ。
「それはちょっと納得出来ますね。彼女が来てすぐにゲルボルグは私が近づくと吠えましたから」
「もう、エルシーってば、納得しないでよ」
と別の姉様が言った。
「ですが、私が何でゲルボルグに選ばれたのか分かりませんからね。私、普通ですし」
そんな話をしていると弟が飛んできて頭を撫で撫でしてくれた。
「姉ちゃんは世界一可愛いよ」
姉達も寄ってたかって抱きしめてくる。
「そうよ、うちの妹は世界一可愛い」
身内の欲目、すごい。
「ありがとうこざいます」
翌々日にママ様も来て下さった。
「エルシー様、大丈夫?」
「大丈夫です。実家ご飯も慣れ親しんだ美味しさです」
「ところで、王宮から何か連絡は来た?」
私は頭を振る。
「いいえ、誰からも何も」
王子からもジェローム様からもアラン様からも連絡はない。
護衛の騎士様にも何か知らないかと尋ねたが、守秘義務があるらしく、困った様子をなさるだけだ。
「……エルシー様、わたくし、少しこの件について調べて来たの、知りたい?」
とママ様は私に尋ねる。
「はい」
私は首肯した。
「……あなたにとって都合の悪いことでも?」
「はい。知らないよりは知っていた方が良いかと思います」
「じゃあ教えるわ。あのクラリッサ嬢がどうやら竜の選んだお妃じゃないかと噂になっているの。王子の竜に近づき、クラリッサ嬢が撫でた瞬間にエルシー様に懐いていたはずの竜が威嚇した。だから……」
とママ様は言葉を切る。
「私が、偽物のお妃候補だったのではということですか?」
「幻術か何か用いていたのではという人もいるの」
「一介の子爵令嬢ですので、そんなことは出来ませんが、それっぽいですね」
「だから王子はあなたを遠ざけたのではという人がいるわ」
「王子、意外と危機管理能力ありますね。いい判断だと思います。なるほど、であれば私に手の内を教える訳はないですね。理由を聞いても教えてくれなかったわけです」
「エルシー様、そんなこと言わないであげて。エルシー様の様子を見に行くと言ったら、グレン王子はあなたをとても心配のご様子だったわ」
「ママ様、王子に会ったんですか?」
「ええ」
ママ様は頷き、そして言いづらそうに続ける。
「言づてがあれば伝えると言ったんだけど、ないとおっしゃったわ。あの方、無口だから」
「そのクラリッサという方は、今どちらに」
答えづらいことを聞いてしまったようだ。
ママ様の声は小さい。
「……王宮の、貴賓室にご滞在よ。グレン王子がそうするように望まれたとか……」
クラリッサ様は伯爵のご令嬢。
王子との身分もあう。
一見しただけだが、お美しい方でもあった。
私は、ママ様にそっと打ち明けた。
「……ママ様、私、今、月のものがあります。もし王子に会ったら妊娠はしていないとお伝え下さい。それから……」
と私は、持ってきてしまった婚約指輪を外す。
「これを殿下にお返し下さい。私が持っていてはいけないものですから」
このタイミングは運命なのだと思った。
私が妊娠でもしていたらややこしいが、していないとなれば王子とクラリッサ様の結婚を進めるのになんの障害もない。
「エルシー……」
同席していた母が泣き出しそうになる。
ママ様は真面目な顔で私を諭すように見つめた。
託そうとした指輪は強い力を込めて押し返された。
「エルシー様、短慮は駄目よ。これは受け取れないわ。もう少し待って。それからグレン王子を信じてあげて」
しかし今更彼の何を信じろというのだろう。
あの時、私は王子が恋に落ちる瞬間を見てしまった気がした。
そして、ゲルボルグ。
竜が認めることがお妃の条件。
もはや、私と王子は二度と会うこともないだろう。
私の護衛だという。
家は彼らに包囲されるように守られ、そして私は外出も禁じられた。
ここでも軟禁のようだ。
「一体、何なのかしら」
姉達も心配して飛んできてくれた。
三番目の姉がそうっと私の顔色をうかがいながら、言う。
「あのね、エルシー、実は、あのクラリッサ嬢がね、本当の竜が選んだお妃じゃないかって話があるの」
「……そうなんですか」
状況からすると確かにそう考えるのが自然だ。
「それはちょっと納得出来ますね。彼女が来てすぐにゲルボルグは私が近づくと吠えましたから」
「もう、エルシーってば、納得しないでよ」
と別の姉様が言った。
「ですが、私が何でゲルボルグに選ばれたのか分かりませんからね。私、普通ですし」
そんな話をしていると弟が飛んできて頭を撫で撫でしてくれた。
「姉ちゃんは世界一可愛いよ」
姉達も寄ってたかって抱きしめてくる。
「そうよ、うちの妹は世界一可愛い」
身内の欲目、すごい。
「ありがとうこざいます」
翌々日にママ様も来て下さった。
「エルシー様、大丈夫?」
「大丈夫です。実家ご飯も慣れ親しんだ美味しさです」
「ところで、王宮から何か連絡は来た?」
私は頭を振る。
「いいえ、誰からも何も」
王子からもジェローム様からもアラン様からも連絡はない。
護衛の騎士様にも何か知らないかと尋ねたが、守秘義務があるらしく、困った様子をなさるだけだ。
「……エルシー様、わたくし、少しこの件について調べて来たの、知りたい?」
とママ様は私に尋ねる。
「はい」
私は首肯した。
「……あなたにとって都合の悪いことでも?」
「はい。知らないよりは知っていた方が良いかと思います」
「じゃあ教えるわ。あのクラリッサ嬢がどうやら竜の選んだお妃じゃないかと噂になっているの。王子の竜に近づき、クラリッサ嬢が撫でた瞬間にエルシー様に懐いていたはずの竜が威嚇した。だから……」
とママ様は言葉を切る。
「私が、偽物のお妃候補だったのではということですか?」
「幻術か何か用いていたのではという人もいるの」
「一介の子爵令嬢ですので、そんなことは出来ませんが、それっぽいですね」
「だから王子はあなたを遠ざけたのではという人がいるわ」
「王子、意外と危機管理能力ありますね。いい判断だと思います。なるほど、であれば私に手の内を教える訳はないですね。理由を聞いても教えてくれなかったわけです」
「エルシー様、そんなこと言わないであげて。エルシー様の様子を見に行くと言ったら、グレン王子はあなたをとても心配のご様子だったわ」
「ママ様、王子に会ったんですか?」
「ええ」
ママ様は頷き、そして言いづらそうに続ける。
「言づてがあれば伝えると言ったんだけど、ないとおっしゃったわ。あの方、無口だから」
「そのクラリッサという方は、今どちらに」
答えづらいことを聞いてしまったようだ。
ママ様の声は小さい。
「……王宮の、貴賓室にご滞在よ。グレン王子がそうするように望まれたとか……」
クラリッサ様は伯爵のご令嬢。
王子との身分もあう。
一見しただけだが、お美しい方でもあった。
私は、ママ様にそっと打ち明けた。
「……ママ様、私、今、月のものがあります。もし王子に会ったら妊娠はしていないとお伝え下さい。それから……」
と私は、持ってきてしまった婚約指輪を外す。
「これを殿下にお返し下さい。私が持っていてはいけないものですから」
このタイミングは運命なのだと思った。
私が妊娠でもしていたらややこしいが、していないとなれば王子とクラリッサ様の結婚を進めるのになんの障害もない。
「エルシー……」
同席していた母が泣き出しそうになる。
ママ様は真面目な顔で私を諭すように見つめた。
託そうとした指輪は強い力を込めて押し返された。
「エルシー様、短慮は駄目よ。これは受け取れないわ。もう少し待って。それからグレン王子を信じてあげて」
しかし今更彼の何を信じろというのだろう。
あの時、私は王子が恋に落ちる瞬間を見てしまった気がした。
そして、ゲルボルグ。
竜が認めることがお妃の条件。
もはや、私と王子は二度と会うこともないだろう。
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