竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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49.不倫のお誘い

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「兄上、お戯れを」
 王子は低い凍り付くような声を出したが、陛下はサラリといなす。
「私も義理の妹になるエルシー姫と踊りたいと思ってね、エルシー姫、一曲踊ってもらえないか」
 私は一瞬考えたが、「はい」と答え、陛下の手を取った。
 陛下が私と王子の結婚に反対してないっていうのを示すにはダンスするのが一番分かりやすい。


「エルシー」
 王子が悲しそうに私の名を呟いたので、私は王子に「耳、貸して下さい」と言った。
 王子は私に顔を近づける。王子にだけ聞こえるように囁いた。
 恥ずかしいけど、言っちゃう。
「後で後ろからしてもいいです」
 ガッと王子はすごい勢いでこっちを見た。
「本当か?」
「はっ、恥ずかしいから聞き直さないで下さいよ。本当ですから、陛下と一曲踊ります」
「分かった。では兄上、一曲だけエルシーをお貸しします」


 私達が話している間、曲は会話の行方を見守るようにゆっくりと流れていた。
 王子は何度もこっちを振り返りながら、玉座の近くにおかれた王太子の席へと向かう。
 陛下が楽団に手を振るとまた舞踊曲が奏でられる。
 陛下はさすがにダンスがとてもお上手だ。

 踊りながら、陛下が私に見せたのは、今までにない真剣な表情だった。
「グレンが笑うのを見たのは久しぶりだ。兄弟とは言え、彼が私に近寄らなくなって長い。思えば、王妃と結婚して以降はあれと話すこともなくなってしまった」
 陛下は噛みしめるように呟いた。少し後悔しているご様子だ。
「もう無理に君を弟から引き離すことはしない」
 と陛下は言った。そして私を見つめる。
「だが、私も天使を愛している。先ほどは息が止まりかけた」
「先ほど?」
「天使が役目を果たすためこの可憐な肢体をグレンに開いているのは当然分かっていた。だが、その証を見せつけられ、私の心は悲鳴を上げたのだ」
 良く分からないが、キスした跡を見て陛下驚いたらしい。
 アラン様のおまじないすごい。

 陛下は私の可愛いドレスに目をやる。
「今度は私にドレスを作らせてくれ。天使のための宴を開こう。その後で、天使よ、私の愛を知って欲しい。天使を悦楽の園へと誘おう。この小ぶりな胸を揉みしだき、破瓜の痛みを味わった天使を慰めたい。グレンでは教えてやれないことをその肌と心に刻ませてくれ」
「……それって不倫ですか?」
 思わず聞くと陛下は頭を振る。
「そんなものではない。グレンも私も王家の者。どちらの子が出来てもそれはエステルの末だ。グレンを裏切ることにはならないよ」
「えー、なると思いますよ……」

 曲が終わり、陛下は私に囁いた。
「しかしグレンは天使が初めての相手。天使もグレンが初めての相手だ。私なら、天使を見たこともない法悦に酔わせてあげられる。この世の楽園に共に行こう。体に跡を残すような乱暴はしないよ」
 とキラキラな笑顔で陛下は言った。
 ……私は少しムッとした。
 王子のこと馬鹿にしたみたいに感じたから。後、おっぱい小さい言ったな。

 私も陛下に囁いた。
「あの、内緒なんですけど、グレン様、エッチすごく上手いですよ」

「……グレンが?」
 陛下は驚いた様子で聞き返す。
 恥ずかしくて顔が赤らんだ。だってもっと恥ずかしいこと言うから。
「はい。昨日も『もう死んじゃう!』とか『すごくいい、狂っちゃう』って言っちゃいました。あと『おっきいの好き』も……」
 私はアラン様が言っていた男の子なら誰でも聞きたいセリフを羅列した。

「兄上!エルシー!」
 と王子が私達に近づいてくる。
「グレン、天使に一体何をしているのだ?」
 と陛下が王子に向かっていった。
「何をって何のことですか?」
「とぼけるな、純情な天使にそこまで言わせるとは」



「エルシー様、こっちよ」
「大丈夫かね」
 とママ様とママ様の旦那様のアビントン侯爵がおいでになる。
「ありがとうございます。この隙にご挨拶しちゃいましょう」

 王子達が隅っこで話している間、私は父と母、そしてママ様ご夫妻と共にご挨拶回りをした。
 皆様、王子達が何話しているか、気になるみたいだ。
「エルシー様、お二人は一体……」
 と聞かれたが、
「おほほっ、なんでございましょうかね。陛下はご兄弟仲良くお話ししたかったとおっしゃっておいででした」
 と答えた。
 王族同士がお話している間、その会話は聞いてはいけないことになっている。
 呼ばれないと決して近づいてはいけないのだ。
 遠目で見るには二人とも真面目に議論を戦わせている……ように見える。
 だから、エッチい話してるとは思うまい。

 ご挨拶が終わる頃、王子と陛下がこちらにやってきた。
 どういう話になったのか、陛下が頬を紅潮させている。
「天使、君は思っていた人と違うようだ」
「幻滅しましたか!?」
 目をキラキラさせて聞いてしまったが、陛下は首を横に振って否定した。
「いや、ますます愛しく思う。清らかな天使とばかり思っていたが、夜は月の妖精となり、その唇で艶めかしく妖精の歌を歌うのだね……」
 うっとり変なことを言われた。

「兄上、これは俺のです」
 王子はむぎゅーっと私を抱きしめた。
「分かっている。だが、天使を愛しく思い、慕うこの気持ちだけは許してくれないか、グレン」
 と陛下は言った。

 ……この会話は皆に聞かれていた。
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