42 / 119
42.陛下来訪①
しおりを挟む
私と王子は離宮の玄関で国王陛下をお出迎えする。
馬車から降りた陛下は王子に似た、しかし断然柔和なお顔で微笑まれた。
「グレン、元気そうだね」
「はい、元気です。兄上もご健勝にあられて恐悦至極に存じます。お帰り下さい」
対する王子はお声を掛けられて、開口一番、そう言った!
「ちょっと待って下さいよ。何ですか、それ。わざわざ陛下いらしたんですよ。良く分からないけどお見舞いに」
私は国王陛下に向き直って一礼した。
「陛下、ようこそおいで下さいました」
「エルシー姫、弟の竜に攫われたと聞いたが、怪我はないか?」
「はい。怪我はありません。ご心配頂き恐縮です」
「そうか」
と国王陛下はホッとしたご様子だった。
うーん、心配してくれたみたいだな、兄よ。ただのいい人か?
「…………」
王子は何も言わない。
ジェローム様は私にナカニイレロと合図してきた。
「あの、陛下、どうぞお入り下さい」
と私は陛下を促す。
こんな玄関先に立たせて良いお方ではない。
「ではそうさせてもらおう」
「エルシー」
と王子は金色の目で私をにらみ、不快感を示してきた。
「ですが、殿下、わざわざお越し頂いたんですよ。立ち話は失礼ですよ。陛下、こちらに」
***
離宮はそこまで大きなお屋敷ではないので、国王陛下をお通し出来る談話室は、メインで使う一つしかない。
そこは既にお茶の準備をしていた部屋だ。
「よろしければ陛下、お茶をお召し上がり下さい」
と私は陛下に上座の一人席を勧め、王子と私はテーブルを挟んだ対面の長椅子に二人で座る。
ジェローム様が手早く皆のお茶をご準備下さる。
王子はにらむが、常識だ。無視した。
「これは?」
陛下はずらーっとテーブルの上に並んだスプーンを興味深そうにご覧になる。
そうだろう。
絶対変だ。
大きめのスプーンの上に一口サイズのケーキが並んでいる。
これがあーん用に特別に用意されたケーキだ。
ここはママ様に習ったやり方で誤魔化すことにした。
「おほほっ、何でもございませんの。あ、普通のケーキ、ご用意して下さい。なければお土産の温泉クッキーでもいいです」
王子がこっち見て不満そうに問い詰める。
「エルシー、まさかあれをさせない気か?」
「しません。あの、陛下、あの後、温泉行ったんです。お土産で買った温泉クッキー美味しいですよ。バターたっぶりのサクサクで」
「兄上、やはりお帰りを。この通り、エルシーは元気です」
「何言ってるんですか、ご兄弟でしょう。積もる話とかないんですか?」
「今は良い。せっかく茶の時間なんだぞ」
何故、そこまであーんしたい?
私は王子に耳打ちした。
「後でさせてあげますから」
「……絶対だぞ」
王子は油断なくこっちを探ってくる。だからオーラ出すな。
「はい」
陛下はそんな我々のやりとりを見て、小さなお声で呟かれた。
「……天使はグレンに会ってまだ十日というが、随分と仲が良いようだね」
何言ってるんだ、この人?
と私は思ったが、王子は眉をひそめる。
「……天使?エルシー、兄に天使と呼ばせているのか、俺には禁じたというのに」
「呼ばせてませんよ!」
陛下は胸に手を当て目を閉じると朗々とした声でおっしゃった。
「エルシー姫は、天使と呼ぶに相応しい。野に咲く花のように美しく、可憐だ」
「…………」
何と言っていいか分からなくて、膝の上の指を絡めてもじもじしてしまった。
ほっぺた赤くなっちゃった。
だって美しいとかあんまり男の人に言われたことない。
王子が声を荒げて私に言った。
「何故、エルシーはそのように恥じらう?」
「えっ、そんなの言われるの初めてだから、ちょっと照れちゃって」
「言っているだろう、そんなことは」
「えっ、誰が誰に?」
「天使のように清らかでガラス細工のように繊細で白雪のように白く輝く肌をした妖精。華奢で美しく愛らしいと」
「いえ、初めて聞きましたが」
というか、それは誰だ?
「そんなことは当たり前すぎて口に出して言うことはない」
「いや、それでは分かりませんし、全然伝わりません」
めちゃくちゃ言ってるな、王子よ。
「大体、エルシーも俺のことを何も言わないではないか」
「えー、好きって言ってますよ」
王子は大きく首を横に振り、否定した。
「いや、エルシーの好きは当てにならない」
「失礼な。どういう意味ですか」
「ジェロームのことは好きか?」
王子はジェローム様を指さした。
「好きですよ。当たり前です」
「ゲルボルグは?」
「好き」
「アランは?」
「好き」
「テレンスは?」
「好き」
「ポーリーンは?」
「好き」
「私は?」
と何故か陛下が聞いて来た。
「陛下は……よく知らない方ですから、普通です」
何故かガッカリされたのであわてて言った。
「でも陛下、賢王って名高いから国民としては好きです」
馬車から降りた陛下は王子に似た、しかし断然柔和なお顔で微笑まれた。
「グレン、元気そうだね」
「はい、元気です。兄上もご健勝にあられて恐悦至極に存じます。お帰り下さい」
対する王子はお声を掛けられて、開口一番、そう言った!
「ちょっと待って下さいよ。何ですか、それ。わざわざ陛下いらしたんですよ。良く分からないけどお見舞いに」
私は国王陛下に向き直って一礼した。
「陛下、ようこそおいで下さいました」
「エルシー姫、弟の竜に攫われたと聞いたが、怪我はないか?」
「はい。怪我はありません。ご心配頂き恐縮です」
「そうか」
と国王陛下はホッとしたご様子だった。
うーん、心配してくれたみたいだな、兄よ。ただのいい人か?
「…………」
王子は何も言わない。
ジェローム様は私にナカニイレロと合図してきた。
「あの、陛下、どうぞお入り下さい」
と私は陛下を促す。
こんな玄関先に立たせて良いお方ではない。
「ではそうさせてもらおう」
「エルシー」
と王子は金色の目で私をにらみ、不快感を示してきた。
「ですが、殿下、わざわざお越し頂いたんですよ。立ち話は失礼ですよ。陛下、こちらに」
***
離宮はそこまで大きなお屋敷ではないので、国王陛下をお通し出来る談話室は、メインで使う一つしかない。
そこは既にお茶の準備をしていた部屋だ。
「よろしければ陛下、お茶をお召し上がり下さい」
と私は陛下に上座の一人席を勧め、王子と私はテーブルを挟んだ対面の長椅子に二人で座る。
ジェローム様が手早く皆のお茶をご準備下さる。
王子はにらむが、常識だ。無視した。
「これは?」
陛下はずらーっとテーブルの上に並んだスプーンを興味深そうにご覧になる。
そうだろう。
絶対変だ。
大きめのスプーンの上に一口サイズのケーキが並んでいる。
これがあーん用に特別に用意されたケーキだ。
ここはママ様に習ったやり方で誤魔化すことにした。
「おほほっ、何でもございませんの。あ、普通のケーキ、ご用意して下さい。なければお土産の温泉クッキーでもいいです」
王子がこっち見て不満そうに問い詰める。
「エルシー、まさかあれをさせない気か?」
「しません。あの、陛下、あの後、温泉行ったんです。お土産で買った温泉クッキー美味しいですよ。バターたっぶりのサクサクで」
「兄上、やはりお帰りを。この通り、エルシーは元気です」
「何言ってるんですか、ご兄弟でしょう。積もる話とかないんですか?」
「今は良い。せっかく茶の時間なんだぞ」
何故、そこまであーんしたい?
私は王子に耳打ちした。
「後でさせてあげますから」
「……絶対だぞ」
王子は油断なくこっちを探ってくる。だからオーラ出すな。
「はい」
陛下はそんな我々のやりとりを見て、小さなお声で呟かれた。
「……天使はグレンに会ってまだ十日というが、随分と仲が良いようだね」
何言ってるんだ、この人?
と私は思ったが、王子は眉をひそめる。
「……天使?エルシー、兄に天使と呼ばせているのか、俺には禁じたというのに」
「呼ばせてませんよ!」
陛下は胸に手を当て目を閉じると朗々とした声でおっしゃった。
「エルシー姫は、天使と呼ぶに相応しい。野に咲く花のように美しく、可憐だ」
「…………」
何と言っていいか分からなくて、膝の上の指を絡めてもじもじしてしまった。
ほっぺた赤くなっちゃった。
だって美しいとかあんまり男の人に言われたことない。
王子が声を荒げて私に言った。
「何故、エルシーはそのように恥じらう?」
「えっ、そんなの言われるの初めてだから、ちょっと照れちゃって」
「言っているだろう、そんなことは」
「えっ、誰が誰に?」
「天使のように清らかでガラス細工のように繊細で白雪のように白く輝く肌をした妖精。華奢で美しく愛らしいと」
「いえ、初めて聞きましたが」
というか、それは誰だ?
「そんなことは当たり前すぎて口に出して言うことはない」
「いや、それでは分かりませんし、全然伝わりません」
めちゃくちゃ言ってるな、王子よ。
「大体、エルシーも俺のことを何も言わないではないか」
「えー、好きって言ってますよ」
王子は大きく首を横に振り、否定した。
「いや、エルシーの好きは当てにならない」
「失礼な。どういう意味ですか」
「ジェロームのことは好きか?」
王子はジェローム様を指さした。
「好きですよ。当たり前です」
「ゲルボルグは?」
「好き」
「アランは?」
「好き」
「テレンスは?」
「好き」
「ポーリーンは?」
「好き」
「私は?」
と何故か陛下が聞いて来た。
「陛下は……よく知らない方ですから、普通です」
何故かガッカリされたのであわてて言った。
「でも陛下、賢王って名高いから国民としては好きです」
16
お気に入りに追加
3,634
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる