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42.陛下来訪①
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私と王子は離宮の玄関で国王陛下をお出迎えする。
馬車から降りた陛下は王子に似た、しかし断然柔和なお顔で微笑まれた。
「グレン、元気そうだね」
「はい、元気です。兄上もご健勝にあられて恐悦至極に存じます。お帰り下さい」
対する王子はお声を掛けられて、開口一番、そう言った!
「ちょっと待って下さいよ。何ですか、それ。わざわざ陛下いらしたんですよ。良く分からないけどお見舞いに」
私は国王陛下に向き直って一礼した。
「陛下、ようこそおいで下さいました」
「エルシー姫、弟の竜に攫われたと聞いたが、怪我はないか?」
「はい。怪我はありません。ご心配頂き恐縮です」
「そうか」
と国王陛下はホッとしたご様子だった。
うーん、心配してくれたみたいだな、兄よ。ただのいい人か?
「…………」
王子は何も言わない。
ジェローム様は私にナカニイレロと合図してきた。
「あの、陛下、どうぞお入り下さい」
と私は陛下を促す。
こんな玄関先に立たせて良いお方ではない。
「ではそうさせてもらおう」
「エルシー」
と王子は金色の目で私をにらみ、不快感を示してきた。
「ですが、殿下、わざわざお越し頂いたんですよ。立ち話は失礼ですよ。陛下、こちらに」
***
離宮はそこまで大きなお屋敷ではないので、国王陛下をお通し出来る談話室は、メインで使う一つしかない。
そこは既にお茶の準備をしていた部屋だ。
「よろしければ陛下、お茶をお召し上がり下さい」
と私は陛下に上座の一人席を勧め、王子と私はテーブルを挟んだ対面の長椅子に二人で座る。
ジェローム様が手早く皆のお茶をご準備下さる。
王子はにらむが、常識だ。無視した。
「これは?」
陛下はずらーっとテーブルの上に並んだスプーンを興味深そうにご覧になる。
そうだろう。
絶対変だ。
大きめのスプーンの上に一口サイズのケーキが並んでいる。
これがあーん用に特別に用意されたケーキだ。
ここはママ様に習ったやり方で誤魔化すことにした。
「おほほっ、何でもございませんの。あ、普通のケーキ、ご用意して下さい。なければお土産の温泉クッキーでもいいです」
王子がこっち見て不満そうに問い詰める。
「エルシー、まさかあれをさせない気か?」
「しません。あの、陛下、あの後、温泉行ったんです。お土産で買った温泉クッキー美味しいですよ。バターたっぶりのサクサクで」
「兄上、やはりお帰りを。この通り、エルシーは元気です」
「何言ってるんですか、ご兄弟でしょう。積もる話とかないんですか?」
「今は良い。せっかく茶の時間なんだぞ」
何故、そこまであーんしたい?
私は王子に耳打ちした。
「後でさせてあげますから」
「……絶対だぞ」
王子は油断なくこっちを探ってくる。だからオーラ出すな。
「はい」
陛下はそんな我々のやりとりを見て、小さなお声で呟かれた。
「……天使はグレンに会ってまだ十日というが、随分と仲が良いようだね」
何言ってるんだ、この人?
と私は思ったが、王子は眉をひそめる。
「……天使?エルシー、兄に天使と呼ばせているのか、俺には禁じたというのに」
「呼ばせてませんよ!」
陛下は胸に手を当て目を閉じると朗々とした声でおっしゃった。
「エルシー姫は、天使と呼ぶに相応しい。野に咲く花のように美しく、可憐だ」
「…………」
何と言っていいか分からなくて、膝の上の指を絡めてもじもじしてしまった。
ほっぺた赤くなっちゃった。
だって美しいとかあんまり男の人に言われたことない。
王子が声を荒げて私に言った。
「何故、エルシーはそのように恥じらう?」
「えっ、そんなの言われるの初めてだから、ちょっと照れちゃって」
「言っているだろう、そんなことは」
「えっ、誰が誰に?」
「天使のように清らかでガラス細工のように繊細で白雪のように白く輝く肌をした妖精。華奢で美しく愛らしいと」
「いえ、初めて聞きましたが」
というか、それは誰だ?
「そんなことは当たり前すぎて口に出して言うことはない」
「いや、それでは分かりませんし、全然伝わりません」
めちゃくちゃ言ってるな、王子よ。
「大体、エルシーも俺のことを何も言わないではないか」
「えー、好きって言ってますよ」
王子は大きく首を横に振り、否定した。
「いや、エルシーの好きは当てにならない」
「失礼な。どういう意味ですか」
「ジェロームのことは好きか?」
王子はジェローム様を指さした。
「好きですよ。当たり前です」
「ゲルボルグは?」
「好き」
「アランは?」
「好き」
「テレンスは?」
「好き」
「ポーリーンは?」
「好き」
「私は?」
と何故か陛下が聞いて来た。
「陛下は……よく知らない方ですから、普通です」
何故かガッカリされたのであわてて言った。
「でも陛下、賢王って名高いから国民としては好きです」
馬車から降りた陛下は王子に似た、しかし断然柔和なお顔で微笑まれた。
「グレン、元気そうだね」
「はい、元気です。兄上もご健勝にあられて恐悦至極に存じます。お帰り下さい」
対する王子はお声を掛けられて、開口一番、そう言った!
「ちょっと待って下さいよ。何ですか、それ。わざわざ陛下いらしたんですよ。良く分からないけどお見舞いに」
私は国王陛下に向き直って一礼した。
「陛下、ようこそおいで下さいました」
「エルシー姫、弟の竜に攫われたと聞いたが、怪我はないか?」
「はい。怪我はありません。ご心配頂き恐縮です」
「そうか」
と国王陛下はホッとしたご様子だった。
うーん、心配してくれたみたいだな、兄よ。ただのいい人か?
「…………」
王子は何も言わない。
ジェローム様は私にナカニイレロと合図してきた。
「あの、陛下、どうぞお入り下さい」
と私は陛下を促す。
こんな玄関先に立たせて良いお方ではない。
「ではそうさせてもらおう」
「エルシー」
と王子は金色の目で私をにらみ、不快感を示してきた。
「ですが、殿下、わざわざお越し頂いたんですよ。立ち話は失礼ですよ。陛下、こちらに」
***
離宮はそこまで大きなお屋敷ではないので、国王陛下をお通し出来る談話室は、メインで使う一つしかない。
そこは既にお茶の準備をしていた部屋だ。
「よろしければ陛下、お茶をお召し上がり下さい」
と私は陛下に上座の一人席を勧め、王子と私はテーブルを挟んだ対面の長椅子に二人で座る。
ジェローム様が手早く皆のお茶をご準備下さる。
王子はにらむが、常識だ。無視した。
「これは?」
陛下はずらーっとテーブルの上に並んだスプーンを興味深そうにご覧になる。
そうだろう。
絶対変だ。
大きめのスプーンの上に一口サイズのケーキが並んでいる。
これがあーん用に特別に用意されたケーキだ。
ここはママ様に習ったやり方で誤魔化すことにした。
「おほほっ、何でもございませんの。あ、普通のケーキ、ご用意して下さい。なければお土産の温泉クッキーでもいいです」
王子がこっち見て不満そうに問い詰める。
「エルシー、まさかあれをさせない気か?」
「しません。あの、陛下、あの後、温泉行ったんです。お土産で買った温泉クッキー美味しいですよ。バターたっぶりのサクサクで」
「兄上、やはりお帰りを。この通り、エルシーは元気です」
「何言ってるんですか、ご兄弟でしょう。積もる話とかないんですか?」
「今は良い。せっかく茶の時間なんだぞ」
何故、そこまであーんしたい?
私は王子に耳打ちした。
「後でさせてあげますから」
「……絶対だぞ」
王子は油断なくこっちを探ってくる。だからオーラ出すな。
「はい」
陛下はそんな我々のやりとりを見て、小さなお声で呟かれた。
「……天使はグレンに会ってまだ十日というが、随分と仲が良いようだね」
何言ってるんだ、この人?
と私は思ったが、王子は眉をひそめる。
「……天使?エルシー、兄に天使と呼ばせているのか、俺には禁じたというのに」
「呼ばせてませんよ!」
陛下は胸に手を当て目を閉じると朗々とした声でおっしゃった。
「エルシー姫は、天使と呼ぶに相応しい。野に咲く花のように美しく、可憐だ」
「…………」
何と言っていいか分からなくて、膝の上の指を絡めてもじもじしてしまった。
ほっぺた赤くなっちゃった。
だって美しいとかあんまり男の人に言われたことない。
王子が声を荒げて私に言った。
「何故、エルシーはそのように恥じらう?」
「えっ、そんなの言われるの初めてだから、ちょっと照れちゃって」
「言っているだろう、そんなことは」
「えっ、誰が誰に?」
「天使のように清らかでガラス細工のように繊細で白雪のように白く輝く肌をした妖精。華奢で美しく愛らしいと」
「いえ、初めて聞きましたが」
というか、それは誰だ?
「そんなことは当たり前すぎて口に出して言うことはない」
「いや、それでは分かりませんし、全然伝わりません」
めちゃくちゃ言ってるな、王子よ。
「大体、エルシーも俺のことを何も言わないではないか」
「えー、好きって言ってますよ」
王子は大きく首を横に振り、否定した。
「いや、エルシーの好きは当てにならない」
「失礼な。どういう意味ですか」
「ジェロームのことは好きか?」
王子はジェローム様を指さした。
「好きですよ。当たり前です」
「ゲルボルグは?」
「好き」
「アランは?」
「好き」
「テレンスは?」
「好き」
「ポーリーンは?」
「好き」
「私は?」
と何故か陛下が聞いて来た。
「陛下は……よく知らない方ですから、普通です」
何故かガッカリされたのであわてて言った。
「でも陛下、賢王って名高いから国民としては好きです」
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