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03.レッスン1:キス①
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「……というわけで、エルシー様、あなたが王子のお嫁さんです」
「はあ……」
お父様お母様、何だか分からないが、王子様と結婚が決まりました。
持参金とかどうなるんですかね?
子爵家ごときで支払えるんでしょうか?
「ここから本題なのですが、失礼ですが、エルシー様は処女?」
「無論です」
貴族の令嬢というのは、結婚まで純潔を守るものなのだ。
「そういうわけで王子は童貞です」
「サヨウデスカ」
「キスも知りませんので、このままお二人にしても良いんですが、多分流血沙汰になります」
「流血沙汰!?」
ありなのか。
貴族の令嬢の結婚は早い。
年の離れた姉達も十七歳頃には結婚している。
十六歳で嫁に行くのは珍しいことではない。
先ほどまではそうはいっても何とかなると思っていた私だが、流血沙汰と聞くと怖じ気づく。
大体どこの何が流血するというのだろうか。
想像も出来ないが、騎士と戦って勝てる気はしない。
つまり流血するのは私であろう。
私に触れる王子の手はごっつい。
体も長身のため遠目には華奢にさえ見えたが、ゴリゴリのゴツゴツである。
体の何処を取っても女性の私と比べて色々でかい。
私は十六歳の世間も知らぬ小娘なのだ。
私は涙目で呟いた。
「怖い……」
「大丈夫だ。俺が守る」
その声は、私のすぐ隣で聞こえた。
王子である。
「殿下が怖いのです」
「グレンだ。名前を呼んでくれ」
そういうと彼は私の両手を自分の両手で包み込むように握りしめた。
「はあ……」
どうしよう。
王族を名前呼び。
不敬なのも何となく気になるが、貴族令嬢の私はそもそも異性の名を呼ぶ機会がない。
未婚の女性は男性達の目に触れぬよう家の奥で暮らしているのだ。
しかも私はまだ婚約者もいなかった。
色々麻痺しているが、この距離も本来はない。
彼は私と距離を詰め、間は十センチもないだろう。
相手は美形であるが、私はこの展開にドキドキする余裕すら失っている。
「エルシー様、名前呼んであげて下さい」
「そうです、呼んであげて」
と二人から促される。
「じゃあグレン様」
「君のことは、天使と呼べば良いのか?」
「いや、普通でお願いします。エルシーです」
私は横を向き、そこに立つ二人に尋ねた。
「あの、お二人は?」
彼らは私に向き直り、ビシッと騎士ぽく会釈と共に名乗った。
「ああ、申し遅れました。アラン・ナイトリーと申します」
「テレンス・ケインズ。両名とも竜騎士です」
「ナイトリー様とケインズ様」
「出来ましたら我々のことは名前でお呼び下さい。緊急の際には名前で反応するので」
「ではアラン様とテレンス様」
「二人はもう行って良い」
と王子は冷たく言った。
すかさず私は言ってやりましたよ。
「絶対二人にしないで下さい!」
「まあ、いずれ二人にはするんですが、王子、お手々スリスリより良いことを教えてあげます」
「良いこと?」
王子はぐりんと顔をアラン様達に向けた。
横顔も隙なく美形だ。
見返されると恥ずかしいからゆっくり王子を観察出来ずにいた。私はこの隙にまじまじと彼を見た。
恐ろしい程の美形だった。
なんだ、このキラキラオーラは。
「キスです」
「キス!あれか、よししよう」
王子は再び私に顔を向け、そのまま顔が近づいてくる。
「ぎゃあああっ!」
と私は後ずさった。
正確には後ずさろうとした。
王子はこれが騎士というものか、一瞬としか思えぬ素早さで私を抱きしめた。
私は両手で彼の顔を押し返した。
「待てっ、待って、殿下」
「グレンだ」
「グレン様、待って。まずお話をしましょう」
「後で良くないか」
手の隙間から見える王子の視線は私の唇に注がれている。
ガン見だ。
「……ちゅー、したいんですか」
「したい」
と彼は頷いた。
「じゃあいいですよ。しましょう」
考えてみたら気の毒な人だ。
キスもしたことないなんて……。
私は彼にキスすることにした。
「はあ……」
お父様お母様、何だか分からないが、王子様と結婚が決まりました。
持参金とかどうなるんですかね?
子爵家ごときで支払えるんでしょうか?
「ここから本題なのですが、失礼ですが、エルシー様は処女?」
「無論です」
貴族の令嬢というのは、結婚まで純潔を守るものなのだ。
「そういうわけで王子は童貞です」
「サヨウデスカ」
「キスも知りませんので、このままお二人にしても良いんですが、多分流血沙汰になります」
「流血沙汰!?」
ありなのか。
貴族の令嬢の結婚は早い。
年の離れた姉達も十七歳頃には結婚している。
十六歳で嫁に行くのは珍しいことではない。
先ほどまではそうはいっても何とかなると思っていた私だが、流血沙汰と聞くと怖じ気づく。
大体どこの何が流血するというのだろうか。
想像も出来ないが、騎士と戦って勝てる気はしない。
つまり流血するのは私であろう。
私に触れる王子の手はごっつい。
体も長身のため遠目には華奢にさえ見えたが、ゴリゴリのゴツゴツである。
体の何処を取っても女性の私と比べて色々でかい。
私は十六歳の世間も知らぬ小娘なのだ。
私は涙目で呟いた。
「怖い……」
「大丈夫だ。俺が守る」
その声は、私のすぐ隣で聞こえた。
王子である。
「殿下が怖いのです」
「グレンだ。名前を呼んでくれ」
そういうと彼は私の両手を自分の両手で包み込むように握りしめた。
「はあ……」
どうしよう。
王族を名前呼び。
不敬なのも何となく気になるが、貴族令嬢の私はそもそも異性の名を呼ぶ機会がない。
未婚の女性は男性達の目に触れぬよう家の奥で暮らしているのだ。
しかも私はまだ婚約者もいなかった。
色々麻痺しているが、この距離も本来はない。
彼は私と距離を詰め、間は十センチもないだろう。
相手は美形であるが、私はこの展開にドキドキする余裕すら失っている。
「エルシー様、名前呼んであげて下さい」
「そうです、呼んであげて」
と二人から促される。
「じゃあグレン様」
「君のことは、天使と呼べば良いのか?」
「いや、普通でお願いします。エルシーです」
私は横を向き、そこに立つ二人に尋ねた。
「あの、お二人は?」
彼らは私に向き直り、ビシッと騎士ぽく会釈と共に名乗った。
「ああ、申し遅れました。アラン・ナイトリーと申します」
「テレンス・ケインズ。両名とも竜騎士です」
「ナイトリー様とケインズ様」
「出来ましたら我々のことは名前でお呼び下さい。緊急の際には名前で反応するので」
「ではアラン様とテレンス様」
「二人はもう行って良い」
と王子は冷たく言った。
すかさず私は言ってやりましたよ。
「絶対二人にしないで下さい!」
「まあ、いずれ二人にはするんですが、王子、お手々スリスリより良いことを教えてあげます」
「良いこと?」
王子はぐりんと顔をアラン様達に向けた。
横顔も隙なく美形だ。
見返されると恥ずかしいからゆっくり王子を観察出来ずにいた。私はこの隙にまじまじと彼を見た。
恐ろしい程の美形だった。
なんだ、このキラキラオーラは。
「キスです」
「キス!あれか、よししよう」
王子は再び私に顔を向け、そのまま顔が近づいてくる。
「ぎゃあああっ!」
と私は後ずさった。
正確には後ずさろうとした。
王子はこれが騎士というものか、一瞬としか思えぬ素早さで私を抱きしめた。
私は両手で彼の顔を押し返した。
「待てっ、待って、殿下」
「グレンだ」
「グレン様、待って。まずお話をしましょう」
「後で良くないか」
手の隙間から見える王子の視線は私の唇に注がれている。
ガン見だ。
「……ちゅー、したいんですか」
「したい」
と彼は頷いた。
「じゃあいいですよ。しましょう」
考えてみたら気の毒な人だ。
キスもしたことないなんて……。
私は彼にキスすることにした。
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