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二年目
06.冬の戯れ2
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ロゼッタの両親、リーネルト侯爵とその夫人がグリューニングの地を訪れたのは冬の最中だった。
「お父様、お母様」
「ロゼッタ」
ロゼッタ達は一年ぶりの再会を喜び合う。
孫のランドルフを見せると、リーネルト侯爵夫妻は相好を崩す。
ロゼッタには二人の兄がいるが、どちらも独身だ。
王国の王太子が婚約者を持たなかったため、高位貴族の令嬢達の結婚は遅れていた。当然そのお相手となる高位貴族の令息達の結婚もまだだ。
その王太子だが、ようやく婚約者を決めた。
意外なことにお相手は国内貴族の令嬢ではなく、グリューニングとは反対側の隣国の王女だという。
「へぇ」
唇の端をニヤリと歪めたジークフリートにリーネルト侯爵も意味ありげに頷く。
「王太子殿下自らお選びになった。『一番いい牝鹿』を奪われて殿下も色々と思うところがあったご様子だ」
国内を固めるより、隣国との関係を強化すべき時だった。
国の北と東はジークフリートが抑えている。手を付けねばならないのは、逆側だ。
ジークフリートはそう判断する。宰相のリーネルト侯爵も同感のようだ。
「それにしても、初孫は可愛いものだな」
リーネルト侯爵は孫を見つめ目を潤ませ、ロゼッタを驚かせた。
無理もないとジークフリートは悦に入る。
四ヶ月のランドルフは感情表現も豊かになり、赤子らしい愛らしさに溢れている。
誰もが魅了される可愛さである。
だがもう少しで父親を見て泣き出すという悪夢のような時期が来るらしい。
首も据わりジークフリートでも抱きやすくなったので出来るだけ抱き上げて忘れられないようにつとめている。
三週間と、一国を任される宰相にしては長い滞在だが、王国第二の都市を抱え、近年ますます景気の良いグリューニングの視察を兼ねている。
だが一番のお目当てはランドルフのようで側から離そうとしない。
***
ジークフリートとリーネルト侯爵は義理の親子らしい程々の距離感で共に視察に出掛けたり、狩りをして過ごした。
その間城に残されたロゼッタとリーネルト侯爵夫人は母子でランドルフの様子を見ながら近況を語り合ったり、刺繍を刺したりした。
特に仲の良い親子ではなかったが、離れてようやく分かることもある。
母は遠い辺境地の伯爵との結婚を泣いて嫌がったロゼッタに味方してくれた訳ではないが、気の利く侍女を二人、付けてくれた。
「幸せなのね、ロゼッタ」
母からそう問われてロゼッタは笑顔で頷いた。
「はい、お母様」
リーネルト侯爵とその夫人の滞在期間が終わり、ジークフリートとロゼッタとその子ランドルフは揃って半日ほど先の街まで見送りに出た。
「また来る」と手を振る両親を乗せた馬車に手を振りかえしながら、寂しさ反面、ロゼッタはホッと胸をなで下ろす。
その様子を見ていたジークフリートに、「疲れたか?」と労われてしまう。
ジークフリートは腕にランドルフを抱えている。
王都では赤子を抱く貴族の男性は見たことがなかったが、ジークフリートは抵抗なく抱く。
「いえ、申し訳ありません。父母がお世話になりましたのに」
「どちらも良い方だが、客人を持てなすのは疲れるものだ」
ジークフリートはそう言うと、ランドルフを抱いた腕とは逆の腕でロゼッタの頭を撫でた。
ジークフリートは子の可愛さをロゼッタの身内にも自慢したかったので丁度良かった。
「またいらして頂きたいものだ」
本気らしい口調にロゼッタは思わず微笑んだ。
今日は城には戻らず、慰労を兼ねて三人で近くの温泉場に泊まる。
城が広いので閉じこもりきりという自覚はなかったが、ロゼッタにとっては実に一年以上ぶりの外出だった。
ランドルフは生後四ヶ月。首が据わり、少し活発になってきたので、外を見るのも楽しかろうとジークフリートが計画した。
ジークフリートの馴染みの温泉らしい。
「ただの田舎なんだが、馬で駆けるとすぐなので昔は良く行ったんだ」
「温泉は初めてです」
「そうか、温まるし、疲れも取れる。傷も治りが早いので、騎士達は好む」
ジークフリートが選んだ宿はグリューニング領では良くある白い漆喰の壁に柱や筋かいなどが浮き出す木骨構造の宿屋だ。
派手さはないがどことなく落ち着いたたたずまいで、清潔で明るい。ロゼッタは一目で気に入った。
夕方過ぎに宿に着き、少し休んだ後、夕食を食べる。
城で食べるのとまた違う、鶏肉と野菜を煮込んだ料理や、蕎麦の実とスモークチーズのパンなどグリューニング領の素朴な郷土料理が饗された。
食事の後は、温泉に入ることになった。
「お湯に浸かる程度ならランドルフも入れる。長いとのぼせるので良くない」
「えっ」
「せっかくだ。家族で入ろう」
ロゼッタは一緒に入るというジークフリートに驚き、声も出せずに固まったが、グリューニング領出身の宿屋の女将がこっそり耳打ちする。
「奥方様、この地方では旦那様と一緒にお風呂に入るのは普通なんです」
「そ、そうなの?」
郷に入っては郷に従う。
普通というなら、ロゼッタもそうしよう。
だが、なんぞ含みのある目つきでにんまり微笑まれる。
「まあ、お仲が良いご夫婦に限りますが、ですけど」
ロゼッタは頬を赤らめた。
ジークフリートはこの宿を一晩貸し切りにしたので、他に客はいない。
胸がうるさいくらいに高鳴ったが、まず体を洗った後、ロゼッタは水着のような服に着替える。
裸ではないのにホッとした。
他に客はいないと聞いていたが、裸は恥ずかしい。
そして案内されて隣の風呂に入った。
大きな風呂で、既にジークフリートがランドルフを抱えて風呂に入っている。
ランドルフはきゃっきゃとはしゃいで風呂につかっている。
風呂の湯は白濁しており、いかにも温泉らしい。
ロゼッタも湯に入って、ジークフリートの隣に座る。
「暖かい。それに匂いがします。これが温泉の匂いですか?」
「ああ、温泉にも色々あってここは比較的温くて、刺激が少ない。赤ん坊でもつかれるんだが……」
そう言うとジークフリートは立ち上がって風呂から出た。
ジークフリートも裸ではなく下にハーフパンツを履いている。
「長湯は良くない」
とバスタオルを手に待ち構えていた侍女にランドルフを渡す。
侍女も下がり、二人きりにされる。
宿で一番良いという風呂場は、景観もまた良かった。
雪に覆われた深い森が見える。外からは中が見えず辛いが、中からは外がよく見えるよう設計されているらしい。
二人だけで肩を並べてぼーっと過ごす。
静かで贅沢な時間が流れていく。
「出ないとな。長湯はロゼッタの体に障る……障るんだが……」
ジークフリートはロゼッタを見つめて言った。真剣な表情だった。
「見たい物がある」
「はい、何でしょう」
「ずっと恋い焦がれて止まなかった」
「はい……」
「胸は、水に浮くという。浮いているところが見たい」
***
結婚してロゼッタは少し変わった。
王都では何を言われても曖昧に微笑んでやり過ごしていた。だが、グリューニング領に来てからはおそるおそるだが自分の意見を言えるようになった。
ロゼッタを変えたその男、ジークフリートにロゼッタは言い返した。
「嫌ですわ」
「何故?」
「恥ずかしいですもの……」
だが、ジークフリートも諦めない。
両手でロゼッタの手を握りしめて切々と懇願した。
「ロゼッタ、何でもする。少しでいい。見たいんだ」
ロゼッタは瞳をまたたかせる。
年に似合わず老獪な領主とまで言われるのが辺境伯ジークフリート・ギュンターだった。易々と約束はせぬタチである。
『そこまで見たいのかしら……』
「言ってくれ。何が欲しい?」
ジークフリートは本気らしく、随分真剣だ。
ロゼッタは小首をかしげて考える。そして。
「そうですね、ではまた三人で旅行に参りましょう?」
「それだけでいいのか?」
「はい」
それだけというが、ジークフリートは忙しい。
そして騎士であり戦う術を持つジークフリートとは違い、女子供のロゼッタやランドルフが外出するとなると、警備も大変でかなり大事になるのはロゼッタも分かっている。
「じゃあ行こう。そうだな、春になったら」
「何処?」
春に三人でどこかに出掛けるなんて、叶えばどんなに楽しいだろう。
ロゼッタの笑顔を見てジークフリートも笑いかける。
「君の行きたいところなら何処でも。春のグリューニングは美しいぞ」
「では、楽しみにしております」
「うん」
ロゼッタはおずおずとスリップドレスのような水着の上を脱いだ。
ジークフリートはその動作を一瞬も見逃さぬように見つめた。
服を脱ぎ、恥ずかしそうにまた肩まで湯に沈むロゼッタにジークフリートは息を呑んだ。
「浮くんだな……本当に」
白い胸はプカリと少し浮いた。
凝視されてロゼッタは恥ずかしい。
もっと湯の中に沈もうとするロゼッタをジークフリートが抱き寄せる。
「駄目だ。見せてくれ」
「でも……」
「ああ、綺麗だな。丸い形に浮くんだな」
恍惚と凝視していたジークフリートだが、顔を上げると、ロゼッタに言った。
「触っていいか?」
「えっ」
ジークフリートは確かに老獪な領主であった。
ロゼッタが戸惑って返事も出来ないのを良いことに勝手に胸に触れた。
「柔らかい……」
いつもより更に柔らかいのだ。体温とは違う暖かさも相まって蕩けるようだ。
「なんだ、これは」
水の中で滑って上手く掴めない。
さりとて強く握れば傷付けてしまう。
もどかしさがジークフリートの欲情を加速させた。
ジークフリートは夢中で揉んだが、
「ジークフリート様!」
とロゼッタの声が上がる。
ようやく我に返るとロゼッタは真っ赤だ。
「長湯しすぎたな。頬が真っ赤だぞ」
ジークフリートの方は完全に勃起していた。
非常に歩きづらいが、ロゼッタを立たせて湯から上がる。
二人とも人を呼べる状態ではない。
湯から出て丁度いい場所にベンチがあるのでそこにロゼッタを座らせ、近くに用意されていたバスタオルでロゼッタをふいた。次に水差しから水を注いで、コップを手渡す。
喉が渇いていたロゼッタはコクコク飲み干した。
ジークフリートは心配になってロゼッタに声を掛ける。
「まだ真っ赤だな。少し横になるか?」
「こ、これはジークフリート様のせいです!」
「お父様、お母様」
「ロゼッタ」
ロゼッタ達は一年ぶりの再会を喜び合う。
孫のランドルフを見せると、リーネルト侯爵夫妻は相好を崩す。
ロゼッタには二人の兄がいるが、どちらも独身だ。
王国の王太子が婚約者を持たなかったため、高位貴族の令嬢達の結婚は遅れていた。当然そのお相手となる高位貴族の令息達の結婚もまだだ。
その王太子だが、ようやく婚約者を決めた。
意外なことにお相手は国内貴族の令嬢ではなく、グリューニングとは反対側の隣国の王女だという。
「へぇ」
唇の端をニヤリと歪めたジークフリートにリーネルト侯爵も意味ありげに頷く。
「王太子殿下自らお選びになった。『一番いい牝鹿』を奪われて殿下も色々と思うところがあったご様子だ」
国内を固めるより、隣国との関係を強化すべき時だった。
国の北と東はジークフリートが抑えている。手を付けねばならないのは、逆側だ。
ジークフリートはそう判断する。宰相のリーネルト侯爵も同感のようだ。
「それにしても、初孫は可愛いものだな」
リーネルト侯爵は孫を見つめ目を潤ませ、ロゼッタを驚かせた。
無理もないとジークフリートは悦に入る。
四ヶ月のランドルフは感情表現も豊かになり、赤子らしい愛らしさに溢れている。
誰もが魅了される可愛さである。
だがもう少しで父親を見て泣き出すという悪夢のような時期が来るらしい。
首も据わりジークフリートでも抱きやすくなったので出来るだけ抱き上げて忘れられないようにつとめている。
三週間と、一国を任される宰相にしては長い滞在だが、王国第二の都市を抱え、近年ますます景気の良いグリューニングの視察を兼ねている。
だが一番のお目当てはランドルフのようで側から離そうとしない。
***
ジークフリートとリーネルト侯爵は義理の親子らしい程々の距離感で共に視察に出掛けたり、狩りをして過ごした。
その間城に残されたロゼッタとリーネルト侯爵夫人は母子でランドルフの様子を見ながら近況を語り合ったり、刺繍を刺したりした。
特に仲の良い親子ではなかったが、離れてようやく分かることもある。
母は遠い辺境地の伯爵との結婚を泣いて嫌がったロゼッタに味方してくれた訳ではないが、気の利く侍女を二人、付けてくれた。
「幸せなのね、ロゼッタ」
母からそう問われてロゼッタは笑顔で頷いた。
「はい、お母様」
リーネルト侯爵とその夫人の滞在期間が終わり、ジークフリートとロゼッタとその子ランドルフは揃って半日ほど先の街まで見送りに出た。
「また来る」と手を振る両親を乗せた馬車に手を振りかえしながら、寂しさ反面、ロゼッタはホッと胸をなで下ろす。
その様子を見ていたジークフリートに、「疲れたか?」と労われてしまう。
ジークフリートは腕にランドルフを抱えている。
王都では赤子を抱く貴族の男性は見たことがなかったが、ジークフリートは抵抗なく抱く。
「いえ、申し訳ありません。父母がお世話になりましたのに」
「どちらも良い方だが、客人を持てなすのは疲れるものだ」
ジークフリートはそう言うと、ランドルフを抱いた腕とは逆の腕でロゼッタの頭を撫でた。
ジークフリートは子の可愛さをロゼッタの身内にも自慢したかったので丁度良かった。
「またいらして頂きたいものだ」
本気らしい口調にロゼッタは思わず微笑んだ。
今日は城には戻らず、慰労を兼ねて三人で近くの温泉場に泊まる。
城が広いので閉じこもりきりという自覚はなかったが、ロゼッタにとっては実に一年以上ぶりの外出だった。
ランドルフは生後四ヶ月。首が据わり、少し活発になってきたので、外を見るのも楽しかろうとジークフリートが計画した。
ジークフリートの馴染みの温泉らしい。
「ただの田舎なんだが、馬で駆けるとすぐなので昔は良く行ったんだ」
「温泉は初めてです」
「そうか、温まるし、疲れも取れる。傷も治りが早いので、騎士達は好む」
ジークフリートが選んだ宿はグリューニング領では良くある白い漆喰の壁に柱や筋かいなどが浮き出す木骨構造の宿屋だ。
派手さはないがどことなく落ち着いたたたずまいで、清潔で明るい。ロゼッタは一目で気に入った。
夕方過ぎに宿に着き、少し休んだ後、夕食を食べる。
城で食べるのとまた違う、鶏肉と野菜を煮込んだ料理や、蕎麦の実とスモークチーズのパンなどグリューニング領の素朴な郷土料理が饗された。
食事の後は、温泉に入ることになった。
「お湯に浸かる程度ならランドルフも入れる。長いとのぼせるので良くない」
「えっ」
「せっかくだ。家族で入ろう」
ロゼッタは一緒に入るというジークフリートに驚き、声も出せずに固まったが、グリューニング領出身の宿屋の女将がこっそり耳打ちする。
「奥方様、この地方では旦那様と一緒にお風呂に入るのは普通なんです」
「そ、そうなの?」
郷に入っては郷に従う。
普通というなら、ロゼッタもそうしよう。
だが、なんぞ含みのある目つきでにんまり微笑まれる。
「まあ、お仲が良いご夫婦に限りますが、ですけど」
ロゼッタは頬を赤らめた。
ジークフリートはこの宿を一晩貸し切りにしたので、他に客はいない。
胸がうるさいくらいに高鳴ったが、まず体を洗った後、ロゼッタは水着のような服に着替える。
裸ではないのにホッとした。
他に客はいないと聞いていたが、裸は恥ずかしい。
そして案内されて隣の風呂に入った。
大きな風呂で、既にジークフリートがランドルフを抱えて風呂に入っている。
ランドルフはきゃっきゃとはしゃいで風呂につかっている。
風呂の湯は白濁しており、いかにも温泉らしい。
ロゼッタも湯に入って、ジークフリートの隣に座る。
「暖かい。それに匂いがします。これが温泉の匂いですか?」
「ああ、温泉にも色々あってここは比較的温くて、刺激が少ない。赤ん坊でもつかれるんだが……」
そう言うとジークフリートは立ち上がって風呂から出た。
ジークフリートも裸ではなく下にハーフパンツを履いている。
「長湯は良くない」
とバスタオルを手に待ち構えていた侍女にランドルフを渡す。
侍女も下がり、二人きりにされる。
宿で一番良いという風呂場は、景観もまた良かった。
雪に覆われた深い森が見える。外からは中が見えず辛いが、中からは外がよく見えるよう設計されているらしい。
二人だけで肩を並べてぼーっと過ごす。
静かで贅沢な時間が流れていく。
「出ないとな。長湯はロゼッタの体に障る……障るんだが……」
ジークフリートはロゼッタを見つめて言った。真剣な表情だった。
「見たい物がある」
「はい、何でしょう」
「ずっと恋い焦がれて止まなかった」
「はい……」
「胸は、水に浮くという。浮いているところが見たい」
***
結婚してロゼッタは少し変わった。
王都では何を言われても曖昧に微笑んでやり過ごしていた。だが、グリューニング領に来てからはおそるおそるだが自分の意見を言えるようになった。
ロゼッタを変えたその男、ジークフリートにロゼッタは言い返した。
「嫌ですわ」
「何故?」
「恥ずかしいですもの……」
だが、ジークフリートも諦めない。
両手でロゼッタの手を握りしめて切々と懇願した。
「ロゼッタ、何でもする。少しでいい。見たいんだ」
ロゼッタは瞳をまたたかせる。
年に似合わず老獪な領主とまで言われるのが辺境伯ジークフリート・ギュンターだった。易々と約束はせぬタチである。
『そこまで見たいのかしら……』
「言ってくれ。何が欲しい?」
ジークフリートは本気らしく、随分真剣だ。
ロゼッタは小首をかしげて考える。そして。
「そうですね、ではまた三人で旅行に参りましょう?」
「それだけでいいのか?」
「はい」
それだけというが、ジークフリートは忙しい。
そして騎士であり戦う術を持つジークフリートとは違い、女子供のロゼッタやランドルフが外出するとなると、警備も大変でかなり大事になるのはロゼッタも分かっている。
「じゃあ行こう。そうだな、春になったら」
「何処?」
春に三人でどこかに出掛けるなんて、叶えばどんなに楽しいだろう。
ロゼッタの笑顔を見てジークフリートも笑いかける。
「君の行きたいところなら何処でも。春のグリューニングは美しいぞ」
「では、楽しみにしております」
「うん」
ロゼッタはおずおずとスリップドレスのような水着の上を脱いだ。
ジークフリートはその動作を一瞬も見逃さぬように見つめた。
服を脱ぎ、恥ずかしそうにまた肩まで湯に沈むロゼッタにジークフリートは息を呑んだ。
「浮くんだな……本当に」
白い胸はプカリと少し浮いた。
凝視されてロゼッタは恥ずかしい。
もっと湯の中に沈もうとするロゼッタをジークフリートが抱き寄せる。
「駄目だ。見せてくれ」
「でも……」
「ああ、綺麗だな。丸い形に浮くんだな」
恍惚と凝視していたジークフリートだが、顔を上げると、ロゼッタに言った。
「触っていいか?」
「えっ」
ジークフリートは確かに老獪な領主であった。
ロゼッタが戸惑って返事も出来ないのを良いことに勝手に胸に触れた。
「柔らかい……」
いつもより更に柔らかいのだ。体温とは違う暖かさも相まって蕩けるようだ。
「なんだ、これは」
水の中で滑って上手く掴めない。
さりとて強く握れば傷付けてしまう。
もどかしさがジークフリートの欲情を加速させた。
ジークフリートは夢中で揉んだが、
「ジークフリート様!」
とロゼッタの声が上がる。
ようやく我に返るとロゼッタは真っ赤だ。
「長湯しすぎたな。頬が真っ赤だぞ」
ジークフリートの方は完全に勃起していた。
非常に歩きづらいが、ロゼッタを立たせて湯から上がる。
二人とも人を呼べる状態ではない。
湯から出て丁度いい場所にベンチがあるのでそこにロゼッタを座らせ、近くに用意されていたバスタオルでロゼッタをふいた。次に水差しから水を注いで、コップを手渡す。
喉が渇いていたロゼッタはコクコク飲み干した。
ジークフリートは心配になってロゼッタに声を掛ける。
「まだ真っ赤だな。少し横になるか?」
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