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一年目

04.バカンスの夏1

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 グリューニング領は国の北東部に位置し、夏は過ごしやすい。
 ロゼッタは快適な夏を過ごしていたが、ジークフリートはロゼッタを避暑に連れ出した。
 貴族は丸々一ヶ月避暑地で過ごすが、忙しいジークフリートは休暇も二週間が限界だ。
 場所はグリューニング領でも風光明媚と名高い湖の側に建つギュンター家の別荘だった。

「キッチンが二つあるのね」
 別荘を案内されて、ロゼッタは気付いた。
 辺境にあるグリューニング領は王都より遙かに危険だとジークフリートから言い聞かされている。
 辺境伯夫人となったロゼッタも誘拐の標的になり得るという。そのため城内でも護衛がいないと庭に出して貰えないほどだ。
 別荘では全ての部屋に案内され、緊急の時にどう逃げれば良いかをまず教えられる。

「こちらはご夫人用のキッチンです」
 広さは本厨房より狭いが、タイル貼りの内装は綺麗で窓も大きく取られている。
「まあ、夫人用?」
 ロゼッタは驚く。基本、貴族の妻は料理はしない。
「はい、避暑地ではご夫人方がお菓子やご朝食を作られ、ご家族やお客様に振る舞うのですよ」
「……私にも作れるのかしら」
 案内役の侍女は目を丸くした後、微笑んだ。
「はい。きっと旦那様もお喜びですよ」

 別荘に着いて翌日。
 朝食を取った後でジークフリートが言った。
「今日は晴れるようだから、湖で泳いでみないか?」
「お、泳ぐのですか?」
 湖や海、夏には毎年避暑に行ったが、泳ぎなどしたことはない。
 ロゼッタはいささか怯んだ。
 令嬢に限らず、王都では貴族が泳ぐなど聞いたこともない。湖の遊びは周囲の散策かボート遊びが一般的だ。
 だが、ジークフリートは言った。
「泳ぐぞ。初めてなら腰まで浸かるくらいでも面白いだろう。やってみたらどうだ?」

 膝丈のワンピースと揃いの布で作られた膝下のショートパンツを着て、足には素足で履ける柔らかいが丈夫な布の靴を履いて湖に向かう。
 専用の小路の前にジークフリートが待っていた。
 ジークフリートは下半身にショートパンツを履いただけで上半身は脱いでいる。
 みるみるうちに頬を薔薇色に染めたロゼッタにジークフリートは思わず尋ねた。
「何かおかしいか?」
「だって……脱いでいらっしゃるから」
 明るいところで上半身をはだけた夫は初めて見た。
 グリューニング領の将軍でもある彼は鍛えた体をしている。

 頬を赤らめられるとジークフリートまで恥ずかしくなった。
「来なさい」
 腕を引かれてロゼッタは湖に入った。
 かなり大きい湖は、半分ほどがギュンター家の私有地で、後は養殖に使われる湖らしい。
「牡蠣や海老の養殖をしている。マスもサケも捕れる。旨いぞ」
「昨日食べたのも?」
 昨日は前菜に白ワインで蒸した牡蠣が出た。
「ここの地のものだ」

 腰まで浸かり、次はジークフリートにつかまりながら少し泳ぐ。
 ジークフリートは幼少期は毎年この湖に来ていた。泳ぎは得意だ。
 暑い日が続き、水の冷たさはちょうど心地良い。
「一時間経った。そろそろ上がろう」
 と促されるまであっという間だった。
「楽しかったです」
 ロゼッタは笑顔でジークフリートに言った。
「そうか」
 ロゼッタは綺麗な少女だが、大人しく少し表情が乏しい。
 夫のジークフリートにも常に遠慮がちで、ジークフリートは今日ロゼッタが声を上げて笑うところを初めて見た。
『楽しかったのなら良いことをした』
 はしゃぐロゼッタの姿を思い返し、ジークフリートもかすかに微笑み返した。

 ジークフリートが余裕だったのは、ロゼッタが湖から出るまでだった。
 ジークフリートは息を飲んだ。
 濡れた水着がロゼッタの肌に張り付いている。凹凸の激しい体の線がはっきりと浮かび上がった。
 ジークフリートは侍女の手から奪うようにしてタオルガウンを羽織らせた。
 裸より艶めかしい。
「午後に何か予定は?」
 唐突にそう問われたロゼッタは首をかしげる。
「……?何もなかったと思いますが」
 ほんの短時間でも初めて泳ぐと疲れるものらしい。午睡しても良いように午後の予定は何も入れていない。
「そうか」
 ジークフリートはそれを聞いて、ロゼッタを寝室に連れ込んだ。





 ***

「……ジークフリート様」
 ここには着替えのために来たのだとロゼッタは思っているようだ。不思議そうだが、恥じらいはない視線でロゼッタはジークフリートを見上げている。
 二人は昼間から情事に及んだことはなかった。
 夏の日差しが窓から部屋に明るく差し込んでいる。
 顔は水につけていないから結わいた髪は濡れていない。だが、水遊びで乱れた髪はいつものように綺麗に整ってはおらず、ほつれている。
 そして濡れた水着はロゼッタの肢体の艶やかさを隠せてはいない。張り切った乳房は元より乳首までもうっすらと見えていた。
 興奮した。

 ジークフリートは突き上げるような情欲を感じながら、ロゼッタを抱きしめた。
「あっ……駄目……」
 細い両腕で胸を押し体を離そうする姿も、ジークフリートを煽るだけだった。
「ロゼッタ、我慢出来ない……」
 濡れた服を脱がすのに、手間取った。
 いっそのこと引き裂いてしまいたくなる。
 ようやく脱がした服を乱暴に床に投げ捨てる。
 ロゼッタをベッドに座らせ、もどかしく自分のショートパンツを脱いだ時にはもうペニスは天を仰いでいた。

 ロゼッタはハッと息を飲み込んだ。
 ジークフリートの男性器を明るいところで見たのは初めてだった。
 普段のまぐわいは蝋燭の明かりだけが照らす薄暗がりで行われていたので、それは良く分からなかった。
 最初は恐怖から今は恥じらいから、ロゼッタはそれを見ないようにつとめていた。

 思ったよりグロテスクだった。
 だが何故か、一度見ると目が離せなくなった。

 ロゼッタはジークフリートのペニスに手を伸ばした。
「な……」
 ジークフリートはあわてた。
 華奢な指が絡みつき、――ああ、そのまましごいてくれないだろうか――とジークフリートは願う。しごきはしなかったが、ロゼッタはペニスをそっと撫でてきた。
 ジークフリートは一段と高ぶった。

 ロゼッタは色道指南書をその後も読んでいた。
『困ったら旦那様に素直にうかがうことです』
 そこに書いてあった通り、尋ねた。

「どうすればよろしいのですか」
 上目遣いで男根に手を添えながら、彼の妻は問いかけた。
 現実とは思えない。
 白昼夢が見せる淫らな夢の一時のようだった。
 ジークフリートはその夢に抗うより、身を任せることを選んだ。

「胸でこれを挟んでそれから君の唇で舐めてくれないか」

 ロゼッタは言われた通りにした。
 この世のものとも思えぬ悦楽であった。



 一度精を放って、ようやくジークフリートは人心地つく。
 じわじわした恥じらいの念と共に押し寄せたのは、次のむずがゆい欲求と、溢れんばかりのロゼッタへの愛だった。
 まさか、口に出させてくれるとは思わなかった。

 ロゼッタは呆然としているようだ。精液を舐めさせたのは初めてだった。
「ロゼ……」
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