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15.小さな恋のものがたり
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「ふー、高等部は緊張します」
私、高等部の敷地内に来ています。
というのもフレドリック殿下が最近お忙しく、お目に掛かる機会がないのです。
仕方ありませんが、少し寂しいと思ってました。そうしたら、フレドリック殿下の方から、
「許可は取っておくから、昼食を一緒に取れないか?」
そうお誘い下さったんです。
嬉しくて弾む気分で待ち合わせの王族控え室に行きますと、フレドリック殿下は既にお待ちです。
「遅れて申し訳ありません」
お声がけすると、フレドリック殿下ははにかむように微笑みました。
「いや、遅れていないよ、私がリーザに会いたくて、早く来てしまったんだ」
「フレドリック様……」
「リーザ……」
コホンと給仕が咳払いしました。
「お料理の準備が出来ております。お召し上がりを」
はい、いただきます。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、昼休みが終わってしまいます。名残惜しいですが、そろそろ戻らないといけません。
「中等部まで送るよ」
「よろしいのですか?」
「ああ、途中までになってしまうけれど」
「ありがとうございます!」
そんな話をしつつ、部屋のドアを開けた時でした。
「あっ、フレドリック様」
と可愛らしい声と共にピンク色の髪を揺らして女の子が駆け寄ります。
フレドリック殿下は、眉をひそめました。
「何かな、モルゲンさん」
『あっ』
モルゲンさんと言えば、アンナさんです。
「アンナです。えっと、あの、お話が……」
そう言うと、アンナさんはチラッと私を見ました。
フレドリック殿下はアンナさんの視線から私を隠すように肩を抱き寄せます。
「今は忙しいんだ。あとにして貰える?」
アンナさんはぷうっと頬を膨らませます。
「あとって、フレドリック様は忙しくて全然お話し出来ないじゃないですか」
「うん、忙しいからね。じゃあ」
優しいフレドリック殿下にしては珍しいくらい素っ気ない口調で会話を切り上げようとします。
でもアンナさんもめげません。行く手を塞ぐように立ちはだかります。
「あの、じゃあ、これ、手作りクッキーです。食べて下さい!フレドリック様、最近お忙しいから、無理してるんじゃないか、私、心配で……」
アンナさんはピンクのハンカチで可愛くラッピングされたクッキーをフレドリック殿下に差し出しました。
『これが、アンナさんの手作りクッキー』
「私が作ったんですよ。貴族の女子って自分でお菓子作らないって聞いてびっくりしちゃいました」
テヘッとアンナさんが笑います。
「リーザは時々作ってくれるよ。あれは美味しかった。スミレの砂糖漬けのクッキー」
フレドリック殿下はきちんと否定してくれました。私もお礼を言います。
「ありがとうございます」
『うちの料理長、女子力高けぇわー』ってお姉様も絶賛したレシピです。見た目も可愛くて美味しいんです。
「でも私のお菓子、えへ、恥ずかしいけど、美味しいって皆褒めてくれるんです!甘い物って疲れを癒やしてくれるんですよ。食べて元気を出して下さい」
ぐいっとアンナさんはクッキーを押し付けましたが、フレドリック殿下は受け取ろうとしません。
「…………」
殿下はさりげなく横に視線を走らせます。
合図と同時に、アリシアさんが近づいて、アンナさんの腕を掴みました。
「きゃあっ」
「アンナさん、何度も言いましたが、殿下に許可なく近づいてはいけません」
「許可って、私達、クラスメイトじゃないですか!そんなのって悲しいです」
「あのね、悲しいとかじゃなくて……」
「じゃあ行こう」
アリシアさんがアンナさんを足止めしている隙に、中等部に向かいます。
「ふう、色々ごめんね。今度はゆっくり時間を取って公爵家にうかがうよ」
フレドリック殿下はちょっと疲れたご様子です。
***
私達は何となく高等部に戻っていくフレドリック殿下のお姿を見送りました。
「あれがアンナさんかぁ……」
オリガが呟きました。
「え、オリガはアンナさんを知っているんですか?」
「はい、お兄の話だと……」
オリガが何か言い掛けます。
「オリガ、遅刻する」
とカールがあわてて止めました。
「あ、いけない、授業始まっちゃいます。エリザベート様、早く戻りましょう。お話は後で」
「そ、そうですね」
とりあえず、行きましょう。
「お兄がクラスにすごい可愛い子がいて男子には人気だって言ってました。ジョゼフィーヌ様が綺麗系の高嶺の花で、アンナさんは気さくで明るくて可愛い系だそうです。アリシア先輩は格好いい系の男装の麗人で、一年A組の三大美人らしいです」
放課後になってオリガが教えてくれました。
オリガはお兄さんのロシェさんが、カールはお姉さんのアリシアさんが、フレドリック殿下とアンナさんと同じクラスなんです。
「アンナさんは愛し合う両親の間に生まれたけど身分が原因でこれまで一緒に暮らせなかったそうです。そんな境遇にも関わらず、明るく元気で気さくで溌剌としたところが人気らしいです」
一方、カールは。
「姉貴がアンナってぶりっ子がフレドリック殿下にまとわりついて邪魔で邪魔でしょうがないってぼやいてました。高位貴族の男にばっかり媚び売ってるって言うから、どんなすごい悪女かなと思ってましたけど、普通に可愛いですよね」
「えー、あの人、可愛い?」
とオリガがカールに詰め寄ります。
「えっ、可愛いじゃん」
「男って趣味悪い!」
「それより、カール、高位貴族の男というのは……?」
カールは指折り数え始めました。
「まずフレドリック殿下と、あとは宰相殿下の息子と騎士団長の息子と魔法師団長の息子です」
『ジョゼフィーヌお姉様の言った通りです……!』
思わず固まっていると、カールはあわてて取りなします。
「あ、でもフレドリック殿下はなびいてないそうです。エリザベート様一筋です」
「そうですよ!殿下はエリザベート様がいるからって女子生徒のお誘いは皆断っているってお兄も言ってました」
オリガも言います。
「二人とも、ありがとう」
慰めて貰いました。
笑うとオリガもホッとしたように微笑みます。
「あー良かった。アンナさんよりエリザベート様の方が全然可愛いです。カールみたいな見る目ない奴はアンナさんに騙されるでしょうけど、フレドリック殿下は大丈夫です。ご安心を」
カールはこれを聞いてムッとして言い返します。
「俺だって別にアンナさん好きって訳じゃない。可愛いって言っただけ」
「ふーん、ハイハイ。可愛い可愛い」
オリガは機嫌を損ねたみたいです。プンと横を向いてます。
「だから、違うって。俺が好きなのは、オリガだから」
「はあ!?えっ、…ウソ?」
オリガはもう真っ赤です。
「嘘じゃないって、前からいいなと思ってて……」
カールも照れてます。
「えっ、あ……そうなんだ……」
「う、うん」
カールはどさくさに紛れて告白しましたよ。
青春です。
私、高等部の敷地内に来ています。
というのもフレドリック殿下が最近お忙しく、お目に掛かる機会がないのです。
仕方ありませんが、少し寂しいと思ってました。そうしたら、フレドリック殿下の方から、
「許可は取っておくから、昼食を一緒に取れないか?」
そうお誘い下さったんです。
嬉しくて弾む気分で待ち合わせの王族控え室に行きますと、フレドリック殿下は既にお待ちです。
「遅れて申し訳ありません」
お声がけすると、フレドリック殿下ははにかむように微笑みました。
「いや、遅れていないよ、私がリーザに会いたくて、早く来てしまったんだ」
「フレドリック様……」
「リーザ……」
コホンと給仕が咳払いしました。
「お料理の準備が出来ております。お召し上がりを」
はい、いただきます。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、昼休みが終わってしまいます。名残惜しいですが、そろそろ戻らないといけません。
「中等部まで送るよ」
「よろしいのですか?」
「ああ、途中までになってしまうけれど」
「ありがとうございます!」
そんな話をしつつ、部屋のドアを開けた時でした。
「あっ、フレドリック様」
と可愛らしい声と共にピンク色の髪を揺らして女の子が駆け寄ります。
フレドリック殿下は、眉をひそめました。
「何かな、モルゲンさん」
『あっ』
モルゲンさんと言えば、アンナさんです。
「アンナです。えっと、あの、お話が……」
そう言うと、アンナさんはチラッと私を見ました。
フレドリック殿下はアンナさんの視線から私を隠すように肩を抱き寄せます。
「今は忙しいんだ。あとにして貰える?」
アンナさんはぷうっと頬を膨らませます。
「あとって、フレドリック様は忙しくて全然お話し出来ないじゃないですか」
「うん、忙しいからね。じゃあ」
優しいフレドリック殿下にしては珍しいくらい素っ気ない口調で会話を切り上げようとします。
でもアンナさんもめげません。行く手を塞ぐように立ちはだかります。
「あの、じゃあ、これ、手作りクッキーです。食べて下さい!フレドリック様、最近お忙しいから、無理してるんじゃないか、私、心配で……」
アンナさんはピンクのハンカチで可愛くラッピングされたクッキーをフレドリック殿下に差し出しました。
『これが、アンナさんの手作りクッキー』
「私が作ったんですよ。貴族の女子って自分でお菓子作らないって聞いてびっくりしちゃいました」
テヘッとアンナさんが笑います。
「リーザは時々作ってくれるよ。あれは美味しかった。スミレの砂糖漬けのクッキー」
フレドリック殿下はきちんと否定してくれました。私もお礼を言います。
「ありがとうございます」
『うちの料理長、女子力高けぇわー』ってお姉様も絶賛したレシピです。見た目も可愛くて美味しいんです。
「でも私のお菓子、えへ、恥ずかしいけど、美味しいって皆褒めてくれるんです!甘い物って疲れを癒やしてくれるんですよ。食べて元気を出して下さい」
ぐいっとアンナさんはクッキーを押し付けましたが、フレドリック殿下は受け取ろうとしません。
「…………」
殿下はさりげなく横に視線を走らせます。
合図と同時に、アリシアさんが近づいて、アンナさんの腕を掴みました。
「きゃあっ」
「アンナさん、何度も言いましたが、殿下に許可なく近づいてはいけません」
「許可って、私達、クラスメイトじゃないですか!そんなのって悲しいです」
「あのね、悲しいとかじゃなくて……」
「じゃあ行こう」
アリシアさんがアンナさんを足止めしている隙に、中等部に向かいます。
「ふう、色々ごめんね。今度はゆっくり時間を取って公爵家にうかがうよ」
フレドリック殿下はちょっと疲れたご様子です。
***
私達は何となく高等部に戻っていくフレドリック殿下のお姿を見送りました。
「あれがアンナさんかぁ……」
オリガが呟きました。
「え、オリガはアンナさんを知っているんですか?」
「はい、お兄の話だと……」
オリガが何か言い掛けます。
「オリガ、遅刻する」
とカールがあわてて止めました。
「あ、いけない、授業始まっちゃいます。エリザベート様、早く戻りましょう。お話は後で」
「そ、そうですね」
とりあえず、行きましょう。
「お兄がクラスにすごい可愛い子がいて男子には人気だって言ってました。ジョゼフィーヌ様が綺麗系の高嶺の花で、アンナさんは気さくで明るくて可愛い系だそうです。アリシア先輩は格好いい系の男装の麗人で、一年A組の三大美人らしいです」
放課後になってオリガが教えてくれました。
オリガはお兄さんのロシェさんが、カールはお姉さんのアリシアさんが、フレドリック殿下とアンナさんと同じクラスなんです。
「アンナさんは愛し合う両親の間に生まれたけど身分が原因でこれまで一緒に暮らせなかったそうです。そんな境遇にも関わらず、明るく元気で気さくで溌剌としたところが人気らしいです」
一方、カールは。
「姉貴がアンナってぶりっ子がフレドリック殿下にまとわりついて邪魔で邪魔でしょうがないってぼやいてました。高位貴族の男にばっかり媚び売ってるって言うから、どんなすごい悪女かなと思ってましたけど、普通に可愛いですよね」
「えー、あの人、可愛い?」
とオリガがカールに詰め寄ります。
「えっ、可愛いじゃん」
「男って趣味悪い!」
「それより、カール、高位貴族の男というのは……?」
カールは指折り数え始めました。
「まずフレドリック殿下と、あとは宰相殿下の息子と騎士団長の息子と魔法師団長の息子です」
『ジョゼフィーヌお姉様の言った通りです……!』
思わず固まっていると、カールはあわてて取りなします。
「あ、でもフレドリック殿下はなびいてないそうです。エリザベート様一筋です」
「そうですよ!殿下はエリザベート様がいるからって女子生徒のお誘いは皆断っているってお兄も言ってました」
オリガも言います。
「二人とも、ありがとう」
慰めて貰いました。
笑うとオリガもホッとしたように微笑みます。
「あー良かった。アンナさんよりエリザベート様の方が全然可愛いです。カールみたいな見る目ない奴はアンナさんに騙されるでしょうけど、フレドリック殿下は大丈夫です。ご安心を」
カールはこれを聞いてムッとして言い返します。
「俺だって別にアンナさん好きって訳じゃない。可愛いって言っただけ」
「ふーん、ハイハイ。可愛い可愛い」
オリガは機嫌を損ねたみたいです。プンと横を向いてます。
「だから、違うって。俺が好きなのは、オリガだから」
「はあ!?えっ、…ウソ?」
オリガはもう真っ赤です。
「嘘じゃないって、前からいいなと思ってて……」
カールも照れてます。
「えっ、あ……そうなんだ……」
「う、うん」
カールはどさくさに紛れて告白しましたよ。
青春です。
応援ありがとうございます!
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