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11.聖女覚醒
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気が付くとテントの中にいました。
薄いマットレスの上に寝かされています。
「あれ?ここは?」
時間は昼くらいでしょうか、テントの中なので分かりませんが、暗くはありません。
「ああ良かった、エリザベート様、お目覚めですか?」
あまり聞き覚えのない声の主はローブを着た女性の魔法使いさんです。
私の腕を取るとテキパキと脈を測ります。
「うん、どこもお怪我はないようですね、ご気分は?」
「あの……ここは?」
そう魔法使いさんに問いかけた時でした。
「リーザ、リーザ、ああ、目が覚めたんだね」
テントの入り口から入って来たのは、鎧を装備したフレドリック殿下です。
「フレドリック様!ご無事ですか?」
生きてますよ!動いてます!
何処にも怪我はないようです。元気そうです。
フレドリック殿下はガバッと私を抱きしめました。
「ああ、良かった。リーザ、神よ、感謝致します!」
何だか大袈裟です。
えっ、と思っていると、
「リーザ……」
フレドリック殿下の顔が近づいてきて……。
えっ、えっ?
「はい、そこまでです」
とクルトが私とフレドリック殿下の間にスパッと手を入れてきました。
「クルト、邪魔しないでくれ」
フレドリック殿下はクルトをにらんでます。
「僕はクラウン公爵家代表のお目付役です。キスはお嬢様が中等部にお入りになってからと公爵様とお約束でしょう」
「あと、半年か、長いな……」
フレドリック殿下は嘆息を吐きました。
キス……。
やっぱりキスされそうだったみたいです。
フレドリック殿下はまだ私のことを抱きかかえています。頬が赤くなりましたが、それより聞きたいことがあります。
「あの、フレドリック様はご無事なのですね。お怪我は?」
「怪我は、君が治してくれたんだ。リーザ」
「私が?」
「うん、私だけではなくて、回復魔法であの場にいた全員の怪我を治したんだよ」
そう言うと、フレドリック殿下は急に苦しそうに顔を歪めました。
「そして魔力を使い果たした君は一日、眠っていた」
あれから一日経ったみたいです。
「それでタコは?」
「お嬢様、お腹空いたでしょう、食べなから話しましょう」
クルトがそう言いました。確かにお腹空きました。
テントは湖のすぐ側に立っていました。
テントの外に出ると、皆様、駆け寄って挨拶してくれました。皆さん、ニコニコです。元気そうです。
「おお、エリザベート様、お目覚めになりましたか」
全然記憶にないんですが、皆さんの怪我を治したそうです。だからお礼を言われました。
「どうもありがとうございました」
「命拾い致しました、聖女様」
「はい?聖女?」
私がですか?
「詳しくは、食べながら話しましょう。殿下もです」
とクルトが言いました。
「え、殿下?」
「そうですよ、殿下はエリザベートお嬢様が目覚めるまで何も食べたくないと口にしてくれなくて……」
「リーザが心配でそれどころじゃなかったんだ」
クルトに通されたのは、食堂用のテントでした。
テーブルと椅子が沢山並んでいますがお昼の時間からは外れているのかご飯を食べている人の姿はありません。
クルトは私とフレドリック殿下を椅子に座らせて、「胃がびっくりしますから、ゆっくり良く噛んで食べて下さいね」とオートミールとあと、赤と白の何かのぶつ切りの串焼きをくれました。
「焼いたタコにパプリカパウダーを掛けたものです。あ、パプリカと言っても辛くないやつです」
「タコさんですか。タコさん、倒せたんですか?」
「はい、何から話したら良いんでしょうね。色々あったんです。えーと、まず、エリザベートお嬢様は聖女に覚醒しました」
「えっ、そうなんですか?」
「はい、あんな癒やしの力は常人では考えられません。それに力を使った直後、目の色と髪の色が淡いピンク色に変化なさいました。今は元にお戻りですが……」
今は私の髪は茶色です。
「そうだったんですか」
いつの間にか聖女になってたみたいです。
「それで、その後、僕らは火魔法を封じられて劣勢でした。その時、フレドリック殿下が覚醒しました」
「はいい?」
「覚醒したんですか?」
と私は横でタコ串食べているフレドリック殿下に尋ねました。
「そうみたいだ。黒騎士っていうのに覚醒したらしい」
「漆黒の衣を纏い、闇の剣を振るい、暗黒の力で魔を払う。そう謳われる伝説の勇者黒騎士でした。殿下は黒い鎧のようなモノに身を包まれ、黒い剣を振りかぶると、タコを一撃で倒しました」
「すごいです……」
「リーザが、死んじゃうかも知れないと思うと、怖くて、強くなりたいと思ったらああなってた」
フレドリック殿下はその時のことを思い出したのか、ちょっと泣きそうになってます。
「そうなんですか……」
あ、タコは美味しかったです。
食事を食べ終わった頃、セーガン卿とデュモンド卿もやってきました。
「お目覚めですか、エリザベート様」
デュモンド卿はすまなそうに言います。
「早速で申し訳ありませんが、時間がございません。すぐに神殿の聖句の修復をお願い致します」
「は、はい」
これになんとフレドリック殿下が反対しました。
「中に魔物がいたらどうする?リーザを危険に晒したくはない」
目が覚めたらフレドリック殿下はちょっと過保護になってました。
「ですが、僕らそのために来たんですし」
「そうですよ、よく寝てタコ食べて私、元気です」
と私とクルトで説得しました。
聖句の修復はすぐに終わり、私達が湖畔に戻ると、それを待っていたように湖の神殿は再び湖底に姿を消しました。
***
クラウン公爵家主催『エリザベートちゃんを聖女にしようぜ会』改め、『エリザベートちゃん聖女おめでとう』の会合が始まりました。
メンバーは依然と変わりありません。
お姉様、お父様、お母様、弟ニール(赤ちゃん)、クルト、セバスチャン、私です。
聖女になったお祝いに今日は料理長特製バケツプリンが用意されました。子供の憧れです。
「まさか小さかったエリザベートが聖女になるなんて」
お父様は涙ぐんで感動してます。
「旦那様、なにもお嫁に行くわけじゃないんですから」
とセバスチャンがお父様をたしなめます。お父様はキッとセバスチャンをにらみ付けました。
「当たり前だ、エリザベートもジョゼフィーヌもお嫁にやらないぞ!」
「エリリン、クルト、頑張りましたね。ワタクシの指示通り、よく動きました。つまり全てワタクシのおかげです。おほほほっ」
とジョゼフィーヌお姉様が高笑いなさいました。
「あ、それはそう思います、お姉様」
「はい、ジョゼフィーヌお嬢様の指導の賜物です」
「やだやだこの子達、謙虚で面白くないわねー。しっかし、フレドリック殿下まで覚醒するとはネ」
「前世ではそうではなかったんですか」
お姉様は「うーん」と顔をあげます。
「分かんないわ。聡明なワタクシも一介の令嬢だったし、秘密だったかもね」
「……婚約者様だったジョゼフィーヌお嬢様にも内密に、ですか?」
「ええ、闇魔法はあんまりイメージ良くないからねぇ」
お父様もうんうんと首を縦にします。
「そうだな。エリザベート、クルト、現時点ではフレドリック殿下が覚醒したことは口外してはならん」
「えっ」
「は、はい。ですが、理由をお聞かせ下さい、旦那様」
とクルトが聞きます。
「うむ、ジョゼフィーヌが言ったように、闇魔法は最も強力と言われるが同時に深く怖れられてもいる。おそらく陛下は公表する時期を探っておられる。また『何に覚醒したか』を明らかにすれば対策も立てられてしまう。そういったことをひっくるめてお考えなのだ」
「はい、じゃあ言いません」
「はい、言いません」
「よしよし、いい子だ。更にエリザベート、お前が聖女であることも秘すと陛下は仰せだ。理由はまだ幼いエリザベートを外敵から守るためだ。これも守ってくれ。良いな、三人とも」
「は、はい」
「はい、旦那様」
「へーい」
「エリザベート、良く聞きなさい」
とお父様は真剣な表情で言います。
「はい、お父様」
「聖女になることは素晴らしいことだ。だが、お前の力を利用しようとする者も現れるだろう。心を強く持ってそしてここに居る者達は皆、エリザベートの味方であることを決して忘れないでくれ。お父様もお母様もジョゼフィーヌもニールも皆、君を愛しているよ」
お母様も――ニールは良く分かんないですが――、セバスチャンもクルトも優しく頷いてます。
「はい、お父様……」
「で、これからなんだけど」
とジョゼフィーヌお姉様がプリン食べながら言いました。
「ジョゼフィーヌ、パパ、いいところなんだから」
お父様は不満そうです。
「でもお父様、忘れる前に言っておかないと。あんた達、次は魔王復活するから頑張るのよ」
「ええー!?」
ついでっぽくお姉様は最強最悪の魔物の存在を教えてくれました。
薄いマットレスの上に寝かされています。
「あれ?ここは?」
時間は昼くらいでしょうか、テントの中なので分かりませんが、暗くはありません。
「ああ良かった、エリザベート様、お目覚めですか?」
あまり聞き覚えのない声の主はローブを着た女性の魔法使いさんです。
私の腕を取るとテキパキと脈を測ります。
「うん、どこもお怪我はないようですね、ご気分は?」
「あの……ここは?」
そう魔法使いさんに問いかけた時でした。
「リーザ、リーザ、ああ、目が覚めたんだね」
テントの入り口から入って来たのは、鎧を装備したフレドリック殿下です。
「フレドリック様!ご無事ですか?」
生きてますよ!動いてます!
何処にも怪我はないようです。元気そうです。
フレドリック殿下はガバッと私を抱きしめました。
「ああ、良かった。リーザ、神よ、感謝致します!」
何だか大袈裟です。
えっ、と思っていると、
「リーザ……」
フレドリック殿下の顔が近づいてきて……。
えっ、えっ?
「はい、そこまでです」
とクルトが私とフレドリック殿下の間にスパッと手を入れてきました。
「クルト、邪魔しないでくれ」
フレドリック殿下はクルトをにらんでます。
「僕はクラウン公爵家代表のお目付役です。キスはお嬢様が中等部にお入りになってからと公爵様とお約束でしょう」
「あと、半年か、長いな……」
フレドリック殿下は嘆息を吐きました。
キス……。
やっぱりキスされそうだったみたいです。
フレドリック殿下はまだ私のことを抱きかかえています。頬が赤くなりましたが、それより聞きたいことがあります。
「あの、フレドリック様はご無事なのですね。お怪我は?」
「怪我は、君が治してくれたんだ。リーザ」
「私が?」
「うん、私だけではなくて、回復魔法であの場にいた全員の怪我を治したんだよ」
そう言うと、フレドリック殿下は急に苦しそうに顔を歪めました。
「そして魔力を使い果たした君は一日、眠っていた」
あれから一日経ったみたいです。
「それでタコは?」
「お嬢様、お腹空いたでしょう、食べなから話しましょう」
クルトがそう言いました。確かにお腹空きました。
テントは湖のすぐ側に立っていました。
テントの外に出ると、皆様、駆け寄って挨拶してくれました。皆さん、ニコニコです。元気そうです。
「おお、エリザベート様、お目覚めになりましたか」
全然記憶にないんですが、皆さんの怪我を治したそうです。だからお礼を言われました。
「どうもありがとうございました」
「命拾い致しました、聖女様」
「はい?聖女?」
私がですか?
「詳しくは、食べながら話しましょう。殿下もです」
とクルトが言いました。
「え、殿下?」
「そうですよ、殿下はエリザベートお嬢様が目覚めるまで何も食べたくないと口にしてくれなくて……」
「リーザが心配でそれどころじゃなかったんだ」
クルトに通されたのは、食堂用のテントでした。
テーブルと椅子が沢山並んでいますがお昼の時間からは外れているのかご飯を食べている人の姿はありません。
クルトは私とフレドリック殿下を椅子に座らせて、「胃がびっくりしますから、ゆっくり良く噛んで食べて下さいね」とオートミールとあと、赤と白の何かのぶつ切りの串焼きをくれました。
「焼いたタコにパプリカパウダーを掛けたものです。あ、パプリカと言っても辛くないやつです」
「タコさんですか。タコさん、倒せたんですか?」
「はい、何から話したら良いんでしょうね。色々あったんです。えーと、まず、エリザベートお嬢様は聖女に覚醒しました」
「えっ、そうなんですか?」
「はい、あんな癒やしの力は常人では考えられません。それに力を使った直後、目の色と髪の色が淡いピンク色に変化なさいました。今は元にお戻りですが……」
今は私の髪は茶色です。
「そうだったんですか」
いつの間にか聖女になってたみたいです。
「それで、その後、僕らは火魔法を封じられて劣勢でした。その時、フレドリック殿下が覚醒しました」
「はいい?」
「覚醒したんですか?」
と私は横でタコ串食べているフレドリック殿下に尋ねました。
「そうみたいだ。黒騎士っていうのに覚醒したらしい」
「漆黒の衣を纏い、闇の剣を振るい、暗黒の力で魔を払う。そう謳われる伝説の勇者黒騎士でした。殿下は黒い鎧のようなモノに身を包まれ、黒い剣を振りかぶると、タコを一撃で倒しました」
「すごいです……」
「リーザが、死んじゃうかも知れないと思うと、怖くて、強くなりたいと思ったらああなってた」
フレドリック殿下はその時のことを思い出したのか、ちょっと泣きそうになってます。
「そうなんですか……」
あ、タコは美味しかったです。
食事を食べ終わった頃、セーガン卿とデュモンド卿もやってきました。
「お目覚めですか、エリザベート様」
デュモンド卿はすまなそうに言います。
「早速で申し訳ありませんが、時間がございません。すぐに神殿の聖句の修復をお願い致します」
「は、はい」
これになんとフレドリック殿下が反対しました。
「中に魔物がいたらどうする?リーザを危険に晒したくはない」
目が覚めたらフレドリック殿下はちょっと過保護になってました。
「ですが、僕らそのために来たんですし」
「そうですよ、よく寝てタコ食べて私、元気です」
と私とクルトで説得しました。
聖句の修復はすぐに終わり、私達が湖畔に戻ると、それを待っていたように湖の神殿は再び湖底に姿を消しました。
***
クラウン公爵家主催『エリザベートちゃんを聖女にしようぜ会』改め、『エリザベートちゃん聖女おめでとう』の会合が始まりました。
メンバーは依然と変わりありません。
お姉様、お父様、お母様、弟ニール(赤ちゃん)、クルト、セバスチャン、私です。
聖女になったお祝いに今日は料理長特製バケツプリンが用意されました。子供の憧れです。
「まさか小さかったエリザベートが聖女になるなんて」
お父様は涙ぐんで感動してます。
「旦那様、なにもお嫁に行くわけじゃないんですから」
とセバスチャンがお父様をたしなめます。お父様はキッとセバスチャンをにらみ付けました。
「当たり前だ、エリザベートもジョゼフィーヌもお嫁にやらないぞ!」
「エリリン、クルト、頑張りましたね。ワタクシの指示通り、よく動きました。つまり全てワタクシのおかげです。おほほほっ」
とジョゼフィーヌお姉様が高笑いなさいました。
「あ、それはそう思います、お姉様」
「はい、ジョゼフィーヌお嬢様の指導の賜物です」
「やだやだこの子達、謙虚で面白くないわねー。しっかし、フレドリック殿下まで覚醒するとはネ」
「前世ではそうではなかったんですか」
お姉様は「うーん」と顔をあげます。
「分かんないわ。聡明なワタクシも一介の令嬢だったし、秘密だったかもね」
「……婚約者様だったジョゼフィーヌお嬢様にも内密に、ですか?」
「ええ、闇魔法はあんまりイメージ良くないからねぇ」
お父様もうんうんと首を縦にします。
「そうだな。エリザベート、クルト、現時点ではフレドリック殿下が覚醒したことは口外してはならん」
「えっ」
「は、はい。ですが、理由をお聞かせ下さい、旦那様」
とクルトが聞きます。
「うむ、ジョゼフィーヌが言ったように、闇魔法は最も強力と言われるが同時に深く怖れられてもいる。おそらく陛下は公表する時期を探っておられる。また『何に覚醒したか』を明らかにすれば対策も立てられてしまう。そういったことをひっくるめてお考えなのだ」
「はい、じゃあ言いません」
「はい、言いません」
「よしよし、いい子だ。更にエリザベート、お前が聖女であることも秘すと陛下は仰せだ。理由はまだ幼いエリザベートを外敵から守るためだ。これも守ってくれ。良いな、三人とも」
「は、はい」
「はい、旦那様」
「へーい」
「エリザベート、良く聞きなさい」
とお父様は真剣な表情で言います。
「はい、お父様」
「聖女になることは素晴らしいことだ。だが、お前の力を利用しようとする者も現れるだろう。心を強く持ってそしてここに居る者達は皆、エリザベートの味方であることを決して忘れないでくれ。お父様もお母様もジョゼフィーヌもニールも皆、君を愛しているよ」
お母様も――ニールは良く分かんないですが――、セバスチャンもクルトも優しく頷いてます。
「はい、お父様……」
「で、これからなんだけど」
とジョゼフィーヌお姉様がプリン食べながら言いました。
「ジョゼフィーヌ、パパ、いいところなんだから」
お父様は不満そうです。
「でもお父様、忘れる前に言っておかないと。あんた達、次は魔王復活するから頑張るのよ」
「ええー!?」
ついでっぽくお姉様は最強最悪の魔物の存在を教えてくれました。
応援ありがとうございます!
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