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5.断罪処刑の真相

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 私が九歳になった時、弟のニールが産まれました。
 ジョゼフィーヌお姉様はこの年にニールが産まれることを前から皆に予告していました。
 その通りになったのです。
 お父様もお母様も三人目は諦めていたのでとっても喜んでいます。
「ジョゼフィーヌの言った通りだ」
 とお父様お母様はもちろんのこと、ジョゼフィーヌお嬢様すごいと公爵家の皆は褒め称えています。

「お嬢様、質問をお許し下さい」
 そんなある日のことです。
 一家揃って団らんの最中に、執事見習いのクルトがお姉様に言いました。
「許します。言いなさい、クルト」
「お嬢様の前世での断罪処刑ですが、どうしてでしょう」
「どうしてって何よ?」
「たかが男爵の娘を苛めたくらいで公爵令嬢、しかも王子殿下の婚約者であるジョゼフィーヌお嬢様は何故死罪になったのでしょうか?」
「…………」
「お嬢様のお話では『苛めた』だけ。それで公爵令嬢が死罪になりましょうや」

「もちろん全力でもみ消そうとしたわ」
 とお姉様は静かに言いました。
 イジメはいけません。もみ消そうとしたのも良くありませんけど、確かにジョゼフィーヌお姉様ほどの方が何故、もみ消せなかったのでしょうか?

「もみ消せなかったの。あのぶりっ子イモ女は、聖女だったの」

「えっ?」
 一家団らんの場が凍り付きました。
「聖女様、苛めちゃったの?ジョゼフィーヌちゃん」
「ええ、そうですわ、お母様。とはいってもあのイモ女は高等部の三年生で覚醒したトロい聖女でしたの。その前に悪の限りを尽くして苛めたワタクシは言い逃れも出来ずに死刑になりました」
「それは……死罪ですねぇ」
 聖女様は王様と同じくらい偉い人なのです。苛めちゃいけません。
 相手が聖女様なら公爵家も責は免れません。
 前世でお姉様が死刑になった理由がようやく分かりました。


「はっ、僕、大変なことに気付きました、エリザベートお嬢様」
 クルトは今度は私に言いました。深刻そうな顔です。
 クルトはお姉様と一緒にお勉強しているので秀才なのです。
「なあに?クルト」
「聖女様が現れたら王族と結婚するのが我が国の慣例……つまり、第一王子であられるフレドリック殿下かその弟の王子殿下と結婚されますが、第二王子殿下はまだ五歳。このままですと、フレドリック殿下はあのアンナさんとエリザベートお嬢様のお二人を妃として娶ることになるのでは?」
「あっ……」
 王子妃教育で習ったのです。
 聖女様は我が国を象徴する存在。そのため、大抵王子様と結婚します。
 そうでなれば神殿で民を見守り、お暮らしになります。
 ですが、聖女様は王妃教育を受けていない方ばかりです。そのため、聖女様を娶った王や王子様は二人の妻を持つことを許されるのです。

「つまりそれはやっぱりアンナさんとフレドリック殿下は結ばれる運命……」

 アンナさんを苛めなければ、断罪処刑されないはずです。
 アンナさんが聖女になるのは高等部の三年生ですから、それから王子妃教育を受けるのでは遅すぎます。多分、長年王子妃教育を受けた私とフレドリック殿下は結婚することになるでしょう。
 何か嫌なのです。
 でもでもしょうがないでしょうか?

 落ち込む私の肩をお姉様が叩きます。
「心配要らないわ、エリリン」
「おっ、お姉様」
「大丈夫よ、エリリン、あのヤローが二股ヤローにならずにすむ方法をワタクシ、考えたの」
「とっても不敬ですが、教えて欲しいですぅ」

 お姉様はニッコリ笑うとおっしゃいました。
「エリリンが、聖女になればいいと思いまーす」

「えっ、なれるのですか?私が?聖女に」
「あのぶりっ子イモ女がなれたのです。可愛いワタクシの妹がなれないはずはないわ」
 とお姉様は自信たっぷりに言いました。
「ジョゼフィーヌ、気持ちは分かるが、聖女は精神論で何とかなるものかい?エリザベートとジョゼフィーヌは世界一可愛いが、それでも無理なものは無理だろう」
 お父様がそう言います。さりげなく娘自慢が入ってます。
「いいえ、お父様、諦めてはいけません」
「しかし……」
「お父様、確かに勝算は低いです。ですが、諦めてはそこまでです」
 そしてお姉様は私の目を見ておっしゃいます。
「エリリン、ぶりっ子イモ女を見て、何か感じましたか?」
「えーと、可愛いなと思いました」
「その他は?」
「魔力をちょっとだけ……」
 街中では魔力がある人は珍しいです。
 公爵家では珍しくないです。お父様もお母様も私も、執事のセバスチャンもクルトもあります。高位貴族に魔力を持っている人は多いですし、高位貴族のお家に勤める人は、大抵自分も貴族のお家の血を引いているからです。
 お姉様は魔法使いになれるくらいすごい魔力があるのです。

「そう、あのぶりっ子イモ女はその魔力を見込まれて王立学園に入学します。ですが、その魔力はエリリン、あなたと同じくらいです。男爵家にしては高い。その程度です。この炎の魔術師天才ジョゼフィーヌ様には到底及ばないのですわ」
 そう言うとお姉様は片手を上げました。その手はぶわっと炎に包まれます。
 お姉様は火属性の魔法を操るのです。
「は、はい」
「そして、ぶりっ子の属性は光属性」
「光属性……」
「そう、エリリン、あなたと同じ。この意味が分かる?エリリンと学園入学時のぶりっ子の能力はほぼ変わりありません。そして今はまだぶりっ子は聖女じゃないの。つまりね、ぶりっ子イモ女と同じだけの経験を積んだなら、あなたは聖女になれるかも知れない」
「おっ、お姉様……」
「ワタクシはあのぶりっ子が高等部の三年間、何をしていたか見ています。でも同じことをしてもあなたが聖女になるとは限らないわ。それに危険なこともあったわ。どうする?」

「…………やります」

「おっ、お嬢様」
 とクリスは心配そうです。
 お姉様は満足そうに頷きました。
「それでこそ、エリリンよ。エリリンは自分で幸福を掴める子。馬鹿だけど、頑張り屋のエリリンならきっと出来ます」





 ***

「馬鹿な!私は絶対に反対だ」
 とフレドリック殿下には反対されてしまいました。

「まず始めに……」
 とお姉様が言ったのは、南のサスー神殿に行き、消えてしまった魔法の聖句を書き直すことです。
 聖句が消えてしまったため南の地では魔物が少し増えているそうです。今はまだ少しですが、これからもっと増えるそうです。大変です。
 魔物はすごく凶暴で強いのです。本に書いてありました。
 サスー神殿は王族だけが入る聖室というのがあり、祈りを刻んだ聖句もそこに収められています。

 だから、
「大事になる前の今のうちに書き直しちゃいましょう」
 と言うのがお姉様の計画なのです。


「だから、私は反対だ。サスー神殿には魔物が住む森を越えていかないといけない。リーザを行かせる訳には行かない」
 フレドリック殿下は噛みつくように言いました。
「ええ、エリリンも今のままではいけないわ。体力作りして、最低限自分を守れるくらいの護身術を覚えないと。それに光魔法の勉強もね。うーん、全部で半年くらいかかるかしら」
「私の話を聞いてくれ、ジョゼフィーヌ嬢、公爵令嬢のリーザをサスー神殿に行かせる訳にはいかない」
「あ、なに?あんた、大口叩いといてうちの可愛いエリリン守る気ないの?」

『あんた、言ってるー!』

 側で聞いていた私とクルト、フレドリック殿下の護衛や従僕や公爵家のメイド達は固まりました。

「あののの、フレドリック殿下、姉が申し訳ありません」
 私は急いで謝りました。
 でもフレドリック殿下はお姉様と言い争ってます。
「もちろん、守る。だが、万が一ということもある。わざわざ危険な真似はさせられない」
「エリリンはね、多少の危険は覚悟の上なの。あんたの婚約者として少しでも役に立ちたいのよ。王太子妃としての実績作りには最適じゃない。大体南部の魔物なんて今は大したことないわよ。あんたももう十一歳。あんたの魔法と剣の腕前なら惚れた女の一人くらい守れるでしょう?」
 フレドリック殿下は火、水、風、そして闇の属性を持ってます。属性は全部で五つですから、光属性以外の全部持ってます。
 あんた呼ばわりですが、一応、お姉様はフレドリック殿下の実力を認めているようです。
「う、まあ、当然、リーザは私が守るさ(ほっ、惚れた女……)」
「うちのクルトも行くわ。この子は風と光魔法の二属性なの。どっちもまだ大したことないけど、回復魔法も攻撃魔法も使えるわ」
 誰一人聞いてないうちにクルトも一緒に行くことが決定しました。

「うーん、分かった。父上にご相談してみる……。でも、リーザ」
 青い綺麗な瞳に私が映ります。
「はい、フレドリック様」
 フレドリック殿下はいつにはなく真剣な表情でおっしゃいます。
「怖い目に遭うかも知れないんだよ。リーザのことは私が絶対守るけど、魔物は気味が悪い生き物だし、野宿も大変だ。本当に行くつもりか?」
「はい、行きます!」

 そう答えると、フレドリック殿下はフワリと微笑みました。
「本当のことを言うと、リーザが私と一緒にいることを望んでくれて、とても嬉しいんだ。でも危ないことをさせたくないのも本当だから、無茶はしないでくれ」
「は、はい」
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