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聖剣の行方
07.食事会、そして……
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これには父親のガルファも驚いたようだ。
「これ、ミネルヴァ」
あわてて止めようとするが、ミネルヴァはまっすぐにオーグを見つめ、言った。
「皆様のどんぐり杯。本当に私達が使ってよろしいのですか?仲間の方とその故郷の村の人々のために集めた材料と聞きました」
「ミネルヴァ!」
「お父様、人狼となった苦しみは皆同じです。そんな大切なものを、本当に私達が頂いてよいのでしょうか?」
ミネルヴァは心配そうに眉を寄せた。
「…………」
オーグは少し考え込むような仕草をした後、おもむろに包帯を解く。
オーグは本物の獣人と見分けがつかないほど全身ふさふさだ。
「使ってください。ベルンハルトさんがどんぐり杯をくれたけど、他の材料はまだ揃ってませんし、薬を作る薬師もいません。早く元の姿に戻りたいですけど、俺達の村はのどかな所なんで、なんとかなります」
オーグは狼の顔で笑った。
ミネルヴァはそんなオーグに恭しく淑女の最敬礼を執った。
「ありがとうございます、オーグ様、皆様。このご恩、生涯忘れません」
ミネルヴァはそう言うと一筋、涙をこぼした。
***
食事会が始まった。
「お子様もいらっしゃる。マナーはお気になさらず」
ガルファがそう言ってくれたので、高級食材が目白押しの超豪華な食事会だが、あまり緊張せずに食べられた。
ちなみにメインデッシュは最上級霜降りモーモのステーキである。
「大金持ち相手に何を話せばいいの?」
内心そう思ったガンマチームだが、ガルファもギルバートも話題が豊富なので、案外話が弾む。
そしてミネルヴァも。
「え、ミネルヴァ様、薬師なんですか?」
ミネルヴァとオーグ、リック、ローラは同年代だ。
立場は全く違うが、すぐに打ち解けた。
若者同士わいわい話をしている。
「はい、私達が獣人に襲われ、人狼になったのは一年前。外に出ることが出来なくなりましたので、薬師の勉強を始めました」
「へー」
ミネルヴァは十六歳。
若いのにしっかりしているわー、とカチュアは感心した。
ミネルヴァは一年間の猛勉強で、最上級状態異常解除ポーションを作れる上級薬師の資格も取ったそうだ。
「すごいや」
とエドが目を輝かせる。
楽しい食事会が済み、お腹いっぱいになったカチュア達はそろそろおいとましようかと思ったのだが、
「その前に少しお話をさせて頂きたいのです。よろしいでしょうか?」
と護衛の一人に声を掛けられた。
護衛達は何故か、室内なのに帽子や覆面をしている上、マントで全身を隠している。
「少し込み入った話になります。お子様達はお嬢様と別室へどうぞ」
ミネルヴァ自ら子供の相手してくれるようだ。
話は通してあるのか、ミネルヴァは護衛に向かって頷き、子供達に手招きする。
「エド君、バーバラちゃん、こちらにどうぞ」
護衛達は次にベルンハルトに言った。
「殿下はぜひ旦那様と若旦那がおもてなしさせて頂きたいと」
どうやら彼らはガンマチームにだけ話したいことがあるようだ。
「だって。アンタ、そっち行きなさい」
アンはそう言って追い払おうとしたのだが、ベルンハルトはめげない。
「いや、僕もアンと一緒に行く」
「冒険者同士の話でして……」
と護衛はベルンハルトを連れて行くのを渋った。
「僕も今の身分は冒険者だ」
そう返され、護衛は少々声を荒げて言った。
「これから話す内容は、殿下には到底お聞かせ出来ないご不快なものとなるでしょう。どうか旦那様とご一緒ください」
もはや明確に「来るな」と言われたベルハンドだが、キラキラの笑顔を護衛に向ける。
「気にするな。何があろうと不敬には当たらない」
と梃子でも動かない模様。
護衛達は諦めのため息をつく。
「では結構です。殿下もお連れしましょう。ですが、これからお話しすることは他言無用でお願いします」
「ご自身でおっしゃられた『不敬には当たらない』の一言、どうかお忘れなきよう」
と念を押される。
カチュア達は、先ほどまでの華やかな空間とは異なる、少々物々しい雰囲気の部屋に通された。
ガルファ邸の中でも主のガルファやその家族が使う区画ではなく、使用人用の部屋のようだ。
ソファやテーブルが置かれている。護衛達の詰め所らしい。
「むさ苦しいところですまない」
と謝られたが、ちょっと散らかってるところがカチュア達にはむしろ居心地がいい。
「カチュア」
「ジェシカ」
部屋にはなんとジェシカがいて、ガンマチームの顔を見ると彼女は「ごめんなさい!」と頭を下げてきた。
「ガルファ氏にどんぐり杯を報告したのは私なの」
とジェシカは沈んだ調子で言うが、
「ガルファ氏はジェシカの雇い主なんだから仕方ないわよ」
とカチュアはジェシカを慰めた。
「でも……」
「あの、無理に手放したとかそういうことはないですから。俺は姉さんに女性には親切にしろって教えられました。ミネルヴァお嬢様達にどんぐり杯を譲らなかったら、姉さんにどやされると思います」
とオーグが言う。
「オーグがいいなら、これで俺も良かったと思います」
「私も」
リックとローラも同意した。
「ってことだよ、あんまり気にしなさんな、ジェシカ」
「アン先輩、でも」
「もらったアタシがいいって言ってるんだから、いいのよ。真面目なのは美点だけど、昔からちょっと思い詰めるところあるよね、アンタは」
アンがズバッと指摘する。
ジェシカは図星を指されて、「ぐっ」と息を詰まらせた。
「俺達からも礼を言わせて頂きたい」
護衛達は総勢六名。
被っていた覆面や帽子、マントを脱ぎ始めた。
「やっぱり……」
とガンマチームは彼らを見て思った。
彼らは狼の特徴を持っていた。
一年前に襲撃に遭った護衛達だ。
特に護衛の一人はオーグに匹敵するほど、狼獣人の特徴を濃く、宿している。
「お嬢様達に材料を譲ってくれて本当にありがとう。感謝の言葉もない」
そう言って彼らは全員でガンマチームとベルンハルトに頭を垂れた。
「人狼になり、力と素早さは増した。それを利用して最上級状態異常解除ポーションの材料を集めようとしたんだが」
「力不足で及ばなかった」
護衛達は悔しそうだ。
「彼らも九十九階に向かった冒険者チームの一つなの」
ジェシカがそう教えてくれた。
「話というのは、俺達と、そしてオーグ君を襲った狼獣人のことだ」
「えっ」
「オーグ君に会ってはっきりした。俺達と君の村を襲ったのは、同じ獣人だと思う。何というか、俺達自身も上手く説明出来ないんだが、匂いが同じだ」
「たっ、確かに……なんか同じ匂いがします」
オーグは戸惑いなから、言う。
獣人同士は匂いで通じ合う『何か』があるようだ。
護衛達はチラリとベルンハルトの顔をうかがった後、話し出した。
「俺達は一年前、突如現れた狼獣人に襲われた。それは、ミネルヴァお嬢様の元に第三王子からの婚約の申し出があってすぐのことだった」
護衛達は第三王子に敬称を付けず、憎々しげに呼び捨てている。
「第三王子殿下から……」
「一年と少し前、旦那様は第三王子からの求婚を断った。ミネルヴァお嬢様ご自身も王子の妃になることを望まなかったと聞いている」
別の護衛が言った。
「大商会の会頭とそのご家族としてのご判断だ。俺らには分からんし、知る必要もない。ただ、求婚を断った後、お嬢様は狼獣人に襲われて人狼になってしまわれた」
「俺達は、狼獣人を差し向けたのは第三王子だと思っている」
「えっ!」
カチュアは絶句した。
「どうしてそんなこと? だってお嬢さんに求婚してるんでしょう? 王子様は」
「お嬢様は知り合いのご令嬢宅のお茶会の帰り道で襲われた。第三王子からの二度目の求婚を断った直後のことだ」
この縁談を断った後、ミネルヴァの警備は強化された。
決して一人になることがないように、侍女達が複数ついて、同性の女性騎士も増やし、さらに護衛達と十重二十重に守られていたが、それでもミネルヴァは襲われてしまった。
「お嬢様には兄上のギルバート様もいらっしゃる。家を継ぐ立場にはない一介のご令嬢にこれほどの警備がつけば、まともな襲撃者なら必ず引く」
「狼獣人は本来とても用心深い。人の多い都市部で彼らがこれほど大量の人を襲うことは、滅多にない」
「狼獣人は誰かに『差し向けられた』と考える方が自然なんだ」
と彼らは言った。
アンはチラリと第二王子ベルン=ルヴァルドこと、ベルンハルトを流し見て、護衛達に尋ねた。
「その誰かっていうのが、第三王子だとアンタらは見てるんだね」
「そうだ」
第三王子はベルンハルトの弟だ。
護衛達がベルンハルトに聞かせたくなかったわけである。
当のベルンハルトは、腕を組んでじっと目をつむり、無言である。
「…………」
「第三王子は今、自分の後ろ盾を欲している。彼が選んだのは後から切り捨てやすい金と権力を持つ、だが貴族階級ではない平民の娘。ミネルヴァお嬢様だったんだ」
護衛達は苦悩の満ちた声でうめいた。
「これ、ミネルヴァ」
あわてて止めようとするが、ミネルヴァはまっすぐにオーグを見つめ、言った。
「皆様のどんぐり杯。本当に私達が使ってよろしいのですか?仲間の方とその故郷の村の人々のために集めた材料と聞きました」
「ミネルヴァ!」
「お父様、人狼となった苦しみは皆同じです。そんな大切なものを、本当に私達が頂いてよいのでしょうか?」
ミネルヴァは心配そうに眉を寄せた。
「…………」
オーグは少し考え込むような仕草をした後、おもむろに包帯を解く。
オーグは本物の獣人と見分けがつかないほど全身ふさふさだ。
「使ってください。ベルンハルトさんがどんぐり杯をくれたけど、他の材料はまだ揃ってませんし、薬を作る薬師もいません。早く元の姿に戻りたいですけど、俺達の村はのどかな所なんで、なんとかなります」
オーグは狼の顔で笑った。
ミネルヴァはそんなオーグに恭しく淑女の最敬礼を執った。
「ありがとうございます、オーグ様、皆様。このご恩、生涯忘れません」
ミネルヴァはそう言うと一筋、涙をこぼした。
***
食事会が始まった。
「お子様もいらっしゃる。マナーはお気になさらず」
ガルファがそう言ってくれたので、高級食材が目白押しの超豪華な食事会だが、あまり緊張せずに食べられた。
ちなみにメインデッシュは最上級霜降りモーモのステーキである。
「大金持ち相手に何を話せばいいの?」
内心そう思ったガンマチームだが、ガルファもギルバートも話題が豊富なので、案外話が弾む。
そしてミネルヴァも。
「え、ミネルヴァ様、薬師なんですか?」
ミネルヴァとオーグ、リック、ローラは同年代だ。
立場は全く違うが、すぐに打ち解けた。
若者同士わいわい話をしている。
「はい、私達が獣人に襲われ、人狼になったのは一年前。外に出ることが出来なくなりましたので、薬師の勉強を始めました」
「へー」
ミネルヴァは十六歳。
若いのにしっかりしているわー、とカチュアは感心した。
ミネルヴァは一年間の猛勉強で、最上級状態異常解除ポーションを作れる上級薬師の資格も取ったそうだ。
「すごいや」
とエドが目を輝かせる。
楽しい食事会が済み、お腹いっぱいになったカチュア達はそろそろおいとましようかと思ったのだが、
「その前に少しお話をさせて頂きたいのです。よろしいでしょうか?」
と護衛の一人に声を掛けられた。
護衛達は何故か、室内なのに帽子や覆面をしている上、マントで全身を隠している。
「少し込み入った話になります。お子様達はお嬢様と別室へどうぞ」
ミネルヴァ自ら子供の相手してくれるようだ。
話は通してあるのか、ミネルヴァは護衛に向かって頷き、子供達に手招きする。
「エド君、バーバラちゃん、こちらにどうぞ」
護衛達は次にベルンハルトに言った。
「殿下はぜひ旦那様と若旦那がおもてなしさせて頂きたいと」
どうやら彼らはガンマチームにだけ話したいことがあるようだ。
「だって。アンタ、そっち行きなさい」
アンはそう言って追い払おうとしたのだが、ベルンハルトはめげない。
「いや、僕もアンと一緒に行く」
「冒険者同士の話でして……」
と護衛はベルンハルトを連れて行くのを渋った。
「僕も今の身分は冒険者だ」
そう返され、護衛は少々声を荒げて言った。
「これから話す内容は、殿下には到底お聞かせ出来ないご不快なものとなるでしょう。どうか旦那様とご一緒ください」
もはや明確に「来るな」と言われたベルハンドだが、キラキラの笑顔を護衛に向ける。
「気にするな。何があろうと不敬には当たらない」
と梃子でも動かない模様。
護衛達は諦めのため息をつく。
「では結構です。殿下もお連れしましょう。ですが、これからお話しすることは他言無用でお願いします」
「ご自身でおっしゃられた『不敬には当たらない』の一言、どうかお忘れなきよう」
と念を押される。
カチュア達は、先ほどまでの華やかな空間とは異なる、少々物々しい雰囲気の部屋に通された。
ガルファ邸の中でも主のガルファやその家族が使う区画ではなく、使用人用の部屋のようだ。
ソファやテーブルが置かれている。護衛達の詰め所らしい。
「むさ苦しいところですまない」
と謝られたが、ちょっと散らかってるところがカチュア達にはむしろ居心地がいい。
「カチュア」
「ジェシカ」
部屋にはなんとジェシカがいて、ガンマチームの顔を見ると彼女は「ごめんなさい!」と頭を下げてきた。
「ガルファ氏にどんぐり杯を報告したのは私なの」
とジェシカは沈んだ調子で言うが、
「ガルファ氏はジェシカの雇い主なんだから仕方ないわよ」
とカチュアはジェシカを慰めた。
「でも……」
「あの、無理に手放したとかそういうことはないですから。俺は姉さんに女性には親切にしろって教えられました。ミネルヴァお嬢様達にどんぐり杯を譲らなかったら、姉さんにどやされると思います」
とオーグが言う。
「オーグがいいなら、これで俺も良かったと思います」
「私も」
リックとローラも同意した。
「ってことだよ、あんまり気にしなさんな、ジェシカ」
「アン先輩、でも」
「もらったアタシがいいって言ってるんだから、いいのよ。真面目なのは美点だけど、昔からちょっと思い詰めるところあるよね、アンタは」
アンがズバッと指摘する。
ジェシカは図星を指されて、「ぐっ」と息を詰まらせた。
「俺達からも礼を言わせて頂きたい」
護衛達は総勢六名。
被っていた覆面や帽子、マントを脱ぎ始めた。
「やっぱり……」
とガンマチームは彼らを見て思った。
彼らは狼の特徴を持っていた。
一年前に襲撃に遭った護衛達だ。
特に護衛の一人はオーグに匹敵するほど、狼獣人の特徴を濃く、宿している。
「お嬢様達に材料を譲ってくれて本当にありがとう。感謝の言葉もない」
そう言って彼らは全員でガンマチームとベルンハルトに頭を垂れた。
「人狼になり、力と素早さは増した。それを利用して最上級状態異常解除ポーションの材料を集めようとしたんだが」
「力不足で及ばなかった」
護衛達は悔しそうだ。
「彼らも九十九階に向かった冒険者チームの一つなの」
ジェシカがそう教えてくれた。
「話というのは、俺達と、そしてオーグ君を襲った狼獣人のことだ」
「えっ」
「オーグ君に会ってはっきりした。俺達と君の村を襲ったのは、同じ獣人だと思う。何というか、俺達自身も上手く説明出来ないんだが、匂いが同じだ」
「たっ、確かに……なんか同じ匂いがします」
オーグは戸惑いなから、言う。
獣人同士は匂いで通じ合う『何か』があるようだ。
護衛達はチラリとベルンハルトの顔をうかがった後、話し出した。
「俺達は一年前、突如現れた狼獣人に襲われた。それは、ミネルヴァお嬢様の元に第三王子からの婚約の申し出があってすぐのことだった」
護衛達は第三王子に敬称を付けず、憎々しげに呼び捨てている。
「第三王子殿下から……」
「一年と少し前、旦那様は第三王子からの求婚を断った。ミネルヴァお嬢様ご自身も王子の妃になることを望まなかったと聞いている」
別の護衛が言った。
「大商会の会頭とそのご家族としてのご判断だ。俺らには分からんし、知る必要もない。ただ、求婚を断った後、お嬢様は狼獣人に襲われて人狼になってしまわれた」
「俺達は、狼獣人を差し向けたのは第三王子だと思っている」
「えっ!」
カチュアは絶句した。
「どうしてそんなこと? だってお嬢さんに求婚してるんでしょう? 王子様は」
「お嬢様は知り合いのご令嬢宅のお茶会の帰り道で襲われた。第三王子からの二度目の求婚を断った直後のことだ」
この縁談を断った後、ミネルヴァの警備は強化された。
決して一人になることがないように、侍女達が複数ついて、同性の女性騎士も増やし、さらに護衛達と十重二十重に守られていたが、それでもミネルヴァは襲われてしまった。
「お嬢様には兄上のギルバート様もいらっしゃる。家を継ぐ立場にはない一介のご令嬢にこれほどの警備がつけば、まともな襲撃者なら必ず引く」
「狼獣人は本来とても用心深い。人の多い都市部で彼らがこれほど大量の人を襲うことは、滅多にない」
「狼獣人は誰かに『差し向けられた』と考える方が自然なんだ」
と彼らは言った。
アンはチラリと第二王子ベルン=ルヴァルドこと、ベルンハルトを流し見て、護衛達に尋ねた。
「その誰かっていうのが、第三王子だとアンタらは見てるんだね」
「そうだ」
第三王子はベルンハルトの弟だ。
護衛達がベルンハルトに聞かせたくなかったわけである。
当のベルンハルトは、腕を組んでじっと目をつむり、無言である。
「…………」
「第三王子は今、自分の後ろ盾を欲している。彼が選んだのは後から切り捨てやすい金と権力を持つ、だが貴族階級ではない平民の娘。ミネルヴァお嬢様だったんだ」
護衛達は苦悩の満ちた声でうめいた。
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