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聖剣の行方

01.どんぐり杯入手!? の続き

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「こ、これがどんぐり杯……」

 九十九階にあるという最上級状態異常解除ポーションの材料、どんぐり杯。

 通常のものとは比較にならないほど大きいが、男が掲げ持つ『それ』の色と形は確かにどんぐりである。
『それ』はどんぐりの上の部分を切って中身をくりだしてあった。
 杯というのは、器やカップの意味だから、まさしく「どんぐり」の「杯」だ。

 九十九階はまだまだ先なので、カチュア達はどんぐり杯の正確な情報を掴んでなかった。
 分かっているのは、九十九階である特殊なイベントを発生させるとゲット出来る入手困難なアイテムというだけだ。
 イベントの発生条件ももちろん分からず、どんぐり杯の姿形も不明だった。

「それって……」

 本物のどんぐり杯なの?
 カチュアがそう男性に尋ねる前にジェシカが男に駆け寄った。

「お願いです! そのどんぐり杯、私に譲ってください!」

 男はジェシカを見て、知り合いなのか、「ああ、ジェシカか。久しぶりだな」と言った。

「はい、お久しぶりです。お願いです! お金ならいくらでも出します! どうか、譲ってください!! ベルンハルトで……様!」
 ジェシカは必死な表情で男に頭を下げる。


 カチュアはジェシカのあまりの剣幕に驚いたが、驚いたことは、もう一つ。
「あ、この人が、でんでん虫さんなのね」

 以前にジェシカがパーティーを組んでいた恩人、ベルンハルト。
 あだ名はでんでん虫である。

 カチュアはアンとジェシカの友達として、とりあえず彼に挨拶せねば、と思った。

 よく見ると鞄にはあの時バザーで買った幻獣『ろあちゃん』の刺繍入り巾着が結ばれている。愛用しているらしい。
 そんなに怖い人じゃないかも。と思いながら、カチュアは男の方を向き、声を掛けた。

「でんでん虫さんですか? ジェシカとアンの友人のカチュアです。以前にジェシカが随分お世話になったそうで……」

「駄目! カチュア」
 話しの途中で、ジェシカが悲鳴のような声を上げてカチュアを止めた。

「?」
「不敬よ! カチュア、その方はベルン=ルヴァルド第二王子殿下なの!」

 一般庶民と王族は直に声を掛けることが出来ない身分差がある。
 カチュア達の国は絶対王政で、許しもなくこちらからお声がけをした場合、不敬罪で殺されたり、投獄されても文句は言えないのだ。

 ジェシカが知るベルン=ルヴァルドならそんな理由で民に罰を与える人ではないが、ジェシカ自身はもし手打ちにあっても止めるわけにはいかない。
 覚悟の上の不敬である。


「「「えっ」」」
 だが、そんなことは全く知らないアンを除くガンマチームは衝撃の事実に絶句した。

 シンと静まりかえった室内で、ローラがぼそっと呟いた。

「……美少年じゃない」






 ***

「残念だが、ジェシカ。どんぐり杯はアンに捧げたものだ。渡すわけにはいかない」
 とベルン=ルヴァルドは言う。
 改めて聞くとどう見てもあらくれ者という外見に似つかぬ、どこか高貴な声だ。

 ベルン=ルヴァルドの返事にジェシカは次にアンを振り向く。

「先輩! お願いです! どうか、私にどんぐり杯を譲ってください!」

 ジェシカの思い詰めたような表情は、普通ではない。鬼気迫る姿で彼女はそう訴えるが。

「ジェシカ。悪いけどアンタの頼みでも駄目よ。アタシ達もこのどんぐり杯を渡すわけにはいかないのよ」

 アンはすまなそうだが、きっぱりと断る。
 しかしジェシカはめげずに食いついてきた。

「先輩!」

 見かねてカチュアが口を挟んだ。

「ジェシカ」
「カチュア」
「あのね、私達もどんぐり杯をずっと探していたの。渡せって言われても今は絶対に無理よ。また日を改めて話し合いましょう? だからとりあえず今は帰って、ねっ」

 カチュア達もどんぐり杯を追い求めていた。
 簡単に渡せるものではない。


「…………」
 ジェシカはガンマチームのメンバーの顔を見回し、「……分かった。今は帰ります」と部屋を出て行く。

 その姿を見送り、オーグが言った。
「まさかジェシカさんもどんぐり杯を探していたなんて……」
「奇遇だよなぁ」

 レアレア茸(切り身)といい、なんという偶然だろう。
 レアレア茸(切り身)はどちらのチームも手に入れることが出来たが、どんぐり杯を『分け合う』のは難しそうだ。



「ベル、アンタも帰りな」
 アンが残るベルン=ルヴァルドに言うと、彼はあっさり頷いた。

「そうだな、後で二人きりで話そう。今夜、ガルファホテル501号室で待っている」

 そう言うと、ベルン=ルヴァルドはマントのフードを被った。

「……!」

 ガンマチームはおののいた。
 途端にベルン=ルヴァルドの気配が消えて、「いる」のは分かるのだが、何故か注意を向けられなくなってしまう。
 彼が黙っていれば、そこに「いる」ことすら忘れてしまうだろう。

「じゃあ、アン、今夜待っている」

 その声を最後に、彼は部屋から姿を消した。






 ***

 しばらく誰も言葉を発せず、黙り込んだが。
「あれ、識別阻害魔法付与の最高級品ですね、初めて見た」
 とリックが感動した様子でため息をついた。

 確かにあのマントを着けていたら、とにかく目立つベルン=ルヴァルドでも誰にも見つからず暮らせるだろう。



「…………」
 部屋には気まずい空気が漂った。
 チームメンバーはアンに聞きたいことが山ほどあるが、どこから聞けばいいのか、そもそも聞いていいのだろうか。

 ベルン=ルヴァルドとの関係は?
 もらっちゃったけど、どうしよう? どんぐり杯。
 などなど。

 だが一番衝撃を受けたのは。

 ローラが再び呟いた。

「……美少年じゃない」

 ベルン=ルヴァルドが儚げな美少年から、ワイルドムッキムキなルックスに変化した理由とは?



 その時、コンコンとノックがして、「デザートのプリンでーす」とプリンが来た。

「とりあえず食べましょうか?」
 とカチュアが促し、皆、再び椅子に座り直す。
 内心、あんまり食が進まないかなと思ったが、そうでもなかった。

 デザートは、『ビッグバードのビックリプリン』。
 巨大な鳥のモンスタービッグバードの卵を使ったプリンだ。

 一個ずつ配られる系のプリンではなく、どんぐり杯より大きなボールいっぱいになみなみ作られたプリンを各自がすくって食べるのだ。
 しかも付属のピッチャーにはカラメルソースがたっぷり入っていて、カラメルかけ放題だ。

「美味しいわねー」
「美味しい」
「そうですね」
 とプリンを食べながら部屋は再び和やかな雰囲気に包まれた。



「で、アン、どうするの? ホテル行くの?」
 スイーツ気分に後押しされて、カチュアはアンに聞いた。

「あー、それねぇ」
 とアンは顔を上に上げ、歯切れが悪い。

「あの、どんぐり杯は本物なんでしょうか?」
 と尋ねたのはオーグである。

「だと思うわ。アイツも偽物掴ませるほど愚かじゃないでしょう」
「どうやって手に入れたんでしょう?」

「どうやってって、九十九階に行ったんじゃない?」
 アンはサラッと答え、皆はどよめいた。

「九十九階ですよ!」
「Aランクチームしか行けないって聞くけど」
「殿下のチームってどんなんだろう?」

 ガンマチームのメンバーは想像を巡らすが、
「アイツ、一人だと思うよ」
 という答えに、

「ひーえー、殿下、一人で九十九階に行ったの?」

 とカチュアは悲鳴を上げた。
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