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魔法の書

19.レアレア茸デラックス戦その2

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「くそー、かゆい!」

 リックはあまりのかゆさにその場に転がったまま立ち上がれずにいた。

 そんなリックに再びすごろく蛇が迫る。

「リック!」

 思わずローラは飛び出した。

「駄目だ!嬢ちゃん、アンタもやられる!」

『夜明けのギャンブル団』の冒険者達はあわてて制止するが、ローラは一直線にリックの元に駆けていく。

「シューッ」
 不気味な音を立てて、レアレア茸デラックスがまたも超不運胞子をまき散らす。

 攻撃はローラの身にも降り注ぎ、ローラは転ぶ……かに見えたが、無事にリックの元にたどり着く。


「『結界!蛇よけ!』」

 そしてローラは杖を構え、蛇よけの結界魔法を唱えた。
 その名の通り、対蛇専用の結界である。蛇のみに効く効果限定魔法だが、その分威力は強く、ほとんどの蛇モンスターに有効だ。


「ああ、その魔法は……」

 そう呟いたのは『夜明けのギャンブル団』の魔法使いだ。
 彼も同じ魔法を唱えた。
 通常なら成功確率は99パーセント。
 ほとんど成功するはずの魔法だが、幸運値マイナス100の効果で、魔法は滅多にない詠唱失敗状態に陥り、無効となってしまったのだ。

 ローラの魔法も当然そうなるかと思われたのだが、蛇よけの結界は無事に張られ、すごろく蛇は結界に弾き飛ばされる。


「……!?」
「どうして?」
『夜明けのギャンブル団』はざわめいた。
「何が起こった?あの子、何者だ?」
 彼らのリーダー、ジャックはローラの姿に目をこらす。

「あの子の服……リフレクトローブか!」
 リフレクトローブは魔法反射機能があるローブだ。

「魔法反射のアレか!」

 使い勝手が悪い分、リフレクトローブは強力な反射機能を持っている。
 その効果でリフレクトローブはレアレア茸デラックスの超不運胞子をもはじいたのだ。



「ってことはやっこさん、自分の超不運胞子を浴びたな!」

 ジャックの目は期待に輝いた。

 鑑定の魔法が使える『夜明けのギャンブル団』の商人が確認したレアレア茸デラックスの幸運値は100。
 万一すごろく蛇の群れを蹴散らし、レアレア茸デラックスを攻撃出来たとしても、ここまで幸運値が高いと攻撃の半分が命中しなくなる。
 さらにレアレア茸デラックスの超不運胞子効果で自分達の幸運値はマイナス100。
 この状態ではほぼ攻撃は当たらない。
 つまり、現状、レアレア茸デラックスへの攻撃手段がないのだ。

 だが、レアレア茸デラックスの幸運値さえ下がれば、攻撃が当たるようになる!

 しかし――。
「レアレア茸デラックスの幸運値は1ポイント下がり、現在99ポイント」

 商人が落胆を隠せない声で、報告した。
 毒蛇は自分の毒に免疫があるため、同じ種で噛みあっても一時的に弱るが、死ぬことはない。
 レアレア茸デラックスも同様に自分の胞子に対し免疫を持っているようだ。
 超不運胞子はレアレア茸デラックスにほんのわずかなダメージを与えたに過ぎなかった。



『夜明けのギャンブル団』、そしてクリフやジェシカも不利すぎる状況に顔色を失う。

 そんな中、一人の男が声を上げた。

「こりゃ、いけるかもしれないぞ」





 声の主は『夜明けのギャンブル団』のリーダー、賭博師のジャックだ。

 体をボリボリと掻きながら、レアレア茸デラックスを見つめる彼の目は、らんらんと輝いていた。

「えっ、どういうこと?」
 絶対防衛アーマーの素早さダウン効果で、ようやく皆の元にたどり着いたカチュアが尋ねた。

 絶対防衛アーマーはその名の通り、百階以下の階層なら装備している人物を完璧に防衛してくれる。
 ちょっと一人になるくらいは大丈夫なのだ。(ノロイけど)


 話を聞く限りだと、幸運値が1だけ下がり、100から99になったところで、大した違いはない気がするが。

 ジャックのみならず、『夜明けのギャンブル団』の一同、カチュアの風体に驚き、目を見張るが、ジャックは説明してくれた。

「レアレア茸デラックスは自分の胞子攻撃には免疫があり、効果が薄い。だが効果がねぇ訳でもない」

「はあ……」

「分からねぇか?デラックスとただのレアレア茸じゃあ、持っている胞子の性質が微妙に違う」

「えーと、確かレアレア茸は支援効果無効化胞子で、デラックスの方は幸運値マイナス100……」

「おうよ」
 とジャックは頷く。
「だからよ、デラックスの野郎には別の免疫のない不運攻撃は効果がある可能性がある」

「別の……?」

 ジャックがごそごそと懐から取り出したのは、瓶に入った金色の液体だった。
「アンラッキーハニーだ」

 アンラッキーハニーは一舐めすると幸運値をゼロにしてしまう不幸効果のすこぶる強い蜂蜜だ。
 かつてカチュア達も十四階で採取したあのアイテムである。
 何の役に立つのだろうと思ったが。

「念のためにこれを持ってきて良かったぜ」
 ジャックは自慢げに言ったが、本当に自慢していい。

 持って行く荷物をいかに減らして身軽になるかがダンジョン探索の秘訣と、言われている。一見不要なものは持たないのがセオリーだが、Bランクチームはひと味違う。

「えー、すごい」

「ありとあらゆるパターンを想定するのが、トレジャーハントの極意だ」
 とジャックは胸を張った。

「ただし、これが本当にデラックスの野郎に効くかは分からんし、それに……」

 ジャックはカチュアに蜂蜜を渡し、言いづらそうに言葉を続ける。

「この蜂蜜をデラックスにぶっかけられるのは、こんな中でただ一人、あの嬢ちゃんだ」
 なんとジャックはローラに向かって顎をしゃくる。

「危険よ!」

 ジェシカはあわてて止めた。

 ローラのリフレクトローブは魔法の効果ははじくが、結界の外から出てしまうと、すごろく蛇の攻撃から逃れるすべはない。

「レアレア茸デラックスに近づかなければいいんでしょう?だったら私の魔法で遠隔攻撃を掛けるわ……!」

 ジェシカは巨大きのこに向かって魔法の杖を構える。

 そんなジェシカにジャックがつばを飛ばして怒鳴った。

「幸運値を甘く見るな!いいか、99パーセント成功する結界魔法も失敗したんだ。失敗で終わるならいい。火力の強い魔法なんて使われたら、デラックスの前に俺達がやられちまう」

 超不運胞子を浴びた『夜明けのギャンブル団』だ。
 魔法が暴発したり、跳ね返って来るかも分からないのだ。

「ジェシカさん、だったか?あの子がやるしかねぇんだよ」
「…………」

「もしアンラッキーハニーで、デラックスの幸運値が下がったらその時が攻撃のチャンスだ」

「でもそれじゃあローラちゃんが……」
「そこで、おい、そこの人、あんたの出番なんだよ」

 ジャックの指さした先にいたのは、

「えっ、私?」

 カチュアだった。
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