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魔法の書

08.トーナメント戦!

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 トーナメントで優勝すると、副賞としてチームランクの昇格が決定する。

 CランクからBランクへの昇格はかなり条件が厳しく、トーナメントの優勝はそれが叶う大きなチャンスだった。
 サザとルーシーが所属するチームも例外ではない。
 絶対に勝つと皆、意気込んでいた。
 初戦とはいえこの大事な戦いの出場者として選ばれたのは、二人のルーキーが期待されている証拠だ。

「なのに!」
 ルーシーはぎりりと歯がみした。

 どうして彼らがCランクに昇格したのか分からないが、運良く格上のクエストをこなして、思わぬランクアップするチームは時折いると聞いた。
 しかしそうしたチームではチームランクを維持出来ず、すぐに脱落するのだとも。

 余裕で勝てるはずの格下チーム。
『美味しい』相手のはずなのに、追い込まれているのはルーシー達の方だ。
 あと一敗で負けが決まる。

 だがそれもここまでだ。
 リックの後は非戦闘職のローラとカチュア。
 リックさえ倒せば一気に勝ちが巡ってくる。
 ルーシーにはとっておきの秘策があった。

「あんたがいかに早くてもこれには敵わないでしょう?」
 とルーシーは攻撃の杖を片手にほくそ笑んだ。



 その様子を見てカチュア達は。
「なーんか企んでるな」
「そうね」
 盗賊職のリックは早い。一方で魔法使いのルーシーは決して素早いとはいえない職業だ。
 リックが先制を取る可能性は高く、本来なら有利とは言えない組み合わせだが、相手チームは負けられないこの戦いにルーシーを出してきた。
 何か策があるに違いない。

 だが、それはカチュア達も同じだ。
「リック、頑張って」
 戦いの直前、ローラが守護の魔法を掛ける。
 そうしたエンチャントを付けるのはルール違反ではない。
 相手チームもしている行為だ。

「ああ、行ってくる」
 リックは少し緊張した様子で頷き返す。


「『炎弾!』」
 試合開始直後、ルーシーは素早く火の中級攻撃魔法を繰り出した。
『炎弾』は詠唱が短い全体攻撃魔法だ。使い勝手が非常に良い分魔法コストは高いが、その名の通りいくつもの炎の弾が広範囲に降り注ぐ攻撃なので、いかにリックが素早かろうが逃げられるはずはない。
 そして盗賊職は魔法耐性が低い。

(上手くいったわ!)

 致命傷を与えられたはず。

 ニヤリと笑うルーシーの目の前にリックが猛火を飛び越え現れた!
「うそ……!」
 ルーシーは目を剥いた。
 リックはまっすぐに突っ込んできて、ルーシーに一撃を食らわせる。
 素早い攻撃にルーシーは対応出来ず、ダメージをまともに受ける。

 リックの勝利だ!



 ルーシーが何らかの魔法攻撃を仕掛けてくるのは分かっていた。
 ルーシーは火の魔法使いだ。ローラはあらかじめ火攻撃特化の守護魔法を掛けておいたのだ。


 ガンマチーム、初戦、勝利!





 ***

 続く二回戦も順調に勝ったガンマチームだが、三回戦、オーグとアンは勝利したものの、ついにリックが負けてしまった。
 ガンマチームがトーナメントで意外と健闘している理由は、カチュア達がまったく無名の存在だからだ。
 優勝候補などの強いチームになればなるほど実力も知られてしまい、対策が取られるが、新人冒険者の能力は不明だ。
 だが、先の二戦でリックの戦いぶりが観察されてしまった。

 リックは早いが、熟練の冒険者達は自分より素早いモンスターに勝つ方法を熟知している。

 対戦相手はソードマスターと呼ばれる上級の剣士職。
 先攻出来たが相手選手はリックの初手を耐えて、すぐに反撃に出た。
 リックは相手選手の猛攻に体勢を立て直せずに負けてしまった。

「くそ、あと一回勝てば良かったのに!」
 とリックは悔しそうだ。

 そう、この第三戦に勝利すれば、八位までに入れるのだ。

「私の出番」
 ローラは落ち着いて試合会場に上がる。

 4番手はカチュアではなく、ローラだ。

「頼んだぞー」
 大声で応援するリックに「うん」とローラが頷く。

 通常なら後衛のポーターや治療師は大会に出ないが、ガンマチームは五人しかいない。
 チームは万一リックが負けた時に備えてとっておきの切り札を用意していた。
 それが、ローラだ。


 ひ弱そうな治療師の少女が対戦相手と知り、相手は驚いた様子だった。

「試合だからな、悪く思うなよ」
 試合が始まると男はそう言って剣を向けた。
 治療師は攻撃魔法を覚えづらく、ローラのレベルでは攻撃魔法を持つ治療師はほとんどいない。
 いても専門の攻撃魔法使いではないので、威力はそれほど高くない。
 勝ち目はないと思われたが、ローラは落ち着き払って杖を振るった。

「『光の矢』」

「…………!」

『光の矢』は珍しい光属性の、しかも中級の攻撃魔法だ。

 魔法というのはレベルが上がったり、なんらかの条件がととのった時に自動的に覚えるものの他に、呪文書スペルブックと呼ばれる魔法の書を読むことで覚える方法がある。
 ローラの場合は呪文書スペルブックを買って覚えたのだ。
 ただ光属性の攻撃魔法は珍しいので呪文書スペルブックも高額になる。

 カチュア達は今まで貯め込んだお金を全ツッコミしてこの呪文書スペルブックを購入した。

 攻撃を担当しない治療師なら覚えるべき呪文は他にあり、光属性の攻撃魔法は一番後回しにして良い呪文だ。
 だがあえてローラはこの魔法を覚えた。

 そしてローラが持つ癒やしの魔力を高める杖は光属性の攻撃魔法の力も増大してくれる。

 ローラは相手選手を倒した。

 ガンマチーム、三回戦勝利!

 ベスト8進出である。





 ***

 四回戦ではリックが負け、その時点でチームは棄権した。

 ローラの『光の矢』は一回きりの奇襲戦法で、二度三度と通用する技ではない。
 これから先はCランクの中でも強者ぞろいのチームばかりだ。
 そんな相手に今のガンマチームの実力では勝ち抜くことは不可能だし、戦い慣れてないローラやカチュアが試合とはいえ人間相手に攻撃するのは結構荷が重い。

 八位入賞というカチュア達の目的は果たしたのだから、大人しく棄権した方が良いとの判断だ。
 カチュア達はお目当ての冒険者ギルドの図書室に半日入れる権利の他に道具屋と武器屋の割引券などをゲットした。


 そしてトーナメントから三日後、図書室に入れてもらうため、チームは冒険者ギルドに集合した。
 カチュアの息子、エドも一緒だ。

「あの、僕もいいんですか?」

 エドは少し緊張している。
 冒険者ギルドは九歳から登録可能だが、エドはまだ八歳。
 刃物などの危険物を装備する冒険者がいるため、本来なら子供の立ち入りは禁じられている。
 今日は特別に許可をとってやってきたのだ。

「いいのよ、魔法の本と『また会う』って約束したんでしょう?」
 アンにそう問われ、エドは大きく頷く。
「はい!」

 アンはにっこりとエドに笑いかけた。
「それはあなたが本に気に入られたってことよ」

「でもあの、僕が見たのはロアアカデミーの本です」
「ああ、魔法の本っていうのは……まあ、実際に見た方が早いわね、さあ、行きましょう」

 アンの言葉に従い、皆で冒険者ギルドの魔法の本が置かれた四階に移動する。

 カチュアも入ったことがないエリアだ。
 ドキドキする。

「アンは魔法の本に詳しいの?」
 カチュアが尋ねるとアンは大きく首を横に振る。

「詳しくはないわよ。図書館なんて興味ないもの。だけど力を持った魔法書は怒らせるとかなり危険なのよ。だから取り扱う最低限の知識はあるわ。そうね、冒険者の常識?」
「常識かぁ」

 冒険者ギルドの職員は図書室の扉の前で大きな鍵を使い金属製の扉を慎重に開いた。
 まるで銀行の金庫のような扉だ。

「お母さん、厳重だね」
「そうね」
 こっそり話したつもりだが、職員には聞こえていたらしい。

「ここにあるのは、盗まれては困る貴重な本ばかりだからね。だから強い人がたくさんいるこの冒険者ギルドで管理しているんだ」
 と教えてくれた。

「さあ、どうぞ」
 と通されたギルドの図書室は広めの会議室くらいの空間で、カチュア達以外に人はいない。

「この時間はガンマチームさんの貸し切りです。ごゆっくり」
 そう言って職員は出ていった。
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