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16.十階到達
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カチュア達はダンジョン探索を続け、十階にたどり着いた。
パーティの到達速度としては決して早いスピードではなく、どちらかといえばゆっくり気味だ。
初心者パーティはついつい先に進みたがるものだが、実は無理はせずに着実に進むのが一番の早道だったりする。
特にカチュア達は少人数パーティなので、格上のモンスター達と戦うのはなるべく避けた方がいいのだ。
ロアダンジョンの攻略を始めた冒険者達が、まず目指すのがここ、十階だった。
「ついに十階だー」
十階に足を踏み入れた瞬間、リックは興奮して叫んだ。
その瞬間、モンスターが現れた。
戦闘開始だ!
モンスターを退治した後、ドロップアイテムを見てオーグが首をかしげる。
「最上級霜降りモーモの肉……レアモンスターだ」
毎週金曜日は肉の日なので、お肉が美味しいモンスターの出現確率が上昇していることはいつものことなのだが、牛モンスター霜降りモーモの中でも最上級霜降りモーモは滅多に遭遇しないレア種である。
それだけではなく、さっき採取ポイントで見つけた『超マッスル草』も筋肉増強効果のある『マッスル草』の中でも通常の十倍の効き目があるレア薬草だった。
「あ、そういえば今日のチラシに『今週は特別な一週間!レアウィークです!レアドロップの確率がアップします。何が出るかはお楽しみ!』って書いてあったわ」
とカチュアは思い出した。
「アンタ、そういうの早く言いなさいよ」
アンは呆れて言った。
「ごめんなさい、朝、急いでたんでつい……」
今朝配布されたチラシは朝の忙しい時に降ってきたので、ざっと読んだ後すぐにがま口の中に突っ込んだのだ。
「レアウィーク、お得ですね」
「うん」
「しかしラッキーだったわね。霜降りモーモはパワーがあるから先制されたら結構厄介だけど、こっちが先に攻撃出来たし」
最上級霜降りモーモはさしがたっぷり入った肥満体なので動きが遅いのだ。
「レアウィークで良かった」
「リックは大きな声出さない」
ローラがそうたしなめて、リックは頭を掻いて謝った。
「分かった。ごめん」
その後は慎重に進み、十階探索もこれで二回目という時、パーティは二股に分かれた道で立ち止まった
既に他の冒険者が踏破した階層はマップが作成されて冒険者ギルドで共有される。
高層階になるとマップは一般公開されず、その情報は高額で取引されるというが、十階くらいの低層階のマップは冒険者ギルトで閲覧出来る。
マップによると、十階もちょうど半分まで来たことが分かる。
「右に行くと十一階への道、左に行くと女神像か……」
十階には一階と同じ、体力魔力の回復効果がある女神像が安置されており、かつては立ち寄らない人はないというくらい重宝されていたが、癒やしの石が盗難に遭ってからは左に行く人はほとんどいなくなっていた。
左の道にはモエモエ鉄蟻という通常攻撃が効きにくく仲間を呼ぶ面倒な習性をもつモンスターの巣がある。倒すのが大変な上に経験値もドロップアイテムもパッとしない。あまり『美味しくない』モンスターだ。
冒険者としては余計な体力、魔力、アイテムを使いたくないので、上階を目指し右の道に行く。
だがカチュア達は、女神像のところに行ってみるつもりだった。
カチュアの目標は、「女神像の修復が出来たらいいな」というもの。
もしかしたらなくなった癒やしの石の手がかりがあるかもしれない。
そんなに簡単に手がかりが残っているはずもないのであまり期待はしていないが、一応念のためだ。
「現場百遍って夫も言ってたし」
カチュアが夫から聞いた捜査の心得だ。
「カチュアさんの夫さん、冒険者ッスか?」
「うちの夫は騎士よー。単身赴任中なの」
モエモエ鉄蟻は集団でやってきて、さらに仲間を呼ぶ性質を持つ蟻のモンスターだ。
戦闘を素早く終わらせるのがモエモエ鉄蟻を倒す時の鉄則である。
オーグとリックはこのときのために用意した武器を装備する。オーグは氷の爪、リックは氷の短剣と、火属性のモエモエ鉄蟻が苦手とする氷の装備だ。
カチュアとローラはそれぞれ、氷属性の攻撃魔法の巻物をいつでも使えるように取り出した。
次々にモエモエ鉄蟻が襲いかかってくるが、きちんと対モエモエ鉄蟻を想定していたパーティには楽勝の相手である。
サクサクと順調に進み、ついにカチュア達は大きなホールのような場所に出た。
その先に女神像が安置されているほこらがある。
「行きましょう」
癒やしの石は失われてもほこらの中は神域なので、モンスターは襲ってこない。
「一息付けそう」
誰もがそう思ったその時、モンスターが現れた。
カチュアは息を呑んだ。
そのモンスターは今まで戦闘してきたモエモエ鉄蟻ではなく。
「クイーンヒエヒエ鉄蟻……」
モエモエ鉄蟻の女王蟻、クイーンヒエヒエ鉄蟻だった。
***
「……しくじったわ」
とアンは低い声で呟いた。
「モエモエ鉄蟻のレア種はクイーンヒエヒエ鉄蟻だったわねぇ」
モエモエ鉄蟻は猫ほどの大きさだが、クイーンヒエヒエ鉄蟻の大きさは象を越える。
蟻は人間より十倍素早く、クイーンヒエヒエ鉄蟻ほど大型になると、顎の力は人間の胴体を一撃で両断出来るほどの強い。
それだけではなく、クイーンヒエヒエ鉄蟻は配下である大量のモエモエ鉄蟻を呼び寄せる能力がある。
さらに厄介なのは、クイーンヒエヒエ鉄蟻はモエモエ鉄蟻とは逆に氷属性なのだ。
クイーンヒエヒエ鉄蟻の弱点は火。
持ってきていた氷装備の武器には耐性があり、ほとんど効果がない。
「オーグ、リック、急いで装備を変更して!カチュア、ローラを守りなさい!隙を見て女神像のほこらに逃げこむのよ」
アンが普段の彼女とは別人のようにテキパキと指示を飛ばす。
「一緒じゃないと回復出来ない」
ローラは反論したが、アンはローラに一瞥も投げずに吐き捨てる。
「アンタ達を守って戦えないのよ。はっきり言って足手まとい。氷属性の攻撃魔法の巻物を使って自分の身は自分で守って頂戴」
「ローラ、アンさんの言うとおりにするんだ」
「リック……」
リックは覚悟を決めた様子でいつもの盗賊の短剣を握り直す。
「俺達も駄目そうならほこらに逃げ込むから。カチュアさん、ローラのこと、頼みます」
「…………」
「分かったわ」
カチュアは唇を噛んだ。
――こんなことになるなんて。
珍しいクイーンヒエヒエ鉄蟻が現れたのは、レアウィークの効果だろう。
パーティは最悪のタイミングでレアモンスターを引いてしまった。
パーティの到達速度としては決して早いスピードではなく、どちらかといえばゆっくり気味だ。
初心者パーティはついつい先に進みたがるものだが、実は無理はせずに着実に進むのが一番の早道だったりする。
特にカチュア達は少人数パーティなので、格上のモンスター達と戦うのはなるべく避けた方がいいのだ。
ロアダンジョンの攻略を始めた冒険者達が、まず目指すのがここ、十階だった。
「ついに十階だー」
十階に足を踏み入れた瞬間、リックは興奮して叫んだ。
その瞬間、モンスターが現れた。
戦闘開始だ!
モンスターを退治した後、ドロップアイテムを見てオーグが首をかしげる。
「最上級霜降りモーモの肉……レアモンスターだ」
毎週金曜日は肉の日なので、お肉が美味しいモンスターの出現確率が上昇していることはいつものことなのだが、牛モンスター霜降りモーモの中でも最上級霜降りモーモは滅多に遭遇しないレア種である。
それだけではなく、さっき採取ポイントで見つけた『超マッスル草』も筋肉増強効果のある『マッスル草』の中でも通常の十倍の効き目があるレア薬草だった。
「あ、そういえば今日のチラシに『今週は特別な一週間!レアウィークです!レアドロップの確率がアップします。何が出るかはお楽しみ!』って書いてあったわ」
とカチュアは思い出した。
「アンタ、そういうの早く言いなさいよ」
アンは呆れて言った。
「ごめんなさい、朝、急いでたんでつい……」
今朝配布されたチラシは朝の忙しい時に降ってきたので、ざっと読んだ後すぐにがま口の中に突っ込んだのだ。
「レアウィーク、お得ですね」
「うん」
「しかしラッキーだったわね。霜降りモーモはパワーがあるから先制されたら結構厄介だけど、こっちが先に攻撃出来たし」
最上級霜降りモーモはさしがたっぷり入った肥満体なので動きが遅いのだ。
「レアウィークで良かった」
「リックは大きな声出さない」
ローラがそうたしなめて、リックは頭を掻いて謝った。
「分かった。ごめん」
その後は慎重に進み、十階探索もこれで二回目という時、パーティは二股に分かれた道で立ち止まった
既に他の冒険者が踏破した階層はマップが作成されて冒険者ギルドで共有される。
高層階になるとマップは一般公開されず、その情報は高額で取引されるというが、十階くらいの低層階のマップは冒険者ギルトで閲覧出来る。
マップによると、十階もちょうど半分まで来たことが分かる。
「右に行くと十一階への道、左に行くと女神像か……」
十階には一階と同じ、体力魔力の回復効果がある女神像が安置されており、かつては立ち寄らない人はないというくらい重宝されていたが、癒やしの石が盗難に遭ってからは左に行く人はほとんどいなくなっていた。
左の道にはモエモエ鉄蟻という通常攻撃が効きにくく仲間を呼ぶ面倒な習性をもつモンスターの巣がある。倒すのが大変な上に経験値もドロップアイテムもパッとしない。あまり『美味しくない』モンスターだ。
冒険者としては余計な体力、魔力、アイテムを使いたくないので、上階を目指し右の道に行く。
だがカチュア達は、女神像のところに行ってみるつもりだった。
カチュアの目標は、「女神像の修復が出来たらいいな」というもの。
もしかしたらなくなった癒やしの石の手がかりがあるかもしれない。
そんなに簡単に手がかりが残っているはずもないのであまり期待はしていないが、一応念のためだ。
「現場百遍って夫も言ってたし」
カチュアが夫から聞いた捜査の心得だ。
「カチュアさんの夫さん、冒険者ッスか?」
「うちの夫は騎士よー。単身赴任中なの」
モエモエ鉄蟻は集団でやってきて、さらに仲間を呼ぶ性質を持つ蟻のモンスターだ。
戦闘を素早く終わらせるのがモエモエ鉄蟻を倒す時の鉄則である。
オーグとリックはこのときのために用意した武器を装備する。オーグは氷の爪、リックは氷の短剣と、火属性のモエモエ鉄蟻が苦手とする氷の装備だ。
カチュアとローラはそれぞれ、氷属性の攻撃魔法の巻物をいつでも使えるように取り出した。
次々にモエモエ鉄蟻が襲いかかってくるが、きちんと対モエモエ鉄蟻を想定していたパーティには楽勝の相手である。
サクサクと順調に進み、ついにカチュア達は大きなホールのような場所に出た。
その先に女神像が安置されているほこらがある。
「行きましょう」
癒やしの石は失われてもほこらの中は神域なので、モンスターは襲ってこない。
「一息付けそう」
誰もがそう思ったその時、モンスターが現れた。
カチュアは息を呑んだ。
そのモンスターは今まで戦闘してきたモエモエ鉄蟻ではなく。
「クイーンヒエヒエ鉄蟻……」
モエモエ鉄蟻の女王蟻、クイーンヒエヒエ鉄蟻だった。
***
「……しくじったわ」
とアンは低い声で呟いた。
「モエモエ鉄蟻のレア種はクイーンヒエヒエ鉄蟻だったわねぇ」
モエモエ鉄蟻は猫ほどの大きさだが、クイーンヒエヒエ鉄蟻の大きさは象を越える。
蟻は人間より十倍素早く、クイーンヒエヒエ鉄蟻ほど大型になると、顎の力は人間の胴体を一撃で両断出来るほどの強い。
それだけではなく、クイーンヒエヒエ鉄蟻は配下である大量のモエモエ鉄蟻を呼び寄せる能力がある。
さらに厄介なのは、クイーンヒエヒエ鉄蟻はモエモエ鉄蟻とは逆に氷属性なのだ。
クイーンヒエヒエ鉄蟻の弱点は火。
持ってきていた氷装備の武器には耐性があり、ほとんど効果がない。
「オーグ、リック、急いで装備を変更して!カチュア、ローラを守りなさい!隙を見て女神像のほこらに逃げこむのよ」
アンが普段の彼女とは別人のようにテキパキと指示を飛ばす。
「一緒じゃないと回復出来ない」
ローラは反論したが、アンはローラに一瞥も投げずに吐き捨てる。
「アンタ達を守って戦えないのよ。はっきり言って足手まとい。氷属性の攻撃魔法の巻物を使って自分の身は自分で守って頂戴」
「ローラ、アンさんの言うとおりにするんだ」
「リック……」
リックは覚悟を決めた様子でいつもの盗賊の短剣を握り直す。
「俺達も駄目そうならほこらに逃げ込むから。カチュアさん、ローラのこと、頼みます」
「…………」
「分かったわ」
カチュアは唇を噛んだ。
――こんなことになるなんて。
珍しいクイーンヒエヒエ鉄蟻が現れたのは、レアウィークの効果だろう。
パーティは最悪のタイミングでレアモンスターを引いてしまった。
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